第6話
「……で、理音、お前はこんなに買い込んでどうするつもりだ?」
「その反応だよね」
タイムサービスを終え、理音は大樹の両親が経営している幼稚園まで拉致され、大樹は理音の戦利品の量を見て眉間にしわを寄せるなか、ひばりは大きく肩を落とした。
「ん? 別にかまわないだろ。食料品と日用品だ。普通に消費できる」
「理音、お前、日本にいる間はホテル暮らしだろ。飯が出るんじゃないのか?」
しかし、理音は気にする様子もなく、怜生の頭を撫でる。大樹は無駄な買い物だと言いたいようだが、理音には言っても無駄だとも思っているようで頭をかく。
「ん? ホテル暮らし? 誰がだ?」
「違うんですか?」
理音は大樹の言葉に誰の事を言っているのかわからないようで首を傾げた。葵は理音の反応に遠慮がちに聞く。
「あぁ。しばらくは日本に滞在するつもりだからな。住む場所は用意している。昨日は荷物の搬入などの時間も考えて、そこに行くよりはホテルを取った方が無難と判断しただけだ」
「そうなのか?」
「言ってなかったか?」
しばらくの間、日本で活動すると言う理音に大樹は聞き返し、理音は頷く。
「聞いてない」
「そうか。言ったのはひばりにだけか?」
「う、うん。あたしは聞いたけど、いまいち、状況がつかめてないし、理音くんが手伝うって言っていた研究の内容も聞いていないわけだし」
理音は大樹の言葉に少し考えるような素振りをするとひばりにしか話をしていないと言う事に気づく。ひばりは理音の滞在期間については聞いていない事もあり、苦笑いを浮かべる。
「そうか? まぁ、些細な事だな」
「いや、理音にとっては些細な事でも結構なニュースだからね。ねぇ、怜生くん」
「……はい。嬉しいです」
理音はあまり気にした様子もなく、深月はその様子に苦笑いを浮かべると理音が長期滞在すると聞いて表情をほころばせた怜生に声をかけ、怜生は大きく頷く。
「だとしても、これは買い込みすぎだろ。お前、料理ができるわけでもないんだし」
「何を言ってる。肉や魚は食中毒にならない程度に火を通し、他はミキサーにかけて胃の中に流し込めば充分だ」
「ちょ、ちょっと待って!?」
大樹は理音が買ってきた食材のヤマにため息を吐き、理音は気にした様子もないが彼の言葉の酷さにひばりは驚きの声をあげる。
「どうした?」
「理音くんは普段、何を食べてるの?」
「ん? 基本的にはこれだな」
ひばりは理音の食生活が心配になったようであり、恐る恐る聞く。理音はひばりが何を言いたいのか理解できないようだが質問に答えようとしたようで懐から次々と薬瓶を取り出した。
「これ、何?」
「見てわからないか? 栄養剤だ」
ひばりは薬瓶の1つを手に取ると眉間にしわを寄せるが理音に気にした様子はない。
「こんなものばかりで良いわけがないでしょ!?」
「何を言っている。食事は身体を動かすために必要なエネルギーを確保する作業だ。良い、悪いと言う問題ではない」
「そんなわけないよ!!」
理音はあまり食事を重要視していないようであり、食事を作業だと言い切るがひばりは理音の反応が信じられないようで驚きの声をあげる。
「……俺はおかしな事を言っているか?」
「世間一般的に考えるとおかしいけど、理音だしね」
「そ、そうですね」
理音はひばりがどうしてここまで驚いているかがわからないようで眉間にしわを寄せ、深月と葵は苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、少しは覚える努力をしろ。医者の不摂生は笑えない」
「何を言っている。俺は生命活動をするには充分な栄養素を摂取している。不摂生と言われる生活はしていない」
大樹は大きく肩を落とすが理音は話を理解しているようには見えない。
「……まぁ、理音は平常運転って事で」
「へ、平常運転じゃないよ!? いくら、栄養があったって、こんな食事が良いわけないよ」
深月はどこか諦めがあるようであり、大きく肩を落とすがひばりは納得がいかないようで声をあげる。
「……あー、とりあえず、今日はここで夕飯を食っていけ。この食材も使って良いよな?」
「あぁ、使うか?」
「……ミキサーは要らない」
大樹は時間外で残っている園児達の夕飯を作るため、理音を引き止めるが、彼は何か勘違いしているのか懐からミキサーを取り出す。
「みんなはどうする?」
「あー、悪いね。ボクは今日はパス」
「す、すいません。私も今日は」
大樹は残りの3人にも夕飯を食べて行くかと聞くと深月と葵は都合が悪いようで苦笑いを浮かべた。
「そうか? 支倉さんは?」
「あ、あたし? えーと」
ひばりは予定はないようだが、どうするべきか悩んでいるようで答えに困っているように見える。
「……お姉ちゃん、ダメですか?」
「そ、そんな事はないよ」
怜生はひばりの顔を見上げると、残っている園児達もひばりの事が好きなようで彼女の周りに集まり始め、ひばりは断りきれないようで頷いてしまう。
「まぁ、遅くなっても理音が送って行けば良いし、問題ないしだよね」
「あぁ。別に構わないぞ。何かあっても困るからな」
深月はひばりの様子にくすくすと笑うと何か含みがあるのか理音の肩を叩く。理音は何も考えてないのか素直に頷く。
「あ、あの。話は変わるんですけど、理音君は日本に滞在する間って、どこに住むんですか? 昨日はホテルに泊まったわけですよね?」
「ん? あぁ、今回は研究のめどがついたら、日本に戻ってくる事が確定していたからな。私的な研究室も込みで家を買った。街外れに昔、肝試しをした洋館があっただろ。そこを買い取って修繕を頼んだ。街外れと言う事もあって土地を買い占めれば良いしな。研究室は現在、建築中だ」
「……朝、言ってた通り、理音だよ」
葵はひばりが園児達に囲まれている様子を優しげな瞳で見ていたのだが、理音が日本にいる間に滞在する場所の事を聞くと、朝に深月と大樹が冗談で言っていた洋館であり、深月は顔を引きつらせる。
「深月、どうかしたか?」
「いや、理音は理音だなと思ってさ。だよね。ヒロ」
「そうだな……理音、引越しは終わってるのか? 平日は無理だけど週末くらいは手伝うぞ」
理音は深月の様子に首を傾げる。その様子に大樹と深月は顔を見合せて苦笑いを浮かべると大樹は理音に引越しの手伝いを提案した。
「そうだな。基本的には買ったものを搬入しただけで問題ないが、学術書の整理に人手はいるな」
「なら、週末に行くから、忘れるんじゃないよ。葵、帰ろう」
「は、はい。ひばりちゃんも……」
理音は大樹の提案に頷くと深月も手伝いには賛成のようで頷くと帰宅しないといけないようで葵に声をかける。葵は頷き、ひばりにも別れの挨拶をしようとするが彼女は園児達に囲まれるだけではなく、いつの間に園児達に連れ去られている。
「聞こえてないだろうな」
「そうだね。それじゃあ、理音、ヒロ、ひばりによろしくね」
「了解」
深月は理音と大樹にひばりに伝言を頼むと葵と一緒に幼稚園を後にする。
「とりあえず、支倉さんを助けるか?」
「ん? 遊んでいるようだし、構わんだろ。一先ず、ひばりの買ってきたものは冷蔵庫に入れて置くぞ」
「そうだな。取りあえず、簡単な料理は教えるから、お前も手伝え」
理音と大樹は園児達をひばりに丸投げすると備え付けのキッチンに向かって歩き出す。