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mirror  作者: まあ
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第3話

「……なるほど、そう言う事か?」


「どうかしたの?」


 理音はひばりを家に送る途中で何か気が付いたようで彼の眉間にしわが寄る。そんな彼の様子にひばりは首を傾げた。


「……いや、この近辺には昔住んでいた家もあるからな」


「そ、そうだよね。怜生くんのお兄さんだもんね」


 理音は見慣れた風景に小さくため息を吐く。ひばりは理音と怜生が実の兄弟だと言う事を思い出す。


「あ、あのさ。あたしが聞いて良い事かわからないんだけど……お家に帰らなくても良いの?」


「あぁ。そうか……」


「どうかしたの?」


 ひばりは大樹との話のなかで理音がホテルを取ってると聞いた事が引っかかっているようで遠慮がちに聞く。その言葉に理音は小さく表情をしかめた後にひばりの顔を見て動きを止めた。


「すまん。今更だが、名前を教えて貰っても良いか?」


「へ? そ、そうだね。あたし、名乗ってないよね。支倉ひばりです」


「支倉ひばり?」


「ど、どうかした?」


 理音はひばりの名前を聞くと何かあるのか、小さく彼女の名前をつぶやく。ひばりは理音の反応に首を傾げる。


「いや、何でもない。家に帰らない理由か?」


「う、うん。言いたくないなら、別に良いけど」


 理音はひばりの疑問に答えようとするが、ひばりは聞いては見たものの初めて会った理音の事に深入りして良いのかとわからないようで視線を泳がせた。


「別に隠す事でもない。俺は捨てられただけだ」


「え? あ、あの。あたし……」


 理音はまるで他人事のように自分が母親に捨てられたと言い、ひばりは予想していなかった言葉に驚きの声をあげ、何か言おうとするが言葉は続かない。


「ひばり、別にお前が気にするような事でもないだろ」


「そ、そうなのかも知れないけど……ひ、ひばり?」


 理音はひばりの様子に気にする必要はないと言い、ひばりは何か言いかけるが、理音が自分の事を名前で呼んだ事に気が付き顔が真っ赤に染まって行く。


「どうかしたか?」


「ど、どうして、あたしの事を名前で?」


「ん? あぁ、そうか。名字の方が良かったか?」


「べ、別にそう言うわけじゃないんだけど……海外生活が長いんだし、仕方ないよね」


 ひばりは理音が映っていたニュースを思い出す。そして、彼が海外で生活をしているため、仕方ない事だと言う。


「そう言ってくれると助かる。後は、できればで良い。俺の事は理音と呼んでくれ。あまり、名字で呼ばれるのは好きじゃない」


「う、うん。わかったよ。り、理音くん」


 ひばりは同年代の男の子を名前で断る事も恥ずかしいと思いながらも、母親との関係も聞いてしまったためか、断る事もできずに頷く。


「そ、そう言えば、理音くんはどうして日本に帰ってきたの? 外国でお医者さんをしてたんだよね?」


「ん? あぁ、先日までやっていた研究も一段落ついてな。知り合いの研究者に研究をと言うか手伝って欲しい事があると言われてな」


「そうなんだ」


 ひばりは家まで送って貰っているが、共通の話題もなさそうなためか、理音に帰国の理由を聞くが、それに続く言葉はなく微妙な沈黙が訪れる。


「すまないな。特に話題もなくて、同世代と話すような話題は持っていないんだ。申し訳ない」


「そ、そうじゃないけど」


 理音はひばりの反応に彼女が気を使ってくれている事に気が付き、お礼を言うとひばりは意外そうな表情をする。


「……あぁ、そうだ。その胸の件だが」


「い、いきなり、何を言い出すの!? そ、それもこんな街中で!?」


 理音は話をいきなり飛ばし、ひばりの胸に視線を向けるとひばりは顔を赤くして自分の胸を隠すように手を前で組む。


「……変な警戒はしなくても良い。ただ、さっき抜き取った物はサイズがあってないし、身体の不調にもつながるからな。俺は男だからあまり詳しくはないが、小さく見せるものもあったと思うんだ。周りからの視線が気になるなら、他の方法も視野に入れるべきだと思ったんだ」


「そ、そうなの?」


 ひばりの反応に理音は若干、恥ずかしくなったようだが彼女の身体の事を心配しているのは本当のようであり、押さえつける以外の事も探してみたらどうかと言う。


「あぁ」


「そっか、見せる方法か……どうして、男の子の理音くんがそんな事を知ってるの?」


 ひばりはその考えはなかったようで頷くが、やはり、何かが引っかかったようであり、理音をジト目で見る。


「……まぁ、気にする人間もそれなりにいるからな。特にあっちはでかいからな。嫌がらせなのかよく聞かされた」


「……そうだよね。大きい人って多いよね」


「あぁ。だから、あまり気にするな」


 理音の一言にひばりは頷くが、それでも何かが引っかかったままのように見え、理音は居心地の悪さを感じたようで視線を逸らした。


「他には単純に脂肪の塊だからな。ダイエットで少しは落ちると思うぞ。よく、落ちる時は胸から減るとも聞く。後は金銭面で問題があるかも知れないが、やろうと思えば手術と言う手段もある」


「手術はイヤかも」


「俺も勧めはしない。どれだけ、安全だと言っても絶対の事はないからな。女性の容姿に対する探求心は良くわからないが、危険を冒してまで選ぶ選択肢としてはないな」


「そうだよね。お母さんとお父さんから貰った大切な身体だもん。キズを付けるのは良くないよね」


 理音は医師として男として理解できない事があると眉間にしわを寄せる。ひばりも胸の事をいくら気にしていても身体にメスを入れる事は抵抗があるようであり、理音の言葉に頷いた。


「まぁ、後は心の問題だ。ひばりが気にしなくなる事が1番だな。実際、コンプレックスは本人が思っているほど周囲は気にしていない。気にしないのが1番だ」


「そうなのかな?」


 理音はひばりの身体に対するコンプレックスの大元を知らないためか、これ以上の事は言えないと判断し、ひばりはその言葉にどう返して良いのかわからないようで不安そうな表情で聞き返す。


「あぁ」


「そっか」


「……そうだな。身体の事を男に相談するのもなんだが、これでも医師だしな。カウンセリングはあまり重点的にしていなかったが、相談には乗る」


「うん。男の子に相談するのはちょっと、でも、心配してくれてありがとう。あ、理音くん、ここで良いよ。ここのマンションだから」


 ひばりは理音が自分の事を心配してくれている事を純粋に感謝しているようで表情を緩ませた時、ひばりの家に到着したようでひばりは足を止める。


「そうか?」


「あ!? ご、ごめんなさい。あたし、理音くんにカバン預けたままで」


 理音はひばりの言葉に足を止めると手に持っていたカバンをひばりに返し、ひばりは申し訳なさそうに頭を下げた。


「ん? 気にする事はない。これくらいは別に何とも思わない」


「で、でも」


「気にする事はない。それでも気になっているなら、怜生が世話になっているお礼だと思ってくれれば良い」


 理音はひばりに気にする事はないと答えるが彼女の表情は変わらず、理音は彼女の負い目を拭うように怜生の事を引き合いに出し、話を終わらせる。


「う、うん。そうする。ありがとう。理音くん、またね」


「あぁ。またな。ひばり」


 理音とひばりはそこで別れの挨拶をすると理音は彼女に背を向けて歩き出す。


「……支倉ひばりか? 良く考えれば面影は残っているな。と言うか、1部分を抜かしてあまり成長は見られないのはあの件に何か関係があるか? ……まぁ、心の傷は俺には治せないか? 俺自身、自分の傷も治す事が出来ないんだからな」


 理音は過去にひばりと面識があったのか、小さな声でつぶやくと彼の眉間にしわは深くなって行く。そして、自分の口から漏れた言葉に苛立ったのか舌打ちをすると歩を速める。


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