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四郎に注目

作者: Sebastian

俺は一流企業に勤めているやり手サラリーマン。

自分で言うのもなんだけど自慢なんだ。

今日も大好きな仕事場へ働きに行く。


朝起きらまず、食事をする。

食事をするのにかける時間は8分。

これは只野四郎自身で決めた時間である。

そして洗面所で歯を磨く。

これは2分である。

こうやって四郎は自分のやること、やることに絶対的に時間を決めてそれいないにやるようにしている。

これもエリートサラリーマンになってしまったからだろうか。

四郎は完璧主義者。

1秒でも何かが遅れると自分で自分を怒る。

「何やってんだよ、俺!」

勢いで自分を殴り、あざを作ったことだってあった。

そして、電車に乗り込む。

毎日、同じ時間の同じ車両の同じドアから入り込む。

電車は正確とはいえ、ちょっとしたトラブルが起きたりする。

そのわずかな時間の遅れを取り戻すため、毎日駅から会社へは走っていく。

おかげで頭の方だけでなく体も丈夫で文武両道な四郎である。


しかし、ある日の四郎は何かが違った。

電車に乗り込んで会社に走っていく。

そして、いつもどおり、同僚の2倍だけ仕事をして、昼ごはんは16分で食べた。

そして6時ぴったしになって会社を出て、また駅まで走った。

ここまで一緒である。

しかし、電車に乗ると違ったのだ。

あの完璧主義者でエリートの四郎があろうことかおならを出したくなってしまった。

幼少の頃から英才教育で育ってきて、人前でおならをするなど、むしろおならなどしないような四郎が電車においておならをしたくなったのだ。

家がある駅まではあと12分ほど。

だけど、1分も我慢できない状態である。

(ダメだ、おならをするしかない・・・。)

おそるおそるおならをする四郎。

幸い、音がしなかったものの恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまった。

そんないつもと違うことがあったが家へ帰ってきた四郎。

夕飯はエリートながらもカップ麺。

四郎にとってこれが短時間で腹を満たせる食べ物であり、ベストなのだ。

寝る前にはアメリカにいるガールフレンドである明美にメールを送る。

明美と出会ったのは大学時代。

お互いエリートに育ってきたのだが、明美が学問を深めるためにアメリカへ。

それ以後も二人の関係は続いているのだ。

時差の関係で夜送ったメールの返事は知ろうが起きた朝頃に帰ってくる。

そんないつもと違う一日を過ごした四郎であった。


次の日。

今日もいつもと違う一日を過ごすことになってしまおうなどと四郎には予想してなかったことだろう。

いや、むしろ前のような生活がおくれないなどとは・・・。

食事をしながらのニュースをみていた四郎。

そこへ奇妙なニュースが飛び込む。

「昨日、夕方、あのエリートサラリーマンである只野四郎が電車内でおならをしました。これは、あの完璧主義者であるといわれ続けていた四郎さんが人生で初めておならをしたと思われます。周りの人の証言によると音はなかったものの匂いはくさかったとのことです。続いての・・・。」

(なんだ、このニュースは・・・。

俺の顔だって名前だって出てるじゃないか・・・。

疲れてるんだろうな、俺・・・。)

ごまかすことにした四郎。

しかし、電車に乗ってみたらそれが本当のニュースであったことを思い知らされた。

四郎が乗った瞬間に周りの乗客は四郎を避け、くすくすと笑い始めた。

(なんで笑われてるんだ・・・。

あのニュースが流れたことをみんな知っているのか・・・。

あぁ、早く会社につけよ、全く・・・。)

やっとの思いで出社。

しかし、そこもかつて自分が働いていた場所ではなかった。

自分の机だけ何故か周りと離されていた。

そして、空気清浄機が3個も置いてある。

くすくすっと笑い声、こそこそっと内緒話。

「四郎さん、電車でおならをしたらしいですよ・・・。」

「えぇ〜、あの四郎さんが〜!?」

といったような話が四郎の耳にも聞こえてくる。

(お前らだっておならぐらいするだろうが、この野郎・・・。)

その日の仕事の量は同僚の2分の1になってしまった。

仕事にも熱が入らない四郎に部長が喝をいれる。

「四郎君、どうして君はそうなってしまったんだね!

昨日までの君とは大違いだよ!

え?何かあったのかね?

もっと気合をいれな・・・、ぷ、ぷぷっ、ふはは、ふはははっ。」

と、喝を入れている途中にも笑い出す部長。

「いや、なんでもないや、かえっていいぞ、あはっ、あははははっ。」

結局笑いものにされてしまっただけであった。

(死にたい・・・、死にたい・・・、死にたい・・・。)

帰りの電車では常に笑い声が耳に入ってしまう。

だけど、もう慣れてしまった四郎。

家に帰って明美にメールを送る。


Dear 明美

俺、俺、今すんごいなやんでるんだ。

悩みはちょっといえないんだけれども・・・。

なあ、明美、俺、何かしたかな〜・・・。

なんか周りには馬鹿にされるし、もう生きていくのがつらいよ。

こんなことを言うのもあれだけど、励ましてくれ。

俺には明美しかいないんだ。


from 四郎

床についた四郎であった。



次の日の朝。

メールを見てみると思いもよらぬ返事が明美から来ていた。


Dear 四郎

あなたとはもう付き合っていられません。

さようなら

from 明美

ただショックを受けた。

自分の唯一の支えがなくなってしまった。

親のもとを抜け出して上京してきた四郎にとって親を支えにするのは意地でもできなかった。


その後もこのような日々が続いた。

四郎がまちを歩けばそこには常に笑い声。

四郎にとってはそれが当たり前になってしまい、特に気にすることもなかった。

「四郎、階段でつまづく!」

「あの四郎がコーヒーをこぼす!」

「今日もおならをする!」

あのおならの一件から完璧主義者から遠のいてしまった四郎はちょっとした間抜けになってしまった。

そして、何かあるたびにニュースになってそれが広がる。

もはや国民的人気な四郎。


ある日、会社から帰る四郎。

相変わらず笑われ続ける四郎。

四郎は周りの世界と自分を離すために四郎は常に考え事をしている。

それで、周りの笑い声を聞かないようにしている。

しかし、そこは駅のホーム。

電車が来ていることも知らずに考え続け、ぼ〜っと歩いている四郎。


ひかれてしまった。


ぼ〜っと歩いているうちの線路に落ちて電車にひかれてしまった。

その瞬間から笑い声など聞こえなくなった。

静寂があたりを包む。


もちろん四郎は死んだ。


葬式が行われた。

国民的な人気をほこっていた四郎なので参列者はかなりのものであった。

さすがにここでも笑い声などは聞こえなかった。

遺影を見てもエリートであったことがうかがえる。

お経を読み始めるお坊さん。

笑い声がしないかわりに泣きすする声があたりを包む。

そして、葬式も終わり霊柩車で四郎が火葬場へと運ばれる。

そして霊柩車が発車する合図としてクラクションをならす。

「ぷ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・」

その瞬間、笑い声が再びあたりを包み込んだのだった。



お読みいただきありがとうございます。

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