テスト週間
漢字で言うと、余計に難しく感じるのは何故だろう。
教師から告げられたその言葉は、生徒達の空気を少し重くした。
反対に、別の―恐らく階段を挟んで隣のクラスからは明るい声が聞こえてきた。
騒がしいともいえるその声々は、大きな一喝とともにぴたりと止まった。
「各科目範囲の発表は各自で確認しておくように」
先程の声など全く聞こえていないように。
それだけ告げると、開いていた教科書を閉じた。
「鉄仮面……」
「そう?曾我先生だって表情豊かじゃない」
王貴の言葉に、九郎は思い出しながら考えてみる。
眉間にしわを寄せた数学教師の、表情。
「あー……まあ、確かに」
「でしょう?」
「主に怒り方面に偏ってるけどな」
「……向こうの先生も、今頃そんな感じじゃないかな」
「……と言うわけで、皆しっかり頑張るように」
はーい、と間延びした返事。
後ろの方の席では、頭を抱え込むように俯いた生徒の姿。
「和氏君が悪い」
「右に同じく」
「同意見」
「お前ら……」
友人達の笑顔の冷たい言葉に、俯いたまま和氏は小さく唸る。
もっとも、自業自得でもあるのだが。
騒ぎを一喝する中で、立ち上がっていた和氏に向かいチョークが投げられたのだ。
「甲斐田先生、チョーク投げの制度が増してきたなあ」
「それはほら、和氏がいるから」
「どういう意味だ!」
思わず大きな声を出した和氏の下に、白い物体が高速で飛んできた。
見事に当たったそれは、起き上がった和氏を見事に"しずめた"。
「……こういう意味だよ」
凌ぐは呆れたように笑いながらため息をついた。
「と言うわけなので助けてください世乃さん!!」
「……何が、と言うわけ、なのかは知らないけど……はあ」
目の前で、手を合わせて懇願する和氏。
世乃は笑うことなく呆れながらため息をついた。
その場に居合わせた亜丞が和氏についてきた凌に尋ねる。
「和氏、そこまで成績わるかったっけか?」
「その時の調子にもよるけど、部活で赤点は絶対駄目なんだよ」
「なるほど」
世乃は苦笑いを浮かべて和氏に向き合った。
「数学だったらいいよ。けど、他は自分でね」
「十分だ、助かる……!」
「いいよ、しばらく生徒会も無いし」
「俺も勉強会するかなー」
「亜丞、十分成績いいだろ」
やや恨むような視線で、和氏は亜丞を見た。
「馬鹿、今成績良くったって勉強しなくて言い訳じゃないだろ」
「頭いい人ってのはちゃんと勉強してるからなんだよ」
「……そう、だよね……」
亜丞と凌の言葉に、何故か世乃が少し俯く。
「頭いい人は勉強するんだから……追いつくわけないもんね……」
「……」
疑問に思い亜丞と凌は首を傾げる。
理解した和氏は、世乃を元気付けるように頭に手をやり、軽く撫でた。
「っくし!!」
「また誰かが噂してるのかな、さすがだね」
「嬉しくないから」
そういいつつ、王次郎は棚の高い位置から取った王貴に本を手渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして。このくらいだったら、いつでも」
そう言うと、王次郎は爽やかに微笑む。
この当たり前でさりげない優しさも、王子である所以なのだろうと、王貴は思った。
「それに、踏み台に乗ってふらふらしてるのを見たら、ほっとけないしね」
「だって、九郎も亜丞もいないんだもん」
そう言うと、王貴はやや不機嫌そうな表情を浮かべる。
それをみて、王次郎はまた笑う。
「王次郎も本を借りに来たの?それとも、勉強?」
「借りに来たほうだよ。図書室で勉強するの苦手なんだ」
「あ、分かる……と、時間取らせてごめんね、ありがとう」
「ううん、王貴ちゃんも勉強がんばって」
「王次郎もね……なんて、言うまでもないのかな?」
そう言ってから、王貴は学年一位の人物に向けて微笑んだ。
「そんなことないよ。ありがとう」
「うん、それじゃあ」
それぞれが、テストに向けて準備を始める。
二週間後を笑顔で迎えるためにも。