クラスマッチ(春) 4
「世乃!平気か!?」
「……う、ん……大丈、夫?」
亜丞の声になんとか答える。
階段を落ちたというのに、不思議と体に痛みはあまりなかった。
そして、不思議と柔らかな感覚。
ゆっくりと、目を開く。
目の前にあるのは、床ではなかった。
「大丈夫?」
「………………」
「前原さん?」
世乃は固まったかのように黙ったまま。
不思議に思い、王次郎は世乃の目の前で手をひらひらさせてみる。
「くくくくら、いし、く…………!」
「ま、前原さん!?」
世乃はショートしたかのように気絶した。
階段から落ちた先の、王次郎の上で。
亜丞はほっとしながらも、苦笑いを含んだため息を吐いた。
「……そろそろ交代かな」
王貴が時計を見上げてそう言ったそのとき。
タイミングを計ったかのように、廊下の端に亜丞が現れた。
「おつかれさま、どうだった?」
「取られなかった。よかったのか?」
「復活ゲームには、早々に退散した人たちの延長戦みたいな意味もこめてるから」
「なるほど」
それなら十分だ、と、亜丞は首からホイッスルを下げた。
「……世乃は?」
「あー、保健室」
まさか、と驚く二人に、亜丞は笑いながら言い加えた。
「ちょっと疲れて気絶しただけだ」
「そっか……少し無理させちゃったかな」
「……いや、本人は多分幸せだったと思うぞ」
「へ?」
「とにかく、無事に終わったってこと。ほら、次行って来い」
王貴と九郎の肩に手を回し、亜丞は笑ってそう言った。
二人も笑って答えた。
「「行ってきます」」
「で、来たわけなんですが」
「どうしているんでしょうね……」
「どうして、だなんて」
そう言うと、肩に羽織ったジャージをはためかせて微笑む。
若干疲れた顔をした九郎と、相変わらず微笑む王貴に向かい。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「「ですよね」」
"元生徒会長"御堂司春は、二人の思っていた通りの言葉を返した。
呆れながらも、九郎は尋ねた。
「で、本当なんでいるんですか」
「もちろんしっぽを取られてしまったからだよ」
「いえ、そうではなくて。どういった理由で取られようと思ったのですか?」
九郎の質問に付け加えて、王貴が尋ねる。
「面白そうだから」
「「ですよね」」
「それに俺がいなくてもうちのクラスは優秀だから」
「ああ!……押し付けましたね」
思い浮かぶ、元生徒会の先輩のストレスをためた姿。
「すっごく大変そうだったよ!」
「嬉しそうに言わないでください」
「さあ、そろそろお喋りは終わりだ」
そう言って、司春はぱん、と手を鳴らす。
「楽しみにしてたんだ。だから、二人にも頑張ってもらうよ」
一年のときから生徒会に所属していた司春は、一般にクラスマッチに参加するのはこれが最初。
わざわざでないと捕まることなど有りえない人物が、今目の前に立ちはだかっている。
「これは本当に、頑張らないと駄目ね」
「全くだ」
王貴が微笑み、九郎はため息を吐いた。
そして同時に、3人は駆け出した。
どうでもいいことですが、全員体操服です。
王貴・慧斗・世乃・希雪→半そで半パンにジャージ上を羽織る
九郎・亜丞・王次郎→半そでに長ズボン、上に長ジャージを羽織る