好きな子ほど苛めたい
「いい加減にしろおおおお!!」
ダッと、廊下を全力疾走で駆け抜ける少女。
廊下に人が少ないからまだいいが、人がいればとりあえず振り返る大声で。
王次郎はすれ違いざまにその少女を見て、続けて前を見る。
「凌、また笹さんからかってたの?」
「やあ王次郎、からかってなんかないさ」
少女が走ってきたほうから歩いてきた凌。
そのきらりと光るかのような満足そうな笑みを見て、王次郎はため息を吐く。
「本気なのか冗談なのかは俺には分からないけどさ」
希雪は凌を非常に苦手にしている。
が、心のそこから嫌悪しているわけではないことは、分かる。
彼女の場合本当に嫌悪するなら相手にもしないだろうから。
アレだけ嫌がっているのは嘘ではないだろうが、反応を返すということは望みが無いわけではない。
もっとも、好かれてもいないのだろうが。
それ以前に、凌の本心が読めないため、何ともいえないところでもある。
「あんまり苛めてると、本当に嫌われるぞ?」
「……それはお前にも言える事だろ?」
「え?」
凌の言葉に、王次郎は顔を上げる。
どこか困ったように微笑む凌。
すれ違いざまに、肩をぽん、とたたいて。
「お前も十分、意地悪だと思うよ」
あんまり長引かせるなよ、と言って。
片手をひらひらと振りながら、凌は通り過ぎていく。
その背中を見ながら。
「…………まいったな」
思った以上に表に出ていたのか、はたまた、単に凌が鋭いのか。
見抜かれていたことに驚きつつも。
困ったように笑みを浮かべて、王次郎は呟いた。