頑張る君へ
「やあ希雪、今日もかわいいね」
「うおあ!!?」
後ろから突然叩かれた肩をびくつかせて、希雪は叫んだ。
そして素早くその場から移動して、振り返る。
「いい加減にしろよ……せめて普通に声かけろ!」
「普通に声かけようとしたら逃げるじゃないか」
「う」
確かにそれは事実であるので、希雪は顔をしかめる。
それを見て満足したように凌は笑った。
「それに希雪が驚く姿が見たいからやってるんだし」
「わざとか!」
希雪は叫ぶが、全く動じていない凌の様子に、諦めて肩を落とした。
「今日は世乃ちゃんと一緒じゃないんだね」
「世乃は先生からの頼まれごと」
「ああ。しっかりしてるからね」
生徒会であることを除いても模範生である世乃は、教師からの信頼もある。
加えて、頼まれると断れない性格。
「いい子だね、世乃ちゃんは」
「当然!……まあ、忙しすぎて疲れないといいけど」
友人のことを思い、心配して希雪は呟いた。
友人として、出来れば支えてあげたい。
けれど。
何時だって、大丈夫、と言って笑う少女。
気弱に見えて意外と負けず嫌い。
そして出来るだけ自分でやろうとして、なかなか人を頼らない。
「私も、頑張らないと」
それならせめて、世乃に心配をかけないように。
そして、世乃が頼ってくれるときに手助けできるように。
希雪自身が、頑張らなければ。
「希雪は頑張ってるよ」
かけられた言葉に、希雪は顔を上げる。
何時もの様に、凌は微笑んでいた。
「頑張ってるから、そうやって友達のことを考えてあげられる。世乃ちゃんにもそれが伝わってるから、世乃ちゃんも頑張ろうと思うんだよ」
まるで当然であるかのように、凌の口から出てくる言葉。
(……いつも思うけど)
凌の言葉は浮いているけれど、真っ直ぐだ、と。
希雪は小さく息を吐いて。
「……ありがと」
「え」
「なんかすっきりした。考えすぎも良くないわね」
「……そうだね、眉間に皺を寄せるよりは、やっぱり笑顔の方がかわいいと思うよ」
「黙れ!」
笑みを増した凌に一撃かましてから、希雪は走り去る。
軽くではあるが殴られた部分を押さえながら。
『……ありがと』
少し複雑ながらも、どこか嬉しそうな。
何時もとは違う、あいまいな表情を浮かべていた希雪の顔。
(こういう褒め方なら、問題無いの、か)
思わず口元を押さえながら、凌は希雪の後姿を見送った。