どうぞご自由に
登場人物 鈴村亜丞 秋篠永久子
幼馴染。
遠い親戚にも、当たるらしい。
だから、昔からの付き合いではある。
だけど、未だに付き合い方が、分かっていないのだろう。
「あら亜丞さん、ごきげんよう」
「何してるんですか永久子さん」
亜丞は見上げたままため息を吐いた。
木の上で、枝の上に腰掛けた永久子が、小さく手を振っているその状況に頭を悩ませて。
老舗の料亭である亜丞の家は広く、店とは別の庭園が会った。
そこに植えられた中でもかなり古く大きな木の上で。
「今日はいい天気ですから、木漏れ日がとても綺麗」
「そうですね。で、何してるんですか」
何時ものマイペースだが、とりあえず状況を把握したい。
何故、そんな高いところに登っているのか。
その長いスカートで、どうやって登ったのか。
そして、どうやって降りるつもりなのか。
亜丞はもう一度尋ねようと口を開く。
が、先に口を開いたのは永久子だった。
「ところで亜丞さん」
「ところでじゃなくて!何でそんなとこいるんだよ!?危ないから降りなさい!」
我慢できずに亜丞は声を上げる。
が、気にせずに永久子は微笑んだ。
「ねえ亜丞さん」
「はい!?」
「亜丞さんは、好きですか?」
「………………はい?」
「家によったら迷い猫を見つけて、追いかけてたら木に登っていた、と」
「そうなりますね」
降りてきて縁側に座った永久子の隣で、亜丞は疲れた顔をした。
(結局、彼女が木から降りる為に、亜丞は梯子を持ち出すことになった)
永久子の膝の上には、真っ白で、ふわりとした、子猫。
「毛並みも綺麗ですし、きっと迷子ですわ」
「このあたりで猫を飼ってる家ねえ……」
考えるが、とりあえずは思いつかずに。
呑気に昼寝をする猫を見て、亜丞はため息を吐く。
その猫を撫でながら、永久子は微笑んだ。
「こんなに暖かいのに、まるで雪の様に真っ白。素敵」
ね、と笑顔を亜丞に向ける。
笑顔を向けられた亜丞は、はあ、とため息を吐く。
意図してかそうでないかは分からないが、先程から会話はかみ合わない。
しかし、不思議と嫌な気分はしていないのだ。
大変疲れはするが。
「雪花、でどうかしら」
「飼うのか?」
「スノウでもいいけど、この家には和風の名前の方が似合うわよね」
「家でかよ!」
「好きなのでしょう?」
猫が。
目的語を抜いた言葉で、永久子は尋ねる。
う、と亜丞は言葉に詰まりながらも、何か言い返そうとするが。
「会いに来てもいいかしら?」
にゃあ、と一鳴き。
満足しているのか、白い尻尾を一度上げて、また降ろす。
それを聞いて、そして永久子の笑みを見て。
亜丞は、観念した。