いつもの放課後
登場人物 笹希雪 朝比奈凌 前原世乃 上條九郎 高良和氏
「じゃあ、これ頼むな」
「うん、わかった」
九郎は世乃に用事を頼み、教室を出ようとした。
そのとき。
「!!」
がらりと、勢いよく開いたドアはその反動で閉じた。
そのあいた隙に入り込んだ少女は、その勢いのまま室内の少女の後ろに隠れた。
「……希雪?」
「どうしたの?」
驚きつつ振り返る九郎の声は聞こえてないのか、希雪は何も言わない。
何となく日常でもある友人の様子に、世乃は、少し驚きながらも尋ねた。
いつもの強気ではなく、弱りきった小動物のような状態で、しゃがんだ希雪は見上げた。
「駄目だ……もう、駄目……」
「「……」」
あ、駄目だこれ。
そう思いながら、九郎と世乃は苦笑いを浮かべた。
やはり、いつものことか、という風に。
そう思っていると、教室のドアがまた開いた。
「失礼するよ……やあ、九郎」
「凌?」
「!!!」
「凌君、どうしたの?」
「やあ、世乃ちゃんも。今日も相変わらず可愛いね」
「相変わらずだなあ」
笑いながら返すが、こういうことにあまりなれていない世乃は少し顔を赤らめる。
その後ろで、悲鳴のような声を幽かに上げながら、希雪が震えて肩を掴んだ。
「世乃に近づくな!」
「じゃあ希雪ちゃんがこっち来てくれる?」
「ひいいい!!」
近づいて、顔を近づけにこりと微笑んだ凌に見つめられ、希雪は大きく悲鳴を上げた。
座り込んだまま、勢いよく世乃を盾にするようにして隠れた。
「可愛いなあ」
「……凌君」
「好きな子ほどいじめたいっていうやつだよ」
「ほどほどにね……」
いじめ、といっても、実際にいじめているのかといえばそうではない。
希雪は、きざな台詞回しや行動が、鳥肌が立つほど苦手としている。
世乃とて得意ではないが、女の子としては、ここまで嫌がりはしない。
しかし希雪は、照れているのだろうが、度を越えて嫌悪するほどに。
なれない、柄にあわない、寧ろ自分が言う側、というのが理由の内にあるだろう。
対する凌は、素でさらりとそういうことを言える人物である。
「よるな、触るな、しゃべるな来るな!!」
(……嫌がるからやるって、気づかないのかな……)
眺めながら、九郎は心の中で呟いた。
否、凌なら嫌がられなかったとしてもやるのだろう。
そして、希雪が嫌がらないことなど無いのだろう。
「やっぱここに居たか。九郎はめずらしいな」
「ああ、ちょっと世乃に用事」
「和氏は部活終わったの?」
「ああ、で、凌探しに来た。……いつも通りだな」
「うん、いつも通り」
何となく安心感さえ生まれる光景に、小さく笑った。