生徒会の夏休み(締めくくり)
「さて、そろそろいいかな」
次第に傾き始めた日を見ながら、司春はうなづく。
それを見て六花は首を傾げる。
「何が?」
「これだよ」
ぽん、と机の上に置かれたものを囲んで見ると。
「花火ですか」
「夏といえばやっぱりこれだと思ってね」
「豪華サマーバイオレンスパック……」
「……バイオレンス……?」
パッケージにある言葉に少し違和感を感じながらも、各々花火を手にとり始める。
全員が手にとっても余るほどの量。
「ちゃんと水を用意してから始めようか」
「じゃあ水汲んでこようか」
「あ、手伝います」
バケツを手にした宮に続くように九郎も立ち上がる。
ふと、口元に手を当てて蓮花は司春の方を向いた。
「司春君、火をつけるものってあるん?」
「ろうそくは入ってるみたいだけど……」
「……ないみたいだな」
「っすね」
花火の入っていた袋をあさりながら六花が告げる。
同じく他の袋をあさった亜丞と慧斗も同じ答え。
「ふむ、見落としてたな」
「あ、じゃあ私そこの海の家から何か借りてきます」
世乃は立ち上がってそう告げると、すぐさま駆け出した。
「すみません」
「はいはーい」
一番近い海の家の入り口で、世乃は中にいた店員に声をかけた。
店員は世乃に気づくと近づいて、頭に巻いていたタオルを外す。
「ライターとか火のつくものを借りたいんですけど」
「火?」
「えっと、向こうの方で花火をしようと思って」
「ああ!オッケーちょっと待ってて」
「はいこれ。火の元には気をつけてね」
「ありがとうございます」
「けど、向こうの方って確か私有地じゃなかった?」
「あはは、知り合いの所有地なんです」
「へえ、そりゃすごいな」
遠慮がちに世乃が言うと、やはり店員は驚いて見せた。
海の一角を所有しているのだからそうだろう、と世乃は思う。
「じゃあ後で返しにきます」
「ああ、そのままもらっていいよ、それ俺のだから」
「え、でも」
「たまたま持ってただけで普段使うって訳でもないからさ」
「……じゃあ、ありがたく使わせてもらいます」
世乃が微笑むと、店員は満足したように笑った。
「わあ……」
火に触れると同時にはじけた様に飛び出した花火を見て、世乃は感嘆の声をもらす。
薄暗い中に、眩しいほどの火花がぱちぱちときらめいた。
「ねえねえ六花、これはこれは?」
「やめなさい!貴方がロケット花火持つとかろくな事にならない!」
笑顔の司春を六花がしかりつけ、後ろから宮がさっと花火を取り上げる。
「ナイスコンビネーション」
「そやろ?」
見ていた慧斗の呟きに、ふふ、と微笑みながら蓮花は答えた。
その手には、鼠花火。
「司春君、ロケット花火は危ないからこれで我慢し?」
「蓮花!鼠花火投げるな!」
「あら、鼠花火は投げるものやろ?」
「まあ間違ってはないですね」
怒る宮に、蓮花は心底不思議そうに返す。
先輩だからか、はたまた口出しすれば面倒だと思ってか、横にいた慧斗はただ様子を見ていた。
「……賑やかだなあ……」
「そうだね……」
対照的に、静かに線香花火に興じる九郎と世乃は互いに呟く。
大きく膨らんでいた灯火が、ぽたり、とこぼれるように落ちた。
「あ、終わっちゃった」
「次とってくるか」
そう言って九郎は立ち上がると、花火がおいてある場所へと向かった。
「九郎、どうしたのかな?」
「花火とりに。線香花火ってまだあったか?」
「ちょっとまってね、えっと」
「多分こっちにあったぞ」
亜丞が一つの袋を王貴に渡す。
がさがさと袋をあさる王貴の手にも、花火が握られていた。
「王貴が持ってるのはどんな?」
「これはね、七色の花火だって」
「まあ、いろんな色の火花が出るみたいだな」
「へえ……すごいな」
九郎の記憶にある花火といえば、オレンジの火花一色のもの。
最近では火の飛び方や形など、色々な種類があるらしい。
「こうやって皆で花火やるの、久しぶりだもんね」
「そういえば昔亜丞の家の庭でやったな」
「そうそう、王貴がはしゃいで大変だったな」
「そんなこと無いもん」
珍しくすねたようにそっぽを向いた王貴が、はい、と線香花火を差し出す。
笑いながら九郎は受け取った。
「ありがと。二人もやる?」
「線香花火か、面白そうだな」
「王貴は?」
「……やる」
九郎に向き直り、王貴は満面の笑みを浮かべた。
薄暗い、から本格的に暗くなり、空にはちらほらと星明り。
「生徒会の夏休みはこれで終わりかなあ」
落ちた線香花火を見つめ、世乃がぽつりと呟く。
「そうだな、二学期は何かと忙しいから、その準備が始まるし」
「そう、これから忙しくなるよ?」
くるりと長い髪を翻しながら、王貴は立ち上がる。
「まずは体育祭、そして文化祭、生徒会長としてどちらも成功へと導いてみせる」
輝くような強い目で、王貴はきっぱりと言った。
そして、ふっと笑みを浮かべて。
「楽しみね」
心のそこから楽しそうに、そう言った。