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Scool!!  作者: 白金千乃
一学期
16/25

生徒会の夏休み(満喫中)





   眩しいけれども心地よい日差しが辺りを照らす。

   白い砂浜に反射して、靴下も靴も脱ぎ捨てた足の裏から、熱が伝わる。



   「王貴ちゃん日差しは大丈夫?」

   「これくらいなら平気です。ちゃんと屋根もありますし」

   「水分もちゃんと用意してますからね」


   そう言ったのは九郎で、手元には2リットルのペットボトル。


   「王貴に限らず、水分補給に気をつけてくださいね」

   「流石やね、母様みたいやわ」

   「お母さんはないだろ」


   ふふ、と、扇子を口元に当てながら微笑む、龍禅寺(りゅうぜんじ)蓮花(はすか)

   その隣で笑みを浮かべつつもたしなめる(きし)(みや)


   元生徒会のメンバーであり、王貴たちの先輩にあたる人物。


   「あら、褒め言葉のつもりやけど」

   「蓮花はそのつもりだろうね……それより、海には入る?」


   そう言って、宮は軽く海の方を指し示す。

   せっかく海に来たのだから。


   「そうですね。少し暑くなってきましたし。王貴は?」

   「まだいい。九郎、行っていいよ」


   広いテラスであるが、誰かしらそこにいるだろう。

   そういって、王貴は軽くひらひらと手を振った。


   「何かあったら誰か呼べよ」

   「大丈夫だよ、ここには人入ってこないみたいだし」


   そう、ここはあくまで私有地。

   一般の人が出入りできないようにはなっている。


   「まあ、だからなんだけど」

   「?」


   だからこそ。

   そのような場所へあえて入ってくるような輩は、王貴の気分を害しかねない。

   学校ではないとはいえ、マナー違反はよろしくない。


   「大丈夫だよ。だって、何かあったら来てくれるでしょう?」

   「…………まあ、そうだけど」


   満面の笑みを浮かべた王貴に、九郎はため息を返した。








   海には、先に亜丞と世乃がいた。


   「よお」

   「九郎君も海に入りに?」

   「ああ……少し冷たいな」


   足元からひやりとして、一瞬躊躇うが、そのまま足をつける。

   海面は日差しを反射して、きらきらと目に痛いほど眩しい。


   「世乃、パーカー濡れないか?」

   「濡れてもいいのだから大丈夫」

   「せっかく水着なのに、もったいない」

   「亜丞君!」


   少し恥ずかしがりながら世乃は声を上げる。

   亜丞は冗談半分で言ったのだろうが、半分は事実だろう。


   世乃の水着はシンプルだが、形と白色が綺麗な水着だった。

   もっとも、上からクリーム色のパーカーを羽織っている為、全部は見れないのだが。


   先程蓮花が来ていたのは、ブラウンのロングパレオ。

   宮は下はハーフパンツで上はキャミソールタイプのボーイッシュな物。

   六花の水着は胸元とスカートがフリルになっているが、薄桃色でそんなに華美ではないもの。

   どれもそれぞれの個性にあっており、似合っているものだ、と九郎は思う。


   「王貴ちゃんの水着もかわいいよね、今は上着きちゃってるのかな」

   「ああ、今は上からTシャツ羽織ってるよ」


   王貴の水着は黒のセパレート……というか、ビキニである。

   どうせ上から羽織るのだからと、露出は多めにしたのだとか。

   やはりこれも、王貴に似合っているものだった。


   「髪型は九郎がやったのか?」

   「流石に伸ばしたままは邪魔になると思ってな」

   「あの纏め髪、可愛かったね。九郎君器用だなあ」

   「世乃も結ぶなら俺しようか?」

   「え、いいの?……うん、じゃあお願いしようかな」


   「亜丞も長いし結ぶか?」

   「やめてくれ、洒落にならん」


   肩につくほどまで伸びた亜丞の髪を見ながら。

   わざとらしく笑みを作った九郎に、亜丞は苦笑い気味に返す。


   冗談を言い合う二人に、世乃は笑みをこぼした。











   そして、それから少しして。

   世乃の髪を結ぶ為にテラスに戻ってくると。


   「…………王貴ちゃんは?」

   「え」


   ふと世乃が尋ね、九郎は辺りを見渡す。

   いない。


   「いつの間に……ここで待ってろっていったのに……」

   「そんなに遠くには行ってないと思うけど……どうしよう」


   聞きつけた司春と六花がやってくる。


   「王貴が迷子?」

   「どうしよう……危ないところに行ってないといいけど……」

   「あの子はいくつだ」


   世乃の言葉にそう言いつつも、六花としても心配ではある。

   王貴がしっかりしているとは言っても、好奇心は旺盛だし、何より他から絡まれかねない。


   「どうかしたんですか?」

   「慧斗!王貴見なかったか?」

   「会長ならさっきまでここにいましたけど」

   「それが、今いなくなったんだ」


   「……慧斗、さっき王貴と話したときにそれは食べてた?」


   少し考えながら、司春が慧斗に尋ねる。

   不思議に思いながらも、慧斗は答えた。


   「食べてましたけど」


   慧斗の手元には、日差しを浴びてより一層輝く氷の山があった。










   「もしかして一人?良かったら一緒に遊ばない?」


   王貴は知らない人物から声をかけられ、立ち止まっていた。

   手には、先程買ったかき氷が二つ。

   慧斗が食べているのを見て、欲しくなったので買いに来たのだ。


   (それにしても)


   カキ氷を二つもっているのに何故一人だと思うのだろうか、王貴は不思議で仕方なかった。

   そもそも、海に一人で来るという選択肢は、あまり選びたくない。

   サーフィンなど趣味や目的があるのなら別だが。


   「一人じゃないので、それじゃあ」

   「友達と一緒?なんならその子達と一緒でもいいよ」


   恐らくナンパの類だろう、王貴はそれが分からないほどではない。

   冷たくなり始めた手先がつらいので、王貴はさっさと終わらせようと口を開いた。


   「友達も一緒で良いんですか?男の人にも興味があるんですね」


   しかし、中々しつこい相手らしい。

   少々ひるみはしたものの、今度は王貴の手を掴んできた。


   「じゃ、じゃあさ、そいつは放っておいて俺たちと遊ぼうぜ?」


   遠まわしでは駄目だったか。

   ならば直接的に、と王貴がまた口を開こうとすると。



   「放っておくとか、そんなこと言わないでもらえます?」

   「誘うんなら全員まとめてさそってくださいよ」


   「九郎、亜丞」


   いつの間にか自分の後ろに立っていった二人に、少し驚きつつ王貴は振り返る。

   つかまれていた腕も、九郎によって外された。


   「で、どうする?」


   亜丞がにこりと、けれど友好的ではない笑みを見せる。


   「あ、えーっと……」

   「あはは、失礼しましたー」


   威圧されたのか、男たちは笑いながらも冷や汗を浮かべ、そそくさとその場を去っていった。

   やれやれ、と亜丞はため息を吐く。


   「かき氷が食べたくなったにしても、せめて誰かに言ってから動けよ」

   「世乃が凄く心配してる。他の皆も」

   「それは、ごめんなさい」


   心配をかけたことは申し訳ないと思うのか、王貴は少し眉を下げる。

   出来れば勝手に出歩いたことも申し訳ないと思って欲しいのだが。

   そう思いつつ、九郎は掴んでいた王貴の手を離した。


   「今だって危なかっただろ」

   「危なくは無かったよ」

   「両手もふさがってただろ」

   「九郎、人間には足があるんだよ」


   にこりと、王貴はいい笑顔を浮かべる。

   止めにきてよかった(相手の為にも)。

   九郎は、はあ、とため息を吐いた。


   「じゃあ俺戻って世乃たちに伝えてくるわ。お前たちはゆっくりでいいぞ、それこぼすなよ」


   亜丞の背中を見送りながら、九郎は王貴に振り返った。


   「カキ氷一つ持とうか」

   「というか、もらって」

   「え」

   「これは九郎の分。皆分はもてなかったから何回か分けて買おうと思って」


   はい、と王貴は鮮やかな黄色のカキ氷を差し出す。

   受け取るときに触れた指先が、冷たい。


   「……これ、置きに言ったらもう一回買いに行くか」

   「うん」


   王貴は満足げにうなづいた。









   「王貴ちゃん大丈夫かな……」

   「とりあえず、せの先輩は落ち着いてください」


   立ったままそわそわとしている世乃を、とりあえず、と慧斗は座らせる。

   座ったものの、来ているパーカーのすそを握るようにして、落ち着かない様子でいる。


   「九郎先輩と亜丞先輩が探しに行きましたし、もしものときは元会長たちがいるんですし、大丈夫ですって」

   「そう、だよね」

   「自分も探しに行こうとしないでくださいね、迷子が増えるだけですから」

   「う……うん」


   亜丞と九郎にも止められているからか、大人しく世乃はうなづいた。

   最も、止められた理由は迷子だけではないだろうが。


   世乃も、王貴と同じく、人目を引く容姿の人物である。

   もっとも本人はそれが理由だとは思っていないだろうが。


   「そういえばそれは何味なの?真っ白に見えるけど」

   「みぞれです。食べてみます?」

   「え、いいの!?」

   「どうぞ」


   しゃくり


   差し出されたカキ氷を受け取り、ストローで出来たスプーンを使い、すくいあげる。

   小さな氷の山は、口に入ると同時に溶けてなくなるが、同時に味が広がる。


   「あ、おいしい。ありがとう慧斗君」

   「いえ……あ」


   「おーい、王貴見つかったぞ」

   「本当!よかった」


   慧斗が振り返った先で。

   少し離れた場所から亜丞が歩きながら伝えた言葉に、世乃はほっと胸をなでおろす。


   「司春先輩の言うとおり、カキ氷買いに行ってたよ」

   「とりあえず一安心、てところですね」

   「うん」


   やれやれ、と慧斗は軽く息を吐いて。

   慧斗は、未だ山が残っているカキ氷を、頭から直接かじった。





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