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Scool!!  作者: 白金千乃
一学期
15/25

生徒会の夏休み(準備)





   生徒会で海に行くことになった。


   のだが。



   「何で水着買うのについていかなきゃ行けないんすか」

   「あはは……」


   目の前で楽しそうに和気藹々と水着を選ぶ女性人を見て。

   呟いた慧斗に、九郎はもはや苦笑いしか浮かばなかった。


   「まあ、水着以外にも必要物の買出し……と、その荷物もちだな」

   「というか何時まで続くんすか、あれ」

   「慧斗、よく覚えとけ。女性の買い物はとにかく長い。そして男はそれを待つ運命にあるんだ」

   「……九郎先輩、なんか悟ってます?」

   「桃子さん……九郎の母親が買い物好きだからな」


   幼いころから既に慣れ親しんでしまったとはいえ、疲れないといえば嘘になる。

   既に疲労感を感じるのは多分気のせいでは無いのだろう。


   「先に他の買い物を済ませていても怒られはしないだろう。が」

   「目を離すのも、なあ……」


   目を離したときに何が起こるかわからない。

   3人とも身内の贔屓目を覗いても、容姿は整っている。

   絡まれたりするかもしれない。


   そして、それにたいしてしかるべき"対処"を行うだろう。


   その(特に後者への)不安感は、今の疲労感をはるかに勝る。


   「「「………………」」」


   三人は無言で向き合った。













   「九郎先輩って本当苦労人ですね」

   「おまけにじゃんけんも弱いと」


   必要物資の買出しに向かいながら、慧斗と亜丞は言った。

   九郎一人を女性人のもとへ残して。



   「とりあえず頼まれたのは保存の利く食料類と皿とコップと」

   「ビニールシートとかはいいんすか?」

   「ああ、屋根とデッキがあるらしいから大丈夫だそうだ」

   「……会長も亜丞先輩もたいがいですけど、どんだけ金持ちですか生徒会って」

   「……俺もそう思うよ」


   亜丞はやや視線をそらしながら答える。

   今回行くのは一般的な普通の海である。

   が、その一部分を誘ってきた元生徒会長の家が"所有"しているらしい。


   「まあ、そのおかげで色々助かる部分もあるしな」

   「こっちとしては面白ければ構いませんけど」

   「そうだな…………」


   不意に言葉を止めて、亜丞は表情を歪めた。


   「ん?」

   「げ」


   飲料水売り場の前で、オレンジと赤の野菜ジュースを見比べている人物。

   見られていることに気づいて亜丞に視線を向ける。

   それにより、亜丞の表情はさらにゆがんだ。


   「これはこれは」

   「何でいるんだよ行平お前」

   「それはもちろん、ここが店で俺が消費者だからだ」

   「しかも相変わらず面倒くさい」

   「亜丞先輩のお知り合いですか?」

   「………………一応」

   「何でそんなに躊躇ったんですか」



   里見(さとみ)行平(ゆきひら)

   天祥学園とも交流がある、聖名下(みなもと)学院。

   そこで、王貴と同じように生徒会長を務めている人物。

   そして。


   「幼馴染に対してひどい奴だな」

   「そんなこと露ほども思って無いだろうがお前は」


   亜丞の幼馴染でもある。



   「俺が何処で何をするかは、俺だけが決めることが出来る。そうだろ?」

   「それはそうだが、言い方がイライラするんだよ」

   「まあ、俺だから、な」


   イラッとしながらも、亜丞は呆れたようにため息を吐いた。

   行平は、なんというか、非常に面倒くさい。

   厳しく言えば、うざい。

   そしてそれをわざとやっている節があるので、より面倒なのである。

   もっとも、そのお陰で常識というものは理解しているので、そこは幸いなのだが。


   (面倒なのには変わりないよな)



   「ところで、お前はこれをどう思う?」

   「どうって……野菜ジュースだろ」

   「トマトのみの赤い奴と、にんじんのほかほうれん草などを含みながらもオレンジの奴。栄養面からすると後者の方が豊富に感じられるが、色からすると前者の方が妥当だろう?」

   「どうでもいいわ!!」


   「で、実際何してたんです?」


   ペースに乗せられる亜丞の隣で、マイペースに慧斗が尋ねた。


   「まあ、ぶっちゃけると暇だっただけなんだがな」

   「暇って……お前、一人か?」

   「いや?全員だが」

   「全員って……まさか!?」


   「あらまあ、鈴村亜丞さんじゃありませんか」


   その声に、亜丞は見て分かるほどびくりと肩を震わせた。

   動かない亜丞に代わり、慧斗が振り返る。


   そこにいたのは、"お嬢様"。


   ふわりとした長いスカートを指先で軽くつまみ。

   にこりと軽く首をかしげて見せるその笑みは、知っているものに少し似ていた。

   質素すぎず、それでいて派手ではない華やかさを纏い、佇む姿。

   それはまさに、典型的ともいえる"お嬢様"であった。


   「やあ永久子さん、2階はもう良かったのか?」

   「ええ、一通り見て回りましたから」


   亜丞を挟むようにして並んだ行平と笑顔で会話を交わす。


   秋篠(あきしの)永久子(とわこ)

   行平と同じく聖名下学院の生徒であり、生徒会に所属している。

   そして、行平と同じく亜丞の幼馴染でもあり。


   「ドウモ永久子サン、オ元気ソウデ」

   「亜丞さんは、大丈夫じゃなさそうね。口調が片言よ?」

   「緊張でもしてるのだろう、こいつめ」

   「お二人とも心底楽しそうすね」


   珍しく亜丞が弄られている様子を、慧斗は(他人事に)眺めていた。


   「それより行平さん、皆が探していたようですよ?」

   「もうそんなに時間がたっていたか。そろそろ誰か怒り出している頃か?」

   「ええ、さっき見たら一人既におかんむりよ」

   「分かってるんなら帰ってやれよ」


   恐らく、行平たちの同級生か後輩あたり、同じ生徒会のメンバーであろう。

   不憫に思いながら、そして共感を覚えながら亜丞はあさっての方を向いた。


   「そうするとしようか。それじゃあな」

   「それでは、また」


   そう言って、亜丞と慧斗に向かい挨拶をしてから。

   二人はようやくその場を去っていった。

   見送るようにその背中を見つめる慧斗の隣で、亜丞は顔に手をやっていた。









   「お帰り、買出しご苦労さん」


   ようやく終わったのだろう。

   レジに並ぶ女性人を見守るようにたっていた九郎が、合流した亜丞と慧斗に声をかける。


   「お疲れ様です九郎先輩」

   「おう…………なんかそっちも疲れてるみたいだけど」


   主に亜丞が、と付け加えて。

   慧斗の少し後ろで、あまり良くない顔色の亜丞を見て、九郎は尋ねた。


   「まあ、色々ありまして……というか、会いまして」

   「へ?」


   「…………結局九郎と同じくらい疲れた、絶対」

   「まあ、傍から見てる分には面白かったですよ」

   「そうですね!」



   会計を済ませ戻ってきた王貴たちにも大丈夫かと訪ねられるが。

   亜丞はただ、ため息を吐いて返した。







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