嘘も答えになる
「私の何処が好き?」
幼い顔で僕に問いかける。
不思議な淡い瞳を僕に向けて。
美しい茶色の髪が僕の目に入る。
風になびけばさぞかし美しいだろう。
ここが無風なのがもったいない。
しかしこの感じもいいのだが。
いや、今この質問にはベストの環境だろう。
二人きり。
「全部。」
いつだってこう答える。
君の全てを愛してるだなんてくさい言葉より
この方がいいと思っているから。
この言葉が真実かどうかは別の話として。
「私の何処が好き?」
いつだって葉月は問い直す。
葉月の癖。
本当にほしい返事がくるまで
何回も何回も、時間が許す限り問い直してくる。
「全部ったら全部。」
この繰り替えしを何回する事やら。
ここで僕の愛読書の小説の主人公みたく、
葉月なところ なんて言ったらどうなるだろう。
きっと理解できずまた同じ質問が返ってくるに違いない。
「私の何処が好き?」
葉月は顔色一つ変えず
同じ質問の繰り返し。
何も変わらない。
変わったのは時計の針の位置だけ。
しかし僕は動じない。
慣れているっていう言い方はおかしいかもしれないが
慣れているもんでして。
さっきから 全部 としか言わない僕ですが
本当はこの質問の答えを知っているのです。
嘘も答えになる。
それが必要ならば。
葉月の顔を見る。
もうそろそろ答えを言おうかな。
さっきから顔色の変わってない葉月だが
心が焦っているのがバレバレだ。
僕は優しい、いやあまいのかもしれない。
葉月に対してね。
「笑顔。」
問題解決。模範解答を述べました。
「私も言月の笑顔大好き!」
「僕も大好きだよ、葉月の笑顔。大好き。」
大嫌い。