闇バイトで魔法少女になったギャルは、気付けば抜けられない地獄にいた
浮気されるとかマジでイミフなんだけど。てか、やっぱバイト先の店長となんて付き合うんじゃなかったわ~。あのカフェ気に入ってたのに。
あたしはスマホでスキマバイトアプリ、HourMeを流し読みしてた。また面接とかマジダル~。
『時給3万円以上をお約束。誰でも出来る簡単な仕事です』
うっは、マジこれ噂の闇バイトじゃね? 初めて見たんだけど。引っかかる人いんの? ウケるわ。
……でも、時給3万ってヤバくね? え? 日給24万!? は? 怪し過ぎでしょ! は? 月給600万以上!?
でも……万が一、本当に稼げるなら? 今月クレカピンチだし、喉から手が出るほど欲しいんだけど。
ないない。さすがにないって。これ、絶対、闇バイトだって……で、でも、捕まらなければいんじゃね?
うっは。マジどうすんの、あたし? え? 申し込んじゃう? え、ヤバくね?
止めた方がいいって。でも、モタモタしてたら、誰か申し込んじゃうかもじゃん?
あ。
「申し込んじゃったし! ヤバ、テンション上がる! ヤバ!」
ピコン。スマホが鳴る。
「てか、返事早っ! え? 1時間後? いきなり過ぎじゃね? 仕事夜って書いてたし?」
アプリに掲載されているオフィスに来いと書かれていた。何か、業務に当たって渡したい物があるとか。
「めっちゃ怪しくね?」
てか、『断っていただいても結構です。他の方を当たりますので』なんて、書いてあるし。断れなくね?
「さすがに、殺されたりは……しなくね?」
でも、レイプとかあるかも? そんな話聞いたことあるし……それなら、まあ、最悪お金を貰えれば——
「いやいや、だったら風俗で働けよ」
セルフツッコミして、動揺を誤魔化していたけど、どうする?
……悩みながら、服をリクルートスーツに着替えると、鏡の前で襟を整えた。
サイドポニーは問題ないよね? 少しだけ、手櫛でとかした。
「よし!」
あたしは、革靴を履いて部屋を出た。
街はいつも通りの賑わいだった。改札をくぐり、乗り込む電車は、これでもかというすし詰め状態。
二駅先で降りた。そして、指定された場所に行くと——
「は? ヤバくね? ボロ過ぎなんだけど」
オフィスが入っているというビルはボロボロな外観をしてた。マジ怪し過ぎ——
「……てか、さすがに怖過ぎじゃね?」
でも、時給3万。これがガチなら、あたしの貧乏生活も終わる……
「……来ちゃったし」
指定された部屋番号の前へ、あたしの体は到着していた。あとは、インターホンを押すだけ——
手が震えてる。ヤバ。マジビビるんだけど。
「すぅ~はぁ~……」
とりま深呼吸しとく。どうしよう、めちゃいかつい人とか出て来たら……怖くて何も言えなくなりそうなんだけど——
ガチャ……
嘘、マジ!? ドア開いたし!? ぬっと出て来た顔を恐る恐る見ると——うっは、何これ、めっちゃイケメンじゃん! アイドルかよ!
「いつまでそこにいるんだ、塩原蓮華だろ?」
「へ? あ、うん?」
「ほら、入れよ」
あたしは、腕を捕まれ、強引に中に投げ込まれた。
「ヤバ……何これ」
目に飛び込んで来た部屋にバビった。てか、オフィスじゃなくて工場過ぎなんだけど!
「そこに座れよ」
テーブルを囲んで椅子が二脚置かれていた。そこだけマジでキングかよってくらい金黒なんだけど。
「コーヒーでいいか?」
「え? は、はい」
「敬語とかダリぃから、タメ語な」
「え? あ、うん」
オシャレなカップにコーヒーが注がれてるのを眺めてたら、自分がここに何をしに来たのか忘れてた。
「リクルートなんて、着る必要なかったんだぜ?」
「え? マジ?」
「身分証は、持って来たか? ブッチとかされた時に探すため、皆から貰ってる」
「え? あ、うん……はい」
あたしは、取ったきり全然使ってない免許証を、バッグから出して渡す。それを当然のようにコピーしたイケメンは、平然と返して来た。
「あ、そうそう、俺はアキラだ。よろしくな、蓮華」
「え? うん、よろしく」
「んでな、頼みたい仕事ってのがな」
来たし。本題だよ。簡単な軽作業としか書かれてなかった奴だ……
「僕と契約して、魔法少女になってよ」
「は?」
魔法少女? バカじゃないの? てか、何その台詞、兄貴がめちゃくちゃハマってた奴じゃん! キモ!
「あれ? もしかして、蓮華……俺を見下したりしてる?」
「え……してないし」
「あのアニメのパクりとか思ったんだろ?」
「……兄貴が、兄貴がハマっててキモ過ぎで」
「俺もキモいって?」
席を立ち上がったアキラは椅子に座るあたしの横に立った。な、何する気!? 殴るの!?
「よく見ろよ、俺の顔。お前の兄貴と一緒か?」
ヤバ、キスされる!? そう思うほど近くにアキラが迫っていた。てか、マジ美形過ぎ。声も甘いし。
「一緒に見えたか?」
ひぃっ! 耳元で囁かれた。色々な意味でゾクゾクして、バクバクが止まらないんだけど。
「ちち、違うし」
「だろ? ちょっとしたおふざけだ。んで、本題だ」
ヤバ、てか普通の面接の方が疲れなくね? この人、めちゃくちゃ疲れるんだけど。
「俺と契約して、魔法少女になれ」
「は?」
言い方が変わっただけだし!
「てか、何、魔法少女って? コスプレ?」
「バカか、お前。魔法少女は、魔法少女に決まってるだろ」
「は? だって、魔法なんてなくね? それにあたし二十一歳なんだけど? 少女って恥ずいわ、せめて女子」
「ま、フツー信じねえよな。ちょっと待ってろ」
アキラは席を立つと、工場の奥から小さな何かを持って来た。
「何それ?」
「猫じゃらしだ」
「は?」
ピンク色の猫じゃらしを一本持っているアキラは、真面目なドヤ顔であたしに渡した。
「ねー、アキラ。聞いていい?」
「なんだよ?」
「これ、お金本当に貰えるの? あたし、もしかして騙されてる? ソープに沈められるの?」
ぷっと声を出したアキラは、大笑いし始めた。
「悪い悪い。金払う気マンマン過ぎて、疑われるなんて思ってなかったわ」
「マジで言ってんの?」
「マジだよ。とりま、その猫じゃらしで、鼻をくすぐってクシャミしてみろよ」
「は?」
「いいから」
「分かったけど——」
何この悪趣味なプレイ、マジヤバ過ぎじゃね? くすぐったくてすぐにクシャミが——
クシュン!
パァァァッ! という眩い光が一瞬であたしの視界を飲み込んだ。目を開けると、そこに映る自分の手に驚いた——
「……何この……着ぐるみ」
「な? 魔法少女だったろ?」
「てか、着ぐるみじゃん」
「違う違う、よく見てみろよ」
アキラは全身鏡を持って来て、あたしの前に置いた。
ヤバ、めっちゃ恥ず! 何このコスプレ!
ひどい姿にバビった。てか、いつの間にツインテ? しかも、猫耳付いてんだけど。は? 何この純白ミニスカナース服……引くわ。しかも白タイツとか。AV見過ぎかよ。
「センス終わってる、マジ……」
「あ? 俺の作品にケチ付けんのか、蓮華?」
「てか、何で手だけ着ぐるみ?」
「……肉球、可愛いだろ」
……は? それだけ?
「しかもナース服だし」
「お前、看護師だろ?」
「……元、だけど。採血が死ぬほど下手で心が折れた」
「あ~あるある。俺も注射が未だに苦手だわ」
「は? てか、理由それだけ?」
「別にお前のために作った訳じゃねえからな」
「ツンデレ? せめて、仮面とか欲しいんだけど」
「ダメだ、それじゃ盛り上がらねえ」
これ無理じゃね? こんなん遊里に見られたらマジ最悪だし。
「あのさ、やっぱ止めたいんだけど」
「は?」
さっきまでのにこやかな表情から一転して、アキラの顔が激怒に染まった。
「お前、舐めてんの? 変身まで見といて辞められると思ってんのか、ふざけんなよ?」
「え……で、でも、まだ業務時間前だし」
アキラは再びあたしの横に立つと、今度はあたしの顎を掴み、雑に引っ張った。
「バカだろ、お前? 高額バイトは闇バイトだって、先生に教わらなかったのか?」
「……」
何も言い返せなかった。危険かもしれないって分かってたじゃん。でも、お金が欲しかったのは、あたしだし……
「金はちゃんと払う。結果が出りゃボーナスも出してやる」
「……」
今度は優しく、アキラはあたしの頬に手を乗せた。
「お前じゃなきゃ、頼めねえんだ」
「……」
「一回でいいから、な?」
「……」
一回だけならいいんじゃね? お金も貰えるんだし……
「う、うん、一回だけなら」
「よし。なら、夜中の二時に駅前な」
そう言ってアキラは、電話を始めた。相手に時間と場所を伝えてるっぽい。てか、夜中じゃん、ヤバ。
「お前な、そのグローブの中に、指引っ掛けるところあんだろ? それ、引っ張ってみ?」
その言葉と同時にアキラは突然離れた。上に向けて引っ張ってみると——
ジャキン——
は? めっちゃデカい音と一緒に、マジ長い爪が出て来たんだけど。何これ、ヤバ。
「それがお前の武器な」
「武器?」
「ああ。モンハン知ってるよな?」
「え? ゲームの? 兄貴がハマってたわ」
「あれをやってもらう。リアルモンスター狩りだな」
「は?」
イミフなんだけど。
「時間の三十分前には来いよ。その分も時給出すから。ちなみに、元に戻るのもクシャミな」
「……うん」
あたしはソッコー猫じゃらしで鼻をくすぐってクシャミした。そしたら、本当にリクルートスーツにサイドポニー姿に戻ったんだけど、イミフ。
「んじゃ、帰っていいぜ」
マジ訳分かんない。ピンクの猫じゃらしをそのまま持たされたし。
ピコン。アキラからのメールが来た。
『言い忘れたことがあった。この事は絶対誰にも話すなよ。あと、猫じゃらし持ったままバックレたら、家族が大変なんじゃねえか?』
……ヤバ。マジ、あたしバカじゃね? だから、闇バイトだって言ってたんじゃん。
「はぁ~……」
マジ男運ないわ~、サイアク。めっちゃ好みの顔だったのに、中身ヤクザじゃん。
とりまやるしかなくね? まあ、一回だし?
家に着いたあたしは、服を脱ぎ捨て、下着だけでベッドに転がった。そんで、HourMeのアキラの会社のページをもう一度よく見た——
「……てか、分かるわけないじゃん、これ」
どこからどう見ても、時給が異常に高いフツーの求人過ぎでしょ。てか、時給異常じゃ~ん、気付いてよ、あたし……
「てか、何? リアルモンスター狩りって。あり得なくない? てか、ガチで変身できたからガチじゃん……」
もしかして、リアルってことは、負けたら死ぬとか? なくね? いやいや、さすがに死ぬはないっしょ。
ヤバ……めちゃくちゃ不安になってきたし。ソワソワしちゃう、どうしよ。
「サイアク……」
シャワーでも浴びて、気分転換するしかなくない?
浴びたところで、何も変わらなくって。まー音があると、少しだけ落ち着くって感じ。
「あたしのバカ……」
体を拭いて、そのまま裸でベッドにダイブした。バフン。いつもの感覚だけど、いつもの気持ちじゃない。
「あと5時間ちょっとじゃん……あれ? ごはん食べてなくね?」
あたしは慌ててEverEatsで、常連のタコライス屋にオーダーした。
ピンポーン。慌てて、カメラ付インターホンに、返事する——
「そこに置いていいです」
立ち去ったのを確認してから、玄関の外に出て、袋を回収して。中を開ける——
「久しぶり~アボカドちゃん♪」
大好きなアボカドタコライスが入ってて、テンションは上がりまくった。
そこから、METFLIXで連ドラを見て、手頃なところで切り上げた。
「着替えるか~ダル」
遅刻したら、アキラガチ切れしそーだから、怖いから時間は守っておこっと。
電車がないから歩く。そして、到着したあたしが見たのは、人の壁だった。
「何この人集り……」
あたしは、マジでビビってた。時間的に、こんな人がいるのはおかしいから。
「お、いたいた。蓮華、こっちだ」
その声の先では、手招きする、なんだか黒いスーツでぴっちりと決め込んだ、アキラの姿があった。
「てか、何これ?」
「あ? セキュリティスタッフだ。一般人巻き込まないためのな」
「……え?」
巻き込んだら大変だってこと? ヤバくね?
「あのさ、アキラ」
「何だ?」
あたしは、テントの中のブースで何やら支度している彼に、さり気なく尋ねた。
「……もし、負けたら死ぬ、わけないよね~?」
あたしの軽い質問を聞いたアキラは、作業しながら、煩そうに一言で答えた。
「死ぬから、勝てよ」
「……は、マジ?」
「お前が勝てば、俺も儲かるんだよ。だから、大枚叩いて負けねえように、猫耳ナースのカスタマイズを続けて来たんだ。イケる」
「……」
どこにイケる要素あんの? まだ死にたくないんだけど。
「ちなみに猫耳ナースは、速度特化型だ。速さは正義だ」
「……何、速度特化型って?」
「お前の感情を感じ取って、速度アップが起こる。気合入れとけよ」
意味分かんないんだけど。
「あと、変身中はいつでも俺と通信できる。一人じゃねえから安心しろ」
てか、結局、戦うのあたし一人じゃね?
「よし、準備は整ったぜ。ほら、お前はあそこに立てよ」
指さされた場所は、人の壁の向こうだった。
「もたもたしてねえで、変身しろよ。遅刻でも死ぬぞ?」
「……マジ」
何かもう、どうでもよくなったし。ヤケクソ。マジサイアク。猫じゃらしで、鼻をくすぐる。クシュン——
「……倒せばいいんでしょ」
小声で呟き、手の部分だけ着ぐるみな自分の手を見て、ため息が零れた。めっちゃ不幸のどん底じゃね?
前に進むと、変身したあたしを見た黒服たちが道を開ける。てか、T-1グランプリの入場みたいじゃね?
中に入ると、向こうにはあたしくらいの大きさのクマが立っていた。モンスターって言うから、もっとキモいのが来るのかと思ったし。
「めっちゃゆるキャラじゃん」
なんて、笑ったのも束の間、ゆるクマは走ってあたしに向かって来ていた。
「うは、やる気まんまんかよ」
あたしは横に飛び避けようとする——
「は?」
自分でも理解が追いつかない速さで、横に動いてた。ちょっと走ったつもりが、人の壁際まで来ちゃってるし。
ゆるクマは向こうの方で、あたしを見てた。また走って来てた。これ避けるとか余裕過ぎっしょ。
「……これ、チョロくね?」
あたしは手の中に包んでいた仕掛けを引っ張った。ジャキンと派手な音が響き、長い爪が出て来た。
「よし! やっちゃお!」
あたしは、大きく横に廻りながら徐々に距離を詰めて行き——
「よっと」
爪をゆるクマに突き刺した。上手く胸元に刺さってくれたから、これって心臓貫いた系じゃね?
ビクンとしたきり、動かなくなったゆるクマは、爪を抜くとどさりと倒れた。その周りがだんだんと真っ赤に染まっていった。
「音とか血、めっちゃリアルじゃね? キモ」
『よくやった、蓮華。まだ変身は解くなよ? 終わりだから、戻って来い』
頭の中に、アキラの声が響いた。何このテレパシー感、ヤバ。
テントに戻ったあたしは、言われて変身を解いた。そしたら、アキラにギュッと抱きしめられた。
「さすがは、俺が見込んだ女だ」
「……」
複雑な心境なんだけど。それにしても、いい香水付けてるな、アキラ……いい匂いじゃん。
「もう帰っていいぞ」
「え、あ、うん」
何が何だか訳分からなくて、あたしはしばらくぼーっとうちに向かって歩いてた。
「あ……」
お金のこと、聞き忘れたし。しかも——
「これ……どうしよ」
左手に持ったままのピンクの猫じゃらしを思い出したんだけど。これ、返さないと絶対ヤバイやつじゃね?
とりまメールで聞いてみよ——
ピコン。相変わらず返信早っ!
『そのまま持ってろ。次もある。金はHourMeにすでに振り込んだ、確認しとけよ』
すぐにアプリを開く——
「うっは。てか、十万って」
二時間もいなかったのに、予想より多いんだけど、ヤバ過ぎじゃね?
「……次? 一回だけじゃね? アキラが言ったんじゃん」
でも、こんなチョロい仕事で十万だし、あと一回くらいなら……
次って、メールで仕事が来るのかな? またHourMeかな?
うちに着いた頃には、四時だった。とりま寝よ……
翌日の昼過ぎに目を覚ましたあたしは、HourMeをすぐ開く。残高は、口座に引き出したからゼロになってた。
あと、二十万でクレカ払えるし。二回、我慢すれば……
ピコン。アキラからのメールだった。
『ちゃんと払っただろ? 明日またHourMeで仕事出すから登録しろよ』
ヤバ、また十万円、稼げちゃうんだけど。あたしは、メールを打ち返した。オッケー、っと。
翌日は、二度目ということもあって、あっさりとゾウのゆるキャラを倒した。時間は、前回より短かったのに――
「チョロ過ぎて、ヤバいんだけど……」
三十万円がアプリの残高に表示されていた。あたしは当然、興奮しまくり。アキラに、自分から次の仕事があったら言って欲しいというメール送っているほどだし。
闇バイトって、何か法に触れることしているイメージだったけど、今のところ、何も悪いことしてないし、実は大丈夫なんじゃね?
三回、四回と回を重ねるごとにあたしは、このスピード感にも慣れ、上手く戦えるようになっていた。
入金額も目玉が飛び出るかと思うほどの金額になっちゃって、五回目には――
「……ひゃ、百万、マジか、はは」
お金が余る生活が始まっていた。ヤバ、めっちゃリッチなんだけど。などと浮かれてはいたけど……
貧乏性はなかなか抜けず、ナックでセットバーガーを食べていた。
「ねー、あなた、猫耳ナースでしょ?」
ハッとして、慌てて振り返った。そこには、高校生くらいの若い子が微笑んでいた。
「……な、何それ?」
あたしは精一杯とぼけたんだけど、彼女はあたしの耳元に口を近づけた。
「ひっ」
思わずのけぞった。何この子、マジイミフ!?
「……私も魔法少女なの」
その一言は強烈だった。一気に興味が湧いたし。
「……マジで」
「良かったらSNS、連絡先交換しない?」
「え、うん」
「また、夜にでも連絡するね~」
彼女は手をひらひらとさせると、ゴミを片付けて姿を消した。てか、待って。魔法少女、他にもいるの!?
やっと頭が追い付いた頃には、彼女はいないし。ま、いっか。夜の連絡で聞こうっと。今夜は狩りがあるけど深夜だから平気っしょ。
その夜、あの子から連絡が入った。
『猫耳ナースのスピードってどんな感じなの? めっちゃ速いよね?』
どんな感じってムズ。
『ビュンって感じ?』
『何度見ても、目が追いつかないんだよね~』
『何かオーナーが、勝つたびにカスタムってるらしいよ』
『そーなんだー、うちのオーナーセンスないんだよね~ラクダとか』
『いや、猫耳ナースとかセンスなさ過ぎでしょ』
他愛もないやり取りが続き、あたしは狩りの支度し始めていた。
『これから、私はバトルなんだ~』
『マジ? あたしは狩り、ダルいけど金が良すぎて辞められないわ』
『あ、そっか。まだ初心者モードなんだ……お互い頑張ろうね』
『初心者モード?』
『気にしないで、当たらないことを祈ってる』
何を言ってるんだろ? あたしは不思議に思ったけど、遅刻しても殺されちゃうし。急いで家を出なきゃ!
会場では相変わらず物々しい空気が流れ、ガードマンの群れが何かを隠していた。
「今日もサクッと頼むぞ、蓮華」
アキラの言葉に、あたしは当然という思いで頷き、変身した。そして、ガードマンの裂け目を堂々と歩く――
「ふーん、今日はあのキリンみたいなのね、チョロそー」
あたしは、軽くステップを踏んで準備体操した。そして、開始の合図と同時に懐に入り込み、胸元に爪を突き立てた。
溢れ出る血飛沫が口に入り、あたしはすかさず吐き捨てた。
「ごち」
何となく、前回から倒したゆるキャラにお礼を言うようになっていた。ま、死んでるから聞こえないんだろうけど。
嬉しそうに迎えてくれたアキラは、見えるところの血だけは綺麗に拭いてくれた。服も変えを用意してくれてるあたり、やるじゃん。
「……おつかれ、蓮華。また頼むわ」
「はいはーい」
あたしはタクシーの中で、あの子に連絡を入れた。
『早く終わったんだけど、そっちはどー?』
終わってないみたいで、既読にならなかった。ま、いっか。
翌朝を迎えた。まだ既読にならないけど、まー初日でミュートとか割とフツーだし、気にすることなくね?
などと、今日もEverEatsで昼飯タイム。なんて浮かれてたら、SNSが鳴った。あの子かな?
『お前、僕と別れてから魔法少女してたんだね』
うは、マジサイアクのサイアク。無理、死ぬ。
なんで、遊里が知ってるわけ!?
『何言ってんの? アニメ見過ぎじゃね? てか、そんなの元カノに言ってくんじゃねーし』
あたしは、とりま否定した。
『猫耳ナース、ランキング38位だね。おめでとう』
ランキング? 38位? 何言ってんの、こいつ?
『マジイミフなんだけど』
次の返信には、URLが添付されていた。それを開くと——
あたしだ。違う、猫耳ナースだ。それと相手は——
「……え? 待って。え? 魔法少女!?」
違う。最後の倒すシーンが違うんだけど。てか、え? あたしが倒してたのって魔法少女? あの血って、ガチの――
あたしはトイレに駆け込んだ。さっき食べたものが全て吐き出される――
「……あれは、血の味……おぇぇぇっ!」
昨日の返り血を思い出したら、嘔吐が止まらなかった。涙が溢れて来た。
相手が魔法少女だったら、あたしはすでに6人殺してるじゃん。マジ、死刑確定案件だし。
涙を拭いて、すぐさまアキラにメールを入れた。
ピコン。
『改まって何だ? オフィスにいるから勝手に来い』
オフィスに向かう道中、あたしはない頭で考えていた。ヤバいこと、しまくりじゃん……闇バイトだったし、何やってんの、あたし、マジで——
「お前、馬鹿なのか?」
オフィスに着いて、問い詰める私を、アキラはその一言でいなした。
「闇バイトだって言ったじゃねーか? 悪いことしてるに決まってんだろ」
「で、でも、詐欺とかならまだしも——」
「んなこと知らねーよ……辞めたきゃ辞めてもいいぜ? 但し——」
パソコンに向かっていて、背を向けたままのアキラがやっと振り向いた。
「お前はもう六人殺してる。大量殺人犯だ」
「……」
「捕まりゃ無期懲、下手すりゃ死刑だぜ」
「……」
誰か、助けて。言葉にすらならない。
「……魔法少女してる限りは、組織が絶対守ってくれるから、捕まることはない」
「……」
「要は勝ち続けてれば、捕まらねーし、賞金がっぽがっぽなんだから、続けるしかねーんだよ」
捕まりたくない。でも、死にたくもないよ。私は涙が溢れた。
「……泣いても何も変わらねーぞ。お前が初めての猫耳ナースじゃねーし、これまでにも泣いて逃げたがった奴はいたんだ」
「ひっく、その子たち、グス、どーなったの?」
何となく分かってるんだけど……
「皆、戦うこと選んで、負けて死んだわ。けどな、そいつらのおかげで、今の猫耳ナースがあるんだ」
やっぱね。マジサイアク。自分の馬鹿さにウンザリ。ないわー、マジ。
「今の猫耳ナースなら、ランキング一位も夢じゃねー! そーすりゃ、金持ちどもから大枚ふんだくれんだぜ? さらに強くなれる!」
やって地獄、やらなくて地獄……あたし、前世で悪いことでもした訳?
「蓮華、どうせ後戻りはできないんだ。やってやろーぜ? な?」
あたしは全てを諦めた。そして、開き直ることにした。だって、死にたくないし、捕まりたくないし……
「さすが蓮華だ、分かってるな」
黙って頷いたあたしの頭をわしゃわしゃとアキラは撫でた。
そこからは、めっちゃ単純だった。いつ死ぬか分からないし、好きなもの買って、好きなもの食べて――
「……やっぱ、魔法少女だよね~。はぁ……マジ無理」
この日の対戦では、相手がゆるキャラじゃなくなってた。メガネかけたボブの若い子が蜘蛛? みたいなコス着てるんだけど。
『蓮華、奴の糸には気をつけろよ』
スパイダーメンかよ。開始の合図があった。今までのパターンで、あたしは突進した。
「……かはっ」
口から血を吐いたメガネ子の胸には、あたしが突き刺した爪があった。滴り落ちる血――
「……」
ビクンとすると、頭を垂れたメガネ子の姿を見て、言葉にならない葛藤が胸を掻きむしった。
でも、殺らなきゃ殺られるんだし。仕方なくね?
「やったじゃねーか! 初心者モードオフの人殺しが出来りゃ、一人前だぜ」
「……嬉しくないんだけど」
「喜べよ。大半はここで相手を殺せなくて死ぬんだからな」
「……」
猫じゃらしで鼻をこすりクシャミをして、変身が解けると、アキラが新しい服を渡した。
「……お? 運がいいぞ、蓮華! お前、前回の戦いでランキング急上昇だわ、17位だってよ」
「……てか、何なの、それ?」
あたしの問いにアキラはざっと答えた。ITubeのチャンネルで魔法少女大戦というのがあって、最近めちゃバズってるらしい。
そこでは、殺しのシーンはもちろん、残虐な描写はポップなものに編集されて流されていた。
それを見た一般ユーザーが、推しに票を入れることでランキングになるそうだった。これを遊里が見たんだ……
「てか、それなら、殺し合いする必要なくない?」
「馬鹿だな、貧乏人はおまけだ。本命は人殺しし合うお前らのどっちが勝つかにベットしてる超富裕層だ」
「……やっぱ金持ちってサイアクじゃん」
「馬鹿、お前分かってねーな、くくく。今回のギャラ、五百万だぞ?」
「へ?」
あたしは耳を疑った。だって、五百万って確か日本の平均年収以上じゃね?
なんか、年収で彼氏決める先輩が耳にタコができるくらい言ってたから、間違いないはず――
「へ? じゃねーよ、もう振り込んだから確認しとけ。あとな――」
あたしはすぐにHourMeの画面を開いた。マジヤバくない? 何買えるし。
「ここからは、アプリは通さない直接雇用だ。契約書なんてねーけど、裏切ったりもしねー。お前が勝ち続けてりゃな」
「……勝ち続けるって、あたしに出来るの?」
「できる!」
断言するアキラの顔は、本気だった。あたし好みのイケメンなのもあってか、信じたいと思っちゃった。
それから、あたしの意図した殺人生活は始まった。一人、また一人と、死なないためとは言え、殺し続けた。
戦い以外は、ひたすらストレスは吐くように買い物し、外食した。エステもキャッシュ一括で通った。通帳残高も億を超えた。
でも、正直……メンタルはガタガタだった。しかも、誰にも愚痴れない。だから――
「蓮華、よくやったなぁ! 約束通り、ランキング5位到達祝いだ! 好きなだけ飲んで食え、俺の奢りだ! カンパーイ!」
飲みまくった。それで酔った。酔った勢いで――
「おい、蓮華?」
アキラをあたしは押し倒した。無理やり唇を重ね、舌を絡める――
「アキラ、ヤろうよ」
「……分かったよ」
あたしの誘いにアキラは応え、この日、初めて一夜を共にした。
それから、あたしはストレスのはけ口のように、アキラと寝ることを繰り返すようになっていた……
「蓮華、こいつに勝てりゃ――」
「一位……」
正直、嬉しかった。あたしは生まれてから何も一位を取ったことはなかった。人殺しなのかもしれない。でも、勝てば――
「……やったじゃん、あたし」
瞬殺だった。それはそーじゃね? 使ってるあたしもびっくりするレベルで、アキラが速度全振りのカスタマイズしてるんだし。
ぶっちゃけ、この頃には殺しにも慣れていた。そんなことより、速度のコントロールへの不安の方が大きかった。
だけど、殺したあとの血を見ると――
「アキラッ! アッ!」
アキラが欲しくなった。全てを忘れるように激しく過ごした。
それから、あたしは死なずに一位を保持し続けた。
億ションを買って、貧乏な頃には想像もしていなかった優雅な暮らしも手に入れた。
だけど、そんなあたしを変えたのが――
「……妊娠、してる」
生理が来なかったので、検査薬をネットで買って使ったところ、陽性だった。
しばらくはアキラに話すべきか迷いながら、戦っていたんだけど――
「ウオェェェッ!」
つわりが始まったのか、体は不調になって、心も不安で仕方なかった。お腹も少し目立つようになったし。
その不調は、魔法少女としても現れていた。動きが遅くなり、コントロールし切れなくなっていた。
「蓮華……お前、体調不良か?」
「……」
ブースに戻るなりそう聞かれ、答えに戸惑った。すると、アキラはまさかの言葉を口にした。
「妊娠したのか」
「な、何で?」
「いつからか、お前、抱かれに来なくなったろ? おかしいと思ってたんだ。んで、その下腹見りゃ分かんだろ」
あたしは、お腹を見た。ここに、赤ちゃんがいるんだ。
「堕ろせよ」
「え?」
「迷惑だ、堕ろせ」
そーだよ、迷惑じゃん。でも、赤ちゃん、もういるんだよ……
あたしは、エコーで姿も見ちゃったんだよ。鼓動も聞いちゃったんだよ。
「……嫌だ」
「馬鹿か? 俺は知らねーぞ?」
「大丈夫、アキラには迷惑かけない。あたし一人で育てるから」
「その前に、腹ボテなんかが勝てるほど甘くねーんだよ! 堕ろせ」
「無理だし」
あたしの頑な意思に諦めたのか、アキラは片付けを再開した。
「勝手にしろ」
そう告げられて、別れてからは、アキラの態度が妙に素っ気なくなっていた。マジ、妊娠分かった途端避けるとか、クズ過ぎじゃね?
それから、何戦目だったかな? あたしの前には、黄色に黒の斑点が入った猫耳の子が立った。
「……猫耳ナース対策で最近開発された同じ速度特化の魔法少女だ、気をつけろ」
速さなら負けない。あたしはそう思っていた。だって、一位だし。
合図と共に、いつものように走り込んで、手を振り上げた――
「噓っ!?」
初めて避けられた。めちゃくちゃ焦った。辺りを見渡すと、さっきまであたしがいた場所にいた。
「……同じこと狙ってたってこと? 笑えるじゃん」
あたしの耳には鼓動がアラームみたいに鳴り響いた。死ぬかもという恐怖が、体中を駆け巡った――
消えたっ!?
慌ててあたしも動こうとした。だけど、お腹が重くて、最初の一歩が踏み出せなかった。てか、目の前にいるし!? 痛――
~fin




