異世界転生救済課─「ちくわをこの異世界から排除する……」おでん鍋の決戦
◆施覆花◆
俺は施覆花。異世界転生救済課九鬼班所属のイケてるお兄さんや。
俺はこの仕事をはじめてから今まで色んな異世界を渡り歩き、そしてその異世界を創造した人たちを救出してきた。
勇者になって冒険する人
悪役令嬢に転生して人生を謳歌する人
モテモテハーレムを構築する人
ひたすらダンジョンを探検する人
魔法の世界でスローライフを楽しむ人
戦国時代の有名武将になって歴史を変える人……
人が望んだ数だけ異世界は存在する。そして、それはどれも割と似たり寄ったりしとるんやけど……
今、俺の目の前におる奴は違った。コイツは……
“ちくわ”やった。
異世界転生できるアプリを使って、ちくわに転生しとるんや。
堂々とおでん鍋に漬かり、鍋の淵に広げた両腕を掛け、まるで風呂にでも入っているかのようや。
意味がわからん……こんなん初めてのケースやで。
「ようこそ、ちくわの世界へ」
鍋の中で、こんにゃく、卵、はんぺん、大根、牛スジをはべらせるその姿は、どこぞの聖帝のようやった。ツッコミどころ満載なんやが、何処から手をつけてええのか、関西生まれの俺ですら困惑しとる。
「えぇ〜っと、お名前は伊藤タケヒコさん? ですよね? 俺は異世界転生した人間を、現実世界に連れ戻す仕事をしとる施覆花っちゅーもんです。……気になってしゃーないから聞きますけど、なんでちくわに転生したんですか?」
ちくわはアゴ(たぶん)に手を当てて、ふむと唸ると天井を見上げて答えた。
「可能性の追求……かな」
……
……さっぱり意味わからん。
「ごめんやけど、言ってる意味が……」
「君は!」
急に大声を出されて肩が跳ねた。なんやねん!
「君は、私のこの体の穴は何のために空いているのだと思うかね?」
ちょっと高圧的な態度のちくわに、イラッとした。
「えぇっと……棒に魚のすり身巻いて焼くからでしょ?」
沈黙が流れた。え? ちゃうんか? 湯気の上がる鍋の中で、卵や大根が俺を見てふふふと笑っとる。なんやコイツらの態度は、俺は間違えたんか?
「施覆花くん……と言ったね……」
ごくり……
「正解だ」
「正解なんかい! なんで溜めたんや!」
「素晴らしい。君に、ちくわマイスターの称号を授けよう」
「いらんわそんなもん!」
「君は素質がある。私の元で、ちくわの穴の可能性について探究しようではないか」
「ホンマ意味わからんわ、てか、穴の可能性なんて、きゅうりかチーズでも入れとったらええやん」
ちくわは再び黙った。なんやねん、いちいち!
「凡庸な答えだ……そこは、梅とかマッシュしたポテトとか言って欲しかった」
もう、言葉を発して突っ込む気も失せた。初めてのケースやったから、正直なところちょっとだけワクワクした自分に腹立ったわ。コイツは無理矢理にでも現実に連れて帰ろう……
「もうええて、アンタをこの異世界から排除する……」
そう言うて、ポケットの中から帰還装置を取り出そうとした時、気づいた。なんやこれ! 俺の体が!?
ちくわになっとるッ!?
「なんでや!? なにが起こった!?」
「ふふふ、かかったね。施覆花君。これは私のチート能力“ちくわファクトリー”だ。私がちくわにしたい対象に、ちくわに関する質問を出して、素直に答えた者をちくわに変える能力だ」
「なんやそれ! なんでそんなことをするんや!?」
俺は完全に一本のちくわに姿を変えられとる。身動きでけへん!
「言ったでしょ? 可能性だと」
ちくわは立ち上がり、鍋の具材達に指示を出した。
「さぁお前たち! ちくわになった施覆花君の体に、きゅうりをぶち込んでやるのです!」
「アホぬかせ! やめろや!」
こんにゃくとはんぺんが、おでん鍋から飛び出した。手には拍子木切りにされた棒状のきゅうりを持っている。
「やめぇや! コッチ来んな!」
「さぁ、施覆花君、キミはどっちの穴からきゅうりを入れて欲しいんだい? 上の穴かい? 下の穴かい?」
「絶妙な下ネタやめろ! どっちも嫌や!」
こんにゃくが俺に覆い被さった。つるつるで重い!
「はんぺんよ、まずは上の穴からだ……やれ!」
ちくわの命令ではんぺんがきゅうりをゆっくり近づけてくる。俺は体が逆さまになっている事に気づいた!
「ちょっ! ちょい待って! そっちは……そっちはぁーーー!!」
「したのあなやあぁぁぁぁーーーー!!」
ガバッ!!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
目に映るのは見慣れた部屋、下町の商店街の一角を間借りした九鬼班のオフィスやった。窓には夕陽が差している。
俺はソファーで寝とったんや……
体中に不快な汗をかいとる。ベタベタや……なんや、夢やったんかい……ふと目の前のソファーに座っとる可愛い後輩、千代草と目が合った。
え? 涙目で顔が真っ赤や…… なんで?
「お、お、施覆花さんのセクハラ大将軍!! エッチ馬鹿変態! そんな事言う人だと思わなかったーー!!」
千代ちゃんはダッシュでオフィスから出て行った。
なんでやねん!
「施覆花、お前って奴は……どんな夢を見てたんだよ」
少し離れた所で、相棒の鉄線は、呆れた顔しとる。それよか、なんか匂う……
「なぁ、鉄線、これ、なんの匂いや?」
「お、気づいたか食いしん坊め」
振り返ると、俺の憧れ、美人女上司の班長、九鬼さんが湯気の立ち上がる鍋を持って現れた……
え゛? 鍋?
「く、く、九鬼さん? なんで鍋持ってはんの?」
顔がピクピク痙攣する。
「ああ、スーパーでちくわの特売をやっていてな、思わず大量に買ってしまった。だから今晩はおでんだ! ちくわオンリーの!」
「ちくわオンリーの!?」
「さあ! 召し上がれ!」
九鬼さんは鍋をテーブルの上にドンと置いた。ちくわ達がくつくつと煮たつ出汁に漬かっとる。ヤツらの穴は、まるで俺を見つめとるようや。
「あ、いや、俺は起き抜けやから遠慮しときます」
ソファーからゆっくり立ち上がり、逃げてやろうとしたが、後ろから鉄線に羽交い締めにされた。
「施覆花! お前の大好きな九鬼さんが作ったおでんだぞ! 食えッ!」
「おい、離せアホ! これのどこがおでんやねん! ちくわ鍋やんけ!」
「いいぞ、鉄線! 押さえてろ」
九鬼さんが箸でちくわを掬い、ぷるぷるさせながら俺の口元へ運ぶ。
嬉しいけど……
めっちゃ嬉しいシチュエーションなんやけど……
今は違う! 色々違う! 絶対違ぁーーう!
「ほら、施覆花……あ〜ん♡」
九鬼さんのカワイイ笑顔に釣られて、思わず口を開けてしもうた……あ〜……
「熱ッぅーー!!」
俺のリアクション芸から出た悲鳴は、夕暮れの下町中に響いてしもうたやろうな……
おしまい
最後まで読んで頂き、ありがとうございました♪
もう気づきましたね? そうです。この作品は昨今のちくわブームに便乗した悪ふざけ小説でした。
……すいませんでした!!
私の小説、異世界転生救済課の本編はシリーズ物として纏めてあります。興味があれば是非、読んでみてください。
おやまみかげさん、えぜるさん、ありがとうございました。




