いつまでも君は君のまま
さて、今回は2万文字でございます!
『』のカッコは、電話のアレです!
それでは、どうぞっ!
ルカ「はい、どうぞー!」
春は桜が舞い、夏は太陽が照りつけ、秋は紅葉が舞い、冬は銀世界というもう一つの世界が広がる・・・。
そんな四季がある素晴らしい世界・・・。
そして、季節は春。
出会いと別れの季節である・・・。
そして、春のある日・・・一人の少女が桜の舞い散る道をゆったりと歩いていた。
もう分かるだろうが、今回はこの少女が主人公である。
少女の服装は制服で、まだあまり着慣れていない様子で、一年生であることが分かる。
そして、桜並木が生えている先には、高等学校(この先から高校)がある。
その高校の名前は「桑田市立北高等学校」だ。
桜並木の道を歩きながら少女は、胸の鼓動を必死におさえていた。
楽しみと、少々の不安があるのだろう。
それは誰にでもあることである。
ちなみに、この高校は偏差値は割と普通な方で、競争率が高いことで有名な高校なのである。
そして、少女が桜の花びらが散っている空を見上げているときだった・・・。
「いてっ!ちゃんと前見て歩けよ・・・いてて・・・」
突然の出来事だった。
男子生徒にぶつかってしまったのだ。
入学早々、これで不良にからまれない事を願いながら少女は言った。
「あうっ、ごめんなさ・・・あれぇー、湊じゃんっ・・・どうしたのー?」
「なんだ・・・楓か、そりゃぁぶつかるよな・・・」
「そりゃぁぶつかるとはなんだーっ!湊めー!」
急にぶつかったのは、海神湊だった。
彼と楓は、中学時代の頃から仲が良かったらしく、たまたま同じ高校を志望したのだった。
ちなみに、少女の名前は如月楓である。
そして、楓は湊と分かるとホッとしたのか、湊の腕をポコポコと威力の低いパンチをしている。
湊も、痛い痛いなどとは言っているが、少し嬉しそうで笑っている。
そして、そんな事を繰り返しながら高校に着いた。
やっぱり入学式なので、生徒達はそわそわを隠せない様子だ。
そして、入学式や朝礼等によくある校長先生が終わった。
20分にわたる校長の挨拶だったので、生徒達はもうぐったりしている。
そんなぐったりした状況で、一人の先生の言葉でクラス発表にうつる。
楓と湊を含む全生徒が、一気に背筋を伸ばす。
そして、体育館のざわざわが大きくなる。
先生方が「静かに!」といっても、収集がつかない状況である。
そして、そんなこんなで入学式が終わる。
もっと詳しくかけないのは、作者の都合にしていただきたい。
~クラス~
「ふーん、また楓は同じクラスなのか・・・」
「またって何ー、こっちだって面倒なんだからさー・・・」
そう言って、楓は湊の頬をつねる。
湊は楓の思うがままに、頬を引っ張られている。
そして湊は、楓の頭をぐぐーっと押す。
この後、先生に注意されたのは言うまでも無いだろう。
「えー、以上の説明で今日は終わります」
先生の言葉がクラスにひびく。
クラスから「よっしゃー!」等の歓声が沸いてくる。
今回のクラスは、特に悪いことも無いような感じなのでほっとした楓なのであった。
しかし、一つだけ問題?があった。
楓の後ろが、たまたま湊だったのだ。
やっぱり、この二人がある程度問題児な気がする・・・。
少しだけ不安な先生なのであった。
「ふぁぁ・・・湊ー、暇だよー」
「暇とか言われても知らねーよ、あれなら俺の家にでも来るか?」
「マジでっ!?いいのーっ?」
「いいよ、別に・・・ほら、ついて来い」
湊は、あくびをしている楓にだるそうに言う。
楓はテンションがあがったのか、笑いながら湊の肩を手でたたく。
湊は痛かったのか、片方の手で楓の腕をおさえて、もう片方の手で肩をさすっている。
それでも楓は満面の笑みで笑っている。
少しだけかわいいなー、と思っていた湊なのであった。
「ほら、着いたぞ」
「わー、割と近いんだねー・・・学校からっ」
「そうだなー・・・中学は遠かったけどなー」
そんな会話をしながら、家に入っていく二人。
湊の家は、割と大きめな一軒家のようだ。
場所的にも、あまり住宅が密集していないみたいなので、騒いでてもあまり気にならないだろう。
楓は、広いなー・・・なんて事を思いながら玄関に入っていく。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
「んー、おかえりー・・・って、アレ?女の子?」
「どうもっ、如月楓ですっ」
「楓ちゃんかぁ、かわいい名前だねぇ・・・これからみな君のことは宜しくねー」
「ちょ!?えぇ!?」
「え、彼女さんじゃないの?」
「ちげーよ、友達だよ・・・と・も・だ・ち!」
「あら、そうなのー・・・ちょっと残念だなー」
「残念って何だ!」
いきなり出てきた女性は、湊と似ても似つかない様な可愛い女性である。
そして、楓より背が低くて童顔である。
女性というよりは、女の子!っていう感じの人である。
楓が詳しい話を聴取したところ、湊の姉である(一応)。
名前は「海神 音優」と言うらしい。
身長は145cmらしい。中学1年生位の平均身長と言っても、過言ではないだろう。
ちなみに、音優は高校3年生らしい。
見た目は子供なのだが、頭脳は一応ある程度あるそうだ。
ついでに、湊のことに関してもあまりかいていなかったので今更だが説明。
湊は身長175とふつーの感じである。
顔も多少いいような、ある程度普通の生徒である。
だから、特に変わったところも無い普通の生徒だといえる。
少しつまらないのはご愛嬌。
「なんか・・・姉っていうか、妹って感じの人だったねー」
「言うなっ!それは俺も思ってるから・・・」
あの嵐の後、二人は2階に上がった(というか湊が逃げた)のである。
ちなみに、上に行こうとしたときも音優に涙目で腕を引っ張られたという・・・。
「そういえば、楓はいつも笑ってるが・・・悩み事とかはあるのか?」
湊は、背伸びをしている楓に聞いてみる。
いきなりだったので、少し楓は唖然としている。
「へ・・・?いきなり何ー・・・?」
「いや、なんとなく・・・」
「無い・・・事も無いよ・・・っ?」
「もし、俺でいいなら話してくれるか?」
「うん・・・」
湊は、重い空気の中で楓に話しかける。
楓のいつもの明るい表情など、今の楓には無い。
少し・・・なんてところでは無いくらい重い空気だ。
そんな空気の中、楓が口を開けた。
「・・・湊に友達として、嫌われてないか・・・ってのが不安で・・・」
「大丈夫だ、俺は楓のこと嫌いじゃないし、これからも嫌うつもりは無い」
「ほんと・・・っ?」
「うん、本当」
「ありがとーっ!」
そう言って楓は、湊に抱きつく。
湊は静かに抱き返す。
こんな時間がずっと続けばいいのに・・・そんなことを思った二人だった。
「本当にありがとうっ、今日は帰るねっ」
「ん、じゃぁなー」
そう言って、楓は湊の家を後にする。
楓は、湊に抱きついた後、湊に抱きしめられた事に気づいていたのか、少し頬を赤らめている。
胸に手を当てて、私は胸の鼓動が高鳴っている事を確認した。
湊に相談していい、って言われたときはとても嬉しかったし、抱き返してくれたのもとても嬉しかった。
昔の自分ならきっと、こんな事になったら笑って湊を叩いていたりしたと思う。
でも、今の私は・・・ひょっとして・・・。
なんて、バカなことを考えてしまった私なのであった・・・。
「ただいまー」
「おかえり、今日の飯は机においてあるから」
「ん、分かったーありがと」
ちなみに、おかえりと私に言ってくれたのは透である。
透は私の弟で、私の話をしっかりと聞いてくれる、とってもいい弟だ。
そして、家事もこなしてくれる、いわばお母さんみたいなものだ。
どうでもいい情報ではあるが、得意料理は玉子焼きらしい。
大体いつも私から甘えているが、透が甘えてくることもある。
「楓ねぇは、今日入学式だったみたいだけど、何かいい事とかはあった?」
「そうだねー、湊と一緒のクラスになったよー」
「あー、海神さんとは仲いいもんね、楓ねぇはー」
「まぁねー、たまたま中学一緒になったからねー」
「楓ねぇは、海神さんに恋したりとかはしないのー?」
「・・・しなぃょぅ・・・」
「赤くなってるー、してるんだーっ」
お母さんみたいだけれど、どこか友達のような透。
弟っていう感じはあまりしてこない。
うぅ・・・透めー・・・なんてこと言うんだー・・・。
真っ赤になってしまうじゃないかー・・・。
私は、確かに湊の事は大好きだ、しかし・・・。
お母さん・・・いや、弟に言えるはずなんて勿論ない。
そんなことを思いながら、弟の作ってくれた美味しい玉子焼きを食べていた昼だった。
「今日ねー、湊に抱きついたら湊が抱き返してくれて・・・」
「あはは、楓ねぇのおノロケですかー」
「うぐぅ・・・そうですけど・・・」
「もう付き合っちゃえばいいのにぃー」
「うるさいー、そういう透も付き合えばいいんだよー。誰かと」
「僕には居ないからねー、せめて楓ねぇの恋だけでも応援したいのー」
とても嬉しい事を言ってくれる弟だ。
透は中2で、青春と思春期真っ盛りなのに。
これではまるで、私が子供で透が親で・・・ってかもとからそんなのか。
本当に無駄なことにまで、突っ込んでくれる親みたいなものだと思う。
まぁ、そんな所がいいんだけど。
透が弟で本当に良かったと思う。
・・・これじゃぁ、私が透に欲情しそうだよ。
「透ー、もう夕方だねー」
「そうだねー、楓ねぇが顔を真っ赤にして寝てから、6時間も経ったんだねー」
「な・・・っ、私寝てたんだ・・・」
透がくすっと笑って言った。
私は、今も顔は真っ赤にしている。
透の正面には、油の入ったなべが置いてある。
そして、トレイにパン粉のまぶしてある豚肉が机の上においてある。
豚肉の横には、切り刻んであるねぎが小皿に入れてある。
そして、机にはどんぶりが置いてある。
白飯に関しては、現在保温中のようだ。
「・・・今日の晩御飯は何・・・?」
「ふふふー、まだ秘密でーす」
「むー・・・できるまで待ちますよぅ・・・」
「素直でよろしい♪」
そして、透のそんな言葉を聞いてから30分経った。
また私は寝ていたと、透が言っていた。
私は、透の方を見ながら、湊の事を考えていた。
抱き返してくれたときは、本当に嬉しかったし、拒む気持ちも一つすらなかった。
中学生の私なら、蹴って殴ってだったろうに。
あ・・・、そんなこと考えたらまた、顔が赤くなるのに・・・。
「できたよー、あははー、また赤くなってるーっ」
「うるさいなぁ・・・さてさて、今日の夕飯は何かなー?」
「はい、たーんとお食べっ」
「えへへー、いただきまーす!」
そう言って、私は置いてあるお箸を手にした。
丼に入っているご飯の上には、かつがのっていた。
そして、カツの上には切り刻んであるネギがのっている。
さらに、全体を卵でとじてあった。
「・・・カツ丼ですね」
「楓ねぇが海神さんに、緊張等に打ち勝って本当の気持ちを伝えれるように・・・ね?」
「むぅ・・・何処までも恥ずかしい奴だなぁ・・・」
透は真っ赤な顔の私を笑っている。
私は、真っ赤な自分の顔を少しでも抑えるためにと、水を思いっきり飲み干した。
透はどんな言葉も、表情を変えず笑顔で言っている。
・・・本当に恥ずかしい奴だ。
「ごちそうさまー」
「ん、楓ねぇ・・・明日頑張ってね!」
「はいはい・・・」
~翌朝~
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。・・・僕も行かなきゃ」
そう言って、私はダッシュで今日の昼飯代を持っていった。
それに続いて、透は鍵を閉めて歩いていった。
とりあえず私は、ただただ走るだけだった。
何故かというと、遅刻しそうだからだ。
まぁ、きっと大丈夫だろう。
・・・たぶん。
~学校~
・・・息も切れきれだが、ぎりぎり間に合った。
教室に着いたときには、残り5分というタイムリミットから勝ち抜いた事がよく分かったのだが、その頃には目の前がもうろうとしていた。
いわば、目の前が真っ暗になりかけであると・・・そういう事である。
「・・・おはよ、楓」
「おはよ、みな・・・」
言葉の途中で、私の意識はシャットダウンして、私の視界はブラックアウトした・・・。
このとき、チャイムが鳴る3分前だったそうだ・・・。
保健室の先生いわく、湊が運んでくれたそうだ。
そして、湊は遅刻したそうだ。
・・・本当の本当にバカな奴だ・・・。
ま、そんなことを考えていたら寝てしまった私もバカだけど・・・。
「よっ、楓」
「んっ、湊・・・運んでくれてありがとうね」
「そんな朝の話を気にするな、もう昼だぞ?」
「へー・・・じゃぁ、今お弁当の昼休み・・・あっ!私お弁当買ってきてないよぅ・・・」
「どうせ、そんなことだろうと思った。ほら、食え」
そう言って、突然来た湊は、メロンパンを私の方に投げてくれた。
本当にバカだなー、なんでパンを投げるかな・・・。
ま、メロンパンはスキだからいいんだけど・・・。
「どうせだし、俺も此処で食ってくかな」
そんなことを湊は言って、私のベッドの上に座る。
個人的には、湊が食べかすをこぼさないかだけが心配だ。
「なぁ、楓ー」
「ん、何ー?」
「俺、お前が好きだ」
「ふぇ・・・?」
突然過ぎて、現実が全く受け止めれない。
メロンパンをはむはむと、食べていたら突然言われた。
数秒後、現実を受け止めることに私は成功したみたいで、首から耳まで赤くなる。
湊のバカ・・・また倒れそうだ。
「ま、嫌われ者の俺じゃ嫌だろうけどな」
「えへへ、私も湊のことが・・・スキだよ?」
「え?・・・ということは?」
「よろしくお願いします・・・」
「・・・おぅ」
そう返事をして、私が差し出した右手に、ポン、と湊は右手を置いた。
その時は珍しく、湊が少しだけ笑っていた。
普段全く笑わない湊が、少しだけ・・・ほんの少しだけれど笑っていた。
このときがずっと続けばよかったのに・・・そんなことを思った2人なのであった。
~此処から湊目線~
「ただいまー、今日はいい事が-」
「ん、後で聞くから病院にいってきなさい」
「はいはいー、いってきまーす」
むぅ・・・せっかく、珍しくいい知らせなのに。
補足の説明ではあるが、俺は持病の持ち主なので、1ヶ月に一回病院に通わなくてはならない。
それが、とても時間を割くので本当に嫌いだ。
特に異常もないので、もう通いたくないのだが・・・。
「残念なお知らせですが・・・」
「な、なんでしょうか?」
「今からはっきり言いますが、現実を受け止めてくださいね・・・?」
「はぁ・・・」
医師の真剣なまなざしに、俺も息をのむ。
この次の瞬間、史上最悪な言葉が告げられるなんて俺は知るはずも無かった。
「海神湊さんは、余命3ヶ月です」
「・・・そうですか、それでは・・・」
そう言って、俺は診察室を出た。
無論、きっちりと代金は出しておいた。
ショックだ・・・。
さっきまで嬉しかったのに、今はとてもショックだ・・・。
余命3ヶ月・・・。
「ただいまー」
「おかえり、今日はどうだったのー?いい事があったんでしょ?」
ねーさんが、俺に近づいて聞いてくる。
こんなねーさんを見れるのも、残り3ヶ月・・・なんだな・・・。
「・・・いいニュースと悪いニュースがあるけど・・・どちらから聞く・・・?」
「勿論、いいニュースからに決まってるじゃん!」
いつでも、明るく元気に振舞ってくれるねーさん。
本当に明るくて元気だなぁ・・・
「楓に告白したら、彼女になってくれた」
「はうっ!ついに、みな君も彼女さんが出来たんだね!」
ねーさんは、そのことがよっぽど嬉しいみたいで、目をキラキラ輝かせてる。
あんなことを告げたら・・・きっと、きっと・・・。
「悪いニュースは・・・ごめん、いえない・・・」
「ちゃんとねーさんに聞かせなさい!」
「・・・ごめん、しばらく時間をちょうだい・・・」
俺はねーさんにそう言って、水を一杯飲んだ。
それでも、やっぱり・・・言えない・・・今の俺には言える気がしない・・・。
でも、言わないといけない。
言わないとダメだ、言わないと・・・。
そんなことを考えると、涙があふれてくる・・・。
・・・伝えにくいが、涙がこれ以上あふれないようにするために、早く言ってしまおう・・・。
「・・・俺の余命が、後3ヶ月なんだって・・・」
「え・・・っ?そんなの、みな君の冗談に決まってるよね、絶対に冗談だよね!」
「もう、今日はエイプリルフールじゃないのにぃー・・・ねーさんをからかわないの!」
「・・・あの、真剣に余命3ヶ月なんですが・・・」
「嘘だ嘘だー!」
ねーちゃんは、笑って明るく振舞っている。
・・・俺には、多少無理しているようにも見える。
こんなの、つくっている雰囲気だと思う・・・。
いつものねーさんとは全然違うもの・・・。
そんな中、家の電話の子機の着信音が鳴った。
「あははー、ちょっとねーさんが出てくるね」
「・・・どうぞ」
「もしもしー、あー病院の方ですか?あー、はい・・・やだなー、山中さんまでグルなんですかー?」
「・・・分かってますよー、そんな冗談ー。はいー、さようならー」
「みな君はすごいねぇ、病院の医師さんまでグルにしちゃうなんてねー。本当に・・・すごい・・・ねぇー・・・」
そんな事を笑いながら言っていたのだが、最後の方には、少し震えていた。
ねーさんの目には少しだけ、涙が見えたのであった・・・。
このままでは、本当に信じているかまったく分からないので、俺はとどめをさすことにした。
ねーさんにまで現実から逃げてもらいたくないし、少しでも一緒に居てほしいから・・・。
・・・多少、というよりほぼ自分の欲望だけど・・・。
「ほら、検査結果ももらったから・・・」
「・・・はは、みな君・・・嘘じゃないんだね・・・本当に余命3ヶ月なんだね・・・」
「・・・うん、後3ヶ月しか生きれない・・・」
「・・・いつものだるそうなみな君を、私は後3ヶ月しか見れないんだね・・・」
ねーさんはそんなことを言いながら、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
もう立てていなかった。全身の力が抜けたかのように、座り込んでしまっていた。
・・・そんなねーさんを見てたら、俺も自然と泣いていた・・・。
俺は悲しいから泣いてるわけじゃない、悔しいから泣いている・・・。
楓と恋人同士になれたのに、たった3ヶ月しか愛することが出来ないから。
好きなことも、3ヶ月しか出来ないから。
とっても、明るくていつも笑っている、音優ねーさんを見ることができるのも、後3ヶ月だから。
この世界に生存できるのは、後3ヶ月だから。
こんなに、素晴らしくて、美しくて、大好きで優しい人が居る世界にいれるのは、後3ヶ月だけだから。
・・・涙がまたあふれてきた・・・。
「・・・いままで、ありがとうな。ねーさん」
「・・・みな君らしくない言葉だねー、全然似合ってないよっ・・・」
「でもね、いつも言ってくれなかったから本当は嬉しいんだよ・・・人として、ねーさんとして」
そんなことを言って、ねーさんは俺に抱きついてきた。
俺のお腹のあたりがびしょびしょになったのは、言うまでも無い。
・・・そんなに、俺のことで泣いてくれてんだな・・・ねーさん。
こんなに、無愛想に接してきた俺なのに・・・。
こんなにも俺のこと思っててくれたんだな・・・。
そんなことをつくづく思う時間だった。
「・・・楓ちゃんにも、知らせなきゃね・・・」
「・・・うん」
蚊の鳴くような声で、音優の言葉にうなずく。
そして、楓の家に電話をかける。
「もしもし、如月です」
「お・・・男だとっ!?ま、まさかあいつ・・・」
「・・・海神さんですね、僕は楓ねぇの弟です」
「・・・あ、弟さんですか・・・」
相手が応答するまえに少しだけ、ため息が聞こえた。
・・・でも、弟さんでよかった・・・。
「で、ご用件は?」
「・・・えと、なんでもないです・・・はい・・・」
「・・・まぁ、何かあるようなのですが詳しいことはお聞きしないことにしておきます」
「あ・・・ありがとうございます」
「それでは」
とても、いい人だし、楓の弟なんて全く思わないような冷静さだ。
・・・人のこといえないが。
しかし、面と向かって楓に告げれるような事実じゃない。
電話ならまだいける気がしたのだが、面と向かってだと・・・少々無理な気がしてくる・・・。
多分、楓もこんなことを望んでないだろうし、言ったら悲しむだろうし・・・。
楓の悲しんで泣く姿なんて、見たくもないし・・・。
・・・このまま黙っていよう。
そう心に誓った俺だった。
「楓ちゃんは、出なかったんだね。・・・みお君が伝えたくないなら、それでいいよ」
「・・・ありがとう、ねーさん」
「・・・ご飯、食べにいこっか・・・」
「いいの・・・?」
「うん、もうすぐみお君を見ることができなくなっちゃうんでしょ?・・・少しでも、ねーさんは思い出を作りたいからね」
「ほら、出かけるよっ」
「うんっ・・・分かったよ、ねーさん」
外食なんて、4歳の誕生日の時以来だ。
親が連れて行ってくれた。
・・・親はもう、居ないが。
これは、ねーさんと俺だけの初めての外食であり、初めての2人だけの思い出作りだろう。
最初で最後の2人だけの外食だと思う。
・・・そうだ、楓と思い出を作ろう。
少しでも、俺の生きた証を残しておこう。
少しでも、楓の脳に俺の存在を刻んでおこう。
3ヶ月の間に、楓とできるだけ一緒に居よう。
・・・少し強引で、急かもしれないけど。
~翌日~
・・・少し寿命が縮んだ。
まぁ、こんな事で一喜一憂しててもしかたないと思うけど。
「おはよう、ねーさん」
「・・・おはょぅ、みな君っ・・・」
音優は、湊の顔を見るなり泣きそうになっている。
ねーさん、まだ生きてます。なんて、突っ込みはできそうもないかな。
・・・そして、そんな顔を向けられるとこっちも泣きそうになるんですけど。
「まぁ、そんないきなり泣き顔見せなくてもいいですよ・・・?」
「・・・うん、ねーさん頑張ってみる・・・」
言った瞬間、涙目な音優だった。
・・・絶対無理そうなんですが、頑張ってください・・・。
まぁ、とりあえず家から出た俺なわけですが・・・。
・・・気まずいなぁ・・・。
まぁ、楓と会うわけなんですけどね・・・。うぅ・・・。
「あっ、やっほー湊ー」
「・・・ぁっ、おはよう楓」
(むぅ・・・なんか機嫌悪そうだなぁ・・・)
湊がいつもより沈んでいるのできになる楓。
・・・湊がこんなに沈んでるなんて珍しいなぁ。
何があったんだろ・・・?
でも、聞いちゃダメだよね・・・人として。
「・・・楓、今日は遅刻しなかったんだな」
「うん、今日は起きるの早かったからねー」
「そっか」
「・・・」
会話が全く続く様子の無い二人。
このまま湊の話題だと、何回も区切らなくてはならない気がしたので、楓が思いきって話題を振る。
「そういえば湊はさー、私の誕生日いつか知ってたっけ?」
「・・・そういえば、知らななぁ・・・いつなの?」
「7月10日!」
「へぇー、後3ヵ月後かー・・・プレゼントの資金ためないといけないなー」
「きっと、湊なら私の喜ぶものくれるって私信じてる!」
「そっか。それは、ありがとう」
そう言って、湊は楓の頭をなでる。
楓は嬉しそうに、湊のほうに寄り添う。
この後、二人はもう校門の前に居たっていう事に気づくのだった。
「いいなー、湊はー。あんなカワイイ姉さんと生活してるんだからなー」
「は?いきなり何?」
「だってさー、あんなロリさは反則だもんなー」
「そうか?アレ、そんなにカワイイか?」
いきなり話しかけてくる友達にびっくりする湊。
基本、学校ではそんなに楓とは遊んでいないようだ。
まー、聞いていれば分かると思うが、湊の姉の話のようだ。
「だってさー・・・やべ、先生来たッ!」
「最初から座っとけよな・・・」
湊は小声でつぶやく。
・・・こんな会話を交えれるのも後3ヶ月なのか・・・。
まぁ、正確には2ヶ月位かもしれないが・・・。
とりあえず、前向きに生きようかな。
~下校~
「湊ー、いきなりだけど、湊はさー何かなりたいものってある?」
「んー・・・そうだなー、輝く星になりたいなー」
「へー、湊にしてはロマンチックな答えが返ってきたー」
「な・・・っ!人に聞いておいて・・・ま、いいけど」
湊は必死に、獣になりそうな自分を抑えた。
少しでも、怒らないように、笑顔で居るために。
そんなことを考えながら。
「湊ー、最近変だよ?」
「は?大丈夫だ、特に変じゃない」
「そう・・・ならいいけど」
・・・やっぱり、自分が少し違うのかもしれない。
今の自分は、本当の気持ちを抑えるだけで必死だ。
何か・・・おかしい気も確かにする。
そうだ・・・。
俺は唐突に、ある事を思い出した。
「楓、どこか行きたいところとかあるか?」
「いきなりだね・・・。んー、じゃぁカラオケ!」
「ん、分かった」
そう言って湊は、財布の中身を確認して、音優に連絡を入れた。
楓は、横から笑顔で湊を見た。
湊は楓に、笑って返してくれた。
「・・・手、つなぐ・・・?」
「・・・うん」
楓が顔を真っ赤にして、湊の方に自分の手を出す。
湊はそれに応えて、楓の手をぎゅっと握る。
あったかい・・・。
それが、二人の初めて手をつないだときの感想だったそうだ。
「えへへ、あったかいね・・・」
「そ、そうだね・・・」
二人の頬の紅潮は一向におさまりそうに無い。
・・・湊のばかぁ、こんなにキツく握ったら私、耐えられないじゃんか・・・。
そんな事を考えながらも、嬉しかった楓であった。
湊は一つ思い出が出来たのが嬉しかったらしく、少し笑顔だった。
さすがにカラオケ屋の店員さんの前ではつないでいなかったけれど。
「ついたね・・・少し残念」
「残念なら帰りでも・・・いつでもつないであげるよ」
「むぅ・・・ありがと」
そう言って、楓は湊の頬にキスをする。
そのとたんに、湊の頬は一気に紅潮する。
今日はなんだか事態が急展開する日だな・・・。
そんな事を湊は思っていたのだった。
「・・・すごいね、湊は歌うまいんだね」
「ありがと」
カラオケルームの個室で、二人は少し恥ずかしそうにしていた。
なんて言えばいいのか分からないのだろう。
そんな時だった。
「さてと、椅子に座ろうかな・・・うわぁっ!?」
「きゃぁっ!」
湊が楓の方に転倒してしまったのだ。
楓は特に、何も無くて、とりあえず湊が一方的にこけてしまっただけだろう。
そして、近距離で二人の目があった。
赤く染まっている顔を二人は、どちらもまじまじと見ていた。
「キス・・・する?」
「・・・うん」
湊の一言に応じる楓。
そして、目をつむり二人の唇がどんどん近づいていく・・・。
もうすぐ、触れ合う所まで来ているのが分かる。
「失礼しまーす、お飲み物の方お持ちしましたー」
「はっ、はいっ!ありがとうございますっ!」
「それでは、失礼しましたー」
いい雰囲気だったのだが、若い女性の店員さんがどうやら邪魔してしまったようだ。
店員さんは、少し笑ってそのままこの部屋を去った。
店員さんが去った後に二人はもう一度顔を見合わせた。
二人とも、何故か笑ってしまった。
「ほら、そろそろ帰ろうかっ」
「うん、まさかもうこんな時間だと思わなかったし」
「・・・帰りも、手、つないでくれる・・・?」
「もちろんっ」
「えへへ・・・」
楓は湊の返事を聞いて、少しだけ笑顔になった。
ごめんね、楓。・・・こんなに楽しいのは後3ヶ月だけだよ。
そんな言葉は、口が裂けてもいえないと湊は悟った。
「・・・もう、暗いね」
「うん、そうだねぇ・・・」
帰りも手をつないでいる二人。
こんな毎日が続けばいいのに・・・。
二人はそんなことを思ったらしい。
「うぅ・・・寒いね・・・」
湊が寒いのは無理もない。
今は4月だし、まだ寒いのは確かだ。
「私ねー、簡単に暖かくする方法知ってるよー!」
「どうやるんだ?」
「こうやるのー、はーぐっ」
そう言って、楓は湊に後ろからぎゅっと抱きついた。
夜だし、あまり人の通らないとおりなので、誰にも気づかれる心配はないだろう。
・・・なんか、積極的だなー。楓。
そんなことを考えながら、その場に立っていた湊だった。
本当のことは最初から言う気も無いが、ますます言えなくなってしまった湊なのであった・・・。
どうせだし、しっかりと楓にも応えてあげよう。
「はうっ!」
「ほら、これで二人とも寒くないよ」
「えへへ・・・本当だー、ありがと」
そんな会話をまじえながら、ぎゅっと抱き合う二人だった・・・。
ちなみに、この後帰るのが遅くなりすぎて、音優に怒られて、楓は透に怒られたようだ。
楽しかったからいっか。
そんなことを思いながら、説教を受けていた二人なのであった。
・・・この日からかれこれ2ヶ月がたった。
言い方を変えれば、湊の余命宣告から約60日目という事だ。
次第に、日常生活で普通に対面してる音優に、悲しみと、落ち込みが感じられる。
・・・まぁ、多少涙目なんだけどね。
後、余命は約30日。
楓と会うことが出来るのは、後20日位だろう。
余命ということは、何かが差し掛かっているのだから。
きっと入院等のバリエーションがあるのだろう。
・・・なんか、そんな事を思うと切なくなってきた。
これ以上語るのはやめておこう・・・。
ちなみに、あの日からの楓と湊はずっとあんな調子で進歩は無かった。
進歩と言っても、デートの場所が変わっただけである。
カラオケからファミレス、ファミレスから街をブラリと歩いたり。
街をブラリと歩いているときは、よくコンビニに入ったりしていたようだ。
そして、今日は珍しく楓の家で勉強会をしているようだ。
「う゛ー・・・わかんないぃー」
「だからって、いつまでも2Pで止まるなよ・・・」
机に顔を伏せている楓に、湊があきれた顔で言う。
湊はそこまで、勉強が嫌いなわけではなさそうだ。
楓はとっても苦手そうだが。
「もうムリだよぉ・・・」
「お前には科目を変えるという選択肢はないのか?」
「おー!じゃぁ、英語する!英語!」
楓に元気が戻ったようだ。
どうせまた、すぐにバテるんだろうなー・・・。
そんなことを考えながら湊は、国語の宿題をしていた。
まぁ、本当にバテていたのは言うまでも無い事実なのであった・・・。
「・・・やっぱダメだぁ・・・」
「楓ねぇは海神さんを見習いなよー。すみませんね、こんな姉でー」
「いや、別に全然平気ですので、えぇ」
湊は、透と少しだけ会話を交わす。
まるで、楓の母親とでも会話をしてるような気分になったそうだ。
楓は、顔を赤らめながら必死に英語をしていたんだとか。
「じゃぁ、僕はこれで・・・」
「はいー、ありがとうございましたー」
笑顔で透は楓の部屋を出て行く。
そんな透に、湊は笑って手を振っていた。
楓は照れ隠しなのか、机にかじりついて離れない。
そんな楓を見て、湊はくすっと笑う。
「これで、勉強のやる気・・・出るか?」
「ん、何・・・?・・・ねー、何なのー・・・」
湊は何かと気にしている楓の頬に、キスをする。
楓は突然の出来事にてんぱっている。
そして、やっと現実として受け止めれたようだ。
「やだー・・・口付けにしてくれないとやる気でない・・・もん」
「ん、じゃぁ・・・そうしようかな・・・」
紅潮している楓に、湊はゆっくりと自分の顔を近づける。
そして、息が触れる位近くに二人の顔が近づいた。
そして、口と口触れる直前・・・。
「忘れ物ー・・・ありゃりゃ、邪魔しちゃったかな?ごめんねー」
「ふぇ!?私と湊は何もしてないよ!?ただ、宿題をしてただけだよ!」
「・・・そう。まぁ、海神さんごゆっくりしていって下さいね」
「はぁ・・・。お言葉ですが、自分もそろそろ・・・帰りますので・・・」
「ばいばい湊ー」
「さようならー」
楓と湊の顔は、いつまでも少し朱色をしていたそうな。
透は二人を見て、クスクスといつまでも笑っていた。
楓はそれに気づき、透に弱めのパンチを一発だけくらわせる。
「透のばかー」とか、お決まりの台詞を言ってたらしい。
・・・もう少しタイミングが良かったら楓とキスが出来たのかな・・・。
そんな事を帰り道に考えて、湊はまた頬を一段と赤らめた。
何バカなこと考えてんだろ、俺。
「ただいまー」
「おかえりー、何か発展はあったの?」
「特に・・・。なんで、帰っからいきなり聞くんだよ」
「だって、もうすぐ会えなくなるんだもん・・・」
「!・・・ご、ごめん」
「こっちこそ、ごめんね・・・」
そんな会話を交わしていたら、音優が泣き出したのは言うまでも無い。
「ごめんね、ごめんね」って言って、自分の部屋に泣きながら走っていった。
・・・なんか、こちらこそごめんなさい。
「ねーさん、お風呂入ってもいいかな?」
「ぐすっ・・・いいよっ・・・」
まだ泣いていたんだね、ねーさん・・・。
そんな事を思いながら、風呂場に向かう。
そして、髪と体を洗い、風呂に入る。
何故か風呂に入ると考え事をしてしまうのは、きっと俺だけじゃないだろう。
現に今、考え事をしている俺だし。
そうか、もうすぐ楓とは二度と会えなくなるんだ。
ねーさんにも、透君にも、友達にも・・・。
皆と2度と会うことも出来なくなるし、会話をすることも出来ない。
もっと、一緒居たかった。
もっともっと、生きたかった。
ずっと、皆と一緒に居たかった。
まだ誰にも話していない。
自分が少し臆病だと、そんな気がしてきた。
・・・上せてしまった。
後に俺は、ねーさんに救出されたのだとか。
「ぁ・・・おはよう」
「みな君、まだ夜だよ。のぼせてたから寝てたけど・・・」
「ん、じゃぁ本当に寝なきゃな・・・」
「おやすみー」
「おやすみ」
そう言って、湊は少しフラフラしながら自分の部屋に戻ろうとする。
音優は、後ろからじーっと、湊を見つめている。
・・・なぜだろう、すごい視線を感じる。
冷や汗をかきながら、自分の部屋に入る湊なのであった。
・・・余命、か。
まだ、生きてるんだな・・・俺。
胸に手を当てて、湊は心臓の鼓動を感じているのだった。
それから、さらに2週間が経った。
余命宣告から、74日目。
16日後に俺は死ぬ。
2週間と2日だ。
あの2週間も、楓と楽しく過ごした。
いつもと同じ事をしていても、俺は楓と一緒に居て、とても楽しかった。
「みな君、朝食ー」
「はいー、いただきまーす・・・」
「みな君!?」
朝食のトーストを食べようとしたときに、湊がいきなり倒れた。
音優はあわてて救急車を呼ぶ。
きっと貧血ではないだろうから。
多分、湊の持病だろう。
遂に悪化してしまったのだろう。
もう音優には、泣くこと位しかできなくなってしまった。
「・・・な君!みな君!」
「ねーさん、此処は・・・?」
「病室。みな君がいきなり倒れたからね、悪いけどみな君の残りの人生は全部病室生活だね・・・」
「・・・そっか、仕方ないよな。ねーさんはいてくれるんだよな?」
「ねーさんは、みな君の最後までずっと一緒に居るよ」
音優は湊に、精一杯の笑顔を向けた。
・・・あれ?目から水が・・・。
ねーさんってこんなに俺思いだったんだな。
なんか、見直した・・・。
今まで知らなかっただけなんだな。
・・・なんで、こんな最後に近い日にこういうのって気づくんだろう・・・。
「はいー、妹さんは学校に行こうねー」
「にゃ!?は、はなしてよ!」
看護婦さんに連れて行かれる音優。
それは姉です。なんて、口が裂けても言えないな・・・。
「・・・はぁ」
ヒマだ。
何もすることが出来ない。
病室の気持ちよさは認めるが、ヒマさだけは認めたくない・・・。
何かすることはないだろうか・・・。
俺はあたりを見回した。
俺のベッドの横に、ペンと消しゴムが置いてあった。
引き出しがあったので、あけてのぞいてみた。
中には、横軸の入った紙2枚と茶封筒が入っていた。
多分、前の時入院していた人のものだろう。
ペンは大きく分けると3種類あって、ボールペンとシャーペンと色ペンだ。
色ペンは、赤、青、黄、オレンジ、緑の色があった。
これで何か出来ることといったら、お絵かき位だろう・・・。
・・・美術の成績が悪い俺には向いてなさそうだ。
そこで俺は久しぶりに頭をフル回転させた。
そうだ、手紙を書こう。
見つかるのは死んだ後だろうが、楓宛てに手紙を書いて封筒に入れておこう。
少しだけ、工夫をして書いてみるかな・・・。
・・・そうだ、アレをしよう。
一枚はメモ用に使おう。
・・・本当はねーさんにも書きたいけど、紙が後一枚無いからね・・・。
ごめんなさい、ねーさん。
期限は15日。
普段、提出期限を守らない俺だが、今回は守ろうと本気で思った。
一日省いているのは、きっと弱り果てているだろうからである。
さぁ、今から俺の人生の中で一番一生懸命に頑張るぞ!
・・・ま、後約2週間だけだが。
俺の脳内に、楓と過ごした時の映像が浮かぶ。
「念のために、もう一回言っておくね。7月10日が、私の誕生日だよ!」
それはね、俺の命日でもあるんだよ・・・。
もっともっと楽しい誕生日会でもしてあげたかったよ・・・。
・・・もっと生きたかったな、この素晴らしい世界に。
ねーさんと一緒に居たかったな。
楓と・・・ずっと一緒に居たかったな。
キスもしてみたかったな。
・・・未練ばっかりだなー。
もっと色々しておけばよかった・・・うぅ・・・。
まぁ、今更そんなことを考えてもなににもならないかな。
・・・はぁ、こんなに早く死にたくない。
でも仕方ないよな。
きっと、これが俺の人生だったからな。
そんな俺に、3行ほど手紙を書いた所で睡魔が襲ってきた。
俺は寝る前に、紙やらペンを引き出しにしまった。
・・・ムリ、もう意識が・・・。
そのまま俺は、睡魔に襲われ寝てしまった。
午後2時・・・よく考えてみたらこの時間は、授業で寝ている時間だ。
・・・だからなのか。
「みな君!飲み物買ってきたよー!」
「ん、ありがと・・・」
「みな君ったら寝てるんだもん。もう夕方の5時だし」
「もうそんな時間なんだ・・・。ちょっと寝すぎたな・・・」
「寝顔は、可愛かったよ」
「ちょっ・・・ねーさん!」
「あははっ、いいじゃん初めてじゃないんだし」
この言い合いの時に、看護士に注意されたのは言うまでも無い。
頬を赤らめながら、湊は音優の買ってきたお茶を飲んでいる。
何故か、自分の好きなお茶だったのに少しびっくりしてしまった。
姉だから知っているのだろうか・・・。
少しそんなことを考えていた湊だった。
「・・・何、俺の方じっと見つめて?」
「こんなに身近な人がもうすぐ見れなくなるんだなー・・・って」
「まだ2週間はあります!」
「そうだね、後2週間はあるよね・・・。なのに私・・・なんで涙が止まらないんだろう・・・」
「ねーさん、泣いちゃダメだよ?」
湊は音優の頭に手を置いて、優しく音優をなでる。
音優はずっと下を向いて泣いている。
小学生がお菓子でも盗られて泣いているような感じだ。
子供を慰める親の気持ちが、今なら少し分かるような気がする・・・。
優しい笑顔を湊は音優に向けながら、心ではそんなことを思っていた・・・。
それから俺は、病院食を食べた。
意外と美味しかった、なんてのは口に出さない方がいいかもしれない。
「むにゃ・・・ねーさんは、寝ててもいいかな・・・?」
「寝るなら、待合室で寝てください」
「え!?いいんですかっ?」
「はぁ、別にかまいませんが・・・」
「じゃぁ、待合室で寝ます!おやすみなさい!」
午後8時なのに、すごいテンションだ・・・。
そんなに嬉しいのか、それ。
看護婦も、忙しいそうにどこかへ行った。
・・・さて、都合のいいことにスタンドライトも置いてあるじゃないか。
これなら夜でも手紙がかける・・・。
そんなことを考えながら、手紙を書く作業にうつる。
BGMは病院の中で流れているオルゴールの音だ。
多分、クラシックか何かの曲なのだろう。
ゆったりとした曲だ・・・。
そんなことを考えながら、手紙を書く作業に戻る。
なんか、自分の字に納得いかないので最初から書き直す。
内容の方は、メモの方に写してあるので、それを写せばいいだけだ。
できるだけ綺麗に、丁寧に・・・。
それを心がけていたら、1行書いただけで夜が明けていた。
あ、後14日ですね・・・。
・・・どんだけ、ペース遅いんですか・・・俺。
その後、引き出しに全部直して、電気を消して寝たようだ。
~5日後~
結局同じような生活が続いている。
このペースでは間に合わないことに気付いた。
少しずつペースをあげていかねば・・・。
後9日・・・。
それが、俺の寿命。
7月9日。
それが、手紙の提出日。
少しだけ、だるくなってきている。
そろそろ衰弱してきたのだろうか・・・。
タイムリミットが迫ってきている。
俺の全てを終わらせるまで。
もうすぐなんだな・・・。
ねーさんは、部活で忙しいんだとか。
・・・とりあえず、俺もこれから手紙を書くことに専念するか・・・。
~楓~
湊が居ない・・・。
此処最近、ずっとだ。
あんなに元気だったのに・・・。
何かあったのだろうか?
帰り道もずっと一人・・・。
このままでは、とても悲しいだけだ。
早く帰ってきてくれないだろうか・・・。
このときの楓は、まだ湊とずっとあえなくなるなんて知らなかった・・・。
入院してることも知らなかった・・・。
ただただ毎日願うだけ・・・。
そのまま願うだけ・・・。
何も出来ないよりは、何かしたほうがいいだろう。
そんなことを思いながら。
湊が無事に帰ってくることを願いながら・・・。
~6日後~
やっと手紙を書き終えた・・・。
俺の体力と、精神はもうボロボロだ。
最近は、何事もだるくなってきてしまった・・・。
食欲は無いし、ほとんど動くこともできない。
そのため、点滴をしている。
今日は7月3日。
時刻は、午後7時20分。
ねーさんは食堂に行って、食事をしている。
看護婦さん達は忙しいのか、診察室等に小走りで行っている。
俺は、書き終えた手紙を封筒の中に入れて、その封筒をペンと消しゴムと一緒に引き出しに入れる。
・・・俺は、しっかりと手紙を提出できるのだろうか?
引き出しの中に入れた封筒なんて、発掘されるのだろうか?
そんな事を考えながら、布団をかぶって俺は寝てしまった。
・・・この日から9日まで俺はずっと寝ていたそうだ。
手紙の疲労が今になってきたのだろうか?
その間はまだ、脈はあったそうなので、俺は生きてたみたいだ。
ただ寝ていただけだったそうだ。
「・・・此処は?」
俺は知らない場所に居た。
真っ暗で、俺以外には誰も居ない。
「・・・誰もいない」
少し心細くなってきた・・・。
俺は、とりあえず横などを見てみる。
一枚の写真が、俺のポケットの中に入っていた。
・・・楓の写真だ。
楓の写真を見た瞬間、俺の目に涙があふれてきた。
ずっと一緒に居たかった・・・。
もっと楓の顔を見たかった・・・。
もう会えない・・・もう二度と会えない・・・。
そんな事を思い、泣いていた・・・。
その時だった・・・。
「やっほー、湊」
「か・・・楓?」
楓が俺の横に居た。
さっきまで、居なかったはずなのに・・・。
でも、そんな疑問より、楓が居ることがとても嬉しかった。
もう会えないはずなのに、此処で会えたことがとっても嬉しかった。
俺は、泣かずにはいられなかった。
「どうしたのー、湊?」
「嬉しいんだ・・・楓と会えて・・・」
「ありがと」と言って、楓は満面の笑みで湊を見つめる。
湊は耐え切れずに、楓に抱きついて、声を出して泣いている。
楓は湊の頭を優しく撫でている。
何事も受け止めてくれるような優しい顔で湊を見ていた。
湊はずっと楓の胸で泣いていた。
「顔をあげてよ、湊」
その言葉に応えることすら出来なかった。
楓の頼みなのに・・・。
こんな顔はあげれないに決まっている。
こんなに情けない顔を見せることはできなかった・・・。
「・・・だめかな。謝らなくてもいいんだよ、湊」
「ありがと・・・」
楓がこんなにも優しかっただろうか・・・?
そんなことを考えていたら病室が視界に入っていた。
・・・今までのは夢だったんだな。
少し残念。
「みな君、もうすぐお別れだね・・・いままでありがと」
「それはこっちの台詞だよ、ねーさん」
音優が泣きながら湊に言った。
湊は少し笑って、その言葉に応える。
今日は、7月9日。
時刻は、午後4時。
音優は部活動を休んで、こっちに来てくれたそうだ。
本当に最後まで一緒だと思う。
この人とはこのままで居たい。
・・・贅沢な欲求かもしれないが、俺はそう思った。
「みな君、窓から光が差し込んでるよ」
「きれいだね、もう見れないなんて悲しすぎるよね・・・」
音優は湊を撫でながら、窓の方を向いていた。
音優の顔には、日差しでキラリと光った水の粒が見えた・・・。
そっか、もう死ぬのか。
そりゃぁそうだろうな。
腕は3ヶ月前と比べたら、大分細くなっているし、これだけだるいのは一度も経験したことがない。
「みな君、本当に居なくなっちゃうの?」
「俺も信じたくないけど、そうだね。もうすぐ、死んじゃうよ」
音優が湊に尋ねる。
窓の日差しもだんだんと、オレンジ色の光になっている。
だんだんと寿命が無くなっている。
人間っていうのは、どうにもならなくなると、少しだけ笑えてくる。
今の俺は、多分少し笑っているだろう。
ひきつっているかもしれないが、笑っているだろう。
最後くらいは、ねーさんに笑顔を向けよう。
ねーさんが色々してくれても、めったに笑わなかった俺だから。
最後だけは、笑っておこう。
どうにもならないし、笑ってるほうがいいだろうし。
「ねーさん、今までありがとう。本当に、ありがとう」
「こっちこそ、ねーさんの弟として生まれてきてくれてありがとう」
「俺、悪いけどもう寝るよ。おやすみ、もう会えなくなるの寂しいけど、運命だよね」
「みな君・・・ばいばいっ・・・」
「楓が来たら引き出しの中に封筒があるから、悪いけど渡しておいて・・・。俺からの、最後の願いです」
「分かった。みな君の頼みだもんね。しっかりと、楓ちゃんに連絡して渡しておくね・・・」
「ありがとう、おやすみ」
湊は最後の笑みで、音優にお別れを言った。
きっと楓にも、言っていたのだろう。
でも、楓は居なかった。
そんなのは、どうでもいい。
個人的には、お別れを言えたつもりだから。
さようなら、ねーさん。
さようなら、楓。
今までずっと、楽しかったです。
当たり前のように生きてることが、実は奇跡だなんて、気づかなかったよ。
今になってやっと気づいた。
・・・ちょっと、おそすぎたかな?
もう疲れたよ。
ごめんね、俺はもう居なくなります。
さようなら。
7月10日 午前3時30分32秒
海神 湊 死去
その言葉を、音優は医者から聞いた。
音優は、湊の死体に顔をふせて泣いていた。
午前6時。
ようやく、音優は正気を取り戻した。
そして、湊の言葉を思い出した。
封筒を楓に渡しておいて・・・という願い。
辛いが湊の最後の願いだ。
絶対にやぶるわけにはいかない!
その一心で、如月家に電話をかける。
『もしもし、楓ですが・・・』
「楓ちゃん、朝早くからごめんね・・・」
『・・・ぁー、音優さんですか・・・ご用件は?』
「あのね・・・みな君が死んじゃった・・・」
『・・・何処の病院ですか?』
「えと、学校に一番近い病院」
『分かりました、今すぐ行きます』
「ありがとう、じゃぁね」
後は封筒を渡すだけだ・・・。
落ち着け私・・・。
みな君の最後の願いなんだ。
やぶるわけにはいかないんだっ!
絶対に成功させるんだ!
「すみません、楓ですが・・・」
「みな君の亡骸ならあっちだよ、私も一緒についていくね」
楓は目を真っ赤にしている。
頬は凄く濡れている。
・・・みな君の恋人だもんね。
こうなるのは仕方ないよね・・・。
「本当だ・・・湊が、死んでる・・・」
「これ、みな君から渡してって言われたんだよ。だから、渡しておくね」
「・・・あけていいですか?」
「いいよ、開けて・・・私も気になるし」
無邪気に少しだけ笑う音優。
楓は、涙をぬぐいながら封筒を開封した。
そこには楓宛の一枚の手紙が同封されていた。
湊が私に・・・?
あれ、また涙が・・・。
とりあえず、泣き崩れる前に読んでおこう。
楓へ
かなしいね、この手紙を読んでるって事はもう俺・・・死んでるもんね
えいえんに大好きで居たかったのにね・・・残念
でも、これが運命だから仕方ないよね・・・もっと一緒に居たかったよ・・・
おれは、このまま海神 湊として生きていきたかったよ・・・
めいっぱい生きたかったよ・・・本当に残念
で?って感じかもしれないけどね、あはは
とっても、おれはラッキーだったと思うんだ
うん、楓みたいな優しくてカワイイ人が恋人だったし、ねーさんも優しかったし
いつものことが、もうできなくなるなんて・・・本当に信じたくないよ・・・
なにも変わらない生活を、楓はおくっていってね
くるしいことはきっとなにも無いから、大丈夫だよ
なにも無かったかのように、おれのことは記憶から消しちゃってください
っても、バカな楓には少し無理があるかな・・・?
ていうか、そもそもなにも忘れることもできないんじゃないかな?
ごめん、言い過ぎたよ・・・きっと楓ならできます
めちゃくちゃ頑張ってでもいいので、おれのことなんて忘れてください
んーとね、何で忘れてほしいかというと・・・新しい恋を見つけてほしいからです
ねたっきりになっているおれは忘れて、新しい恋をしてほしいんです
だってさ、本当に可愛いんだもん、楓
いろいろな所にもっと行きたかったし・・・もちろん、楓とだよ
すごく、残念で・・・もうなんで死んじゃったのかな・・・おれ
きっと、おれには楓はもったいなかったんだね・・・だから、こうなったのかな
だってさ、そうじゃなかったらおれはまだ生きてると思うし
よりによってこのタイミング・・・楓は悪くないけどねっ、まぁ、とりあえず
いつもどおりに生活していたら、きっと素敵な出会いがあると思います
まだまだ、おれとは違って楓は希望があるからね
まだまだこれからだからね、楓の恋は
でーととかも、一杯お相手の人にしてあげてください
あめの日も、雪の日も、しっかりと支えてあげてください
りょうりのレパートリーなんかも増やして、相手の方を驚かせたりしてあげてください
がっくりするような手紙でごめんね・・・
とっても、魅力的な楓に言う言葉が見つからなかったんだよね・・・
うーんとね、おれの願いはどうでもいいかもだけど、きっと新しい相手を見つけてね
PS
こんなよく分からないメッセージでごめんね・・・
でもね、新しい恋を見つけてね
おれのことなんて、とっとと忘れちゃってね
大好きだったけど、今はもうとどかないかな・・・
死んでごめんね、本当にごめん
最後に・・・
本文を縦から読んでみてください
それがおれの思いです
それでは
さようなら
こういう文面だった・・・。
やばい、涙がぼろぼろ出てきた・・・。
「湊・・・ありがとう」
「さ、みな君の手紙通り、いつもどおり暮らそう・・・ね?」
「はい・・・ありがとうございます」
こうして、私は音優さんと別れて、学校へ走って向かった。
湊のことは教室の朝礼で先生が話していた。
私だけ、声を出して泣いてたんだって・・・。
この日から私は、普通に生活したよ。
告白だってされたりしたよ。
だけど、断った。
湊のことがずっと忘れられないから・・・。
たまに街にいるカップルを見かけると、少し涙が出てくるんだ・・・。
湊と一緒に、よく歩いてたもん。
本当に、君がいてくれた時、私は楽しかったよ。
湊のことを、私は今でも愛してるよ。
もう届かないかもしれないけど、私は夜空につぶやいた。
「ねぇ、湊。湊の夢は一番星になることだったよね・・・」
「きっと、一番星になって私を見守ってくれるよね・・・?」
「叶わない恋だとしても、私はずっと湊のことが大好きだよっ」
夜空に浮かんだ星の一つが、その言葉に反応したかのように、キラリと光った。
その日で一番、その星が光ってたんだって。
楓は、その星を見てクスッと笑う。
きっと今も、両方の気持ちは変わらないのだろう。
湊、君はいつまでも君のままだね。
私も、いつまでも私のままだろうけどね。
湊、私たちいつでも会えるね。
星の綺麗な夜なら、晴れている夜空なら・・・。
その思いを受け止めてくれたのか、流れ星が2つ流れた。
楓は、そっと願い事をする。
今のこの恋を、ずっと続けれますように。
生まれ変わったときに、また恋人として会えますように・・・。
THE END
いやはや、やっとこさ書いた小説ですね…。
正直、すっごい辛かったです。
…今後も、こういうのを書きたいですね。