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色〜父を通して見える僕

八日目の夜、音が止まった。


翌朝、父がリビングでノートパソコンを開いていた。


膝の上にレスポールを置いたまま、求人サイトの画面をスクロールしていた。


スクロールが止まった。父は弦の上に親指を置いた。


一度だけ、小さく鳴った。その音が、昨日までの夜より軽かった。


母は台所で朝食の準備をしながら、一度だけ父の方を見た。


何も言わなかった。でも見た。


その週末、直樹が部屋で絵を描いていると、階下から父に呼ばれた。


リビングに降りると、父がレスポールを膝に置いて座っていた。


「座れ」と言った。




直樹はローテーブルを挟んで向かいに座った。


父はレスポールのボディを手のひらで叩いた。


乾いた音がした。


直樹の背中が少し固くなった。


「進路、どうするつもりだ」


「わからない」と直樹は言った。


「美大は考えてないのか」


「美大には行きたくない」


父は表情を変えなかった。「どうしてだ」


「教わった途端に、自分の線が消えそうで」


父は弦を一音鳴らした。


アンプを通さない、剥き出しの小さな音だった。


レスポールの腹を軽く叩いた。


「受けろ」と言った。


直樹の視線が上がった。「聞いてた?」


「あぁ」と父は言った。「潰れるなら、どこ行っても潰れる」


少し間があった。


「腹立つくらい上手いのがいる。見とけ」


直樹は答えなかった。




「父さんは」と直樹は言った。「後悔してる? 音楽」


父はすぐに答えなかった。弦の上に親指を置いて、離した。


「ずっと、やり残した気がしてた」


もう一度、腹を叩いた。


「でも違った。好きに鳴らしたかっただけだ」


「会社にいたら、たぶん一生わからなかった」


直樹は何も言わなかった。


父はそれきり、ノートパソコンを開いた。求人サイトの画面が光った。




直樹は立ち上がりながら、レスポールを見た。


黒いボディに、窓からの光が細く反射していた。


部屋に戻って、机の上のスケッチブックを開いた。


鉛筆を持った。


線を一本引いた。


消しゴムに触れなかった。


指先が熱かった。

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