十二時の光
なつめです。
夜の十二時という時間には、どこか特別な響きがあります。
一日の終わりであり、始まりでもある境界線。
その一瞬を越えるだけで、世界は少しだけ姿を変える。
もしも、その境界線を越えられない少女がいたら。
もしも、毎日「存在する時間」に限りがあったとしたら。
この物語は、そんな問いから生まれました。
消えてしまう運命は、本当に変えられないのでしょうか。
誰かと手を取り合うことで、未来は少しでも書き換えられるのでしょうか。
ルナの物語が、読んでくださるあなたにとって、
「自分の中にある小さな光」を思い出すきっかけになれば嬉しいです。
どうか、十二時の鐘が鳴るその瞬間まで、
彼女の物語にお付き合いください。
街灯の黄色い光が、夜の舗道に長い影を落としていた。
ルナは小さな手袋をぎゅっと握りしめ、本屋の前で立ち止まる。
時計の針は11時58分を指していた。
「あと二分…」
息をひそめ、そっと店内を覗き込む。店の奥で店員が棚を整理している。
毎晩、この瞬間になると、心臓が少し早くなる。
12時を過ぎれば、ルナはまた、ふわりと空気に溶けて消えてしまうのだ。
夜風が通り抜け、ルナの髪がそっと揺れる。
まるで自分の存在が霧に溶けていくような感覚が胸に広がる。
けれど今夜は違った。
ルナは決めていた──12時になっても、自分は消えない方法を見つける、と。
深呼吸して、ルナは静かに歩き出す。
街の灯りがぼんやり揺れ、影の中から小さな光が瞬く。
その光に手を伸ばすと、世界はほんの少しだけ、彼女の味方になったように感じた。
公園の砂場の端で、小さな猫が丸まって震えているのを見つける。
「もうすぐ12時…でも、ほっとけない」
そっと膝をつき、猫に手を伸ばす。
毛先に触れた瞬間、かすかな光が猫の背中を包み、暖かさが伝わる。
猫は安心したように小さく鳴き、ルナの手の中で丸まった。
時計の針が11時59分50秒。残り十秒。
ルナは目を閉じ、世界の中心に手をかざす。
光が指先に集まり、街の空気が微かに震える。
そして12時。
街の鐘が鳴った瞬間、ルナは消えなかった。
夜の空に淡い光の輪が広がり、彼女の存在をそっと包み込む。
「できた…これが私の力…」
数日後、ルナは古い日記を見つける。
ページには淡くかすれた文字でこう書かれていた。
『十二時の呪いは、時の欠片に縛られし者の運命なり。欠片は愛する者との絆によって解かれる』
「愛する者の絆…?」
ルナは首をかしげた。まだ見ぬ答えに心がざわつく。
その夜、公園で親友のカナに告げる。
「私、12時になると消えちゃうんだ。でも消えない方法を探してる」
カナは真剣な眼差しで言った。
「じゃあ、一緒に探そうよ。私たちの絆なら、絶対に乗り越えられるよ」
二人の絆の力で、ルナは12時を越え続けるための試練に挑むことになった。
風に巻き上げられた影や、胸の中の恐怖の幻も、過去の勇気や小さな親切を思い出すことで打ち消すことができる。
そしてついに12時を越え、ルナは自由に存在できる力を手に入れた。
かつて恐怖の象徴だった鐘の音も、今は穏やかな時間の合図になった。
朝の光が街を柔らかく照らす。
ルナはカナと一緒に町を歩く。もう12時を怖がる必要はない。
落ち葉を掃いたり、迷子の猫を助けたり、小さな困りごとを解決しながら、ルナは町に小さな奇跡を紡いでいく。
夕暮れになると、二人は丘の上に座り、町の景色を見下ろす。
「もう、12時を怖がらなくていいんだね」カナがつぶやく。
「うん。でも、あの時間がくれた勇気や経験は、ずっと私の中にある」
ルナは空を見上げ、柔らかく微笑んだ。
光が街を包む。
かつて消えていた少女は、今では町と人々の小さな奇跡を紡ぐ存在になった。
そしてこれからも、ルナの日常は少しずつ魔法で満たされていくのだった。
『十二時の光』を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
ルナは「消える少女」として物語を始めました。
けれど最後には、「時間を越えて存在する少女」になりました。
この物語で描きたかったのは、
特別な魔法よりも、小さな勇気や誰かとの絆の力です。
大きな奇跡は、突然降ってくるものではなく、
日常の中の小さな一歩から始まるのかもしれません。
十二時は終わりではなく、新しい始まり。
もし今、あなたの中に不安や恐れがあったとしても、
きっとそれを越えられる光が、どこかにあるはずです。
ルナの物語はここで一度終わります。
けれど、彼女の日常はこれからも続いていきます。
そして、あなたの物語もまた――
今この瞬間から、静かに続いているのです。
2作目はただいま作成中ですので出来次第投稿致します




