4話 火種
サーシャが音の出所に近づくと、そこには二人の男と先の懐中魔導器の注血試験の際に倒れた女性候補生がいた。男達は彼女に対してしつこくナンパを繰り返しているが、女性候補生は男達の誘いの手を振りほどき、その場を脱しようとしていた。
「ちょっと〜辞めてよ。つれないなぁ。」
「そんなに僕達のこと避けなくていいじゃないですか。」
男達の目的は彼女を誘うことでもあるが、真の目的は彼女が持っている懐中魔導器の奪取である。懐中魔導器は超精密機器であり、軍が使用する小さなモデルは一般市場には基本流れていない。しかし男達のように魔導兵を襲うことで奪われた軍用モデルは愛好家の間で非常に高額で売買されているからだ。
「本当にやめてください!教官に報告しますよ!」
必死に抵抗する彼女に現状味方はおらず、このままでは彼女の懐中魔導器は男達に渡ってしまうでしょう。
しかしサーシャはそれを許さず、女性候補生救出のために動きました。男達に気付かれないように側の茂みに移動したサーシャは、魔導力が不安定でも比較的安全な霧魔法を選択し、不安な気持ちを押し込んで魔法を使う。
「カチッ…キーン」
その瞬間不安定な魔導力により通常とは異なる霧が展開された。その場の四人を容易に包み込む程の巨大な赤い濃霧が発生し、全員の視界を奪ったのだ。
サーシャは女性候補生の腕をグッと引いて、自身の感覚を頼りに霧の中を一直線に走った。霧から出たサーシャは男達が霧を突破する前に女性候補生を寮へ連れて行く。
「ありがとう。あなたの助けがなかったらどうなってたか…。想像しただけでも怖いわ。これは感謝の気持ちよ。売店で使えるから皆とお菓子とか買ってね。」
そう言って寮内の売店のクーポンを何枚かサーシャに渡した後、彼女は彼女の分隊員の所へ去っていった。
サーシャはクーポンをポケットへ入れて一連の流れを指導役に伝えた後少し遅れて食堂へ向かった。
「おーい!サーシャ!こっちだぞー!」
大声でサーシャを呼ぶのは夕飯のシュニッツェルを頬張るカールだった。
「カール君行儀悪いぞ〜。」
「そっ…そうですよ。いい子にしないと…ゼクレス教官がきますよ…。」
ヴォルフとパプストに注意されたカールはゼクレスの名前に怯えたのか、おとなしく席に座り、シュニッツェルを切り分けた。
「これあげたら許してくれるかな…?」
「ゼクレス教官は大食漢だからもっとあげないと見逃してくれないんじゃない?」
そう言ったサーシャが席に座った。
「わっ!びっくりさせるなよ!まぁ取り合えずこれでサーシャ隊は全員集まったな!」
「なにそのサーシャ隊って。恥ずかしいんだけど。」
「はぁ〜?俺のネーミングセンスをバカにするのか?」
「ちょっと…落ち着いて…。2人の仲がいいのは分かったから…。」
パプストがツッコミを入れると、それぞれは今日あった出来事について自慢や愚痴で賑やかに話し始めた。
そんな事を話しながら食事を進めたサーシャ達。食事も終わりそうになった時パプストが思い出したように話始めた。
「そっ…そうだ。僕…教官から褒めてもらった時ご褒美にクーポンをくれたんです…。だから…この後ばっ…売店でお菓子買いませんか…?」
その言葉で自身のポケットの中に入ったクーポンを思い出したサーシャも続けた。
「いいじゃん。自分もクーポン貰ったからいっぱいお菓子買いに行こう!」
「よぉ〜し!売店のお菓子はサーシャ隊のもんだ!」
サーシャ隊は売店のクーポンを使ってお菓子を大量に購入。そのお菓子を抱えて部屋に戻った彼らはお菓子を食べながら談笑をしてシャワーを済まして就寝の準備をした。
(明日は候補生も体力づくりに参加するので早めに起きたいな。)
サーシャは今日医療棟のお話好きの先生がくれた薬をしっかり忘れず飲み込み、ベッドに沈み込んだ。首元の痛みも、怒涛の出来事の連続だった今日も、少し遠のいていくように感じた。




