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魔導少女作戦開始  作者: 梅×コーヒー
魔導少女作戦準備
4/10

3話 懐中魔導器

「カチッ…カチカチッ…」


サーシャは採血を終えて、専用の懐中魔導器の調整の最中です。この調整が終われば魔導濃度の低下を抑えて首元からの過剰な出血を防ぐ魔導服を着て試験運用が開始される。彼は研究棟スタッフから試験用の魔導服を渡されて、それを着用した。この後は注血検査と呼ばれる懐中魔導器に血を流す作業となる。あくまで検査なので魔法として放出する事は無く、使用者の血に魔導回路が反応するかのテストである。魔導回路は反応すると音を鳴らしてから魔導回路が青く光るのだ。


「サーシャ候補生。調整が終わりましたよ。」


そう言ってサーシャに渡された懐中魔導器は懐中時計より少し大きく、特徴的な注血口が備えられていた。


「ありがとうございます。」


懐中魔導器を調整してくれた研究棟スタッフから懐中魔導器を受け取ると、それは予想以上に重く、サーシャはそれに驚いたような反応を見せた。


「良いですか?まず注血口を露出させます。そしたらば、試験教官が場所を詳しく教えてくれるのでそこに懐中魔導器をセットして下さい。最後に懐中魔導器をグッと押し込んで鎖骨下静脈から注血をするんです。」


研究棟スタッフは丁寧に懐中魔導器の使い方をサーシャに伝えた。サーシャもまたメモを取りつつ使う際のイメージをした。最後に研究棟スタッフが何度も使用して慣れたら今の訓練生用の二型ではなく高速注血が可能で高性能魔導回路を積んだ一型が渡されると追加で説明しました。


「ありがとうございます。」


そう言ってサーシャは試験教官に申請し、魔導器をセットする位置を詳しく教わり、注血訓練を開始した。


「注血始め!」


いざ本番の注血となると不安と恐怖がサーシャを襲った。しかしサーシャは「戦場では迷っていては殺されてしまう。」と意を決して懐中魔導器を押し込んだ。


「うっ…がっ…。あぁっ…。」


声を抑えようと歯を食いしばるも勝手に声が出てしまう。


(いってぇ…。)


突き刺した瞬間視界は白くぼやけた。痛みに耐える自身の声や懐中魔導器の駆動音は、自分が脈打つ音にかき消され、首元の痛みの感覚だけが残った。


魔導服のお陰で過剰に出血することは無いが痛みは消えない。もちろん、こんな事を魔導服に編み込まれた保護魔法なしで行えば懐中魔導器に許容量を超えた血液が流れて魔法が暴発する上に大量出血を引き起こしてしまうだろう。


だが一瞬で大量の血液を懐中魔導器に注がないとそれだけ魔法の行使に時間がかかってしまう。現場で戦う魔導兵は瞬時に現状を分析して適切な魔法をなるべく早く使う必要がある。もちろん時間に猶予があるときは余分な流血を防ぐために腕から注血をすることになるのだ。


サーシャが注血を開始してから十秒近く経過した。今回は魔導回路の反応を確認するだけなので祈りを行ったりする必要はない。サーシャは注血を終えて懐中魔導器を確認する。


「カチッ…キーン…」


その音と同時にサーシャに安堵が広がった。しっかりと魔導回路が反応して音と青い光を確認した。成功だ。音と光を確認した瞬間、ピンと張り詰めていた緊張の糸が切れた。そしてサーシャは倒れ込むように椅子に座った。


試験教官の指示通り安静にしていると、先程突き刺した所からは少しだけ血が流れ、ジーンとした不快な余韻に気付いた、そのうち魔導服の保護魔法により血は止まるそうだがこの感覚は中々消えることは無かった。


実戦では魔法発動時に少し血を懐中魔導器に残して、その血で治癒魔法を使うそうだが、今はまだ魔法は使えない。だからサーシャは、しばらくの間この魔導服に守られながら治癒を待つしかない。


「ウッ…!」


うめき声のあと、隣の女性候補生が崩れ落ちた。


緊張の糸が緩みきっていたサーシャは目の前で起きた衝撃的な状況を飲み込めず、とりあえず助けるために出血を抑えようと動こうとしたところ、試験官が懐中魔導器を自らの首元に刺し、候補生に対して治癒の魔法の行使を開始した。


「今のうちに医療棟の先生を!」


治癒魔法と圧迫で出血に対処している試験官が会場に響く大きな声で叫んだ。すると先程まであたふたしていたスタッフ達は向かいの医療棟へ向かって走ったり、救急箱を準備したりとそれぞれ最善を尽くした。



****************************



しばらくして。


結論から言うと彼女はそれ程酷い状態ではなかった。始めての注血だったための事故だそうで、想像を上回る痛みと緊張によって気を失ってしまったそうだ。


誰でも初めての挑戦はあり、そこで失敗するか成功するかは大きな問題ではない。そのような時はその分野の先駆者たる教官方が救ってくれるだろう。


今回の件は懐中魔導器を使う上で頻発する事象らしく、防止策は懐中魔導器の感情の高ぶりを利用する性質上ほぼ無く、何度も使用して感覚を掴む事くらいしかない。


この騒動が原因で魔導濃度調整の開始時刻は大幅に遅れてサーシャの番が来る頃にはすっかり日も暮れていた。


「サーシャ候補生。二番の部屋へどうぞ。」


そうしてサーシャを迎えたのは小太りの眼鏡をかけた中年の男だった。


「えーと、魔導濃度調整についてなのだが、君の場合は平均的な魔導濃度と超高濃度の魔導濃度を行ったり来たりするタイプの魔導不安定状態でね…」


小太りの男はサーシャのように不安定な人は珍しいタイプだと語り、その危険性を説いた。曰く想定を超える魔導力が懐中魔導器に流れやすい状態であり魔導暴走の危険性が他人より高いとのことだ。そしてその危険性を引き下げるために魔導力を安定させる必要がある。しかしサーシャの場合は珍しいタイプな上に対応が難しく、日々安定化薬剤を服用して、薬槽に浸かることで肉体魔導力安定性も向上させる必要があるのだそうだ。


「君みたいな大幅に振れる魔導濃度調整は大変なんだけど、普通の子に比べて数回だけ魔法使用可能回数が増える事があるんだよ。でも不安定過ぎるから調整も細心の注意をしつつ万が一に備えながらの調整になるんだよ。ちょっと面倒に思うかもしれないけどよろしくね。」


(この人説明はわかりやすいんですけど、いかんせん話が長いんですよね…。)


「はい。大丈夫です。丁寧にご説明いただきありがとうございます。」


(これから暫くお昼は一人でとることになりそうですね…。)


とりあえず調整終了まで毎日、サーシャはお昼の時間に医療棟まで行かないといけないそうです。そうして歩みを進めていると何処かから揉めているような声が聞こえました。

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