表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

27話 唸る鉄塊

所定の位置についた装甲列車はその砲を要塞へ向け、砲撃を始めた。兵士らは重々しい砲撃に言い表しようもない恐怖を抱きながらその様子を見届けた。


無数の鋼板で身を包む巨人の一撃は戦場を耕し、収穫の準備を進める。


「これが新時代の戦争か…。」


観測気球を用いて精度が向上した砲撃は冷酷なまでに正確で、要塞砲を無力化させていった。その結果、全部で五つある要塞砲は二つが誘爆により砲塔ごと吹き飛び、他の三つは度重なる砲撃に耐えきれず次々に沈黙した。


一日中続いた砲撃は成功に終わった。敵は反撃の出来ない相手からの攻撃に成すすべも無く崩れ去った。グレムシアもロドミアもゼフラドも国の垣根を越えた作戦の成功に互いの肩を抱き、目前に迫った勝利を祝い合った。



****************************



「爆撃機部隊に信号を送れ。内容は『装甲列車部隊、作戦成功。B・C地点に爆撃を開始。』だ。」


一番艦艦長は眩しい東からの陽の光に目を細め、略帽を深くかぶり直しながら命令する。


命令を受けた飛行船艦の乗組員は信号灯をジャキジャキと鳴らして下の爆撃機部隊に爆撃開始を伝えた。


爆撃機部隊を腹に抱えた飛行船艦は超低空飛行で爆撃機部隊の後に続く。


「艦長!見えました!リュミエール要塞です!」

「よし。魔導防衛の上で総員対地・対空戦闘準備。対空要員は敵攻撃機から爆撃機部隊を守り、対地要員はA地点とその他危険目標に爆薬と機関砲の雨を喰らわせてやれ。」


男は隣の補佐官に告げた。すると補佐官は伝声管にその声を響かせ、飛行船艦全体に命令した。


「総員対地・対空戦闘準備!魔導防衛も欠かすな!」


飛行船艦に声が響く。船員が大型魔導器を起動し、砲の確認を始め、上部対空機関砲陣地に続々と並ぶ。同時に他の飛行船艦も同様の行動を開始し、動き始めた。


「圧巻だな…」


艦長が呟いたその時の事だ。


「艦長!大変です!要塞砲が再度動き始めました!角度的に最後尾の四、五、六番艦を捉えています!」


沈黙したはずの要塞砲が動き始めた。砲を限界まで上げ、最後尾の艦に砲を向けている。


「四、五、六番艦に知らせろ!内容は『高度を取れ。回避行動。底部に魔導防衛集中。』だ!急げ!」


艦長の指示で信号灯で指示内容を伝えたが遅かった。


艦が十分な高度を取る前に要塞砲が最後の力を振り絞って火を吹いた。その砲弾は魔導防衛を貫き船体を引き裂いた。五番艦は中央から轟音と爆発と共に真っ二つに折れ、火達磨になって沈んでいく。


「くそっ…装甲列車は要塞砲を完全に無力化したと言っていただろ!」


一番艦艦長は拳を叩き付ける。しかし悲劇は続いた。


中途半端な高度まで上昇していたせいで、二つに折れた五番艦の残骸は前の三番艦に直撃した。


五番艦の頭が三番艦に突っ込み、共に沈んでいく。


「三番艦も巻き込んだのか…。」


艦長以外は皆、声も出せなかった。


この一瞬で二頭の鉄の鯨は失われ、任務の継続は不可能に思えた。


しかし不幸中の幸いというものだろうか、三番艦は破壊目標の要塞のB地点に墜落し、その衝撃で内部のガスと爆薬が引火し、B地点を跡形もなく吹き飛ばした。


艦長の目に希望が宿った。


(三番艦の残骸がB地点を吹き飛ばした今、破壊すべきはA・C地点のみ…。爆撃機部隊を守り切る事は無理だろうが任務は継続可能か…?)


「作戦継続だ。残存飛行船艦に伝えろ。『作戦続行。制空権を維持。対空要員を増やせ。爆撃機の護衛に集中しろ。』と。」



****************************



空を包む重い雲の隙間からフォラールとリメルナの攻撃機編隊が雲を裂いて現れた。機関銃を据えた彼らは一直線に爆撃機部隊へと突進してくる。


「雲から来たぞ!太陽の方向だ!」


伝声管に響く。


「太陽で…見えねぇ…!」


太陽を背に背負った目眩まし攻撃に初動では飛行船艦が後れを取ってしまった。


「C’est la chasse à la baleine !」

「À tout prix, il faut les arrêter !」


しかし残存飛行船艦は彼らと爆撃機部隊の間に立ち塞がり爆撃機部隊の盾となる。そして攻撃機に対空機関砲の猛攻を浴びせる。


「第二波来たぞ!上だ!雲の間!」

「マレイストの羽をもぎ取れ!」

「弾!補給の弾を!早く!」


攻撃機は飛行船艦の対空要員の猛攻により翼を折られ、機体を燃やされる。


コントロールを失った機体は火球の様に飛行船艦に迫ってくる。


「おい!てっ…撤退!」

「放棄しろ!とっ!取り敢えず尾の方に逃げろ!」


―ズシャァン


敵攻撃機が飛行船艦に墜落した。


船内では火災が発生し、ビーッと警報が鳴り響く。即座に火災対処部隊が向かったが火の手が大きすぎる。


「艦長!火の手が大きすぎます!魔導器のキャパを火災鎮圧に回してくれませんか!?」


伝声管が艦長に事態の深刻さを報告する。


「底部の魔導防衛を切れ!火災鎮圧が最優先だ!要塞の突破口はもういらん!」


艦長は飛行船艦下部の魔導防衛を切り、大型魔導器を火災の鎮圧に使った。



****************************



大型魔導器と火災対処部隊のお陰で火は、区分けされたガス嚢の一歩手前で消し止められた。


そして鯨の背で一方的な空戦が繰り広げられている頃、鯨の腹では爆撃機部隊と共に要塞への攻撃を仕掛けており、C地点は爆撃機部隊によって崩壊。A地点も爆撃機部隊の爆撃と飛行船艦の艦砲射撃によって大穴が空いた。


空での作戦は飛行船艦二隻の喪失という壊滅的被害を出したものの成功に終わり、敵攻撃機の攻撃も合計で三波の攻撃があったが、飛行船艦の被害は少なく、爆撃機部隊も一機の喪失に済んだ。


(司令部は大勝利と国民に伝えるだろうが、私は例え朽ちようと、言えないな…。)


艦長は赤く滲んだ包帯を巻く部下と飛行船艦二隻の亡骸を眺めながら心の内に抱いた。


この空戦では飛行船艦に搭載された大型魔導器の魔導防衛が攻撃機編隊の攻撃は無力化し、一方的な空戦となった。史上初の本格的な空戦は大陸同盟の大勝利に終わり、海洋同盟は大敗を喫した。海洋同盟は飛行船艦の建造と対処方法を模索する事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ