21話 世界大戦
サーシャ達の大隊が塹壕を奇襲したあの戦いから如何ほどの時間が流れたのだろうか。前線は大陸を未だに二分していた。
グレムシアの参謀本部は停滞した戦線を破壊すべく戦線の中央に構えるフォラールの守りの要であり、交通の要衝である、『フォー・デュ・モン・ドゥ・ラ・リュミエール(Fort du Mont de la Lumière)』と呼ばれる一大要塞群を制圧すべく動き始めた。
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「前線を離れてもう何か月?」
「そうだな〜。俺たちが奇襲したのが四月辺りだっただろ?今が九月だから…五か月くらいか。」
「にしても後方は平和っすね〜。」
サーシャとカールの雑談に補充兵が入って来た。軽い笑いを浮かべる彼に向けてサーシャは要を尋ねた。今日はサーシャの分隊が補充兵指導の日だ。
「どうしたんだ?もう走り込み終わったのか?」
「違いますよ。ゼクレス中佐がサーシャ中尉を呼んでいました。次の作戦が決まったそうです。本部二階の本会議室へお願いします。」
「オッケー。分かった。そんじゃ行ってくるからカールが皆のこと見とけよな。」
「うぃ〜。了解〜。」
サーシャは演習場での補充兵の指導をカールに任せてゼクレスの元へ駆けていった。
「サーシャ中尉カッコいいっすね…。ちなみにカール伍長はサーシャ中尉とお付き合いされてるんですか…?」
「何だよいきなり。俺とあいつがか?そりゃサーシャは美人だけどよ、事情が特別な上に俺とあいつは生まれた時からの付き合いなんだ。だからそういう関係にゃならんかな…?」
「そっ…そうなんですね。」
二人の間に謎の間が生まれた。
「何だ?サーシャの事が好きなのか…?」
「いえっ…そっ…そういう訳では…。」
「そうか…。まぁ、なんかあったら俺に相談しろよ?相談乗るぜ。」
「ありがとうございます…。」
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サーシャが入った部屋で待っていたのはゼクレスだけでは無かった。ヴァルザー大将等の高級将校もその場に待ち構えていて、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「これで全員か。では説明を始める。」
長机の中央には巨大な地図が広げられていた。その地図に描かれていたのはグレムシアが、『リュミエール大要塞群』と呼ぶ、世界一の大要塞『フォー・デュ・モン・ドゥ・ラ・リュミエール』であった。
「この要塞は丘の上に存在し、機関銃や野砲だけでなく、対空機関砲に加えて塹壕まで備えた不落の要塞だ。我が軍の砲は威力不足な上に、射程圏内に入ろうとすれば敵の要塞砲による砲撃を浴びせられ、まともな砲撃が出来ない。ゆえに作戦はこうだ。
まず、要塞全方面から突撃を敢行し、要塞砲の死角である、要塞の周囲を取り囲む線路を確保する。
線路を確保次第、ロドミア帝国とゼフラド帝国の装甲列車を向かわせて要塞砲の死角から砲撃を加える。」
二つの帝国の名が出てくると高級将校の間にざわめきが広がった『そこまでするのか!』だったり『ロドミアとゼフラドの力も借りんといかんか…』など口々に困惑と驚きが混ざった言葉を発していた。
「装甲列車の砲撃と同時進行で新設された我がグレムシア帝国の航空軍の装甲化飛行船艦が、その装甲を盾に敵対空機関砲を無力化する。
無力化次第、グレムシア帝国の航空軍とヴェルシアナ=ヘヴラニア二重帝国の地上軍の爆撃機により要塞の機関銃陣地や塹壕や野砲を吹き飛ばし、突破口を開く。」
「待て!ヴェルシアナ=ヘヴラニア二重帝国はどうやって爆撃機を展開するんだ!」
「我がグレムシアの航空基地を貸し出す。爆撃隊を提供してもらうのだ。そのくらいの協力はあって当たり前だろう。
そうして開かれた突破口から全歩兵六師団を投入する。」
再度ざわめきが広がった。第一軍の半数近い歩兵六師団なんて一つの要塞攻略には多すぎるほどだ。その歩兵六師団が有れば小国を踏み潰すことなんて容易く、中規模の国でさえ占領出来る。そんな歩兵六師団を一つの要塞に充てるのはあまりに贅沢だ。
しかし説明は続いた。
「そして同時進行で飛行船艦から第一軍直属の突撃魔導大隊の一部を降下させ、魔法を用いて敵司令部を叩く。
作戦名は第一次収束作戦。」
説明が終わると今度は作戦立案者のヴァルザーが話を始めた。
「今回の要塞攻略は未だ人類が経験したことがないほどの規模だ。飛行船艦、装甲列車、歩兵六師団、突撃魔導大隊。これらはグレムシアの国家的取り組みの範疇を超え、大陸同盟としての取り組みである。
特に突撃魔導大隊の開戦初期の大戦果は聞いたことがあるだろう。この作戦の本質は突撃魔導大隊の侵入を歩兵六師団による量の攻撃で隠匿し、敵を内部から瓦解させる事にある。
質を量で隠し、勝利を得る。
帝国の興廃此の一戦に在り。各員一層奮励努力せよ。
グレムシア万歳!」
「「「万歳!!!」」」




