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魔導少女作戦開始  作者: 梅×コーヒー
魔導少女作戦準備
2/10

1話 軍靴の音

「クライン・サーシャ!前へ!」


野太い軍人の声が軍用テントの中から響き渡りサーシャの名前を呼ぶ。その声には威圧感がこもっていて、サーシャは胃を大きな手でギュッと握りしめられるような感触を覚えた。


サーシャを呼んだ声の主は白髭の年配の軍人だった。腰にはサーベル。身に纏っている黒い軍服とコートは周りの軍人のものとは異なっていて圧倒的な存在感を放っていた。そして、その服の胸元には懐中時計のような金属の飾りがきらりと光っていて見るものの視線を引き付けていた。


「はい!」


サーシャは軽く軍用テントに入っていくが内心恐怖を抱えていた。人生で数回しか会ったことが無い軍人に対する怯えだけではない。名前を呼ばれる事は自身が強制徴兵組である事を意味し、自分だけが集落から引き抜かれてしまう事を意味する。そんな孤独は想像するだけでサーシャの心に重い影を落とした。


ここはグレムシア帝国の西方の町バッハハイム。川辺の自然豊かな集落であり、自給自足の生活をしている。こんな辺境に軍がやって来るのは戦時か「魔導力濃度検査」の時である。「魔導力濃度検査」とは採血を行い、その血の中に基準を超える魔導力が含まれているか調査するものである。


魔導力濃度が一般人より高い事で知られる魔導師は魔導器という機械に血を流すことで小規模な魔法を使える人口比で0.005%程しかいない希少な存在だ。


無論、普通の人間も血中に魔力を秘めている。しかしその程度の魔導濃度では魔導器を作動させるために大量の血を必要であるので命を危険に晒してしまう。だから一般人より血中魔導濃度が高い子供は軍が魔導兵として育てるために農村部から徴兵する。


「貴様の魔導力濃度が基準値に達した。光栄な事に貴様は帝国兵として皇帝陛下に仕える事になる。」


軍人はサーシャに特別徴兵証を渡し、サーシャは軍人に対する怯えや、その強制力に対する諦めから受け取った。


「了解しました。」


「よろしい。では伝達事項だ。我々は明日の夕方にこの地区の検査を完了し、出発する。帝都に着き次第、貴様を魔導試験大隊長に引き渡す。それまでに荷物をまとめておけ。魔導牽引車にて貴様と共に帝都まで運ぶ。」


サーシャは不安によって固まった喉を震わせて返事をする。


「了解しました!」


そうしてサーシャが返事をすると、白い髭をたくわえた年配の威厳に満ちたその軍人は向きを変えて魔導牽引車に乗り込み、サーシャと村の人達はそれを見送った。


(…でもあの人みたいに軍に仕えたらいつか自分の意志で自分のための選択をできるのかも。)


その後はサーシャは明日のために荷物をまとめに戻り、最低限の荷物を軍隊鞄に詰めて指定の時間に指定の場所に向かった。しかし見慣れた顔のやつが居る。サーシャの幼馴染のシュタイナー・カールだ。


「君もも魔導検査に引っかかったの?」


サーシャが声を掛けるとカールが振り向いて話し始めた。


「おーお前か!実は隣のミューさん家の子が『サーシャが白い髭の年配の軍人に名指しで無理矢理入隊させられた!』って教えてくれたんだ。だからあの白髭爺さんに頼んで、一般志願兵として適性検査を受けて入隊させてもらったんだよ!お前だけ軍人さんなんて心配だからな!これでお揃いだ!」


(なんて陽気なひとなんでしょう。でも彼が側に居ると徴兵の不安も和らいで少し心が落ち着く気がします。)


「わざわざ私なんかのために、ありがとうね。」

「このカールに任しなさいよ!」


小さい声でサーシャが少し照れて、笑いながら礼を言うと、彼も胸を張って笑って返事をしていた。


(この人となら帝都での生活もちょっとは安心できるので嬉しいです。)


そんな帝都への不安を紛らわすように2人で談笑していたところ『ガキッ…ピーン』と独特な音を鳴らす魔導機構で動く魔導牽引車が近づいて来た。


「ちゃんと来たようだな。お前たちも乗れ。」


白髭の軍人の部下らしきライフルを持った軍人に従うサーシャとカールは、すでに魔導候補生数人と志願兵数人が乗っている魔導牽引車の荷台に乗り込んだ。そうすると二人と同じくらいの年の金髪の青年二人が話しかけてきた。


「おいおい。俺たちついに帝都に行けるんだぜ!最高だよな!」

「魔導軌道車両や魔導船。帝都の中心を流れる美しいベンベルグ川!」

「バッハハイムなんかとは比べものにならない魔導工学の中心地、帝都ベンベルグ!」


興奮気味に話しかける彼らの目はキラキラと光っていた。


水の魔法都市とも呼ばれる、水と魔導工学が融合した世界で最も美しいとされる帝都の姿は、バッハハイムとは比較にならない。ベンベルグ川に映る白く美しい旧ベンベルグ市街や、ガス灯に照らされて眠ることの無い新ベンベルグ市街。それらを見事に繋ぐ高度な魔導工学。上下水道も整備されており、他国の使節団が度々訪れるというその技術力の高さに、二人は期待を膨らませて帝都までの道のりを魔導牽引車に揺られたのでした。

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