表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

1話 軍靴の音

立ち込める血と硝煙の匂い。辺りにはもげた四肢や傷口を押さえてもがく人影。半壊した街で生き残ったのは恐らく彼女が最後だろう。


―ズォン…


大砲が響き、エンジン音が近づいてくる。


彼女は腕の中で息絶えた戦友をそっと置き、胸に手を当てた。


1945年4月25日。世界中の視線が集まるその先で彼女は何を願うのだろうか。このお話はある一人の人間、サーシャが歩んだ感情の旅を記した物語。



****************************



ここはグレムシア帝国の西方の集落バッハハイム。自然豊かな集落であり、ほぼ自給自足の生活をしている。こんな辺境の集落に軍が来るというのは大抵の場合「魔導力濃度検査」の時である。


「魔導力濃度検査」では採血を行い、その血の中に含まれる魔導力の濃度を調査する。


魔法が使える人間は魔導師と呼ばれ、魔導器という機械に血を流すことで小規模な魔法が行使できる。しかし人数は多くなく、人口比で0.5%程しかいないとされる希少な存在だ。


無論、普通の人間も血中に微量の魔導力を秘めている。しかし濃度が薄く、魔導器を作動させるために、命を危険に晒すほど大量の血を必要としてしまう。


軍部は魔法の軍事転用を目論み、初期の反乱抑止の為の「魔導力濃度検査」を、血中魔導濃度が高い農村の子供を軍が魔導兵候補として徴兵するための制度へ変更した。


「サーシャ・クライン。中へ。」


野太い軍人の声が軍用テントの中から響き渡り、サーシャを呼ぶ。声には威圧感がこもっていて、サーシャは心臓を大きな手で握りしめられるような感触を覚えた。


サーシャを呼んだ声の主は年配の軍人だ。腰にはサーベル。身に纏っている黒い軍服とコートは周りの軍人のものとは異なり、圧倒的な存在感を放っていた。


「はい。失礼します。」


それはサーシャが徴兵組である事を意味し、サーシャが集落から引き抜かれ、孤立してしまう事も意味した。自分だけが軍へ連れて行かれ、集落の皆と会えなくなる。それは、想像するだけでサーシャの心に暗く重い影を落とした。


(男だろサーシャ…。こんな事でナヨナヨするな…。)


サーシャはそんな不安を押し殺してテントの中へ入っていった。


「貴様の魔導力濃度が基準値に達した。光栄な事に貴様は帝国兵として皇帝陛下に仕える事になる。」


軍人はサーシャに特別徴兵証を渡し、サーシャは怯えつつ両手を添えた。


「了解しました。」

「よろしい。では伝達事項だ。我々は明日の夕方にこの地区の検査を完了し、出発する。帝都に着き次第、貴様を突撃魔導大隊の大隊長に引き渡す。それまでに荷物をまとめておけ。牽引車にて貴様と共に帝都まで運ぶ。」


サーシャは喉を震わせて返事をする。


「了解しました。」


そうしてサーシャが力強く返事をすると、威厳に満ちたその軍人は牽引車に乗り込み、去っていった。サーシャと村の人達はその姿が見えなくなるまで見送った。


(…でもあの人みたいに軍に仕えたらいつか自分の意志で自分のための選択をできるのかな…。)


その後、サーシャは明日のために荷物をまとめに戻り、最低限の荷物を軍隊鞄に詰めて指定の時間に指定の場所に向かった。しかし見慣れた顔の男が居る。サーシャの幼馴染のシュタイナー・カールだ。


「お前も魔導検査に引っかかったの?」


サーシャが声を掛けるとカールが振り向いて話し始めた。


「おーお前か!実は隣のミューさん家の子が『サーシャが白い髭の年配の軍人に名指しで無理矢理入隊させられた!』って教えてくれたんだ。

だからあの白髭爺さんに頼んで、一般志願兵として身体検査を受けて入隊させてもらったんだよ!お前だけ軍人なんて心配だからな!これでお揃いだ!」


(なんでこんなに陽気なんだよ…。でもお前が側に居てくれると不安も和らいで少し心が落ち着く気がするんだよな…。)


「わざわざありがとうね。」

「このカールに任しなさいよ!」


サーシャが礼を言うと、彼も胸を張って笑って返事をしていた。


(こいつとなら帝都での生活もちょっとは安心できるし、嬉しいな…。)


そんな帝都への不安を紛らわすように2人で談笑していた頃、2人を乗せるための牽引車が近づいて来た。


「ちゃんと来たようだな。お前たちも乗れ。」


白髭軍人の部下らしき軍人に従い、牽引車の荷台に乗り込む。荷台にはすでに魔導候補生数人と志願兵数人が乗っていて、サーシャとカールは端に座った。牽引車が動き始めると二人と同じくらいの年の金髪の青年二人が目を輝かせ、話しかけてきた。


「おいおい。俺たちついに帝都に行けるんだぜ!最高だよな!」

「魔導軌道車両や魔導船。帝都の中心を流れる美しいベンベルグ川!」

「こんな集落なんかとは比べものにならない、魔導工学の中心地!帝都ベンベルグ!」


彼らが興奮するのも無理は無い。なにせベンベルグは水の魔法都市とも呼ばれ、水と魔導工学が融合した世界で最も美しいとされる都市だ。ベンベルグ川に映る白く美しい旧ベンベルグ市街や、ガス灯に照らされて眠ることの無い新ベンベルグ市街。それらを見事に繋ぐ高度な魔導工学。


上下水道もしっかりと整備されており、他国の使節団が度々訪れるというその技術力の高さは世界最高クラス。二人は今までの不安を忘れ、期待に胸を膨らませて帝都まで牽引車に揺られたのだった。

辺境の集落に住むサーシャ・クラインは、軍の魔導力濃度検査にて魔導兵適性が認められて徴兵される。幼馴染であるカール・シュタイナーは、サーシャが徴兵されたことを知ると魔導兵適性は無いがサーシャが心配だと言って軍に志願した。二人は突撃魔導大隊に配置され、訓練の為にグレムシア帝国の首都ベンベルグまで送られる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ