17話 補充
朝日に包まれる後方医療支援所は混乱に包まれていた。砲撃の負傷者と防衛戦の負傷者に対応するには余りに貧弱な設備だった。
「魔導兵の処置から始めるので貴方達は待ってて下さい!」
少なくともこの場では命は平等ではない。魔導兵は替えが利かない大切な部品だが、一般兵は幾らでも変えが利く。魔導兵達は申し訳なさそうに医療テントへ入っていく。彼らも自身より先に部下の処置を望んでいる。しかしその部下達の処置が終わるのは太陽が再び沈んだ頃になるのだった。
「パプスト大丈夫?」
「うっ…うん…。」
「ほら。背負うよ。」
「ありがとう…。」
魔導処置を施しているとは言え歩きはぎこちなかった。医療魔導兵不足につき、サーシャも大規模魔導器にギリギリまで血を注いだが負傷者の量が多すぎて十分な魔導処置が出来なかった。
今までの戦争は小規模な軍の衝突であり、負傷者も少なかった。此度の大戦は今までの常識を覆す規模であり、上層部の予想を裏切る大攻勢により被害が拡大。このため上層部は帝国議会に対して軍需品の追加製造や徴兵の拡大を求める議案書を提出した。
負傷者の皆を連れて戻った防衛戦は、大部分の修復が完了していた。戦死者の一部は未だに放置されていて、それらの肉塊を処理する手伝いを終えると哨戒の一部を残して皆寝ることが出来た。
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サーシャ達が起きるとゼクレスが皆に告げた。
「今回の突撃で敵はこの防衛線から約五十メートルの位置まで前進し、塹壕を構築しているらしい。三日以内に第二軍がこの防衛線に到着し、防衛を引き継ぐ。
我々は飛行船艦の援護の下、敵塹壕に突撃を敢行し、これを確保する。現状、フォラールの塹壕には機関銃が設置されていない。故にこの好機を見逃す訳には行かないとの事だ。
負傷者には魔導処置を施し、三日後には走れる様に回復させておけ。死者が出た部隊には補充の兵が出される。教育期間は短かったが銃は撃てる。面倒を見てやってくれ。」
サーシャの小隊には十名の補充がなされた。しかし補充の兵は皆一般兵であり、皆サーシャより何歳も幼かった。
「俺なら一人で五人は相手できるぜ。」
「まぁまぁ。俺なんてこの戦争で英雄になって…」
補充の兵はそんな楽観的な事を話していた。
「てか俺らの小隊長って女でしょ?絶対に俺を小隊長にした方が良いのにな。俺ならフォラール兵なんてバッタバッタと薙ぎ払って一瞬で勝てるのに。」
「分かるわ〜。あんな弱そうな見た目で小隊長とか笑うよな。てか実はヤることヤってんじゃねぇの?」
「はっは!だから小隊長って事?じゃあ俺らもヤらせてくれるんじゃね?!」
(思春期の補充兵とは言え流石に指導が行き届いていな過ぎるでしょ…。軍の規律を学ぶ間もなくここへ連れられたのか?)
サーシャはゼクレスは彼らを「銃は撃てるが面倒な奴ら」と言っていたのを思い出し、彼らにどう接したら良いか分からなかった。その時カールが二人の頭を思い切りぶっ叩いた。
「痛ってぇ!」
「何すんだ!」
叩かれた二人はカールに喚き散らかす。
「指導だよ。」
「はぁ〜?指導?じゃぁ俺も生意気なアンタに指導していいんすか?」
ガタイの良い方の補充兵が拳を振り上げ、カールに振るおうとする。しかしその拳はバルツによって止められ、カールには届かなかった。
「ちょっと!君達の言動は目に余ります!」
「何だよ!また来たのかよ!面倒臭いな!」
「俺達何もしてねぇだろ!何だ?ガールフレンドの悪口聞いて怒ったのか?彼氏何人作ってんだよあの尻軽女!」
大声で喚く補充兵の二人の声は小隊に響いていて皆怪訝な面持ちでそちらに目をやる。
「君達〜?ちょ〜っと生意気過ぎない〜?」
「そっ…そうです…!隊長と皆に謝るべきです…!」
ヴォルフもパプストも参戦して二対四になった。
「どんだけ来るんだよ!」
「もう良いわ!おい!あっち行こうぜ!」
二人は人数不利になるとすぐ別の場所へ行ってしまった。
しかし面倒そうなのは彼ら二人だけで、他の補充兵はやる気に満ちつつ恐れを抱く普通の兵だった。
何処かへ行ってしまった二人はカールとバルツに捜させて、中隊長に報告した。報告を終えると補充兵を連れて塹壕の補修工事を始めた。
第一線の地下壕のいくつかは砲撃で崩落してしまっており、それらの地下壕を掘り返し、補強する。そのように順番に塹壕を直していった。
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「よし!うちの小隊は一旦、ここまでにしようか!」
塹壕の補修工事を終わらせる頃になっても二人は帰って来ない。仕方なく他の八名の補充兵に自己紹介をし、突撃魔導大隊の説明と今後の予定を伝えた。
「皆さんはじめまして。私がこの小隊を預かっている、サーシャ・クライン中尉です。
もう既に説明を受けているかも知れませんが、ここは突撃魔導大隊。魔法を組み込んだ戦法で勝利への道を切り開くのが役目です。名前から分かる通り、魔導兵を中心にした部隊ですが魔導兵優先なんて考え方はありません。私は皆さんを一人でも多く生き延びさせるのが仕事です。
もし分からないことがあれば私や各分隊長に聞いてください。」
サーシャはこの未来ある若者たちを死地に送らなければならない。せめて一人でも多く生きて帰らせねば。と胸に誓ったのだった。




