12話 強奪作戦
サーシャ隊に新しい朝が訪れた。観光三日目はカフェ巡りだ。最初の二日間は少し詰め込んだスケジュールであった為休憩的な一日を予定している。
「隊長〜!次のお店では食事系メニューも良いですか?!バターたっぷりのパンケーキが有名なんです!」
「ヴ…ヴォルフ君いつもとキャラ違わない…?」
「そりゃぁ〜カフェ巡りと言ったらベンベルグ観光の目玉イベントだからね!それにパプストも昨日の帝博では相当はしゃいでたじゃないか!」
「カフェ巡りってそんな風な立ち位置だったんだ…。ちょっとした休憩を兼ねた予定だったんだけど。」
ベンベルグは多くのカフェを抱えることでも有名である。カフェは実は国民生活を監視する機関ではないのかと言われる程にカフェが一般のものとなっている故に少し独特な進化をしたのがベンベルグのカフェ文化である。一般的なカフェとは異なり、客自身がサイフォンを用いてコーヒーを用意することができるのだ。先ほどの店で初のコーヒーサイフォン体験をしたサーシャ達はプロと自身の淹れたコーヒーの違いを楽しみつつ、ゆっくりしていた。
「あっ!あれですよ!サーシャさん!」
「もういい匂いがするぞ!サーシャ早く行こうぜ!」
「ちょっと待ってよ!この装甲コート意外と重いの!」
サーシャは試験装甲コートをガシャガシャと鳴らせて追いかけた。その後にはサーシャを追う男二人組が続いていた。
「ひゃ〜!めちゃめちゃ美味しいですね〜!」
「このシロップがパンケーキに合って美味い!」
「この数日で色んな美味しい物を食べてるから太っちゃうよ…。」
「そんな事は良いんだよ!旅行が終わればゼクレス教官に二、三回死ぬまで訓練させられるんだから。」
「いっ…今のうちに蓄えとかないとです…。」
皆それぞれの皿の上のパンケーキを食べ終えて店を出た。国外の果物の多くを用いたドライフルーツと言う新しいお菓子を取り扱う店へ向かおうとした時のことである。
「うぶっ!」
最後尾に居たサーシャが口に布を当てられて意識を手放してしまい、崩れ落ちる。
サーシャが謎の二人組に拉致された。
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「いいか?俺らの獲物はあいつだ。帝国最新の魔導装備で武装しているが例の薬品なら簡単に無力化出来るそうだ。」
「あぁ。獲物の無力化は簡単だろうが問題は護衛だな。しっかり武装してる。」
「護衛なら問題ない。奴らはプロでも何でもないただの同期生だ。誤射の警戒もあるだろうし撃てはしない。それに俺らは帝国兵から横流しされた防弾コートを着てるんだ。拳銃程度じゃ何ら問題ない。」
サーシャを襲った二人からのサーシャの詳しい容姿と、買収した帝国兵幹部の情報からこの強奪作戦は計画された。共和国の遅れた魔導技術を帝国から盗んだ魔導技術で補うための大切な作戦だ。
スパイの二人は、サーシャの口に薬品を浸したガーゼをかざすとサーシャは意識を失い、力なく倒れ込む。それを抱え上げて待機中の魔導車まで運び共和国まで輸送する計画だが魔導車まで後少しの所で思いもよらない問題が彼らに発生した。
動けないのだ。追ってくるサーシャ隊のメンバーは動けている。しかし己の足は動かない。
「滑稽だな。」
二人の後を追うサーシャ隊メンバーとは反対から軍服を着た男がそう言って出てくると、男は二人の無防備な足をライフルで『バスッ』と撃ち抜き、軽く手を翻した。途端にスパイの二人は力なく膝から崩れ落ちた。
「帝国の魔導技術は絵本の魔法より発展しているんだ。君たちの国のものとは違ってね。」
「…どうやったんだ?」
「簡単さ。君が誘拐した子の座標送信機の座標に遠隔拘束魔法を施しただけさ。大規模魔導器が携帯性に優れないなら迫撃砲のように魔法だけを現地に送れば良いんだ。」
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「ぜっ…ゼクレス教官!?」
「おぅ。皆頑張ったな。」
「…と言いますと?」
誘拐を未然に防げず落胆していた皆は突如表れたゼクレスに叱責されるわけでもなく、褒められてしまい困惑した。
「今回の旅行は時期をずらして全分隊で実施しているものだ。分隊の核となる魔導兵の保護のためにな。」
ゼクレス教官は説明する。
「なっ…なら彼らも訓練の一環ということでしょうか…?」
「いや彼らは正真正銘の共和国のスパイだ。」
「ではやはり僕たちは護衛を完遂できなかったのではないでしょうか。」
ゼクレス教官は未だに全容を把握できない皆に付け加えて説明をする。
「いやいや。今回の訓練は上からの指示で『訓練魔導兵を餌にスパイを釣れ』との事だったんだ。君達が基本的な護衛が出来るか確かめると同時に教官でスパイの警戒に当たり、スパイ狩りを進めていたんだ。」
「でっ…でもそれじゃぁ隊長は餌として使われて再度怖い目に遭う事になったんですか…?いくらなんでも可哀想です…。」
パプストは過去の襲撃事案で傷を負ったサーシャを心配していた。それはパプストだけでなくヴォルフもバルツもカールも同じ思いだった。
「それに関しては申し訳ないと思っている。私も作戦には反対であったんだ。だがスパイによる魔導師誘拐事件は増加傾向でな…。多数が賛成し、実行となってしまった。申し訳ない。」
ゼクレス教官は目に雫を蓄えつつ深々と頭を下げた。するとその背中をさする手が表れた。
「そんなに悲観しないで下さいよ。一瞬気を失っただけでそんなに怖い目には遭ってないですから。」
サーシャはそう言いつつゼクレス教官に問いかける。
「でも…。こんな目に遭ったんですから明日は私たちと観光してくれるんですよね?」
ゼクレス教官が困るような要求である事は解っていた。しかしゼクレス教官は二度も教え子を魔の手にかけられていて拒否などできなかった。サーシャの問いはそれを見越しての質問だった。
「解った。明日の予定は私も同行して警戒に当たる。」
そうして今度のサーシャの危機は未然に防がれたのだった。
サーシャ達が街を歩いているとサーシャが誘拐されそうになる。しかしゼクレスが妨害。旅行は分隊の中核の魔導兵防護のための演習でもあったと知らされる。しかし本物のスパイがサーシャを誘拐しようとしたのでゼクレスが観光に加わった。




