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11話 二日目

ホテルの食堂で朝食を済ませた一行はベンベルグ川の魔導船に乗り込んだ。博物館や歌劇場といった旧貴族の為に設置された施設はベンベルグ川に浮かべられた人工島に集結させられている。ベンベルグ川の護岸を削り広げて、広げられた川の中央に土砂を集めて文芸島とした。橋は架けられておらず唯一の移動手段は魔導船のみである。旧貴族のための施設とは言え貴族制が事実上廃止された今は高額な乗船料を支払えば誰でも上陸できる。


「パプスト大丈夫?相当キツそうだけど治癒かけようか?」

「だっ…大丈夫です…。それに魔法はいざという時のために…。」

「そうだけど…。酔い止め買っておけばよかったね。帰りでは買っておこうか。」

「たっ…隊長。風に当たれる先頭行きませんか?」

「そうだね風に当たれば少しは楽になるかな?」


そうしてサーシャとパプストは先頭へ移動したがそこには既にヴォルフ達がいた。


「ここに居たんだ。ん?何してるの?」


そうサーシャが問うた時ヴォルフが水面を見つめて何か言った。近付いてみるとヴォルフにも酔い止めが必要だった事に気が付いたが手遅れだった。


「ヴォルフ君大丈夫ですか?ほら水を貰ってきました。口をすすいでみてはどうですか?」

「あっ、ありがとうバルツ。少し楽になったよ。」

「まったく軟弱よのぉ〜。俺なんて全く酔わないぜ!」

「次は水面じゃなくて君の顔面にかけても良いんだよ〜?」

「うぇ!ちょ!やっぱりなし!」


サーシャ隊は意外と乗り物酔いが酷いらしい。確かに乗り物なんて生まれてこの方乗ったことがない人が多いのだ。軍に連れて行かれた時の魔導牽引車でもバケツの悪臭が酷かった事を思い出していると、船にアナウンスが流れた。


「まもなく到着です。下船準備をして魔導船後方に移動をしてください。」


そのアナウンスは魔導船が文芸島へ到着することを知らせるものだった。


「たっ…助かった…。危うくヴォルフ君みたいになっちゃうとこだったよ…。」

「よし!皆でいつものやりますよ!」

「「「行動開始!」」」


そうして一行は文芸島へ到着した。


「それにしても豪華だね。」

「やっ…やっぱり貴族用だったからかな…?」

「難しいことはわかんねぇから早く行こうぜ。」

「そうだね。えーと最初は…『旧帝博』だね。」


そうしてサーシャ隊は旧帝博前の公園を通り石造りのペリスタイルを持つ古典建築風の旧帝博本館へ進んだ。ペリスタイルが醸し出す独特な雰囲気は旧帝博本館がまるで神殿であるかのように感じられた。


内部の構造は外観とは異なっている。神殿を思わせる外観とは異なり絵画にある学堂を思わせる作りになっているのだ。瞬きをすれば、まぶたの裏に数々の哲学者や数学者が現れるような錯覚すら覚えるほどに。


一行はまず一階の古典芸術エリアにてベンベルグの女神像の彫刻を見た。古代から現在まで残り続けた髪や服の色彩は鮮やかとは言えなくともその歴史を感じられた。


「おい!サーシャみろよ!あの像裸だぞ!」

「いちいちそんな事で呼ばないでよ。」

「でもあれかなり有名なやつじゃない〜?」


カールが見ていたのは祈祷少年像だ。古典芸術の核心とも呼べる作品であり写実性と身体表現に優れる作品である。


二階には古代ブライゼン帝国の芸術をメインに展示がなされている。こちらは像といったものではなく古代ブライゼン帝国の歴代貨幣や葬祭習俗を表す壺などが多い。パプストははしゃいで見て回っていたがその他メンバーは事前知識が少なく、説明を見ては「はえー」だとか「なるほど」と呟く程度だった。


そうして旧帝博を回り終えると一行は今度は新帝博へ向かった。旧帝博とは異なり、かなり近代的な外観をしていた。まるで政府機関のようだ。


「これは俺も知ってるぞ。砂漠のやつだろ?」

「古代砂漠文明の作品が多いですね。」

「なんか大っきい猫みたいな像があるやつでしょ?リメルナ王国軍が写真撮ってるやつは見たことあるよ。」

「僕はミッ…ミイラがなくて安心しました…。あったらあったで面白そうですけど死体を鑑賞するのはちょっと怖いです…。」


新帝博は海外の作品を多く展示していた。しかし旧帝博のような現物の展示以外に有名作品の写真も多く展示されていた。


新旧の帝国博物館を見て回った一行はとりあえずレストランへ向かった。旧帝博の景観を楽しむことが出来る事で有名なそのレストランでは皆定番の『シュニッツェル ミット カルトッフェルザラート』を注文した。シュニッツェルに付いてくるジャガイモのサラダは北部式のもので冷たいジャガイモにマヨネーズを加えたものであった。


「うちは南部式だったから北部式は初めてだけど冷たいのも美味しいね。」

「それより早くデザート食べてぇよ!サーシャもパプストも早く食え!」

「まっ…待ってよ。カール君が早すぎるんだよ…。」


そうして皆がメインを食べ終えるとデザートのアイスが提供された。バニラの香るアイスにベリーソースがかけられた一品であり酸味と甘味のバランスが取れたこの組み合わせは様々なレストランで見ることができる。


「隊長…。あの…僕お腹いっぱいだから半分いりませんか…?」

「えっ?いいの?」

「隊長〜ここは私が引き受けましょうか〜?」

「だ〜め。これはもう私のもので〜す。」


危うくヴォルフに奪われそうになるもサーシャはそれを死守した。全員がデザートを食べ終わると歌劇場の時間まで美術館を回る。今回はしっかりとガイドを頼んだので解説付きであったためカールも展示品の背景やそこに込められた思いを理解できた。


しかしそんな展示品の中にサーシャ隊皆が気に留めた作品があった。『魔女狩り』と題名をつけられたその作品は魔女と思わしき女性が人々から追われている様子を表していた。だが問題は追われている女性がサーシャに不気味な程似ていたことだ。銀髪のロングヘアや、その顔付き。身長すらも同じように思えた。ただし残念な事に作者も制作年も判明しておらずガイドも一説の紹介くらいしか解説が出来なかった。


「なんか隊長に似た魔女が居ましたよね?」

「『魔女狩り』だよな?未来に来て描いたんじゃねぇの?顔は良いからモデルになったんだろうな!」

「ちょっと!『顔は』ってなんだよ!」

「でっ…でも結構似てましたよ…?」


皆で例の展示品について話していると宮廷歌劇場へ到着した。バロック様式で砂岩を用いたその外観は整った落ち着いた色彩で周囲の建築に調和しつつ自身のうちに秘める華やかさを周囲に知らしめていた。一度内部に入れば威厳よりも鑑賞する側としての没入感を強く感じる作りになっていて金箔を用いたりして表現された華やかな色彩や、ほかに類を見ないほど緻密に計算されて削られた彫刻。木で出来た、ぬくもりのあるその空間は音を包み込み鑑賞者に届ける設計になっていた。そこで一行が体験したものは二日目最後の予定には丁度良いものだった。


「いいねぇ〜あれが貴族の文化なんだね〜。」

「カールも静かになるくらいの美しさだったね。」

(寝てたとか言えねぇ…)

「今度はしっかりと酔い止め薬を飲んでから船に乗りましょう!」


船着場まで進む道中で酔い止め薬をしっかり購入してから船に乗り込み、ホテルまで戻った。一日目同様の方法でシャワーを済ませて食堂に向かったが、お昼をしっかり食べていたので一日目程は食べられなかった。カールが残そうとしていたが流石に食べ放題と言えど残すのはマナー的に気になったパプストとサーシャがなんとか胃に詰め込んだ。皆お腹いっぱいになって寝て三日目のカフェ巡りに備えるのだった。

観光で訪れた美術館にて性転換後のサーシャによく似る絵を見つけた。題名は魔女狩り。

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