曲がり角でぶつかった山本勘助に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた
朝霧がまだ村の屋根を包む頃、鈍く湿った光が土の道を照らしていた。
炊事場の煙とともに、焚き米の焦げた匂いが鼻をくすぐる。遠くでは寺の鐘が鳴り、農民たちが鍬を担いで畑へ向かっていく。
ここは甲斐国・躑躅ヶ崎の城下。戦と謀が絶えぬ乱世に身を置き、俺がこの世に生まれ落ちてから早や三十余年が経つ。
「ユウキ殿、昨夜の見回り、ご苦労でござった」
声をかけてきたのは、足軽小頭の弥助だ。まだ若いが、戦の煙にまみれている。俺は笑うでもなく、浅く頷いた。
「民が眠れる夜を保てれば、それで良い」
「さすが勘助殿だ。だが、殿がまた遠征を仰せつけたとか…」
「……そうか」
言葉を切って、俺は土道を歩き出した。
名はユウキ。現代からの転生者。
同時に、武田信玄の麾下にあって足軽組頭でもある。
この世で唯一誇れるのは、前世で太り気味だった己の肉体をまだ使い物になるよう叩き直した、その執念。
そして、女神様から貰ったチート能力だけだった。
◇
陽が高く昇る頃、戦場から戻った兵どもが村に流れ込んできた。
血と膿の臭い、腐った肉の臭い、焼け焦げた馬の臭い――それらが入り混じり、風そのものが重い。
医師と呼ばれる者は少ない。負傷者の多くは、自らの指を噛み切って痛みを紛らわせるほかない。
俺は薬師の手伝いをしていた。
草を煎じ、膏薬を練り、矢傷の膿を絞る。
幾度も死を見、幾度も救えなかった。
そのうち、手を合わせることもやめた。
人の死は、雨のように降る。数えても仕方がない。
そんなある日のことだった。
「おい、どけ! 行き倒れだ!」
兵たちの怒鳴り声に、俺は振り返った。
道の真ん中で、一人の若者が倒れていた。
痩せた顔。薄汚れた着物。血に濡れた肩口。
引きずった片足。ボロ革の眼帯。
見れば、傷口は深く、もう長くはない。
だが、その隻眼の瞳だけが――異様に澄んでいた。
「……生きたいか」
俺の問いに、若者はかすかに笑った。
「生きるより、穏やかに死にたいですね」
おかしなことを言う。
だが、どこかで見覚えがあるような声だった。
俺は黙って、自分の懐から一包の薬を取り出す。
山野に咲く薬草を独自に調合した秘薬。
名も無き旅人に使うつもりはなかったが――何かが胸を突いた。
その薬を傷口に塗った瞬間、若者の体が淡く光を帯びた。
光など、戦場では滅多に見ぬ。
その光が収まった時、血は止まり、裂けた肉はふさがっていた。
若者は息を呑んだ。
そして、大きく目を見開いた。
「……あなたが、見える」
◇
クラクラする。
全身を包み込む暖かい感覚。
優しく抱擁される。
それなのに、自分の言葉に心臓が凍った。
自分は盲目だったはずだ。
何年も前、猪の牙に片目を潰され、闇しか見えなかった。
それが今、世界は光で満ちている。
風が、土が、人が、すべて形を取り戻していた。
「山本勘助、と申す者である。旅の者だ。貴殿、今、何をされたのであるか?」
「回復の術を。ほんの少し、試しただけですよ」
試した、だと。
この身を、闇から救い上げるほどの“少し”があるものか。
「ユウキ殿。あなたは……この乱世における天命だ」
自分の声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
光が戻った瞬間、世界のすべてが変わって見えた。
戦も、死も、策も、今はただ――この男を中心に回っている。
その日を境に、自分は彼の傍を離れなかった。
彼の術を、己の謀に、天下の行方に用いるため。
穏やかに暮らしたいと願う男と、乱世に光を取り戻した天才軍師。
二人が出会ったその瞬間、
甲斐の地は、血と鉄と策謀で塗りつぶされていく。
◇
夜、俺は燻る松明の火を見つめていた。
いや、その炎を、光を、いつまでも眺めている山本勘助を見ていた。
静寂の中、遠くで犬が吠える。
風が、血の匂いを運んでくる。
「……穏やかに、か。おぬしの望みは、乱世では呪いに等しいですぞ、ユウキ殿」
だが俺はもう知っている。
癒やしとは、力だ。
救いとは、支配の始まりだ。
そして俺は、その光のすべてを、
この手で握り潰してでも掴むつもりだった
話題のAI生成です。(人力で修正は加えました)
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