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妖精の言葉

作者: 小雨川蛙


 森に生きる妖精が。

 小さな子供に何かを教えています。

 

 それにしてもこの子供はなんで森の中で一人なのでしょうか?

 お父さんやお母さんはいないのでしょうか?

 

 裂けた衣服に傷だらけの肌。

 声もうまく出せない心から察するに何かがあったのかもしれません。


 しかし、それを知る術はございません。

 仕方ないので妖精が子供にしている話に耳を傾けてみましょうか。




 ***


 ……人の子よ。

 将来に悩むのですか。

 ならば二人の人間の話をいたしましょう。

 よくよく聞いて未来を歩んでくださいませ。


 こほん。

 では……。


 二人の人がいました。

 一人は愚かな人でした。

 もう一人は賢い人でした。


 愚かな人は言いました。


「私は自分の好きなものだけを見るし、聞く。嫌いなものなんて絶対に見ないし聞かない」


 愚かな人は宣言通り、自分の好きなものを見聞きして生きていました。

 嫌いなものには一切の目もくれず、仮に自分が誤っていようとも自分が好きなものを追い求めました。


 そんな様子を見て人々は言いました。


「あんな風に自分の好きなものばかり見てはいけないよ。独りよがりになってしまうんだ。自分は必ず『正しい』と信じきってしまうんだ。あんなふうに一方しか見られない人は愚かだよ」


 事実、その人はあまりにも愚かでした。

 自分が正しいと信じ切っていたのですから、言い争いになれば客観的に見ることはなく、どこまでも自分が正しいと言うばかり。


 周りの人は呆れて相手にもしなくなりました。

 しかし、その人はそれを不愉快に思うことはありません。

 だって、自分の相手をしない『嫌いなもの』なんて、すぐに見ないし聞かなくなりましたから。


 ……こほん。

 ではではもう一人の話をいたします。


 さて、こちらは賢い人。

 彼は賢いがゆえに言いました。


「私は自分の好きなものだけでなく、嫌いなものもしっかり聞くし見る。自分が間違っていならそれを認めるし、それを次に活かしたい」


 その人はそのようにしました。

 嫌いなことでも正しいと思えばしっかりと見るし、聞きます。

 時にはそれを学びとしていきました。


 周りの人は言いました。


「あんな風になりたいものだ。あの人は反対意見でさえしっかり聞くし、見るし、学ぶし、認める。あの人は本当に賢い人だ」


 人々から尊敬を集めるその人はいつでも周りに様々な人がいました。

 反対意見でさえしっかり受け入れる賢い人。

 そんな人だからこそ、人々が近くに集まるのでしょう。


 ……こほん。

 では、人の子よ。

 質問です。

 二人はどのように死んだでしょうか。


 これが物語であれば愚かな人は独り惨めに死んだことでしょう。

 賢い人は幸の多い人生を歩んだことでしょう。


 しかし、これは現実の話です。

 愚かな人も賢い人もあっさりと戦争に巻き込まれて死にました。


 なにせ、人間って種族単位で『愚か』ですからね。

 今この世界の情勢で、個人が賢いだとか愚かだとか言っているようじゃ、周回遅れもいいところなんです。


 なんて嫌な話でございましょうか。

 人間に生まれたことを後悔してください。


 二人の人間の死に様を見て、どちらが良いかと考えるのも一興かもしれません。

 

 ……私はそれでも賢い人間が好きですけれどね。

 ですが、人の子よ。

 私はあなたに後悔しない生き方をしてほしいです。


 好き勝手生きろとは言いません。

 賢く生きろとも言いません。


 ただ自分らしく生きろとだけ願います。


 命に正しさがあるのだとしたならば、きっと自分らしく生きることだけが唯一の正しさなのだと私は思うのですから……。



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― 新着の感想 ―
私にとって大きな教訓となったのは、良い結末でした。なぜなら、それは本当に人間の本質を示しており、私たちは妖精が私たちに語ったことから学ぶ子供だからです。
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