第一話 再婚
・松野美花…高校一年生。吹奏楽部のトランペットパート。オタバレしないように気をつけている。
・天王寺翼…美花の推し。個人勢Vtuber。
「美花?ちょっと時間ある?」
朝の澄んだ空気を切り裂く緊張感のあるお母さんの声。
ちなみに、今日は登校日。ちょっと急いでるけど、それ以前にお母さんのことが気になった。
「後十分ちょいくらいなら」と髪を結びながら答える。洗面台の鏡の前で少し苦戦する。
うーん、そろそろ切ろうかな。結ぶの苦手だし。ちょいちょい、横から流れる髪をいじる。
これで綺麗になったかな。
「お母さんね、再婚するの」
「へぇー」
………え?
「再婚!?おめでとう!」びっ……くりしたぁ。
『再婚』って急に言われるんだもん。
「で?で?お相手はどんな人なの?職業は?家族構成は?推しは?」
キリッと『推し』の部分を強調させる。
「あんたは相変わらずオタクね。お母さんはそんな美花も好きだけどね。」とのんびり話を逸らされる。
「職業はマネージャー。家族構成は息子さんがいるって。推しはわからないな」と丁寧に答えてくれる。
その後も、質問攻めを繰り返して時計をチラッと見る。
「あ、やば!行ってきます!」と荷物をひったくって弁当袋を持つ。
「いってらっしゃい。気をつけてね。あ、あと、帰りはまっすぐ帰ってきてね。」
「はーい。行ってきます!」といいながら、黒のスニーカーを履いて、つま先を地面にとんとん、と叩きつける。
ワイヤレスイヤホンを耳に入れて、音楽プレーヤーに接続する。なに?スマホ?容量が少ないからね。音楽プレーヤーでいつも聞いてる。割と音質いいんだよね。あー、今日も推しの声で耳が幸せ……
ってとろけてる場合じゃない。私は表情筋を引き締める。オタバレしないように普段は心がけてる……けど!学校に着くまでのこの至福の時間。あぁ、推しよ、生まれてきてくれてありがとう…
私の推しを紹介するね。聞いてくれるよね?聞かない人なんていないよね?じゃあ、話すよ?
推しの名前は『天王寺翼』。
Vtuberさんだよ。
キリッとした目に、銀髪のウルフカットで、高身長(180)で高校生なんだ。ニヤリと不敵に微笑む姿に心奪われること間違いなし!
ファンからのついたあだ名が『狼王子』なんだ。恋愛に興味なし、1人でいると気楽、配信でそう言ったからって。私はアーカイブで見たけど……
そして、この翼くん。顔出ししてます。まぁ、目元だけ、口元だけ、とかだよ。それでも、形が整ってることがわかる。
……っといけない。これ以上は長くなる。
まぁ、そんなこんなで推し活エンジョイしてるのですが、クラスメイトにはもちろん親友と呼べる人しか知らないんだよね。
私がオタクなこと。
あーあ、推しが隣の席にならないかなぁ。なんて、バカな妄想しちゃう。そのくらいなら誰にも迷惑かけないし……いいよね?
そんな妄想をしていたら、学校に着いた。そういえば、お母さんはどうして私に『まっすぐ帰ってこい』なんて言ったんだろう……?




