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ミーナ・クライスト

後半はざっくり読んでください

「ここが、国立大図書館……」

 隼人は、とある光景を前にして思わずそう漏らした。目の前には、ちょうど東京駅ほどの建物が鎮座している。今泊っている高級ホテルと同じように、レンガ張りの壁が良く映えている。コンクリートなどは使わないのだろうか。

(国立大図書館、期待できそうだな)

 隼人は襟を正すと、他の利用者と共に正面入り口から中に入った。その時、隼人はふと疑問を持った。

(……学生か?)

 他の利用者の多くに、どうやら制服姿の若者が多く見受けられたのだ。

(まあ、何かしらの大きな試験でもあるのかな)

 隼人はどこか懐かしい気持ちになりながらも、図書館の正面ホールを抜け、目の前に続く長い本棚の列に足を踏み入れた。

「まずは……地理と歴史かな」

 隼人はそれらしい本を見繕うと、建物中央にあるスペースの机に、ドサリと重い本を下ろして座った。

「『世界史』に『世界地理』。まあまずは地理かな」

 隼人はそう呟くと、腕に抱えるほど大きな地理書を開いた。

「これは…!」

 1ページ目に描かれた世界地図。隼人はそれを見て驚いた。

(これ、ユーラシア大陸か?いや、似すぎてるだろ……。それに大陸はエルドラ大陸一つだけ。大体世界の半分が陸地になってる。つまり大洋はこの、『太平洋』だけか。それ以外には……)

 そこで隼人は、とあるものを発見した。

(……これ、ちょうど地中海ぐらいのところ。その中央に小島がある。名前は、『アークサス』?)

 それは魔王の名前だった。

(何か関係があるのか?)

 隼人が歴史書を手繰って見ると、

(『魔王アークサス』は、世界暦334年にアークサス島に出現した魔族の始祖、災厄の魔王である。その名前の由来は、このアークサス島から来ており、魔王は同年334年に勇者に敗れ、同島に封印されている)

「なるほど……」

(魔王の名前の由来は分かった。あと、この本古いな。まだ魔王が封印されていることになってる)

 次に隼人は首都の場所を確認した。

(それで主要都市は……あった、『大陸首都アルカディア』。それに、『獣都ノーザリオン』?名前からして、獣人の国家があるのか?それに大陸の真ん中に国境が引かれている。つまり領土は半分づつ)

 ここアルカディアは、大体エルドラ大陸の中央に位置していた。ユーラシア大陸で例えるならば、インドの首都ニューデリーが最適だろう。さらに獣都ノーザリオンは、東に行って中国の重慶市ほどに位置している。

(この二国が対等な協力関係ってところか?ゴリアテ中将や、街の人たちからして)

 次に隼人は、古い歴史書を取り換えるため、『歴史』に分類されている棚に向かった。

「うーん、どれも専門性が高すぎる。この本のシリーズとかないのかな……」

 隼人はしゃがみ込んで本棚を良く見てみる。長さ50メートル、高さは2メートル強もあろうかという本棚をくまなく見るのは、骨が折れた。

(この本があったのは運が良かっただけか。やっぱり、見つからないかなあ……)

 隼人は本探しを断念して、その場から立ち上がろうとした。その時だった。

「あ!」

 そう声がしたかと思うと、隼人の頭にばさばさと本が落ちてきた。

「うわ…!」

 隼人は思わずしりもちをついた。そして上を見上げると、そこには申し訳なさそうに隼人を見下ろす、白いクラシックなワンピースを着た獣人の女性がいた。恐らく狼であろう毛並みは黒く艶があり、耳はピンと立っている。

(この人、どこかで……)

「すみません!お怪我は無いですか?」

「ああ、いえ。どうも」

 隼人は差し伸べられた手を取ると、ぐいと引っ張り起された。力が強い。

「本当にすみません。私、不注意で……」

「そんな。俺が見えずらい位置にいたのが悪いんです」

 隼人は若干見上げながら言う。この女性、身長が170センチ後半はあろうかという高身長である。

「そうですか……。あの、お名前を伺っても?」

「え?ああ、はい。高峰隼人です」

「タカミネハヤトさんですね?私はミーナ・クライスト。見ての通り、狼族の獣人です」

(物腰柔らかだな。良家のお嬢様って感じがする)

「ご丁寧にどうも。あ、本拾いましょうか」

「そうでした!重ねて申し訳ないです」

 2人はその場にしゃがむと落ちた本を拾い始めた。その中の一冊が、ふと隼人の目に留まった。

「『近代航空史』。ミーナさんがこれを?」

「……!それは、その。実は興味がありまして……」

 ミーナは恥ずかしそうに答える。

「そうなんですか!実は俺、戦闘機のパイロットなんですよ」

「本当ですか?なら、少し聞きたいことが!」

「俺に答えられることならぜひ。あと、俺からも一つお願いしたいんですが……」

「なんでしょう?」

「知っていたらでいいので、世界史入門の本の場所を教えてくれますか?」

「ああ、それならここに……」

 ミーナは立ち上がると、前の前の本棚の、一番上の段から一冊の本を手に取った。

「これがいいんじゃないでしょうか。学校の教本としても使われているので」

「『世界史入門』!ちょうどこういった本を探してたんですよ。ありがとうございます」

「喜んでいただけて良かったです。それで、本も拾えたので向こうのテーブルに移動しませんか?」

 2人は、先ほどの書庫中央のテーブルに向かい合う形で腰を下ろした。

「すみません。とっさにあんなお願いしてしまって……」

「構いませんよ。俺もこの本を見つけてもらったので」

 ミーナは隼人の掲げる本を見て尋ねた。

「見たところ将校様のようですけど、なぜ学校の教本を?」

(……そういえばそうだったな)

「話すと長くなるんですけど。実は俺、この世界の知識がほぼ無くて……」

 そこでミーナは、何かに気付いた様子で尋ねる。

「もしかして!貴方は異世界人の方ですか?」

「……知ってるんですか?」

「ええもちろん!学会ではもう…!」

 ミーナはそこで言葉をひっこめた。

「……とにかく、ハヤトさんのことは首都中で噂になっていますよ。ああでも、確かにお名前やお顔立ちもこちらとは違いますね」

「変ですかね……」

「まさか!少なくとも私は、外見で人を判断しないようにと父親から良く教えられていたので。それに、私自身『こう』ですし」

 ミーナはそう言うと、ちょっと笑った。その際、無意識か耳がピコピコと動いた。その動作にドキリとしたのは、やはりかわいいと思ったからなのだろう。

「ミーナさんも大変お綺麗ですよ」

「まあ!ありがとうございます」

「こちらこそですよ。それで、ミーナさんはどんな質問を?」

「そうですね……。少し専門的になるので、まずは魔術について勉強いたしませんか?私、王立魔導学院では魔術学を専攻していて、多少心得がありますので」

 願っても無い幸運である。

「それは有難い!ぜひお願いします」

「では、この本を使いましょうか」

 ミーナは自分の本の山の中から、『魔術基礎 下巻』を取り出すと、そして最初のページを開いて見せた。そこには、説明文とともに一本の線が引かれたイラストが載っていた。

「これは基軸と呼ばれるものです。一般に魔術式は、この一本の軸をもとに描きます。そしてこれが、」

 ミーナは基軸の両側の頂点を交互に指さす。

「始点と終点です。魔力が術式を流れる入り口と出口ですね」

「なるほど」

(今のところ、まあ分かるな)

 ミーナは隼人の様子を伺うと、ページをめくる。すると今度は、基軸の途中から一本の線が伸びているイラストに変わっている。

「これは術枝です。魔術とはこの術枝の分岐の仕方、繋がり方によって生まれる組み合わせを掛け合わせ、ある特定の事象を具現、あるいは表現することなんです。そして、この組み合わせが複雑多様であるほど、それに合わせて詳細な具現が可能となります」

「では実際の魔術では、この基軸から術枝が樹状に伸びていくわけですか」

「その通りです。これが魔術の基礎の基礎ですね」

(なるほど。この術枝と基軸、大昔に確率の計算で使った樹形図と似ている。幸い、内容を理解する取っ掛かりがあるな)

「では次です」

 今度は数ページ飛ばした。なにやらアラビア数字や数学記号と酷似した計算式が書かれている。

「これは魔術関係の数学的な公式ですね。数字は読めますか?」

「多分読めます。……これは1000×100ですよね?」

「そうです!これは例題ですが、いわゆる賢者の公式と呼ばれるものですね」

「賢者?まさか、シルヴィア様?」

「ええ。賢者様が1000年前、魔術を考案するにあたって、同様に考えだされたものです」

「ちょ、ちょっと待ってください。まさか、シルヴィア様は千年前から生きておられるのですか?」

「そうですよ」

 ミーナはさらっと言う。

(マジか…!ならあの人、なんであんな若々しいんだよ。それも魔術なのか?)

 中々失礼な事を考えるね……。と、どこかから聞こえた気がしたが、無視した。

「……まあ、それは一旦置いておきますか。それで、賢者の公式というのは?」

「そうですね。そもそも、魔術の内容はなんなのか、それはどのくらいの精度で、どのくらい限定的なのか。そう言ったいわゆる『魔術の出来』を表すのに、術式変数量と呼ばれるものが使われているんですが……」

 雲行きが怪しくなってきた。

「な、なるほど」

「それに加えて、魔術の規模を表すのに、魔力の総量が使われるんです。そしてこの二つをかけあわせることで、その魔術の効果と範囲、具体的には防御力や攻撃力、射程などが分かります。これが賢者の公式です」

 ミーナは公式を指さし言う。術式変数量×循環魔力量=暫定有効値などと書かれている。

「はあ……」

 隼人は考えた。つまり魔術は、樹形図のような枝分かれした『術枝』がどれくらい分岐し、魔力の通るルートの組み合わせが多いかでその内容と精度が決まり、そこに流す魔力の大きさで出力が決まる。そして魔術の規模を数値で表したのが賢者の公式、というわけである。

(これは一日じゃ到底終わらないぞ……)

「このほかにも、一般的なもので魔導方程式やベルクマンの法則といったものも存在します」

「そうですか……」

 隼人は早くも頭を抱え始めている。隼人自身、勉強は苦手ではないが、いかんせん異世界の学問を学ぶのは初めてなのだ。そんな隼人を見て、ミーナは少し笑った。

「フフッ。ハヤトさん、真面目なんですね」

「まさか……。魔術のさわりも理解しきれていない自分が歯がゆいんですよ」

「それが真面目なんですよ」

 ミーナはそこで言葉を途切れさせる。そして言った。

「……ハヤトさん」

「はい」

「もしよければ、また明日もここで会いませんか?」

「それは……迷惑では?」

「まさか!それに私、まだ隼人さんに質問できていませんし」

「……では、お言葉に甘えさせてもらいます。よろしくお願いします。ミーナさん」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。ハヤトさん」

 こうして隼人は、狼族の獣人、ミーナ・クライストからほんの数日、魔術の講義を受けることとなったのだった。

魔術関連はなんとなくで大丈夫です

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