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大陸首都アルカディア

「これが首都アルカディア……」

 隼人は目下に広がる都市を見て息を呑んだ。アルカディアの都市機能は、現代のそれと見間違うほど整然としていた。首都中心に見える堀を構えた巨大な城を中心に、大通りが放射状に延び、そこから市街地が蜘蛛の巣状に広がっている。さらに首都を横断するように川が流れ、首都郊外には川沿いに工場らしき広大な敷地が用意されている。真夜中でありながら、工場には煌々と明かりがつき、何本も建つ煙突からは工業排煙がもうもうと立ち上っている。想像以上の明るさと発展ようである。

(流石にこっちのが暗いけど、ちょっと東京みたいだな……)

 隼人はかつて見た東京の夜景を思い出していた。世界も異なるこのアルカディアで、勝手知った東京の街を連想するのは、どこか感慨深くも寂しくもあった。

「いや、夜景なんか見てる場合じゃないんだった。飛行場を探さないと……」

 だが、首都近郊は全て工業用地と農耕地で埋まっている。

「軍事基地もあるにはあるけど……」

 と、ふと目を向けた首都中心。一際目を引く巨大な城の横に、それらしい敷地を見つけた。

(……!あれ、滑走路だ!)

 よく見ると、滑走路灯も点灯している。

(ちょうど進入してる飛行機も無い。あそこに、なんとかして着陸させてもらおう)

 隼人は機体を右旋回させると、首都上空1000メートルを飛行し始めた。

(……撃ち落されたりしないよな)

 だが、自分を味方だと知らせる方法が無い。無線も当然繋がらない。

「また祈るしかないのか……」

 そして滑走路の着陸コースに入る。

(なんとかたどり着いたけど……ってあれは!)

 隼人は驚いた。なんと、飛行場の信号灯からモールス信号のようなものが送られてきたのだ。

(光信号!こっちも翼端灯で応答しよう)

 さらに、飛行場端に設置された対空砲のようなものは、砲口にカバーをかけられていた。

(戦う意思が無い。もしかして、俺を敵じゃないと認識してくれてるのか?)

「……よし!このまま着陸する!」

 隼人は、着陸体勢をとった。


 ちょうど同じ頃、アルカディア城王の間では、3人の王の前に賢者シルヴィアが跪いていた。

「謁見が遅れ、大変申し訳御座いません」

「良い。それより賢者よ、事の次第を説明せよ。邪竜らを打ち倒したのは一体誰だ」

 真ん中に座る王が尋ねる。彼ら3人、明治時代の大礼服のような服装である。

「聞くところによると、ワイバーンも2体倒されているそうではないか。ワイバーンといい、二度の邪竜、ゼロス将軍の侵攻といい、前代未聞だぞ」

 右の王もそれに同調する。そしてシルヴィアは答える。

「恐れながら、彼とその機体は、異世界から来訪したものと推測されます」

「なんと…!」

「まさか、勇者の再来か!」

「まだそうとは言い切れません。ですが、彼がその技術を以て、邪竜デスペラードとゼロス・タルコスを倒したのは事実で御座います」

「儂はてっきり貴様の魔術かと勘ぐっておったのだが、まさか異世界人とはな……」

「してその御仁は何処に?」

「首都飛行場で受け入れております」

「おお、そうか!ではここまで連れて参れ」

 真ん中の王の発言に、それまで沈黙していた首相が苦言を呈した。文官らしくきちんとスーツを着ている。

「レバラン王。まだ素性もはっきりとしない者を王の間に招き入れるなど……」

「そう言うなヴィクター。エリュシオンとノルザリアも儂と同意見であろう。それに、いざとなれば賢者もいる」

 それにまず右のエリュシオン王が頷く。

「うむ。あの邪竜とゼロス将軍を討ったのだ。祝福こそすれ、拒みはすまいよ。勲章を授与すべきだ」

 そして左のノルザリア王は言う。

「私も大方同意見だ。だが、まずは前線の再構築であろう。彼奴らの手によってヘルベル山地の砲兵陣地が壊滅した。それにステファノンとベントールの守備基地もだ。特にヘルベルは西方戦線の要所。今すぐにでも再占領せねばならないはずだ」

「……うむ、一理ある」

「済まないな、ノルザリア王。少し勝利に酔いすぎていた」

「謝罪には及ばない。かく言う私も、かの異世界人には一言謝辞を送りたいと思っているのだ」

 一連の会話を、跪きながらも聞いていたシルヴィアは心の中で思った。

(……茶番だな。ノルザリアはまだしも、後の二人は楽天すぎる。お飾りとはいえ、およそ王たる器ではない。それにヴィクター首相も、宰相だが腰が低すぎるところがある。これでは連邦君主制とした意味が無い)

「だがまあ、この立場を保証してくれる限りは仕えるつもりだが……」

 シルヴィアはそう呟くと、ヴィクター首相に言った。

「首相、恐らく例の機体が現着した。部下に伝えてくれ」

「速いな…!了解した」

 首相は自らの部下を連れて王の間を後にした。

「賢者よ、貴様は傍らに立て。その異世界人を見定めるのだ」

「……光栄で御座います」


 その頃、隼人は飛行場に無事着陸し、兵士の案内を受けているところだった。

「ハヤト空尉、こちらであります」

 そう言って兵士は隼人を目の前の城へと案内し始めた。彼は武器を持っていなかった。

(やっぱり、俺の事が伝わっている。クリス大佐が伝えてくれたお陰だろうか)

「あの、俺は今からどこに?」

「王の間です。国王3陛下が空尉の拝謁を望んでおられるのです」

「国王が!」

(そういえばここは連合王国だったな。でも、3陛下?)

「もしかして国王が3人もいるのてすか?」

「はい。我が国はかつての大陸三大列強国、ノルザリア王国とエリュシオン大王国が、レバラン王国と併合し生まれた国です。ですから3国の権威の平等を象徴するため王が3人おられるのです」

「なるほど……」

 それなら首都の栄え具合も納得がいく。この大陸の主要国が一つに合体したのだ。つまり首都は大陸の中心地。それに聖竜の結界によって安全も担保されている。経済の中心としておおいに栄えるのも当然だろう。

 そして隼人はこれまた巨大な内堀を越え、城内に入った。

「これは…!」

 城内は大変な繁盛ぶりだった。一階の大広間では、兵士たちが銃を担いだまま酒を呑み騒いでいる。その内容はどれも、神の使わした光が邪竜どもを打ち砕いた、といったものだった。上官はそれを黙認している。

(俺、神の使いだと思われてるのか?)

 隼人は妙な気持ちになりながらも大広間の横を通り過ぎ、螺旋階段を登って3階に到着した。すると目の前に、巨大な門が現れた。

「これが、王の間?」

「ここは一の門です。二重になっているのですよ」

 案内の言う通り、重厚な扉を開けた先にはまたもや大きな扉があった。こちらは金張りの模様が施され、息を呑む美しさを醸し出している。

(この中に、王様が……)

 隼人はごくりと唾を飲み込んだ。そして扉が開いた。

(あれが3王!)

 赤い絨毯の先、一段せりあがった舞台には、三席の玉座が置かれ、3人の王がこちらに視線を向けていた。さらにその両脇にはスーツ姿の恐らく文官と、そしてローブを着た若い女性が立っていた。特にこの女性は、一眼見ただけで只者では無いと分かった。

(なんて目をしているんだ。一体彼女は……)

「よくぞ参られた、勇者よ」

 隼人が気を取られていると、真ん中の王が、隼人に話しかけた。

「ゆ、勇者?」

「レバラン王……」

 真ん中の王、レバラン王の発言にローブを着た女性が指摘するが、本人はそれを意に介してはいない。

「良いではないか。して、そなたの名は」

「高峰隼人です……」

「タカミネハヤト。なるほど、異世界人らしい奇抜な名だ。それでハヤトよ、そなたは自らの飛行機械でもって邪竜とその使役者、ゼロス・タルコス将軍を打ち破ったそうであるな」

「……はい」

 どこかそう言い切り難かった。先ほどの戦闘は、ほぼ奇襲に近かったからだ。

「やはりそうか!いやはや、天晴れな戦いぶりであった。余や王たちも自室からその始終を見ておったが、圧倒されたぞ。兵たちも大層歓喜しておった。特に邪竜どもを殺した火球などは……」

 レバラン王は上機嫌にそう言った。そこで隼人は、ある疑問をぶつけてみた。

「あの、レバラン王。お褒め頂いて大変光栄なのですが、それとは別に、私は元の世界へ帰れるのでしょうか……」

「なんと、もう帰ると申されるのか?」

 それに隼人は正直に答えた。

「……元の世界が、恋しいのです」

「そうか……」

 レバラン王は何か言いたげな表情で腕を組んだ。そこにあの女性が進言した。

「陛下、彼の帰還に関しては私が」

「……!おお、賢者よ。何か思いついたか!」

「……」

 賢者と呼ばれた女性は無言で応える。

(……賢者?まさか、賢者なんてのもいるのか?それも彼女が?)

「ではハヤトよ。そなたの問いはそこの賢者に任せる。今日はゆっくりと休み、また明日語ろうぞ。」

「は、はい」

「ヴィクター、それで構わんか?」

「問題ありません、レバラン王」

 そして隼人は兵士に連れられ、門の外で先ほどの『賢者』に会った。

「初めまして、高峰隼人君」

 賢者はそう言って握手を求めてきた。それに隼人も応える。

「初めまして……失礼ですが、お名前は?」

「シルヴィア、シルヴィア・フェアチャイルドだ。呼び方は……適当でいい」

 シルヴィアはラフな感じでそう言う。先程とは雰囲気からして違う。

「ん?私の様子が気になるのかい?私はこれが素だよ。むしろ畏まった態度は疲れるから好きではないくらいだ」

 だそうだ。そして2人は長い廊下を歩き出した。

「あの、シルヴィア様は賢者と呼ばれていましたが……」

「そうだね。私は賢者だ」

「では賢者とは一体なんなのですか?」

「称号さ。この世界の一大学問に魔導総学というのがあって、そもそも……」

「あ、魔導総学は知っています」

「すでに知っている?誰に教わったんだい?」

「それが、ステファノン守備基地で……」

「ああ、確かにステファノンから君の報せが来ていたね。済まない、適切ではない質問だったよ」

「……構いませんよ。どうか、話の続きを」

「では気を取り直して。賢者とはつまり、魔導総学6学問の全てに精通し、かつ著名な功績を残した者に与えられる称号だ」

「ではシルヴィア様はどんな功績を?」

「魔力を最初に発見し、それから魔術を創った」

「……」

 予想以上の功績に隼人は言葉を失った。と、シルヴィアが足を止めた。

「着いたよ。ここが私の第二研究室だ」

 そこは、鉄の扉のついたいかにも厳重そうな部屋だった。シルヴィアがそれに手をかざすと、なんと扉は一人でに開いた。ちょうど手をかざした位置になにか幾何学的な紋様が刻まれている。

「これも魔術の一つだよ」

 シルヴィアは言う。そして入った室内は、お世辞にも綺麗とは言い難かった。

「突然の来客だったもので、物が片付いていないんだ。片付けの魔術も作るべきだったね」

 シルヴィアはそう言いつつも、本の山からスツールを二脚取り出し、開いたスペースに置いた。

「座りたまえよ」

 隼人が言われるまま椅子に座ると、シルヴィアは言った。

「さて、君の質問に答えよう」



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