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極大魔術

首都編終わりです

「丁度いい。景気付けだ、派手にいこう」

 シルヴィアはローブの袖から一枚の紙を取り出した。そこには、

『結界通過許可証 使用魔術 第一種極大魔術 仕様魔石 ナンバー32火属性魔石の5割』

 そう書かれていた。シルヴィアはそれを目の前にかざすと宣言する。

「許可証、執行」

 その途端、紙は一気に火に包まれ、そのまま一片の跡形もなく燃え尽きた。それが極大魔術使用の合図だった。

(大雑把にやりすぎても良くない。まずは……)

 シルヴィアが右手を上げると、その掌に赤い魔方陣が出現した。

刻印(シール)

 シルヴィアがそう言った途端、なんと目の前に迫るワイバーン10万匹全ての心臓に、同時に魔方陣が発現した。それを感じ取ったワイバーンたちは密集陣形を崩す。

「すごい、あんなに大量のワイバーンが散っていく……。あれがシルヴィア様の魔術か?」

 隼人は城の方を見る。だが、まだ魔術は発動してはいなかった。

「さて、下準備は完了した。後は焼き殺すだけ……」

 その瞬間、首都中の住民と兵士はその魔力のおこりを感じ取った。

「ッ……!」

(全身の毛が逆立つほどの高魔力反応!)

 ゴリアテは執務室の椅子からガタリと立ち上がり、思わず机に手をつく。

 そして隼人は、ソレを感じ取った。

(……くる!)

『全機左旋回!前方を決して直視するな!』

 その時だった。シルヴィアは呟く。

虚無の業火(イノセント・ノヴァ)

 その瞬間、直径5キロメイルもある赤く巨大な魔方陣がワイバーンたちの直下、その地面に浮かび上がる。

第三圏(ザ・サード)

 不意に首都中が太陽よりも明るい光に包まれる。その光は天まで達し、全てを呑み込む太く巨大な光の柱となって、魔方陣内のワイバーン98750体と、心臓の魔方陣から放たれた一条の光柱によって魔方陣の外のワイバーン2230体を跡形もなく消し飛ばし、殺した。

 その間僅かに30秒であった。そして魔方陣と共に光の柱が消え去り、首都に日光が戻ったころ、隼人は震える手で機体を操縦していた。

「こ、これが極大魔術…!」

 隼人の見る先、首都からおよそ6キロ離れたある地点。そこには巨大な円形の焼け焦げた黒い土地と、バラバラと落下する黒焦げのワイバーンの肉片が確認できた。

(たったの数瞬で、まさか10万匹のワイバーンを。大陸全ての航空戦力を、たったの一人で……)

 隼人は操縦桿を握りしめる。そして思わず呟いた。

「す、すげえ……。まるで戦術も戦略も意味を持たない、魔力の暴力!。それが、まるでコーヒーを入れるかのような気軽さで実行された……」

 隼人は高揚を覚えていた。

「……あれが賢者、あれが極大魔術!すげえ、マジですげえよ!」

 そして隼人は機体を上昇させる。この興奮の中で、隼人は任務の遂行を第一に考えていた。

『応答せよ、アルファ、ブラボー、チャーリー!』

 そこに雑音交じりの魔導無線が届く。

『こ、らアル……』

『ブラボー、し』

『チャリーよし』

(アルファの無線がやられているな。今の膨大な魔力の衝撃波で送信術式が焼き切れたか……)

『チャーリー1、応答せよ』

『こちらチャーリー1』

『アルファとブラボーを手信号で指揮しろ。目標は11時の方向2000、高度は3700だ。F-2の合図でチャーリーから戦闘を開始せよ』

『……了解』

 グラスマンは答える。それに隼人は微かな期待を持っていた。

(先ほどまでのレオンたちの心理、それを変えたい。でも、今の極大魔術では正直そこまでには至らない。余りにもレベルが違いすぎるからだ。でも、きっかけにはなる。この明確な状況変化による心情の揺らぎと、別動隊に勝つという達成感。それを得る好機に!)

 隼人は機体速度を上げ、更に高度を上昇させていく。

「俺も、シルヴィア様の後に続く!」

 隼人はついに作戦高度である高度8000メイルに到達した。そして旋回しながらワイバーンの別動隊をレーダーに捉える。

(……6体か。それも異常に早い。おそらく上位種だな)

 隼人は自身も降下する準備を整えておく。そして隼人は、チャーリーに通信する。

『降下開始』

 その時、第三航空隊チャーリー1のグラスマンは早まる動悸をなんとか抑えていた。

(クソ!急降下なんて何十回としてきたはずなのに。バイアラン砂漠でも、ユーグリスでも……)

 それは、アルファ1のレオンと、ブラボー1のホーガンも考えていたことであった。その経験ゆえの焦り。死への敏感すぎる直感。それらが腕と足を鈍らせる。さらに、待ち受けるのはワイバーンロードのさらに上位改良種、ワイバーンロードチェーンタイプ。

 その時だった。隼人の無線がグラスマンの耳に響く。

『俺が先頭を切る』

「な…!」

 グラスマンが上を見上げる。そこには、とてつもない速度でこちらに急降下する隼人のF-2があった。グラスマンは急いで手信号でレオンとホーガンに伝える。

「直上注意セヨ…?」

 レオンたちも上を見上げる。そしてレオンたちは思い出す。

『お前の前には俺がいる。先陣を切り開き、全ての戦闘の起点になるのは俺だ』

「……だからと言って、本当に実行する奴があるかよ!」

 その瞬間、衝撃波と共にF-2がその場を突っ切る。

「ッ……!」

 レオンは突風に思わず目を細める。そして見下ろす。そこには、頭を吹き飛ばされたワイバーンが落下する姿と、すでに機首を起こしてその場を離脱するF-2があった。その様はまるで、

「まるで俺たちを導いているみたいだ。訓練飛行の時と同じに……」

 気付くとレオンは操縦桿を握りなおしていた。グラスマンも、ホーガンも、みな息を整える。

(せめて、機体を傾ける程度の勇気を。今だけ、一線を超える無謀さを……)

 そして、グラスマンのチャーリー小隊が降下する。

「ああ、神様。今だけは見守っててくれよ!」

 そう言いながらもグラスマンは照準を覗いていた。

(何百回も訓練して、何十回と実行したんだ。今更外れるかよ!)

 その瞬間、機首に備え付けられた3機計6門の7.7ミリ機銃が青い火を吹いた。

 そして、その弾丸の雨は正確にワイバーンの頭部に穿ち、やがて砕いた。

「グアアアア…!」

 過ぎ去り際、ワイバーンの断末魔と血しぶきが舞う。それを見たアルファ小隊とブラボー小隊も急降下を開始した。

(今ならいける!)

『続け続けぇ!』

 レオンは勢いのまま正確にワイバーンを狙い撃つ。

(最優先は先頭のリーダー格!雑魚は後回しだ!)

 ついに3小隊の一撃離脱戦術が完了した。その跡には、頭部を失い墜落するワイバーンたち。

「……流石だ、高峰隼人」

 シルヴィアはその方向を見もせずに呟く。

『敵影無し、状況終了。繰り返す、状況終了』

『……みな、よくやった』

 隼人はただそう無線すると、チャーリー小隊を先頭に首都飛行場に機首を向けた。

 こうして、

「おっと、生き残りがいたのか」

 その時シルヴィアは、ワイバーンの進行方向とは真逆の結界に拒絶反応を検知していた。

(魔力がくすぶっていて気付かなかった)

「それにしても体当たりか、改造竜種にも『ヤケクソ』はあるのだね」

 シルヴィアはテラスを後にし、室内へと戻る。そしてなんともなしに椅子に腰かけ、お気に入りの魔導書を捲る。

 こうして、ワイバーン総勢10万匹の大進攻は幕を閉じた。


 一週間後、隼人はミーナに会いに行っていた。場所はあの図書館である。

「お久しぶりです、ミーナさん」

 彼女は書庫中央のベンチに座っていた。

「ハヤトさん!軍服、お似合いです」

「それは良かった」

 隼人はミーナの隣に腰かける。そして言う。

「……今更ですが、入学試験の時はお世話になりました。試験に合格したのはミーナさんのおかげです」

「そんなこと……。見ましたよ?ハヤトさんの実技試験の答案。革新的な発想でした!」

「ははは、そうですかね?ミーナさんにそう言われると、なんだか特別嬉しいです」

 隼人の発言に、ミーナはただじっと隼人の事を見る。

「………」

「ミーナさん?」

「……ああいえ、こちらこそ嬉しいです。ただ、不思議な感じがしただけですよ」

 ミーナは顔を背ける。

「はあ……」

「と、とにかくです!ご武運を、ハヤトさん」

「……!はい、必ず勝ってここに戻ってきます」

「私もそう願っています。それで最後に、これをお渡ししたくて」

 ミーナはそう言ってポケットから、クリスタルの牙が彫られた首飾りを取り出す。

「呪い除けのタリスマンです。これを身に着けていれば、軽度の呪いなら跳ね返してくれます」

「そんな大事なものを頂いても?」

「狼族の伝統なんです。それに、この首飾りよりハヤトさんの方が大切ですから」

「ミーナさん……」

 隼人は首飾りを受け取ると、ミーナと握手した。

「本当にありがとうございました」

「ええ、こちらこそ」

 ミーナは微笑む。やはりミーナはかわいい。それだけで、このアルカディアに未練が生まれてしまう。

 次に隼人はゴリアテに分かれの挨拶をする。

「ゴリアテ中将、今日までお世話になりました」

 それにゴリアテは言う。

「礼なんていい。どうせまた、いずれどこかの戦線で会う。だがまあ、その時は貴様をこき使わせてもらうぞ?」

 隼人は間髪入れずに答える。

「はい。そのつもりであります」

「はは、良い返事だ」

 ゴリアテは珍しく笑う。そして言った。

「期待しているぞ、少佐」

 隼人はその夜、ダルカ行きの車列の前で、バイパー大隊全員を集めた。後ろには、布をかぶせられたシーカー改と、隼人のF-2がズラリと並んでいる。

「さて、北方戦線行きだ、諸君」

「………」

「その胸中察しよう。だが戦争だ、命令は絶対であり、不可侵だ。我々はすくむ足に鞭を打ち、震える手で操縦桿を握らなくてはならない」

 隼人は一呼吸置く。

「ドーラ前線、『魔の左翼』においてもそれは変わらない。なるほど人は未知や不確かを恐れる。だが、それを克服してこそ勝利は輝く。軍人として、人間として、魔族を打倒するのだ!」

 一瞬の沈黙が過ぎる。そして

「おお!」

 歓声が上がった。

「では移動開始!エンジンに魔力を回せ!」

 隼人は途端に騒がしくなった北上道路で、ミーナから貰ったタリスマンを取り出す。

(……勝つさ、必ず勝ってやる)

 隼人の戦争は、ようやく始まったのであった。

首都編終わりです

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