1日目⑧
黙りこくる使用人を尻目に、わたしは得意のキャベツとジャガイモの味噌汁を作った。あとは焼き魚。味をしみこませているうちに、焼き加減を確認する。その手際に、使用人も目を丸くしていた。
「さぁ、それじゃあ旦那様をお呼びしましょう」
使用人は、もうなにも言わずについてくるだけだった。そんな使用人と対照的に、わたしはウキウキ気分で書斎へ戻った。
「ぼくはもう死ぬ。ぼくは明日死ぬ。明日の朝日を見ることもかなわず……」
「旦那様、落ちこんでいてはお腹は減るばかりです。さぁ、朝ごはんにしましょう」
勇気様は顔をあげた。目は赤く腫れあがり、せっかくのイケメンが台無しだ。でも、わたしの手料理を食べてくれたらすぐに元気になる…と思ったら、予想外のことをつぶやいた。
「料理は基本、ぼくが作っているんだけど。料亭三つ葉、知らない?」
「料亭三つ葉って、えっ⁉」
料亭三つ葉は、知る人ぞ知る名店で、名だたる富豪たちの行きつけの店だと評判だ。外国から三ツ星を贈られたと、うわさにもなっていた。
「あそこにたまに料理の指導で入るんだよ」
「えぇーっ⁉」
ということは、料亭三つ葉以上の腕の持ち主ってことじゃない⁉ それなのに、わたしはまんまと我流の味噌汁に焼き魚などを出してしまったのか。
「それじゃあ、行こう。楽しみだ」
勇気様の笑顔がとても冷たく見えた。