1日目⑦
「ちょっとこちらへ」
大号泣する勇気様から、使用人に引き離されて、わたしは当然のお叱りを受けた。
「なんということを言うのですか! 勇気様は明日死ぬというのに、どうしてそれを口にしたのです⁉」
「ご、ごめんなさい、その、うっかり…」
「うっかりでも許されないことはありますよ。…もう、今日はどうにもならないでしょう。明日まで一人にしてあげておいてください」
「そんな!」
こんな状態の夫を放っておける妻などいまい。…いや、それをいうなら、妻だったらあんな失言は絶対に許されないのだろうが、ともかくわたしは放っておくなどできなかった。
「ちょっとご厨房をお借りします」
「あ、お待ちください。まさか、手料理などふるまおうと思われていませんよね」
「そうですよ。よく考えたら、わたしたちもまだ朝は食べていませんし、ちょうどいいじゃないですか。料理人に頼めば、作らせていただけるでしょう?」
「いえ、料理人はいないのですが、ですが…」
煮え切らない使用人に、わたしはビシッと言ってやった。
「自分の失敗は自分で取り戻します。大丈夫、わたしこれでも、家事は得意なんです」
飛鳥家で、それこそ使用人のように扱われていたことが、こんなところで役に立つことがあるとは、人間何が幸いするかわからないものだ。