1日目④
旦那様である勇気様は、真顔でわたしにこうおっしゃった。
「ぼくのような人間と一日しか添い遂げることができないなんて、君はなんて哀しく、運の悪い女性なんだろうか! きっとずっと一緒にいたいと思っているだろうに、それがかなわぬ夢だとは、嘆かわしいことだと思わないか?」
「は、はぁ…」
ぽかんとしているわたしを無視して、勇気様は続けた。
「ずっと一緒にいたいと思っているのに、今日でお別れだなんて…。そうだ、それならせめて、今日くらいは素晴らしい日になるように、ぼくが最高の贅沢を味あわせてあげるよ! じい、じいはどこだ?」
わたしよりも早く、使用人が口をはさんだ。
「勇気様、どうか落ち着いてくださいませ。愛子様は、そのようなことは望んではおりません。あなた様との、何気ない一日を望んで婚姻を結んでくださったのですぞ! それなのにそのようなことをおっしゃられたら、愛子様の思いを無下にするようなものでございます」
使用人の言葉に、勇気様はなるほどとうなずいた。
「そうか…。そうだな、何気ない一日を思い出とするのも悪くないな。それならどんなことをしようか?」
考えこむ勇気様を見て、使用人がすばやくわたしに耳打ちした。
「毎日あのようにして、市江家の財産を使おうとするのです。…この屋敷に軟禁されているのも、それが原因なのです」
使用人の言葉に、わたしも納得するしかなかった。それほどまでに、彼の目が本気だったからだ。本気で、そう、まっすぐで誠実だったから。