1日目③
「明日死ぬって、えっ、どうして!? どこかお悪いのですか!?」
しかし、旦那様はわたしの話など全く聞かず、ただ泣きわめくばかりだった。そのすきに、使用人が耳打ちする。
「御主人様は、明日死ぬ病にかかっているのです」
「明日死ぬって、そんな!」
バツ9どころか、死んでしまうなんて! 驚くわたしに、使用人は続けた。
「もちろん、実際は死にません。ですがなぜか、本人だけはそう思いこんでいるのです」
「それなら、そう説得すれば…」
使用人は、あきらめ顔で首を振った。
「実際に、本人の中では死んでしまっているのでしょう。明日になればまた、同じようにわめきちらしていらっしゃるでしょう。もちろん、今日の記憶は完全になくなります」
にわかには、信じられない話だった。病気だと思いこんでいるならまだわかるが、明日死ぬと思いこんで、しかも本人の中では本当に死んでいるなんて。まごつくわたしを尻目に、使用人は旦那様に声をかけた。
「勇気様、どうかお気を確かに! …今日までの命と知り、わたくしめが勇気様のために、伴侶となる女性を見つけてまいりました。愛子様でございます」
おどおどとしているわたしを、旦那様はじっと見つめた。そして、一言だけこうつぶやいた。
「…申し訳ない」