1日目⑬
「それじゃあ、完成させないのですか?」
食後に書斎に戻ったわたしは、目を丸くしていた。
「ああ。無理に完成させるよりは、書けるところまで書いて、それで絶筆したほうがいいだろう?」
「でも、それでは織姫と彦星がかわいそうです!」
勇気様は、少し眉間にしわを寄せてわたしを見た。
「中途半端なハッピーエンドのほうが、よほど彼らにとって失礼じゃないかな?」
「そ、それは…」
「…すまない、責めるような口調になってしまった。でもね、愛子さん。結末を描いてしまうと、物語はそこで終わってしまう。でも、絶筆なら、そこからお話はふくらむんだ。…ぼくだって、人生は終わるけれど、お話は終わらない。…そうだ、だったらどうだろう、君が続きを書いてくれたまえよ」
「えっ、わたしがですか!?」
予想だにしない提案に、わたしは完全にめんくらってしまった。
「そう、君がだよ。だって君は、ぼくが出会った初めての、そして最高の読者なんだから。きっとできるよ。…さぁ、こうしちゃいられない。こっちへおいで。お話の書き方について教えてあげよう」
「えっ、結末を教えてくださるんではないのですか?」
「ぼくの結末と君の結末は違うよ。人生とおんなじでね。君には君の結末があるはずだよ。…そしてそれはきっと見つけられるはずだ。さ、おいで。お話の手ほどきをしよう」
完全に乗り気の勇気様に、わたしは頭を抱えるばかりだった。




