1日目①
わたしの旦那様は、とても素晴らしい方だ。やさしくて、料理上手で、ウィットに富んでいて、しかもなんと天才作家。わたしにはもったいないくらいの、素晴らしい旦那様だ。そして…明日、必ず死んでしまう。
市江家に嫁いだのは、単なる政略結婚以外のなんでもなかった。わたしの生家である飛鳥家が、市江家と財政的なパイプを結びたかったから。そして、たぶんわたしが邪魔者だったから。
生まれつき顔にあざがあったわたしは、家族みんなから忌み嫌われて育った。醜い、おぞましい、呪われた子だ…。すべてわたしの母から浴びせられた言葉だ。
だからわたしは、市江家に嫁に出されると知ったときも、大して驚かなかった。むしろ、これでようやく救われると、ほっとさえしたほどだ。たとえその相手が、バツ9だったとしても。
もちろん、表向きは未婚のままになっている。名家の御曹司が、バツ1どころかバツ9だなんて知られたら、大問題だ。飛鳥家の人間も、弱みを握ったなどと浮かれるものはいなかった。むしろ、市江家という上流貴族とパイプを繋げるということで、皆大喜びだった。
わたしは市江家に招かれたあと、豪華な屋敷に案内され、一晩待つように使用人から言われた。式などは挙げないのかと聞いたが、無駄だからしないと答えられた。きっとわたしは、記念すべきバツ10の妻となってしまうと、そう思われているのだろう。
だが、その期待はきっと裏切られる。いや、裏切ってみせる! わたしは必ず、市江家の一員になってやるんだ。…あの蔑まれる日々に戻るのだけは、絶対にいやだ!