9話 青い小鳥たち(外伝後のお話)
「おはよう、フェル。今日もいい天気ねえ」
コバルトブルーの兜を抱え、寝室の窓辺に立つ。外には抜けるような青空が広がっている。
王城でエドウィンを見送ってからどれくらい経っただろうか。シエラ・シエルは魔物の被害が軽微だったので特に復興が必要な箇所もなく、教え子たちと各地を回ったあとは、いつも通りの日常を送っている。
フェリクスを失った悲しみのあまり、大事な友人が道を誤ったことに思うところがないわけではないが、いつまでも囚われ続けるのは、二人の望みではないとわかっていた。
ミルディアはもう歩みを止めない。一千年先まで二人を連れていく。アルティが受け継いでくれた技術と共に。
「今日は何をしましょうか。仕事も休みだし、レモンタルトでも焼こうかしらね。エドウィンの離れも掃除しないと……」
一日の予定をあれこれと立てていると、ふいに窓辺に二羽の小鳥が舞い降りた。兄弟か友人か、それとも恋人か――とても仲睦まじい様子でミルディをじっと見つめている。
「あら、青い鳥なんて珍しい。どこから来たの?」
兜を置き、そっと窓を開ける。小鳥たちは不思議と逃げもせず、家の中に入ってきた。まるで、勝手知ったる我が家とでも言うように。
指を伸ばすと、一羽が擦り寄ってきた。頭を撫でてもらいたいのか、嘴でしきりに甘噛みしてくる。もう一羽はそれを呆れたように見つめている。まるで人間みたいな態度に笑みがこぼれた。
「人懐っこいわねえ。フェルがいたら喜びそう。ねえ、あなたたち。よかったら一緒に朝食にしない? とびきり美味しいクッキーを食べさせてあげるわよ」
確か、ベリーのクッキーがまだ残っていたはずだ。キッチンに向かうと、小鳥たちはあとをついてきた。小さな羽を羽ばたかせ、迷いもせずにダイニングテーブルの上に着地する。
ほんの一瞬、幻を見た。フェリクスとエドウィンが席についている幻を。小鳥たちがいるそこは、二人の定位置だった。
「……この家が好き?」
小鳥たちが可愛らしく囀り、ミルディアを見つめた。当然、とでも言いたげな様子に、胸の中に何かが込み上げてくる。
「うちの子になる?」
涙ぐむミルディアに答えるように、ちちち、と鳴いた鳥たちが大きく羽を羽ばたかせた。
一人と二羽はこれからも仲良く暮らしていきます。