3話 封筒と便箋探しも大変です(3部本編終了後から閑話までのお話)
「絶対これがいいって!」
「ええ……。ちょっと派手すぎませんか」
「いいじゃないか、派手な方が。七年ぶりに手紙書くんだろ? シンプルなのは味気ないって。ほら、見るだけで華やな気持ちにならないか?」
ぐいぐい推してくるリリアナに眉を下げる。彼女の手の中には真っ赤な薔薇の絵が散りばめられた封筒と便箋がある。どう見ても、成人した男が実家に送るものじゃない。
「できれば花じゃないほうが……」
「なら、これはどうだ! 女の子人気ナンバーワンだぞ。ティーディーちゃんたちが喜んでくれると思わないか?」
今度はリボンと女の子のイラストが描かれた、よりファンシーなものだった。
これを受け取った家族がどう反応するか考えるだけでも怖い。特に姉たちなんて、笑い飛ばしたあとに様子を見に来そうだ。仕事のしすぎで弟がどうにかなったと思って。
「さすがにそれはちょっと……。確かに妹たちは喜ぶかもしれませんけど」
「これも駄目なのか? 私はいいと思うけどなあ。こんなに可愛いのに」
「……やっぱり俺が選んだやつの方が」
「あれは駄目だって! なんだよ、無地って。仕事の手紙じゃないんだぞ」
「いいじゃないですか、無地! なんにでも使えるし」
騒ぐアルティたちを、文房具屋の店長がカウンターから微笑ましそうに見守っている。
ウルカナから戻り、実家からの手紙を受け取った数日後。リリアナと連れ立って封筒と便箋選びに来たものの、お互いの好みが違いすぎて暗礁に乗り上げているのだ。
可愛いもの好きのリリアナに対し、実用性重視なアルティは、棚のポップに『お買い得セール品!』と書かれた情緒もへったくれもない封筒と便箋を選ぼうとして、リリアナからストップをかけられていた。
(封筒と便箋ってこんなに種類があったんだなあ)
店の一角を占拠する棚の中には、数えきれないほどの封筒と便箋が並べられている。
冠婚葬祭用のシックなものから、熊騎士シリーズの主人公を描いたものまで様々だ。普段工具しか手に取らないので新鮮ではあるが、いかんせん選択肢が多すぎて決められない。
「じゃあ、これは? さっきよりもシンプルだし、可愛さもあるぞ。他のよりちょっと高いけど、その分上品だし、大人な感じだろ?」
渡されたのは、金の箔押しにレース柄の可愛らしい封筒と便箋だった。とはいえ、可愛すぎるわけではなく、リリアナの言う通り大人な可愛さだった。それに、金の箔押しなんてルビ村ではまずお目にかかれない。
(……首都でちゃんとやってるって思ってもらえるかも)
ちらりとリリアナを見る。その期待に満ちた目を見て、思わず口元が緩んだ。
「これにします。ありがとうございます」
リリアナが嬉しそうに笑う。
手紙には何を書こうか。この封筒と便箋をリリアナと一緒に選んだと知ったら、家族はさぞや驚くだろう。
そう考えるだけで、胸が躍った。
アルティの辞書に情緒の二文字はありせん。