1話 魔法紋師の未来予想・その2(1部終了後のお話)
小話集です。一話あたりは短いです。
800〜2000文字程度。
箸休めとしてお気軽にお読みください。
「アルティ、お疲れさま!」
レイの声を合図に、ぶつけ合ったジョッキを勢いよく煽る。仕事のあとの一杯はたまらなくうまい。ここしばらく工房にこもりっきりだったから余計にだ。
周りには同じようにジョッキを掲げている飲兵衛たちがいる。外はまだ明るいが、これが職人街の日常だ。朝が早い分、工房を閉める時間も早いからである。
シュトライザー工房には閉店時間を守るという概念はあまりないが、今日はクリフが職人組合の会合でいないので、その隙に店を閉めて出てきたのだ。
ここぞとばかりにビールをぐいぐいと飲み進めるアルティを見て、鼻の下にビールの泡をつけたレイが笑う。
「相変わらずペース早いなあ。もうちょっとゆっくり味わったら? 明日からまた工房にこもる日々が続くんでしょ? 英雄の兜の受注がひっきりなしで」
「ありがたいことにね。リリアナさんのおかげだよなあ。歩く広告塔みたいなもんだもん。今のうちに作れるだけ作っておかないと。このブームがいつまでも続くとは思えないし」
「君って若いのに現実的だねえ。本当はエルフなんじゃない?」
しみじみと頷くアルティに、レイが大きく肩を揺らす。早くも酒が回ってきたらしい。またべろんべろんになられては困るので、こっそり店員に水を頼んでおく。
「そういえば、昨日、詐欺師がレイの店に来たんだって? 大丈夫だった?」
売り出したばかりの魔石ドライヤーの魔法紋を勝手に書き換えて返金させようとした客がいたらしい。見る限り怪我もないし、大事には至らなかったようで何よりだ。
レイは赤くなった顔でつまみのチーズを摘むと、ふわふわと頷いた。
「うん。リリアナ連隊長が捕まえてくれた。そのあと、アルティのこと、もっと教えてくれって言ってきてさ……」
「え? 俺のことを?」
「嬉しそうだね」
「そりゃそうだよ。お客さまに気にかけてもらえるなんて光栄だもん。新しい依頼もくれたし、これから長い付き合いになればいいなと思うよ」
一人でも得意客が増えるのは嬉しい。うきうきとジョッキを傾けるアルティをじっと見つめて、レイが人差し指をこちらに向けた。
「君、きっといつかあの隣に立つようになるよ。断言する。僕の勘は当たるんだから」
「それって、どういう……レイ? レイ?」
机に突っ伏したレイの体を揺する。
返ってきたのは、すやすやと心地よさそうな寝息だけだった。
レイの未来予想は大当たりでした。