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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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73.大陸復興計画会議2

 リーゼロッテは手を挙げた。


「ヴェーゼブル伯爵率いる近衛部隊は南部で吸収できるとみていいのかしら?

 北部に彼らを養う余地はある?」


 ゲルドシュタート侯爵が手を挙げた。


「予想より遥かに小規模な集団です。

 ラスタベルト王都でも十分収容できますが、一部は南東部の裏社会構築に組み込みます」


 となれば、充分に余裕がある。

 それなら、魔王へ裏社会の人間を出荷する余裕も生まれるだろう。


 リーベルト公爵が手を挙げた。


「北部はレッティングル公爵一派が壊滅したことで、表社会にはなりますが、こちらも余裕があります。

 ヴェーゼブル伯爵一派を受け入れる程度の余地は充分にあるでしょう」


 ヴェーゼブル伯爵一派は、ラスタベルト王都と北部、どちらに居てもいいという事だ。

 彼女たちに今すぐ出来る事はない。

 リーゼロッテが頭を悩ませ始めた。


 ゲルドシュタート侯爵が手を挙げた。


「殿下、何故元々リーベルト公爵の副官であった私ではなく、新顔のヴェーゼブル伯爵をリーベルト公爵に付けようと思ったのか、お伺いしても宜しいですか?」



「あなたがリーベルト公爵に近い個性をしてるからよ――」


 ゲルドシュタート侯爵は、ヴィクターと協力して南部を統括しているようなもの。

 一人で北部の裏社会を渡り歩くには心許ない。


 一方でヴェーゼブル伯爵は機転が利き、生き残る能力が飛び抜けて優れている。

 集団で行動すれば階級以上の結果をもたらす。

 厳しい北部の裏社会でも、リーベルト公爵を支えるのに十分な力を持った群体だ。


 それに既に南部はゲルドシュタート侯爵を主軸に動いている。

 引継ぎをするコストが今は惜しい。


 ヴェーゼブル伯爵自体はリーゼロッテとも相性が良い。

 悩んだが、今は北部を支える力を優先した。


「――どうかな、納得した?」



 ゲルドシュタート侯爵が渋々頷いた。


「はい、確かに仰る通りです」





****


 リーゼロッテは手を挙げた。


「では、早期に解決しなければならない課題、魔族の潜伏について、良い知恵はないかしら」


 どう考えても北部の復興と並行して潜伏するのは不可能。

 リーベルト公爵という四魔公を養わなければならない。

 彼の一派もそれなりの数に上る。


 一方で北部は貧弱な人間社会のまま、拠点となる街もない。

 どの国家も衰退していて、簡単には裏社会の基盤を整えられそうに思えない。

 隠れ潜む場所が見当たらない、という事だ。


 彼らの食糧事情もある。

 どうしても負の感情を食べる必要があるから、生贄は必要となってくる。

 考えられるのは野盗くらいだが、それも長くは続かない。

 結局、民衆から負の感情を搾り取るしかない。



 いっそ南部で収容できればなぁ……。


 フリッツが手を挙げた。


「一遍に全部やろうと欲張るから身動きが取れなくなるんだよ。

 北西部と北東部、分けて考えな。

 それに魔族が姿を見せながら復興したっていいじゃねぇか。

 最終的に姿を消せばいいんだろう? 北西部の一国に拠点を持って、そこに居すわりゃいいさ」



 確かに、リーゼロッテは欲張り過ぎだ。

 南西部も、少しずつ手を広げて今がある。

 ならば北西部や北東部も、少しずつ手を広げればよい。


 リーゼロッテが反省した。



 フリッツが笑った。


「そういうこった――

 半年後、間違いなくロシュトック王国の港町、ヴァレンが基点となる。

 ヴェローナ王国から最も近い港だからな。

 そこから物資を配分していく形になるだろうよ。

 そうすりゃあ物資を求めて人が集まってくる。

 人が集まりゃ野盗も集まる。

 魔族は野盗を襲って食えばいい。

 それで当面は一般人の消費を減らせるはずだ。

 治安維持との一石二鳥って奴だ」



 フリッツの話だと、既に農地はそれなりにあるらしい。

 森を開拓していけば、農地を増やしていく余地もあるそうだ。

 伐採した木材を保管しておけば、全てが無駄になる訳でもない。

 北部の芋は特産品として南部に出荷できる。

 木材と芋、この二つが当面の輸出品だろう。


「元手があるなら、配給って形にする必要はないんじゃない?」


「麦の価値がたけぇからなぁ。

 一握りの麦を手に入れるのに、芋が一袋くらいになっちまう。

 すぐに芋が足りなくならぁな」


 木材ならいくらかマシだろうが、芋は交換レートが見合わない、という事だろう。

 その木材も、急いで大量に欲している訳ではない。

 交換レートは低くなるだろう。

 ならば、しばらくは配給にするしかない。



 アロイスが手を挙げた。


「北部は人的資源、具体的には精強な兵士や騎士が豊富だ。

 そいつらが必ず力を持て余してる。

 そういうやつらを陸路や海路で雇って、報酬として南部の品を渡すってのも悪くないはずだ。

 カリアン人より強いのは保証してやるよ」


「そんな人たちが、魔族の支配下で残ってるものなの?

 逆らって殺されてないの?」


「そいつぁ確かめてみないとわかんないねぇ……

 だが募集をかけてみるのは有りだ。

 海路が復活したら、北部のそんな奴らを南部の兵士として雇う――

 そんな道を提示してやるのもいいだろう」


 ヴィクターが手を挙げた。


「そんな人材がいれば、殿下の低級眷属は不要になるでしょう。

 ヴェローナに海路の連絡船の運用を依頼してみてはいかがですか。

 もちろん、数の調整は必須です。

 供給できる食料に限りがあるのは忘れないでください」


 無理にラスタベルト集落の統廃合を急ぐ理由が消える。

 定期的に人数を絞って、北部から連れてくる。

 そんな形になるだろう。



 リーゼロッテが腕を組んだ。


「やっぱり、北部の食材が余り気味なのがもったいないわね。

 なんとか南部に輸出できないものかしら。

 北部の芋が入って来れば、それだけ養える人間が増えるわ。

 南部の人間なら、芋に飽き飽きする事もなく、豊富な調味料で味付けを楽しめるんじゃないの?」


 ガートナーが手を挙げた。


「北部では南部で不足している食材に飢えているはずだ。

 芋の代わりに交換できる物が、今の南部にないんだよ。

 食材以外を持ち込んでも、見向きもされやしないだろう」


 特に主食の原料となる麦が求められている。

 初期のラスタベルトと同じ状況だ。


「うーん……

 どうにか生産量を劇的に増やす方法ってないのかなぁ?」


 フリッツが手を挙げた。


「豊穣の神の神殿を各地で機能回復させて、若い世代に魔法を使わせてまわるぐらいしか思いつかねぇな。

 他の神の神殿を回復させる訳にはいかねぇんだろう?」


「お父様が飛んできてしまうわね。

 お父様を何とかできないうちは、その方法は採れないわ」


「それだ。

 魔王を早期になんとかできりゃあそれが一番良いだろう。

 それだけで、取れる選択肢が一気に増える。

 目途は付いてるのかい?」


 リーゼロッテは肩をすくめた。


「『不意を打てば?』と言われても、用心深いお父様の不意を打つ方法なんて思いつかないわよ」


「思いもしない場所、思いもしないタイミングで思いもしない相手から襲われるってのが最も不意を打てる。

 それについてはどうなんだ?」



 魔王は魔王城に籠りきりだ。

 その外に行くなら、必ず警戒する。

 仮に油断をするなら、魔王城の中しかない。


 思いもしないタイミング……これはリーゼロッテには全く思いつかない。


 思いもしない相手……これはリーゼロッテがやると決めている。



「なるほどなぁ。

 なら次に魔王城に行った時、魔王を倒せないかやってみるか」


「簡単に言うけど、お父様を倒す方法もわからないのよ?!」


 ガートナーが手を挙げた。


「リズはいつも魔族を瞬殺してきただろう?

 あれと同じ方法は採れないって事か?」



 リーゼロッテは『この場だけの秘密よ?』と言い含めてから解説する。

 同族の倒し方のコツなんて、リーゼロッテは本当なら教えたくないのだ。



 魔族には弱点――核と呼ばれる部位がある。

 それ以外の部位なら破壊されても再生できるが、核は再生できず、そのまま塵となる。


 だがその位置は個体によってまちまちだ。

 ある個体は頭、ある個体は胸、ある個体は右手――それくらい違う。


 格上の個体は格下の個体の弱点の位置を感覚で理解する。

 リーゼロッテと魔王だと、魔王の方が格上なので、彼女にはその位置がわからない。


 そして弱点なので、当然防御結界術式で守ってる。

 その個体の魔力に応じた強さの防御結界を張る。

 リーゼロッテが格下の魔族を相手にする時は、防御結界を貫く威力で魔力の矢を放ってる。

 格上の魔王の防御結界を貫くのは、今のリーゼロッテには無理だろう。



 フリッツが興味深そうに頷いて聞いていた。

 魔族の生態に関する詳しい知識は、さすがに初めて知ったのだろう。


「なるほどなぁ……

 そういう理屈だったのか。

 そうなると、弱点の位置を知る魔法と、それを防御結界ごと射抜く矢を放つ魔法、それを使えば倒すことはできるんじゃねぇか?」


「失敗したらそれで終わるのよ?

 可能なの?」


 フリッツが頷いた。


「『魔王に知られずに、その弱点を知る魔法』を願えば、まず弱点の位置がわかる。

 無理なら神は応じねぇ。

 次に、『防御結界ごと魔王の弱点を射抜く矢を放つ魔法』を願う。

 無理なら神は応じねぇし、可能なら魔法が発動し、魔王は弱点を射抜かれる。

 危険は一切ねぇな」


 リーゼロッテは「やる価値は……ありそうだな」と判断した。

 危険がないなら試すべきだ。


「だけど私に、お父様を滅ぼす事が本当にできるのかな」


 リーゼロッテは覚悟していたつもりだった。

 だがいざ方法がわかると、怖くて堪らないのだ。


 フリッツが笑った。


「お前の子供がもうじき生まれるんだろう?

 その姿を見れば、その子供を守る為に決心がつくんじゃねぇかい?」


 アロイスも笑った。


「あんたがあれほど失いたくないと願ったヴィルケ王の熱い想い、それも魔王を倒さなければ失われちまうんだ。

 それを想ってみてもいいかもしれないよ?」




 そっか。


 私とユーディトの子供、ヴィルケ王のあの胸を焦がす熱気。

 その二つを守るには、私が決心を揺るがせちゃいけないんだ。


 それだけじゃない。

 子供たちみんな、ラフィーネやイェルクだって、私は失いたくなんかない。




 リーゼロッテが決意を湛えた眼差しに代わった。

 その顔を見たフリッツが、満足そうに頷いた。


「その顔が出来るなら大丈夫だろう。

 今思った事を、魔王を前にした時にもう一度思い出してみな。

 それで決心できるはずだ」





****


 昼になり、人間たちは昼食を取っていた。

 南部の人間たちは、顔をしかめながら食事を進めている。



 ガートナーが呆れたように芋を眺めてる。


「なんだこの芋……

 食えるけどそれだけって感じだな」


 フリッツが笑いながら頷いている。


「俺も最初食った時は驚いたもんさ。

 どう味付けしても大して変わらん。

 品種改良が必要だな」


 アロイスが懐かしそうに芋を口にしていた。


「懐かしいねぇ……

 故郷の味だ。

 これはこれで、主食でなければ悪くないんだよ」


 主食とするから嫌になるらしい。

 多様な調味料で味付けをする方法は昔からあるそうだ。


 リーベルト公爵が苦笑していた。


「その程度の工夫はもう、やるだけやった後だ」


 現地の文化、そういう工夫は当然だ。

 調味料も北部だけでは限界がある。

 二十年間そればかりじゃ限界だろう。

 南部の食材がどうしても必要という事だ。


 ヴィクターが言葉を告げる。


「それだけ需要があるんだ、海路が確立したら、間違いなく南部の食材を仕入れた奴が、北部で売り始めるだろう。

 そして安く仕入れた北部の食材を南部で高く売る。

 一つ一つは小さな利益でも、大量に仕入れられるならそれなりの利益が出る。

 北部の根菜も独特の味だ。

 そちらも需要はあるだろう」



 北部はまだ、貨幣経済が機能していない。

 基本は物々交換だ。

 北部の食材の代わりに南部の食材を持ち込み交換する形だ。



 リーゼロッテが眉をひそめた。


「南部の食材、需要の高そうな麦や乳製品辺りが北部に流出してしまうということ?」


 ヴィクターが頷いた。


「そういうことです。

 市内に出回る食材の量が減り、価値が上がります。

 貨幣経済で暮らしている庶民の生活を圧迫するでしょう。

 北部の食材も大量に出回りますが、南部の主要食材の値上がりは避けられません」


 リーゼロッテが頭を悩ませた。


「それをしばらく禁止するしかないのかな」


 ヴィクターが応える。


「そうすると闇市の中で扱われるだけですね。

 裏社会が育ちやすくは成りますが、庶民の暮らしを圧迫するのは止められないでしょう」


 フリッツが笑って告げる。


「なぁに、既に海自体は通じてるんだろう?

 それを知られてないだけで、確かめる奴が出たらヴェローナからこっそり船を出す奴がいつ出てもおかしくない状況だ。

 もう後戻りなんざできねぇさ――

 港で検閲するぐらいしか、手はねぇな。

 それでかなり抑えられるが、全てを防ぐのは無理だな」


 リーゼロッテがため息をついた。


「じゃあやっぱり、豊穣の神の信徒を増やしてでも、各地の生産効率を挙げて行くしかないね」


 ガートナーが頷いて告げる。


「魔導士や神官、その一割を各地の機能回復、二割を各地で魔法を教える人員にする予定だ。

 残りはひたすら、穀倉地帯の生産力を上げる魔法を祈る。

 種を蒔いて魔法を祈れば即座に実る。

 あとはひたすら農作業をする人間が麦を刈り取り脱穀して粉にするって力技だ。

 前はそれも魔導士や神官が魔法でやってたが、さすがに持たねぇ」



 そんな荒業で生産効率をあげていたらしい。

 リーゼロッテは『やはり魔法……反則では?』と遠い目をしている。

 粉にするまでも手間暇かかる。



 リーゼロッテが手を挙げた。


「ねぇ、それ理屈を教えてくれれば私でも大規模に量産できるんじゃない?」


 フリッツが笑った。


「ははは!

 理屈なんざ簡単だ。

 刈り取った麦から実を取り出して、殻をむく。

 中身を乾燥させた後は、砕いて粉にする。

 そんだけだ」


 リーゼロッテは『ああ、本当に簡単にできそうだ』と思えた。


「じゃあ一時的に私が手伝うから、それで人を増やそうよ。

 人が増えれば魔導に頼らなくてもよくなるんでしょう?」


「刈り入れはそうだが、脱穀や製粉には機材が必要だ。

 その数が足りねぇよ」


「じゃあ、カリアンで作ってもらうとか?」


「製粉には人間以外の力が必要なんだ。

 長時間粉砕機にかけて挽く。

 手で挽くのは重労働で量産は無理だ」



 量産するなら省力化は必須。

 二十年前の設備を修理すれば、なんとかなるという話だった。



 リーゼロッテが尋ねる。


「ヴィクター、その設備修理はやってるの?」


「進めていますよ。

 でなければ生産力を上げられませんから。

 その上で、半年はかかると申し上げています」


 リーゼロッテが思いつくことを、ヴィクターが手を打って居ない訳が無かった。


「庶民の生活が圧迫されるのを防ぐ手は、港の検閲ぐらいしか無いかな?」


「軽減は可能でしょう。

 ヴェローナ国王に依頼をお願いします」


「わかったわ、それは引き受けるわね」


 増産するにしても、その製粉までの工程で律速していた。

 リーゼロッテは別の対策も考えてみた。


「じゃあ庶民の生活が圧迫されたら教えてよ。

 その時に私が術式で一時的に粉を量産するわ」



 在庫を山と積み上げる事で値下げ圧力を加えるという事になる。

 その場凌ぎの対応だが、庶民が入手できなくなるような事にはならないだろう。


「軽減は見込めるでしょう。

 全体で見れば生産量自体は上がりますから、各地の富裕層を中心に生活が豊かにはなるでしょう」




 リーゼロッテは『富裕層中心か』と悩んでいた。

 人間社会は、あちらを立てればこちらが立たない。

 『庶民のみんなが笑顔になれる日は遠いなぁ』と黄昏ていた。


 特に今は、人口に対して食料の供給量が絶望的に足りていない。

 その状況で大陸全土が食料を取り合っている。

 どうしても手からこぼれる人間は出てしまう。


 ――でも、胎児を育てる母親の気持ちで、気長にやるしかないか。





****


 午後になり、議題が南東部の課題解決に移った。


「南東部をなんとか扱いやすくする方法、何かないかな」


 フリッツが手を挙げた。


「歴史の中には連邦制って国家があった。

 要は小さい国を纏めちまって、それぞれの国王を領主みたいな扱いにするんだ。

 連邦国に中央政府を置いて、そこに意志を伝えればいい。

 中央政府で小国の国王や代理人たちが意見を出し合って連邦国の運営を決める――

 まぁ、その連邦国の名前や中央政府の場所を決めるのは、どうしても揉めちまう。

 リズが独断で上から指示するしかねぇだろうな」



「国の名前か。

 さすがに私にはどうしたらいいかわからないわ――

 ねぇ、あのあたりの地方には名前はないの?

 海にせり出して、特徴的じゃない?」


「メルトムント半島の事か?

 昔からそういう地名は付いてるな」


「じゃあそれで決まりね!

 メルトムント連邦国!

 中央政府の場所は、ヴェルモトーネ王国よ」


「ははは!

 決めるのがはえぇな!

 なら執政官として、上からそういう指示を出すといい」





****


 リーゼロッテは手を挙げて次の議題に移る。


「これで南部は時間が解決するのを待つだけね。あとは北部よ」


 魔族の問題と、人間の闘争問題だ。



 フリッツが手を挙げた。


「さっきも言ったように、最低限の人員を残して魔族を一か所に集めておけ。

 ヴァレンに食材が集まり始めればロシュトック王国に人が集まり始める。

 そうしたらそこに魔族も順次移動させちまえ。

 なるだけ魔族を固めちまってから、リズが各国の国王に今後の方針を伝えて回れ。

 あとは自治に任せとけ――

 それでいいかい? そこの兄ちゃん」



 兄ちゃん、と呼ばれたリーベルト公爵が戸惑いながら頷いた。


「ああ、それで構わないならそうしよう」


 魔族が居なくなれば、それだけ人間は羽を伸ばせる。

 生活にゆとりが生まれるはずだ。



 リーゼロッテが手を挙げて述べる。


「言葉だけで説得力を与えることは難しいと思うの。

 やっぱり、早い時期に私が一時的に生産力を上げてでも、一度は麦を渡してみせた方が良いんじゃないかしら」


 フリッツが顎に手を当てた。


「そうだなぁ……

 確かにその方が説得力が出る。

 海路が整備されたら、一度配給を試してみるのは有りかもしれねぇな。

 ヴァレンに麦を運んで、そこから陸路を使う」


 ヴィクターが手を挙げて述べる。


「さすがに北部各国に配って回るのは負担が大きい。

 北西部と北東部、二か所に配ってそこから配分してもらうのが関の山じゃないか?

 人員にも、そう余力がある訳じゃない。

 この輸送には、飢えた人間は信用ができないから使えない。

 南部の人間を使うしかないからな」


 フリッツがニヤリと笑う。


「なに、各国に『ヴァレンまで取りに来い』って言やぁ済む話だ。

 こっちは大した負荷にはならんさ。

 そんときに魔族が護衛と身分を証明する意味で同行するんだ。

 どうだ? 悪くない案だと思わねぇか?」



 リーゼロッテが『なるほど~』と唸っていた。


 身分証として魔族を使う。

 二重取りをしようとしても魔族が『もう受け取った』と言うだけだ。

 魔族の奪い合いなど、人間にはできない。

 盗賊など、貴族階級魔族が一人居れば対応可能だ。

 そうして魔族が同行した各国の輸送部隊は、街道を整備しながらヴァレンまでやってくる。


 様々な効果を見込める。





****


 リーゼロッテは手を挙げて、また次の議題に移る。


「では最後よ。

 北部の人間の闘争問題。

 これはなにか案があるかしら?」



 アロイスが手を挙げた。


「それはもう、魔族が見張るしかない。

 これは国民性と、国家の軋轢の問題だ」


 闘技場のような不満のはけ口を作る手もある。

 だが、今すぐどうにかできるものでもないだろう。



「今はそれでいいけれど、魔族が裏社会に隠れたらどうするの?」


 フリッツが手を挙げた。


「表立って動ける抑止力って奴が必要だ。

 争いがあったら仲裁に入って、衝突をしたら両方に制裁を加える。

 そんな強い組織か国が必要になる」


「当面はそれを私が担当するけど、極力人間の自治に任せて行きたいのよね。

 どうしたらいいかしら」


 アロイスが手を挙げて述べる。


「私の故郷、ビットブルク王国の騎士たちがまだ生き残ってるなら、ビットブルク王国を中心にいくつかの国で集まれるかもしれないね。

 それでなんとか仲裁と制裁を試してみようじゃないか。

 軍事同盟を結べる国が、いくつかは見つかるかもしれない」


「じゃあそれは、アロイスさんに任せていいのかな?」


「そうだね、引き受けてやってもいいが……

 それは時期を見てって事でいいかい?

 今のリズを放って北部へは行けないからね」




 アロイスは、優しくリーゼロッテに微笑んでいた。

 リーゼロッテにはその微笑みの意味がわからず、頬を染めて俯いていた。





****


 リーゼロッテは大きく手を打ち鳴らした。



「今決められる方針は、全部決め終わたかな?」


 最初は頭を抱える問題の山だった。

 だが知恵を出し合えば案外対応策はあるものだと、リーゼロッテは感心していた。



 リーベルト公爵が頷いた。


「ようやく希望が見えた感じですね。

 会議前よりもずっと明るい未来です」


「ヴェーゼブル伯爵の事はどうする?

 とても頼りになるわよ?」


 リーベルト公爵がわずかに逡巡した。


「……では、なるだけ早く合流させてください」


 リーゼロッテは頷いた。


「じゃあ明日、ヴェーゼブル伯爵一派を北部へ運ぶわ――

 ヴェーゼブル伯爵、それでいいかしら?

 注文や意見があれば、聞ける範囲で聞くわよ?」


 ヴェーゼブル伯爵は笑顔で頷いていた。


「その通りに致しましょう――

 しかし、魔王陛下の打倒を狙っている、というのは本当ですか?」


 リーゼロッテが一瞬、唖然とした。


 ――そういえばヴェーゼブル伯爵には教えてなかった!


 リーゼロッテは頭を掻きながら事情を説明する事にした。


「えーっとね。

 実は月の神に『お父様が生きている限り、人間の滅亡は免れない』と告げられたの。

 そうなったら魔族も滅亡でしょう?

 だから魔族全体を救うために、私がお父様を倒すのよ。

 もしそれが怖いようであれば、私たちから距離を取って身を隠しなさい。

 あなたたちを無理やり巻き込むわけにもいかないし。

 南部で身を隠すなり、北部で身を隠すなり、貴方のしたいようにするといいわ」


 ヴェーゼブル伯爵は笑顔のまま、首を横に振った。


「いえ、殿下に付いて参りましょう。

 殿下ならば、きっと成し遂げられます。

 私たち魔族に、少しでも明るい未来をもたらしてください」


 リーゼロッテは拳で胸を叩いて、笑顔で告げる。


「任せといて!

 必ず、魔族を生き延びさせてみせるわ!」


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