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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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69.野心家の末路

 ――魔王城、近衛部隊執務室。


 ウェレアムレイト公爵が苛々としながら歩き回っていた。



 ――なんて役に立たない男だ! ウィレンチュラ公爵め!


 動かせそうな手駒が減り、残った奴になんとか接触を図った。

 魔王の命令に従い北東部に移動し、機会を待てと説得した。

 だがウィレンチュラ公爵は首を縦には振らなかった。


 将来が約束された土地を手放し、人間が著しく減った貧しい土地を任される――確かに、耐え難いだろう。

 だが逆らえば命がないのは明白。

 今は従うしかないと説き、鬱積した憤懣ふんまんを糧に反旗を翻せば良いと伝えた。


 だがあの男は自ら死を選んだ。

 『白銀の死』の訪れを招いた。

 救いようがない愚か者だ。


 残ったリーベルト公爵はどうやら自分を忌避しているらしい。

 簡単に踊る手駒ではあるが、愚鈍すぎて使い物にならないのも分かり切っていた。


 リーゼロッテは踊らせるのが難しい相手だ。

 一度は掌握したかと思ったが、思った通りの動きを見せていない。

 無理とは言わないが、危険察知能力が高いように感じる。

 既に自分を危険視しているきらいがある。

 今から新しく手を打っても遅いだろう。


 魔王とリーゼロッテの共倒れを狙うのが難しい状況になってしまった。

 全ての始まりはレッティングル公爵の愚行だ。

 あれでボタンを掛け違えた。


 こちらが接触しようとした時には、既に人間を手にかけていた。

 それを見て接触を諦めたのだ――手遅れだと。

 ああなればリーゼロッテが動くのは馬鹿でも分かる。

 四魔公は馬鹿未満しかなれないのか!


 その後、魔王が北西のリーベルト公爵ではなく、南東のウィレンチュラ公爵を北東部に回すのも誤算だった。

 そんな事をすれば奴の反感を余計に煽るだけだ。

 まるでウィレンチュラ公爵に造反させたいかのようではないか!


 憤懣ふんまん遣る方無いまま、椅子を蹴り倒したウェレアムレイト公爵の元に、ヴェーゼブル侯爵が姿を見せた。


「宰相閣下がお呼びです。

 お話がある、との事です」


「わかった、すぐ行く」




 ――魔王からの呼び出しだ。

 すぐに頭を切り替え、冷静な自分を取り戻す。

 共倒れは無理でも、魔王を背後から刺す事は可能なはずだ。

 リーゼロッテ対策は後で考えるしかない。

 今は圧倒的有利を確保している魔王から処理するべきだろう。





 この時、ヴェーゼブル伯爵が来るタイミングがもう少し遅ければ、ウェレアムレイト公爵は魔王の思惑に気付けただろう。

 ここで魔王城から逃げ出していれば、彼の運命も少し変わっていたのかもしれない。

 彼の命運が尽きた瞬間だった。





****


 ウェレアムレイト公爵が粛清部執務室の扉を叩き、開け放たれた扉から入室する。


「何用だ?

 近衛部隊は順調に機能しているが、何か注文でもあるのか?」


 宰相、アーグンスト公爵としての魔王とは、対等の階級、魔力は自分が格上の関係だ。

 魔王が相手とわかっていても、そのように接するしかない。


 アーグンスト公爵が書類仕事の手を止め、優しく酷薄な微笑みを浮かべた。


「大した話じゃない。

 とりあえず、腰を下ろすといい」


 ウェレアムレイト公爵は仕方なく、適当な椅子を引き寄せ、腰を下ろした。


「それで?

 用件はなんだ?」


 アーグンスト公爵が微笑んだまま告げる。


「君の降格処分が決まった」


 アーグンスト公爵が慌てて椅子から立ち上がり叫んだ。


「何故だ! 私が何をした!」


「何もしていないさ。

 だが君は危険な男だという事がよくわかった――

 なぜウィレンチュラ公爵に接触したんだね?」


「四魔公がこれ以上減る訳にもいくまい!

 同胞がむざむざ自滅するのを放ってはおけん!」


「魔王城から離れるのを許可した覚えはないが?」


「緊急事態だ! 許可を取る時間すら惜しかった!

 あのままでは粛清されるのは馬鹿でも分かる!」


 アーグンスト公爵がクスリと笑った。


「その馬鹿でも分かる理屈を理解してもらえず、残念だったな。

 『今は従っておき、後で反旗を翻せ』か。

 それすら通じなかったのだ。

 確かに、救いようがない愚鈍だな」


 ウェレアムレイト公爵が愕然とした。


 ――何故その言葉を知っている?


 アーグンスト公爵が微笑んだまま告げる。


「お前は自分の背後をついて回る存在にすら気付かぬまま、話を盗み聞かれていたのだよ。

 状況に焦り過ぎて、警戒が疎かだったな――

 あれでお前の叛意が確認できた。

 ゆえに、お前の爵位を全て没収する」


 瞬く間にウェレアムレイト公爵の魔力がアーグンスト公爵に奪われていく。

 平民階級に落とされたウェレアムレイトは、もう貧弱な人間と大差ない能力しか持たない。

 その事実を認められないまま、ウェレアムレイトが叫ぶ。


「馬鹿な!

 俺自身が蓄えた魔力があったはずだ!

 何故それすら残らん!」


「なに、大して複雑な話でもないさ。

 四魔公となった時の契約に記されている、魔力の剥奪だよ。

 お前は契約をする時、きちんと術式を読んでいなかったのか?」


 ウェレアムレイトが四魔公の契約を受けた時の記憶を思い出していた。

 いやに複雑な術式だとは思っていた。

 しかも一瞬で四魔公の契約術式が終わっていた。

 高度な高速化が施された術式だ。

 つまり、最初から読み解かせる気がないのだ。

 魔力の剥奪条項を隠す為だろう。


 何故、従来の大公級を使うのではなく、四魔公という新しい階級を設立したのか――


 憎悪を込めた眼差しで、ウェレアムレイトがアーグンスト公爵を睨む。


「魔王、貴様!

 『大公級は相応しい者が居ない』というのは方便か!」


 アーグンスト公爵は涼しい顔で微笑んでいる。


「その通りだが、それがどうした?

 制圧後の人間社会が相手なら、大公級が不在でも問題がない。

 だが公爵級を束ねる存在は欲しい。

 ついでに造反防止の契約を組み込んだ――

 それが四魔公という術式だ」


 その一言で、ウェレアムレイトは全てを理解した。

 神魔大戦における大公級の全滅――そこに魔王の影が見えた。


 魔王級に次いで強い力を持つ大公級。

 造反されると厄介な大公級、彼らを敢えて全て滅ぼすよう差配し、人間を制圧した後に備えたのだ。

 公爵級が相手なら、魔王級の魔族が苦労することはない。

 その上で公爵級を束ねる存在は作りつつも、その存在が造反してもすぐ処分できる術式を、魔王軍決起時には既に用意していた。

 例え四魔公が魔王を凌ぐ魔力を蓄えたとしても、一瞬で力の差を逆転できる――そういう術式だ。


 あの神魔大戦は魔王にとって、勝つべくして勝つ戦いだったのだ。

 既に魔王はその先を見据えた手を打ちつつ、神魔大戦を進めていた。


 そんな魔王が打った手だ。

 ウィレンチュラ公爵を北東部に移動させる命令も、敢えて命じたのだ。

 奴の造反を促し、自分が奴に接触するよう仕向けられた――叛意を確認する為だ。

 今の自分は、魔王の手の上で踊った結果なのだと悟った。


 さきほどまで、魔王の弱点を握っていると確信していた。

 だがその前から、自分は魔王に命運を握られた状態だったのだ。

 踊らされていたのは、自分の方だった。



 しかし、自分の叛意を気取られる愚は犯さなかったはずだ。

 常に細心の注意を払っていた。


「……どこだ。どこで気付いた!」


 アーグンスト公爵が慈しみを湛えた瞳で南西を見た。


「我が愛しい娘が警告をくれただけだ。

 『お前は危険過ぎる』とな。

 それで充分だろう?」


 ウェレアムレイトは己の読み間違いに気が付いた。

 魔王に自分の危険性を教えれば、必ずリーゼロッテ自身の叛意が疑われる――そう意識を誘導した。その手応えはあった。

 だがその上でも、リーゼロッテは魔王に警告を発した。

 その理由がわからず、歯ぎしりをしながら苦悶していた。


 ウェレアムレイトの表情に目を移したアーグンスト公爵が、愉しそうに言葉を告げる。


「娘は私を愛している。

 お前はその認識が甘かった。

 何か策を弄して警告できないようにしたつもりだろうが、娘は己の危険を顧みずに私に警告を発したのだよ」


 そう告げ終わると同時に、ウェレアムレイトの全身を黒い炎が覆った。

 叫び声を上げる間もなく、ウェレアムレイトだった魔族の残骸が塵となって消えて行った。





****


 静寂に包まれた執務室で、アーグンスト公爵が一人腕を組んで考えていた。


 ――ウェレアムレイトが娘を縛ったつもりの策。それはなんだろうか。


 ウェレアムレイトの危険性を知らせることが、娘の身の危険に繋がるような情報だ。

 ……奴が掴んでいたのは、魔王の正体のみ。それを伝えたのか。


 奴の危険性の根拠を問われれば、それを伝えざるを得ない。

 地上に生まれ落ちて以後、隠され続けてきた父親の正体を教えられたのだ。

 娘と言えど正体を知られれば、何らかの手を考えねばならない情報だ。


 だが娘の愛は、己の身より父親の身の保全を選択した。

 実に父親思いの娘だ。

 その後も、正体を知らぬ振りを続けているし、漏らした気配もない。

 まさに、信用が置ける駒と言える。

 卑しく悍ましい、我が愛娘だ。



 これならば、大陸全土を、家畜の牧場へと変える方針転換――それを推し進めても良いだろう。

 残る四魔公はリーベルト公爵のみ。奴一人では北部を治める力はあるまい。


 四魔公のうち三人が滅び、手元に戻ってきた魔力を合わせれば、同じ魔王級でも娘より遥かに大きい。

 娘が得意とする魔力の弓矢だろうと、私の防御結界は破れない。

 既に格が違うのだ。

 父親思いの娘に、これ以上の手を打つ必要はあるまい。


 ヴィクターに負わせられた傷も、直に完治する。

 あとは大陸全土から無力な家畜が魔王城に攻めてくるのを、ただ待っていればよい。


 リーベルト公爵は近衛部隊にでも配置しておけば十分だろう。

 腕力だけが取り柄の、愚鈍な男だ。

 奴らに食わせる感情が惜しいが、仕方あるまい。


 ――そう、目下の課題は、大飯喰となってしまった私の食糧だ。

 当面は魔王城に居る人間どもで耐えるしかない。

 魔力総量の減少は免れないが、人間牧場から攫ってくるにはまだ早い。

 家畜を攫うのは、娘が増産を渋った時に限るべきだ。

 その懲罰として攫うのだ。

 それでこそ懲りるというものだろう。


 今はようやく第一号の生産に着手したらしい。

 初めての事だ、慎重に事を運ぶのも理解しよう。


 娘の事だ、慣れれば次々と第一世代が生まれてくる。

 そうすればすぐに第二世代。

 味見ができる時期だ。

 計画は順調に進んでいると言える。



 アーグンスト公爵は満足した笑みを浮かべた後、再び書類仕事に手を付け始めた。





****


 リーゼロッテは定例報告の為に魔王城、粛清部隊執務室に足を踏み入れた。

 今日も変わらず、アーグンスト公爵は執務机で書類を捌いている。


 ――あんな退屈な作業、よく飽きないなぁ。


「アーグンスト公爵、定例報告に来たわよ」


 アーグンスト公爵が手を止め、顔を上げた。

 その顔にはやはり、優しく酷薄な微笑み。


「ああ殿下、丁度良かった。

 私からもお伝えしたいことがございます。

 まずは殿下の進捗をお聞かせください。

 それ次第で計画の修正を行いたく思っております」


「計画の? ……まぁいいわ、まずは私の報告よ。

 一人目の子供は順調に成長を続けているわ。

 後一か月で生まれる。

 それと南東部の制定も終わったし、リーベルト公爵との連携も始まったわ」


 アーグンスト公爵の片眉が上がった。


「リーベルト公爵との?

 はて、そのような話は聞いておりませんが」


「半分は成り行きなんだけど、渡りに船って感じではあるわね――

 現在、大陸南部の各都市にある裏社会。

 その統制をリーベルト公爵の配下を借りて行っているわ。

 各地では順調に平民階級魔族が裏社会に身を隠して生きているし、ラスタベルトでも巧い事、表社会に影響が出ないように社会全体を回してくれている。

 北部で食糧難に陥って困っていたリーベルト公爵の配下たち、その一部を引き取って食べさせている形ね。

 北部の魔族は、飢えることがなくなったそうよ」


 アーグンスト公爵が遠い目をした。


「裏社会に潜伏ですか……

 懐かしい生活ですね。

 ですが、とても有効な手です。

 その策は誰が提案をしたのですか?

 殿下やヴィクターが思いつくものではないでしょう?」


 ――やっぱり、お父様もそうして過ごしていたのね。


 神魔大戦前の人間社会が醸成する裏社会。

 その規模でなら、魔王を養う事もできたという事だろう。


 リーゼロッテは肩をすくめてみせる。


「素案はウェレアムレイト公爵よ。

 それをこちらの都合が良いように修正して運用しているわ――

 彼は今どこかしら。

 一応お礼を伝えておきたいんだけど」


「ああ、彼なら陛下に処分されましたよ。

 叛意を確認できたと仰っておりました。

 これでもう、残る四魔公はリーベルト公爵のみとなります」


 ――やはり、始末されたのね。


 リーゼロッテが忠告をしたというのに。

 己の能力を過信する悪癖から脱する事が、最後までできなかったようだ。


「そう……

 現時点での報告は以上よ。

 大陸南東部はこれから再建が始まる。

 結果が出るまで、最低でも半年はかかるわ――

 それで、あなたの言う計画の修正って?」


 アーグンスト公爵が少しの間考えた後、リーゼロッテに言葉を告げる。


「殿下に大陸全土を増産計画の対象とするよう、お願いしようかと思っております。

 これは陛下の承認を得ていますので、即座に着手していただいて結構です」


 ――もうその手を打ってきたの?!。


 リーゼロッテもある程度予想はしていた。

 だが、このタイミングだとは思っていなかった。


 確かにその方が人間が増えて行く時期は早まる。

 だからって、いくらなんでも立て続け過ぎだ。

 リーゼロッテの手が足りない。


 魔王は余程焦っているようだ。


 リーゼロッテは深いため息をついた。


「私はまだ、大陸南西部の人口減少を止め、ようやく一人目の子供を作り始めた段階よ?

 南東部の立て直しもまだこれからだし、これに更に北部まで任せようと言うの?

 忙しすぎて目が回りそうよ」


「ですがリーベルト公爵では北部の人口減少を食い止める事はできません。

 北東部もレッティングル公爵に荒らされた後、衰退が加速する兆候が見られます。

 彼に二つの地域は荷が重い。

 ならばいっその事、殿下に大陸全土の再建に着手して頂こうかと。

 当初はリーベルト公爵一派は近衛部隊に組み込む予定でした。

 ですが、裏社会潜伏が機能しているのであれば、彼にも裏社会に潜んでもらうという方向に修正したいと思います」



 リーゼロッテは眉をひそめて困惑していた。


「お父様の承認を得られるなら、それでも構わないけれど……

 さすがに彼らだけでは北部の裏社会統制は無理よ?

 リーベルト公爵では裏社会の人間に踊らされる。

 機転の利く補佐が必要になるわ」


「でしたらヴェーゼブル侯爵と近衛部隊を、リーベルト公爵一派に再編致しましょう――

 実は、四魔公から没収した魔力で陛下の食糧事情が悪化しております。

 現在の魔王城では、陛下一人を賄うのがやっとの状態。

 他の四魔公乱心の可能性が去った今、近衛部隊は陛下の食糧を圧迫する無駄飯喰でしかないのですよ。

 これは陛下からも、早急に何とかして欲しいと申し付かっております。

 ヴェーゼブル侯爵なら、裏社会でも対応していける個体。

 リーベルト公爵を補佐するのに申し分がない個体と言えましょう」


 リーゼロッテは顎に手を当てて検討をしてみた。

 彼女の機転、危機察知能力、集団を統率する能力……充分に北部を任せるに値するだろう。


「そうね……ヴェーゼブル侯爵なら文句はないわ。

 北部の裏社会を安心して任せられる個体ね――

 それにしても、それほどお父様の力が増しているの?

 現在の魔王城には百名以上の人間がいるんじゃなかった?」


「なにせ、四魔公三人に貸し出していた魔力が戻っておられますから。

 以前の陛下とは比べ物にならないお力になっておりますよ」



 リーゼロッテですら一日最低十人。

 なのに、百人以上でも足りないようだ。

 単純計算で十倍以上。


 以前より、さらに力の差が広がった事になる。

 いよいよ正攻法で攻略するのが厳しくなった。


 ――対策が必要ね。これは帰ってから相談するか。


 リーゼロッテが頷いた。


「わかったわ。

 北部の立て直しと裏社会構築まで、どうしたって時間が必要よ。

 すぐに対応は難しいわ。

 一端ヴェーゼブル侯爵たちは、南部で引き受けるわね。

 丁度、裏社会を回す人手が不足気味になっていたの。

 南東部の裏社会を回していける数を残して、順次北部へ送り出すわ――

 それで構わないかしら?」


 アーグンスト公爵が頷いた。


「ええ、仔細はお任せいたします。

 ですが、そろそろ魔王城の人間たちにも壊れる個体が出ております。

 できればいくらか家畜を補充して頂きたいのですが、可能でしょうか」


 魔王城に囚われた人間は、順次入れ替わっていく――絶望を搾り取る為に、魔族の手で壊されてしまうのだ。

 そんな劣悪な環境に、人間を送り出すのはやはり、リーゼロッテには納得し難いものがある。


 だがここで断ると、魔王が勝手に人間を攫い出しかねない。

 送り出してもなるだけ心が痛まない人間の心当たりを探った。


 リーゼロッテが提案を告げる。


「裏社会を構成している人間たち、彼らの一部を暫定的に出荷するのはどうかしら。

 彼らなら増産計画には不要な存在よ。

 人選は裏社会を統制している個体に任せる事になるけれど、ラスタベルト王国を始めとした南西部の人間は活力に満ちている。

 私が愛を受け取れない人間が多くいるとは思うけど、それでも他の地域の人間より多少は長持ちすると思うわ。

 すぐに対応は難しいけれど、順次送り出す事は可能だと思うの」


 ――あとはお父様が納得するか否か……。



 アーグンスト公爵が少しの間、検討するように俯いたあと、顔を上げて頷いた。


「では、試験的にそれで運用を試みてみましょう。

 陛下にはそのように報告しておきます」


 リーゼロッテは内心で胸を撫で下ろした。


 ――なんとか納得はしてくれたらしい。


「じゃあ、お父様の承認が得られ次第、近衛部隊をラスタベルト王国に寄越して頂戴。

 それまでに何とか受け入れ準備を整えておくわ」


 アーグンスト公爵が頷いた。


「ええ、ではそう致しましょう。

 私から伝える事は以上です。

 あとはいつもどおり、殿下を心待ちにしている人間の愛を受け取ってやってください」


「わかったわ。

 部屋で待っているのね?」


「すでに手配済みです。

 ではよろしくお願い致します」


 リーゼロッテはそのまま身を翻し、魔王城の私室へと向かった。





****


 魔王城から帰ろうと中庭に出ると、そこでヴェーゼブル侯爵が待っていた。


「どうしたの? 何か用?」


「いえ、ウェレアムレイト公爵について、何か情報があれば教えて頂きたく思いまして」


 悲壮感を漂わせた表情――恐らく、彼女はうっすらと勘付いている。


「彼は叛意が確認されて処刑されたそうよ。

 あなたたち近衛部隊はリーベルト公爵一派に組み込まれるけれど、北部には余裕がほとんどない。

 一旦南部で受け入れて、順次北部へ送り出す形になるわ。

 詳細は追って宰相から伝えられるはずよ」


 ヴェーゼブル侯爵の顔色がさらに蒼白となった。


「処刑、ですか。

 やはりそうだったんですね」


「あなたも、命が惜しければお父様に逆らおうなどと思わない事ね――

 ウェレアムレイト公爵の事を心配している個体には、彼の末路を教えてあげておいてもいいんじゃない?

 別に口止めはされていないし、転属命令と共にいつかは知らされる事よ」


「……殿下はこれから、どうなさるのですか」


「私は大陸全土の再建を任されたわ。

 ほんと、宰相ったら何を考えているのかしら。

 私の身体は一つしかないのよ?

 これじゃあ身体がいくつあっても足りないわ――

 あなたの力、頼りにしてるわよ」


 リーゼロッテはそう言い残し、ミネルヴァの背に飛び乗ってラスタベルト王国へと戻っていった。


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