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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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52.牧草地帯の掃除

 草原地帯の上空を、ミネルヴァはゆっくりと飛んでいた。

 同乗するアロイスたちは長剣を帯びている。


 ミネルヴァが速度を落とした付近でリーゼロッテが探査術式を撃つ。

 敵を見つけたら無力化して止めを刺してもらう。

 そんな事を何度も繰り返していった。


 ――ミネルヴァ、どうやって野盗の位置を知るんだろう?


 ミネルヴァが野盗を見落とすことはなかった。

 広範囲探知術式で一度大まかに調べてたが、的確に野盗を虱潰しらみつぶしにしている。

 これも神の奇跡、魔法の一つなのだろう。



 ミネルヴァで移動中、リーゼロッテはアロイスにヴィルケ王の事を話していた。

 王妃候補の話やリーゼロッテへの愛を諦めていない事、イェルクの王籍復帰の事だ。


「へぇ、あの王様の嫁さんねぇ。

 確かに王族が王様一人って状態はよろしくない。

 嫁さん探しをして王妃に据えて子供を産む――

 どうしたって時間がかかる話だ。

 ならイェルクの王籍復帰も仕方ないね。

 それで? あんたはあの王様をどう思ってるんだい?」


「どうと言われても……

 あんなに熱い愛を、魔性に囚われていない人間から浴びたことがなくて……

 どうしたものかな、と」


「ははは!

 王様の愛に戸惑ってる状態か。

 自分がどう思ってるかってのを考えられもしない段階だ。

 いわゆる『良いお友達』だね」


 ――友達か、確かにそんな感じかなぁ?


 リーゼロッテにとっては、『月の神との邂逅を目撃された人間』以上ではない気がしている。

 彼を愛するとか、そういう段階ではない。


 アロイスは面白そうにリーゼロッテの表情を眺めている。


「あんたは、誰かを愛するって経験をしたことはないのかい?

 もちろん父親以外でだ」


「ないわね。

 愛される事は数え切れないほどあるけど、私が誰かを想うという経験は生まれてから一度もないわ」


「あんたは心が麻痺して鈍感になっちまってるからねぇ……

 仮にあっても気づけなかったって可能性もあるが、恋愛初心者と言ってもいい状態なのかもしれないね」


 ――私が恋愛初心者?!


 リーゼロッテには納得のいかない表現だった。

 だが自分から誰かを想ったことがないのは確かだ。

 そちらについては確かに初心者だろう。


「アロイスさん、私は誰かを想う事ができると思う?」


 アロイスは腕組みをして考えだした。


「そうさねぇ……

 最近のあんたの様子を見ていると、愛を心で感じることはできている。

 情に絆されればってところかね」


 情にほだされる……相手の愛に感化されて、相手を愛するようになる可能性だ。


「毎日三百人の愛を浴びても感化されてない私が、絆されるようなことがあるのかなぁ?

 ちょっと考えられない」


 少なくともリーゼロッテには、ヴィルケ王の子供を産みたいと思う自分を想像できない。

 彼は国王。妻となれば王妃になる。

 王妃になれば、王族を増やすのがその務め。

 子供を産めなければ話にならない。


「それについては時間的猶予を設けてやったんだ。

 共に過ごす時間が増えれば機会があるかもしれないね――

 それよりは、王妃候補とやらをきちんと見繕ってやる方が早いとは思うけどね」


「こんな時代でも生き残るほどの結婚適齢期の貴族女性っていうのが、今一つ想像が付かないわね。

 だって、王宮ですら食べる物に困る惨状だったのよ?

 領地の収穫もろくにない困窮した状態で、貴族女性らしい生活なんてできないはずなんだけど」


「それが王様に会いたがらない理由の一つかもしれないね。

 手入れもろくにされてない、栄養状態も悪い状態で王様に悪印象を持たれたくないのかもしれない」


 それは有り得るだろう。

 ヴィクターやガートナーの話だと、そろそろ国有地の回復が終わっている。

 次は貴族の領地を回復させて回るという話だった。


 王都とその近郊の配給は国有地で充分賄えている。

 他の街の収穫を配給食料として献上させる必要も当分はない。

 領民のために全て使ってもらえるはずだ。

 そうすれば王妃候補の居る領地も回復して、令嬢たちの見た目も改善するだろう。


 そろそろ王都の貨幣経済も回復させる時期だ。

 王都の都市機能回復まであと一歩。

 王都が完全回復すれば、それを主軸に貴族たちも貨幣を手にする。

 必要な物を仕入れて領地にもたらす事もできるはずだ。


 やはり物々交換だと需給の都合で困窮から脱出するのが難しい領地が出てくる。

 物々交換が難しい収穫物は、一旦国が買い取る形で貨幣を渡す事になるだろう。

 そうして国が買い取った収穫物は、王都で加工する手もある。

 そうやって配給に回すなり、市場に回していけば良い。

 これで機能回復する街を増やしていけるはずだ。


 貨幣は現在、金庫に眠っている分の他、困窮期に貯め込んだ商人や農家の手元にたんまりとあるらしい。

 それ以外にも新王即位に合わせて、王都近郊の鉱山から掘り出して新しい金貨や銀貨、銅貨を鋳造している。

 カリアン王国からも食料を対価として金や銀、銅を輸入しているので、鋳造所は忙しいようだ。


 貨幣経済が崩壊した期間に行方不明になった貨幣も多いらしい。

 その貨幣はどこに行ったのか……謎の一つとなっている。



「次はどこの街に配給すると思う?」


「東の牧草地帯を抱えるヴェゲン領かね。

 ユストゥスもヴェゲンの街だ。

 王都からは少し離れるが、ヴェゲン領の都市、アルノルトが最有力だろう」


 どうやら、そのアルノルトはここから近いらしい。

 一度様子を見てもいいだろう。



 ヴェゲン領はヴェゲン辺境伯が治める土地だ。

 ラスタベルト王国東方面の国境に面した広大な領地で、主要な街道も多い。

 主要産業は牧草地帯を主軸にした馬や牛、羊といった畜産業。


 これはあくまでも二十年前、アロイスが覚えている範囲での知識だ。


「魔族が統治する大陸南東部に隣接しているって意味でも、次に力を入れるべき土地でもある――

 魔族ってのは、隣の領地にちょっかいを出す事はあるのかい?」


「お父様がそういった事を嫌う人だったし、こちらは魔王の娘である私の統括地よ?

 余程困窮していない限り、まず考えられないわね」


 逆に考えれば、困窮したら魔族が襲ってくる土地という事でもある。

 大陸中央の東西に走るエッセングル山脈のおかげで、北側の脅威はあまり考えなくても良い。

 地図で確認する限り、東の国境の大部分を覆うヴェゲン領は、確かに重要な土地と言える。


 だが問題は、防衛力となる兵士がいない事だ。

 侵入してきた魔族を追い払える戦力と呼べるのはリーゼロッテだけ。

 人間だけでは、眷属すら怪しい所だ。



「四魔公とやらの眷属だとして、どのくらいの強さなんだい?」


「四魔公なら、騎士級から男爵級かなぁ。

 あくまでも魔力の強さとしての目安よ?

 戦い方が力技一辺倒だし、ろくな術式も使えない。

 純粋な騎士級魔族より、よっぽど戦いやすいわ」


 魔力が強いという事は、防御結界が強いという事。

 攻撃を通そうと思った時に、相応の力が必要とされる。

 リーゼロッテの眷属であれば、伯爵級魔族の張る防御結界を貫ける攻撃じゃないと全て防がれる――その程度の意味だ。

 眷属たちの攻撃方法は四肢を使った攻撃が基本。

 その威力も魔力の強さで変わるが、術式を使ってくる魔族より格段に戦いやすい。



「なるほどねぇ。

 その程度であれば、カリアンの戦士たちでもなんとか対処できるね。

 対応できるのは上位の戦士たちぐらいになるが、対応できないってほどでもない」


「豊穣の神の加護があればもっと対応できる人が増えるだろうけど、宗旨替えに納得する人たちはどのくらい居るのかしら」


「ん~、あまり多くはないだろうね。

 カリアンの人間はほとんどが敬虔な山の神の信徒だ。

 山と共に生きる民だからね」


 山の神は冶金と相性が良い神らしい。

 『火の神』であり『鉄の神』でもある。

 鍛冶師は、宗旨替えに頷かないとの事だった。


「そうなると、お父様を相手にするのは難しいわね……

 人間がお父様の眷属を相手にするなら、加護がないとまず無理よ?

 伯爵級眷属に攻撃が通らないわ」


 山の神の神殿も当然封印されている。

 二十年前から加護を得ている人間しか戦力として当てにできない事になる。


「そうなると、即戦力は三十代以上の戦士たちが該当するかね。

 四十代、五十代になると体力に不安は出るが、数自体は少なくない」


 カリアンはこの二十年間、人の損害がほとんどなかったらしい。

 ヴェーゼブル伯爵一派には搦め手で無力化されていたけれど。

 戦士としてはそれなりの人材がいるとの事だった。


 ヴェーゼブル伯爵は、まともに戦うと損害が大きくなるからこそ搦め手で対処した。

 相手が眷属で搦め手を使わないなら、加護を得ているだけで四魔公の眷属だろうと対応はできるだろう。

 実際、眷属相手に苦戦した訳ではないようだ。



「王都に居るカリアンの戦士たちで、該当するのは何人くらい?」


「三千がいいところかね。

 残りは若い世代や年齢を食い過ぎた世代だ。

 野盗の相手や農作業くらいならできるが、さすがに六十代を眷属との戦いに引っ張り出すのは厳しいからね」


 ということは、七千人がそういった世代という事だろう。


「カリアンは若い世代にも恵まれていたという事?」


「この二十年間でも、若い世代は多く生まれていたからね。

 残り七千人の半数、三千人余りが若い世代だ。

 元々カリアン王国は、出生率が高いのさ。

 それが困窮に拍車をかけることにも繋がったけどね」


 食べる物がないのに子供が生まれていく。

 それはそれで逞しい国民性だろう。


「一万人のうち三千人が若い世代って、すごい話よね」


「十三歳から二十五歳程度の人間の数だからね。

 確かに、凄い数だ。

 戦士には女も珍しくない。

 男女ともに、気性の荒い国民なんだよ」


 三千人が三十代から五十代。

 三千人余りが六十代以上、

 三千人余りが二十五歳以下。


「働き盛りの人間が少ないのは、神魔大戦で減ってしまった影響なのかな?」


「まぁそうだね。

 当時の若い世代は戦士として魔族と戦った奴らも多かった。

 失った数も、どうしてもその世代が多い」


 だがカリアンの人間は、それを取り戻すかのように子供を産んだそうだ。

 そこが逞しいところだろう。

 数が力だというのをよく知ってるとの事だった。


 若い世代がそれだけ多いという事は、魔族に支配されてる中、残った人間が必死に人間を増やしたという事だ。

 魔族に抗う為に、次の世代を多く作ろうとした。

 それがヴェーゼブル伯爵の統治と噛み合って、若い世代が多く残る今に繋がったのだろう。





 ミネルヴァが移動しようとしなくなった。

 リーゼロッテが広域探知を撃ってみる……大きな野盗の集団は、粗方片付け終わったようだ。


 残ったのは小さい集団ばかりが多数。多くても二十人程度の規模だ。

 これくらいなら、自警団でも十分対応できるだろう。


 ――草原地帯のお掃除はこれでお終い!


「じゃあ、アルノルトって街に行ってみようか。

 アロイスさん、場所は分かる?」


 アロイスが懐から地図を取り出して確認をしている。

 さすがに二十年前の知識、滞在していたカリアン王国以外の細かい地理は、忘れてしまったのだろう。

 二十年前の他国の地理を、大まかにでも覚えていられるだけ立派だろう。


「――ここだね、アルノルトは」


 アロイスが地図を指さした途端、ミネルヴァが白銀の流星となって空を駆けていった。





****


 ミネルヴァが停止したのは、大きな都市の上空。

 眷属の反応がある――人が居る街のはずだ。


 リーゼロッテは細かい事まで覚えていない。

 不要なことを覚えないのが魔族流だ。

 記憶力が良いからこその習性と言える。


 絶望の悪臭はやっぱり漂う。

 付近をミネルヴァで飛んだが、畑が都市の規模に対して小さい。

 これでは自給していくのは難しい。

 飢えて死んでいく人間が出るのは防ぎようがないはずだ。

 付近に森林地帯もあるが、これだけでは都市は賄えない。



 アロイスが顎に手を当てて考えている。


「……ヴェゲン辺境伯に挨拶はしたかい?」


 昼間の魔族掃討であれば、その時に直に指示書を渡してあるはずだった。


 ――この街は昼と夜、いつ処理したんだっけかなぁ?


「ん~、駄目だ。覚えてないや。

 処理済みかどうかは眷属の有無で判断する事に決めたのよ。

 どの集落をいつ処理したのか、記憶しない事にしたんだよね」


「じゃあこの際だ。

 辺境伯に挨拶に行こうか。

 野盗掃討しといた話でも伝えてやれば、少しは心労も軽減されるだろう」


 それでこの悪臭が少しでも薄れるなら、そうしてあげてもよいだろう。


「じゃあ適当に立派な邸に降りて、辺境伯の居場所を聞いてみようか」


 そう決めた途端、ミネルヴァがゆっくりと街の中でも立派な邸に向かって降りていった。





****


 どうやら邸には衛兵がそれなりに居たらしい。

 ちょっとした騒ぎになっていた。

 人の手の届かない高さで低空飛行しているミネルヴァに、槍を突き付けて怯えている。


「竜種、飛竜だ! おいどうすんだよ!」

「竜種に通じる武器なんてないぞ!」

「辺境伯に急いでご報告差し上げろ!」


 どうやら辺境伯がいる邸らしい。

 本当にミネルヴァは勘が鋭い。

 こういう時に外したことがない。


 ミネルヴァが衛兵の集団から離れたところに素早く降り立った。

 衛兵たちが、慌てて降り立ったミネルヴァ――つまりリーゼロッテたちを取り囲んでいく。

 健康状態がよろしいとはお世辞にも言えない衛兵たちが、気力を振り絞って動いているように見える。


 ――余計な体力を使わせちゃって、可哀そうなことをしたなぁ。



 リーゼロッテたちはミネルヴァから降りて衛兵たちと向かい合った。

 当然、槍の矛先はリーゼロッテたちに向けられる。


「何奴! 名を名乗れ!」


 叫んだ最前列の衛兵に対して、リーゼロッテは微笑んで名乗りを上げる。


「私の事はリズとでも呼んで頂戴。

 この大陸南西部を統治する執政官、魔王の娘よ。

 辺境伯に挨拶に来たんだけど、待ってれば来てくれるのかな?」


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