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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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51.ヴィルケ王

 リーゼロッテが大陸南西部に着任してから半年が経過した。


 ユストゥスからは順調に馬が運び込まれ、フィリニスの森や塩田からの運搬が格段に楽になった。

 カリアン王国からの後発隊がアンミッシュの森の恵みを王都に届け、その恵みはユストゥスの街へも届いている。

 カリアン人一万人も王都に馴染み、それぞれの作業に明け暮れている。

 配給品には果実酒や麦酒が含まれ始め、人々は更なる生活の活力を取り戻していた。



 その間、ラスタベルト王国の王位がグレゴール王からヴィルケ王子へと移り、新王ヴィルケ体制に生まれ変わっていた。

 とはいえ、内政の殆どは未だヴィクターが取り仕切っている。

 王位を継承しても、ヴィルケ王の仕事はほとんどないようだ。



 狩りを終えた後のリーゼロッテの自宅前に、そんな暇を持て余したヴィルケ王が居た。

 傍には近衛騎士五人を連れている。


「どうしたの? 暇なの?」


 ヴィルケ王は苦笑を浮かべながら応える。


「それもありますが、イェルクやあなたに会いに来たんですよ。少し中で話せませんか?」


「いいわよ」



 近衛騎士たちには外で待機するよう、ヴィルケ王が指示を出していた。

 応接間にイェルクを呼び、三人でソファに腰を下ろす。


 早速ヴィルケ王が話を切り出した。


「イェルクの王籍を元に戻しておこうかと思うのですが、二人はどう思いますか?」


 リーゼロッテはイェルクを見る。

 イェルクは確かな意志で、兄であるヴィルケ王の目を見据えた。


「今更、私が王女に戻ったとして、王族の務めを果たせると思いますか?

 私にはそうは思えないのですが」


 ヴィルケ王も苦しそうに微笑んだ。


「だが、現在の王族は俺とイェルクだけだ。

 このままでは俺に何かあった時に、王家が滅びる。

 保険が欲しいんだ」


「その保険である私は、リズの子供を産むつもりで居ます。

 他の生き残った貴族たちも、私と婚姻を結ぼうとは思わないでしょう。

 魔族混じりの王家になる事が約束されますよ?」


 ヴィルケ王がリーゼロッテを見た。


「俺は、未だリズ殿下との愛を諦めていない。

 それが成就すれば、リズ殿下に俺の子供を産んでもらう事になる。

 王家が魔族混じりになる事など織り込み済みだ」


 その視線と共に、身を焦がすような熱気がリーゼロッテを襲う。


 ――少し会わないうちに、愛の熱量が増してるなぁ。


 その気持ちをどう受け止めていいのか、今のリーゼロッテにはわからない。


 リーゼロッテの戸惑う表情を横目で見て、イェルクがため息をついた。


「お兄様、あまりリズを困らせないで?

 リズはまず、何よりも優先しなければならない課題があるの。

 その為に全力を尽くさなければならないのよ。

 まずは魔王を倒す。

 話はそれからになるわ」


 ヴィルケ王が俯いて応える。


「お前たちばかりがリズ殿下を愛し、慈しまれるこの状況は卑怯だと思うんだが……

 俺だって慈しまれたいし、何より愛を伝えたい。

 このままでは、期限内にリズ殿下の心を変化させる事など不可能じゃないか」


 リーゼロッテは少し考えてから提案を告げる。


「じゃあ、約束の内容を少し変えましょうか。

 『お父様を倒してから三年以内』。

 もちろん、それより前に私の心に変化があっても認めるわ――

 でも、その頃ヴィルケ王は二十七歳よ?

 私を諦めて、人間の貴族と婚姻を結んだ方がいいと思うのだけれど」


 イェルクがリーゼロッテに対して意見を述べる。


「リズは甘いわね。

 お兄様は王家を存続させる義務を持つわ。

 それを無視して己の愛を貫くなんて我儘、本来なら許されないのよ。

 お兄様がリズを愛している事実が広まる前に、生き残っている王妃候補からなんとか婚姻相手を探すべきよ」


 リーゼロッテはふと疑問に思い、それを言葉にする。


「王妃候補なんて、まだ残って居るの?

 人間の貴族社会も、ほぼ崩壊しているのでしょう?」


 ヴィルケ王が渋々と応える。


「領地に引きこもる事で、なんとか生き延びている令嬢は居ます。

 ですが、どの令嬢も王妃として相応しいかというと、首を傾げる相手ばかりですよ。

 そもそも社交界も機能していないので、実際に会った事のない令嬢がほとんどですけどね」


「社交界って、まだ復活しないの?

 確か、お酒を飲む以外にも、お茶を飲む文化があるわよね?

 紅茶はドミニクさんのところに流れてきているから、栽培して生産している人が居るんじゃない?」


 未だに配給量以上の食材等を求め、ドミニクの元へ商人が訪れ、紅茶を置いて行くらしい。

 おかげでリーゼロッテや子供たちは、紅茶を楽しむ日々が続いている。


「紅茶自体がまだ貴重品です。

 配給品に含まれていませんからね。

 なんとか伝手のある人が手に入れるのが限界、と言ったところです。

 ここはよく紅茶を維持できていますね」


「んー、多分、苦しい時期に食材を渡してくれたドミニクさんを優先してくれているんじゃないかしら。

 私たちが消費する紅茶であれば、そこまで多くはな

いし」


 紅茶など、苦しかった半年前では腹の足しにならない、どうしようもない物。

 物々交換したくても、ほとんど相手にされない品だ。

 それと交換で食肉を渡していたドミニクに対して、恩義を感じているのだろう。

 困窮期に助け合った縁が確かな信頼関係を結び、伝手となる。



 だが紅茶が手に入らなくても、今は酒が手に入る。

 酒と配給品の食料品があれば、ささやかな食事会ぐらいは開けるはずだ。

 必要ならヴィクターに調整を頼み、余剰を回して貰う事ぐらいはできる。


 リーゼロッテがそんな疑問を口にした。


 ヴィルケ王は苦笑を浮かべる。


「未だに野盗が多く、令嬢が移動するには危険を伴います。

 それを嫌がって領地から出てこないのですよ」


 魔族の支配下で生き残ったという事は、それだけ慎重で警戒心が高いという事だ。

 軽率な行動は取らない。

 全員がそんな状態なので、集まりようがないという話だった。



「じゃあ、ヴィルケ王が会いに行けばいいんじゃないの?」


「そんな事のために自警団や騎士団を連れて行くのは防衛力の無駄遣い。

 それよりは、少しでも多くの物資を運ぶことに注力したい時期ですから」


 ――そっかー。お嫁さん探しも難航する時期か。


 イェルクが鼻で笑った。


「リズが奔走して魔族を放逐してくれた今のラスタベルト王国で、その程度の危険も飲めないようじゃ、確かに王妃としての資質は足りないわね。

 野盗程度、領地の兵力で対応できるでしょうに、はぐれ魔族でも恐れてるのかしら」


 リーゼロッテは再び疑問に思った事を口に出す。


「領地を持つ貴族って、今はどうやって暮らしてるのかしら?

 兵士を養う事ができてるの?」


 ヴィルケ王が応える。


「まだ回復しているのは王都に隣接する国有農地ばかり。

 貴族が保有する農地は、以前のままです。

 彼らの街まで配給を届けられる段階でもないので、リズ殿下が来る前と同じ苦しい生活を続けているはずです。

 おそらく、よほど忠誠心の高い兵士以外、解雇しているでしょう」


 リーゼロッテは腕組みをして考え込んだ。


「それは良くないわね……

 その為にヴィルケ王のお嫁さん候補が見つからない、なんて事態に陥っているとしたら、早めに対策しておきたいわ」


 イェルクが面白くなさそうに告げる。


「それなら、リズがお兄様と一緒になってその令嬢の元へ行けばいいのよ。

 魔王の娘の前に出てこれるならば、だけどね」


 ヴィルケ王が大慌てでイェルクを手で制する。


「それこそ力の無駄遣いだ!

 リズ殿下の時間ほど、今の王都で貴重なものなど無い!」


「あら、その程度の自覚はあるのね。

 じゃあ今がどれほど贅沢な時間かも理解しているわよね?」


「それは勿論だ。

 ともかく、イェルクの王籍復帰だけはしておきたい。

 王宮に戻るかどうかは、イェルクの好きにすればいい。

 この条件でどうだ?」


「仕方ないわねぇ。

 王籍復帰だけよ?

 お兄様に何かあった時の保険、それ以上の存在になる気はないわ」


 ヴィルケ王が頷いた。


「了承してもらえたということだな。

 手続きはしておく――

 それとリズ殿下、近いうちにヴェローナ王国やカリアン王国にも挨拶に行っておきたいのです。

 ミネルヴァをお貸し願えますか?」


 リーゼロッテはきょとんと尋ね返す。


「いいけど……何しに行くの?」


「新国王としての挨拶と、正式に同盟を結びたいと思っています。

 魔王を倒し、魔族が居なくなった後も、友好国として共に在る国家としての同盟を結んでおくのです」


 今でもリーゼロッテは、一か月に一回の頻度でヴェローナ王国の海を浄化に行っている。

 だんだんと正常化していく海に影響されて、付近の海の汚染も薄まっているようだ。


 同様に月一程度の頻度でアロイスをカリアン王国に運んでいる。

 定期報告のようなもので、今のところ計画通りに順調に事が進んでいると告げて終わっているようだ。


 ヴィルケ王には、その時に同伴してもらうだけで済むだろう。


「それなら、両国に行くときに声をかけるわ。

 それでいいかしら」


「はい、それで構いません。

 調印の準備は整えておきます――それでは」


 立ち上がり、リーゼロッテに頭を下げた後、ヴィルケ王は近衛騎士を引き連れて王宮に戻っていった。





****


 自宅に戻り、リンゴ酢と果実酒を作り終えたリーゼロッテは、リビングのソファに腰を下ろし、ウルズラの入れてくれた紅茶の香りを鼻に届けていた。


 そんなリーゼロッテの傍にイェルクが腰を下ろした。


「リズを外交の足に使おうだなんて、お兄様の神経も図太いのね」


「まだ馬車や騎兵に回せるだけの馬がないらしいし、しょうがないわ。

 ユストゥス以外の牧草地の街を増やしていかないといけないわね」


 今ある馬は、ほとんどが荷車を牽引する役割に回している。


 日々収穫が豊かになっていく王都には、周辺集落から自警団が連れてくる住民も増えている。

 今の王都の人口は、既に三万人を超えているらしい。

 物々交換も活発に行われつつあり、そろそろ配給を抑えて貨幣経済を復活させる頃合いだとヴィクターが報告してきていた。



 イェルクが不思議そうにリーゼロッテに尋ねる。


「ねぇリズ、まだ狩りを続けているのは何故?

 もう食肉も、猪の肝臓も、蜂蜜やリンゴ酢だってアンミッシュの森から物資が充分届いてきているという話だったわ。

 王都市民全体に潤沢に配給するにはまだ足りないけれど、この地区を優先的に配給してもらう事はできるのでしょう?」


 そろそろリーゼロッテがアンミッシュの森で狩りをするのが難しくなってきていた。

 森の入り口付近はカリアン人の狩場と重なりやすく、奥地に入り込んで狩りをしている状態だった。

 ドミニクも、そろそろ切り上げ時だろうと言っていた。

 今後はフィリニスの森を使って、後進に技術を教え込むつもりらしい。


「確かに、もうアンミッシュの森の狩りは切り上げ時ね。

 その分、私の時間も空くし、その間に私が出来る事を捜さないといけないのかな」


 リーゼロッテは子供たちの笑顔が見たくて、ついつい狩りを続けてしまっているが、そんな理由でカリアン人たちの邪魔をする訳にもいかない。

 成長期の子供たちの為に、配給を多く回してもらう事で今までの食卓が守られるのであれば、狩りをする理由は確かになかった。



 ――ちょっとドミニクさんと相談をしてみるか。


 リーゼロッテは念話の合図をドミニクに送る。


『どうした?

 久しぶりだな、この指輪を使うのは』


 早速念話の返事が返った来た。

 どうやら合図もやり方も忘れていないようだ。


(イェルクからも言われて、もう狩りは打ち切ろうかと思ったのだけど、その相談よ)


 正直、ミネルヴァで移動した方が疲れない。

 だが、帰ってきてすぐ呼び出すのも気が引けたのだ。


『じゃあもう明日から狩りはしなくてもいいだろう。

 紅茶はお前の所に直接渡しに行くよう伝えておく。

 他の商人とも、これから話を付けてくる』


(悪いわね、急で)


『なに、もう既に市内には十分な食材が出回っている。

 ここに来る商人もほとんど居なくなっていた。

 大した手間じゃない。それだけか?』


(ええ、それだけよ。じゃあね)



「――ふぅ。

 ドミニクさんとも話が付いたわ。

 今日で狩りは切り上げ。

 明日からは狩りはしないわ」


 イェルクが楽しそうに微笑んだ。


「これで一つ、リズの負担が減ったわね――

 その空いた時間、あなたはどう使うつもり?

 無茶をする気なら全力で止めるわよ?」


「牧草地帯周辺の野盗を、アロイスさんたちと一緒に減らしていこうと思うの。

 放牧している動物を襲う野盗が出ているようだし、それは何とかしないといけないわ」


 ユストゥスに自警団を駐在させて警備に当たっているが、戦闘行動が増えていた。

 やはりここは、大規模に減らしておかないといけないだろうと判断した。


 元々は飢えて路頭に迷ったラスタベルト王国の国民。

 リーゼロッテも、できれば命は奪いたくないが、馬を奪われる訳にもいかない。


 低級眷属を配備するのは、動物が眷属の瘴気を嫌がるので却下された。



 イェルクが小さくため息をついた。


「仕方ないわねぇ。

 そういう事情じゃあ、止められないわ――

 今、あなたの使役する眷属はどれくらいになったの?」


「一万二千ね。

 だいぶ余裕が生まれたわよ?」


「兵士の数が揃うまでは、まだまだあなたの眷属の数は減らせそうにないわね。

 魔王を倒すまでは、兵士の殆どを王都に置いておかないといけない。

 あなたの負荷を減らすのは、魔王を倒した後ね」


 ――そう、私は眷属を維持したままお父様と戦わないといけない。


 魔王も似たような条件だとはいえ、大きな負担であることは間違いない。


 貴族階級は魔王から直接力を借り受けて強い力を得ている。

 彼らに力を分け与えてもまだリーゼロッテより強いのだから、魔王の魔力は相当なものだ。


 リーゼロッテはその魔王を倒す為、日々魔力を蓄えている。

 だが六年後にどこまで迫れるか、全く見当もつかない。


 結局、魔王を倒す鍵は月の神の魔法、という事になる。



「手が空いてきたガートナーさんに魔法の訓練をしてもらった方がいいかもしれないわね。

 まだまだ私は、魔法の使い方をよく知らないし」


「それも追々、ね。

 今は野盗の討伐のみに力を使うのよ?

 一度に何でもやろうとして魔力を消耗していたら、本末転倒だわ」


 リーゼロッテはその言葉に苦笑を浮かべた。


 確かに、イェルクの言う通りだ。


 なるだけ魔力を蓄えた上で、月の神の力を借りて魔王を倒す。

 これが本筋だ。

 リーゼロッテもそれは自戒しているのだが、せっかちな性格が直る感じはない。


 ――魔族だからしょうがないと、そこは諦めよう。


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