表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/78

4.喫茶店座談

 喫茶店に入ったリーゼロッテが、並んだテーブルの一つを選んで椅子に腰を下ろした。

 傍のテーブルにガートナーとラフィーネ、男たちが数人座っていった。


 リーゼロッテは紅茶を注文した後、のんびりと店内に目を這わせる。

 立てかけてあるメニューには紅茶の銘柄が三つほど並んでいて、他のメニューには線が引いてあった。


 リーゼロッテが呆れたように呟く


「喫茶店だからって、本当にお茶しか置いてないのね。

 軽食の一つもないのかしら」


 もちろん自分が軽食を食べたい訳ではなく、『そこまで困窮しているのか』という意味だ。

 紅茶だって、別に飲みたい訳でもない。

 喫茶店に入って、何も注文しない訳にはいかない。


 剣士風の男がリーゼロッテに応える。


「毎日食うものにも困る有様だ。

 紅茶を出せるだけ、この店は恵まれてるんだよ」


 どうやら想像以上に困窮しているらしい。


 リーゼロッテが小さくため息をつく。


「ふぅ。

 執政官は何をしてるのかしら。

 何のために貴族階級を持った魔族がこの地の派遣されているのか、理解していないみたいね。

 四魔公の名が泣くわ」


「なんだ? その四魔公ってのは」


「お父様直属の四人の公爵よ。

 魔王軍の上位四人ね。

 そんな魔族が治める街で、あなたたちは何をしていたのかしら。

 さっきラフィーネは反魔族同盟と言っていたけれど」


 男が警戒しながらリーゼロッテに応える。


「俺たちはこの国の各街を回って仲間を集めている、魔族に反抗する勢力だ。

 つまり貴様ら魔族の敵だ」


 リーゼロッテはくすくすと笑いながらそれに応える。


「あなたたち一人では下位貴族級すら倒せないんじゃない?

  そんな勢力が四魔公の敵を名乗っても、執政官は歯牙にもかけないでしょうね――

 ああ、それであなたたち、今も生きているのね」


 剣士風の男がとても悔しそうに顔を歪めている。

 何かを言いたいが、言葉が見つからない様だ。


 やがて紅茶が届いたので、リーゼロッテはその香りで鼻をくすぐり香りを楽しむ。


 その様子を見たガートナーが、疲れたような声で尋ねる。


「……魔族も紅茶を嗜むのか?」


 リーゼロッテは紅茶に目を落としたまま、その声に応える。


「ただの人間の真似事よ。

 それより、もう気は済んだのかしら?

 ラフィーネがこちらに戻りたがっているみたいだけど、まだ続けるの?」


 ラフィーネは少し前から、チラチラとリーゼロッテの様子を伺っていた。

 そわそわとしてるし、呼べばすぐにでもリーゼロッテの傍に来るだろう。


「……ラフィーネは俺たちの仲間だ。

 貴様の元へやる訳にはいかん。

 だがどんな解呪魔法を試してみても、神がうんともすんとも応えを返さねぇ」


「だから呪いでも魔法でも術式でもないと伝えたわ。

 私は何もしていない。

 人間が勝手に囚われるだけの現象よ。

 少しは納得したかしら?」


 無理やり留めようとしても、ラフィーネは自分の意志でリーゼロッテの元へやって来るだろう。

 ラフィーネを拘束して部屋に監禁すればそれは不可能だろうが、仲間に対する仕打ちではない。


 『魔族の私でも首を傾げざるを得ないわね』とリーゼロッテに告げられ、ガートナーの顔が渋くなった。


 ラフィーネがガートナーを見据えて告げる。


「もういいかしら?

 私はリズの隣に座りたいの。

 どこかへ行くわけじゃないし、そのくらいは許してもらえないかしら」


「……わかった。

 席を移動するぐらいは構わん」


 パッとラフィーネの顔が綻んで、紅茶のカップを持ってリーゼロッテの隣に移動した。

 ぴったりとリーゼロッテに身体を寄せて、幸せそうに微笑んでいる。


「やっと隣に座れたわ!」


 リーゼロッテも微笑みながら応える。


「なんだか随分元気になったわね。

 体力が充分回復してるんじゃないかしら?

 いつのまにそんなに回復したの?」


「解呪の中で、私の体力を治癒して貰ったのよ。

 体力が戻れば気力が戻って、解呪の成功率が上がるとでも判断したんじゃない?」


 ラフィーネが美味しそうに紅茶を口に含みながら語った。

 リーゼロッテは紅茶は口に含まず、ただカップから立ち上る香りだけを鼻に届ける。


 その後もしばらく雑談を続けるリーゼロッテとラフィーネの様子を、反魔族同盟の男たちが興味深げに観察していた。


 ガートナーが怪訝な顔でリーゼロッテに尋ねる。


「ラフィーネの様子が、普段と変わらねぇな。

 もっと魔族に心酔してるかと思ったんだが、そんな様子はなさそうだ。

 どういう事だ?」


 リーゼロッテは呆れながら応える。


「本当に何を聞いていたのかしら?

 ラフィーネは私への愛に心を囚われただけ」


 ラフィーネは心を操られた訳ではない。

 リーゼロッテしか愛せなくなった以外は何も変わらない。

 その愛を元に行動するかもしれないが、その言動自体はラフィーネの人格によるものだ。


「じゃあさっきの『俺だって殺してみせる』と言ってのけたのは……」


 リーゼロッテは頷いた。


「素のラフィーネの性格よ。

 愛の為なら仲間でも殺すと断言して、本当に殺せてしまうのでしょうね。

 可愛い顔をして、かなり過激な面がある子ね?」


 ラフィーネが頬を染めて照れていた。

 結構物騒な話なのだが、彼女にその自覚はないらしい。


 リーゼロッテはカップを置いてガートナーに話を振ってみる。

 

「それであなたたち反魔族同盟さんは、この街で何をするつもりなの?

 仲間探し? 今はどれくらい集まったの?」


 ガートナーが警戒したように鋭い目つきになった。

 普通に考えて、素直に応えて良い質問ではないだろう。


「……リズ、お前は執政官を粛清に来たと言ったな?

 その言葉に偽りや間違いはないな?

 あの公爵を滅ぼしに来たと、そういうことなのか?」


「私の本職は魔王軍粛清部隊の長官よ。

 無能な管理者を滅ぼして回るのが仕事」


 ダグムロイト公爵を粛清後は自分が臨時の執政官を任される事。

 成果が順調であれば継続して執政官を任される事。


 そう言った事をリーゼロッテは告げた。



 ガートナーの目が鋭くなっていく。


「魔族が同族を殺して回るのか?」


 リーゼロッテが肩をすくめて見せた。


「生まれてから二十年間、そればかりをやらされてきたわ。

 同族だけど魔族殺しのベテランよ?

 血生臭くて自分の人生が嫌になるわね。

 私は愛と平和を愛する個体だというのに、そういうのに縁が薄くて思わずこの世を儚んでしまいそうよ」


 横からラフィーネがリーゼロッテの手を掴んで力説を始める。


「大丈夫よリズ!

 あなたへの愛なら私に任せて頂戴!

 必ず私があなたを愛で潤った人生に変えてみせるわ!」


 リーゼロッテは苦笑しながらそっとラフィーネの手を下ろした。


「気持ちは嬉しいけれど、少人数が愛を与え合うのでは不完全よ。

 私はもっと周囲が愛と悦びや希望で溢れる世界にしたいの。

 この街みたいに陰鬱な空気の街は、とても居心地が悪いわね」


 リーゼロッテは正の感情を好み、負の感情を嫌う――

 普遍的な魔族の真逆の性質をした、魔族の異端だ。


 ガートナーが再び尋ねる。


「相手は四魔公とかいう、魔王軍上位四人の一体なんだろう?

 お前が勝てる相手なのか?」


「私より強いのは、魔王であるお父様だけよ。

 公爵級魔族なんて、例え四魔公だろうと物の数じゃないわ。

 大公級でようやく面倒な相手、ぐらいかしら」


「なるほど……その強さランキングにお前は含まれていないって訳だ。

 なのに侮蔑され続けてるのか?

 腹が立つと、自分でも言っていただろう?

 その場で滅ぼしてしまえばいいだろうに」


 リーゼロッテは白い目でガートナーを睨み付ける。


「私は争いや諍いが嫌いだと言ったはずよ?

 お父様の命令でもなければ、当然同族を滅ぼすような真似はしないわ――

 命令の邪魔になる魔族は、仕方なく滅ぼすけれどね」


 ガートナーが腕を組んで考えこみ始めた。


「つまりリズは、当面は人間にとって味方と呼んで差し支えない魔族なんだな?

 そう捉えても間違いがないと言えるか?」



「味方かどうかを断言することは、私にはできないわよ?

 お父様の命令があればそれに従わざるを得ないんだし」


 だが今与えられてる命令の中では、味方と言っても過言ではないだろう。


 魔王から指示された命令の中に、この大陸南西部の人間国家再建がある。

 庶民の生活を安定させ、人口を増やしていかねばならない。


 これは間違いなく、ガートナーが目指す目的の一つだ。

 同じ目的を共有できるなら、味方と言えるだろう。


 だがそれには長い年月がかかる。


「連れて来た副官が腹案があると言っていたから、手っ取り早く人口を増やす方法があるのかもしれないけれどね」



 ガートナーがやや警戒気味にリーゼロッテに尋ねる。


「もう一人魔族が来てるのか。

 そいつはどこに居るんだ?」


「魔族じゃないわ。彼は人間よ。

 とっくの昔に戻ってきている時間だから、今も隠遁の魔法でそこら辺で様子を伺ってるんじゃない?」


 ガートナーが慌てて辺りを見回した。

 その場で魔法を願い、急に立ち上がってリーゼロッテの背後を睨み付けた。


「いつの間に?!

 いつからそこに居た!」


 しばらく沈黙が流れ、反魔族同盟の男性たち全員の視線がリーゼロッテの背後の空間に集中していた。

 リーゼロッテは小さくため息をついて声をかける。


「ヴィクター、姿を現しなさい。

 無駄に言い争いをするのは私の好みじゃないと知っているでしょう?」


「畏まりました」


 声とともに、ヴィクターの姿がリーゼロッテの背後に現れる。

 その姿に、ガートナーの目が驚愕で見開かれていった。


「ヴィクター……お前、本当にヴィクターなのか?」


 ヴィクターが苦笑を浮かべながらそれに応える。


「二十年ぶりだな、ガートナー。

 お前は随分老けたな」


「馬鹿野郎、二十年も経てば当たり前だろうが!

 ――だが何故お前は二十年前の姿のままなんだ?」


 ガートナーは三十代後半だ。

 見た目もその通りの壮年の男性だった。

 中年相応の風体と言える。


 一方、ヴィクターは十代後半の青年のままだった。

 飛び抜けて強靭な精神力を誇り、しなやかで精強な肉体を誇る戦士のままだ。


 ヴィクターが苦笑を浮かべて応える。


「魔王に呪いを受けてな。

 成長を止められている。

 理論上は魔王が生きている限り、俺は年を取らず、老衰で死ぬことはないそうだ」


 リーゼロッテは旧交を温めている様子の二人に横から割って入る。


「二人とも知り合いなの?

 それならとっとと姿を表せば話が早かったでしょうに」


 ヴィクターが申し訳なさそうにリーゼロッテに応える。


「元仲間ですが、今の私は殿下の直属の部下、魔王軍の人間です。

 姿を見せない方が話がこじれないかと思いまして」


「立場が昔と違ってしまったということね。

 それで、街の様子はどうだったの?」


「いくつかの少人数の集団が、街を徘徊している平民階級の魔族を滅ぼして回っているようです。

 下位貴族からは姿を隠している辺り、大した戦力でもないでしょう」


 リーゼロッテがガートナーの目を見た。

 彼はどうにも苦い顔をしている。


 『反魔族同盟』などと大層な名前を名乗っているが、やっている事は実質弱い者いじめでしかない。


 力を持つ相手からは逃げ隠れ、人間と大差ない力しか持たない平民階級を数の力で殺して回る。

 魔族世界の庶民をなぶっているに過ぎないのだから。



 リーゼロッテが冷淡な眼差しでガートナーを見ながら言葉を告げる。


「……もしかして、それが反魔族同盟のお仲間かしら?

 とても立派な戦力ね」


 彼ら反魔族同盟に、ダグムロイト公爵の居場所へ道案内させる門兵が滅ぼされた。

 リーゼロッテにとっては良い迷惑だった。


「奴の居場所ならわかっている。

 王宮、謁見の間に居座っているそうだ」


「取り巻きの数は?」


「公爵級が数人、侯爵級はもっと居るらしい。

 伯爵級は数えきれん。

 下位貴族までは把握できんな」


 リーゼロッテはしばらく唖然としていた。


「……たったそれだけ?

 四魔公の取り巻きよ?

 桁が一つ違うんじゃないの?

 人望が無いにも程があるわ」


 リーゼロッテはその十倍程度は見積もってきていた。

 だから異変の詳細が把握できるまでは慎重に動こうとしていたのだが、拍子抜けと言うものだろう。


 ガートナーがジロリとリーゼロッテを睨み付ける。


「侯爵級はたった一人でも国一つを簡単に壊滅できる力があるんだぞ?

 その気になれば一瞬で王都が吹き飛ぶ」


 通常なら侯爵級一人でも恐ろしい戦力だ。

 この街を一瞬で吹き飛ばせる魔族が何人も居る――確かに、並の人間の手には余るだろう。

 ガートナーは素直に「今の俺たちの手に負える相手じゃない」と認めた。


 だがリーゼロッテは大きなため息でガートナーに応える。


「そんなもの、力を使う前に滅ぼしてしまえばいいだけよ」


 リーゼロッテは平然と言ってのけた。

 その言葉の意味を理解できるものは、ヴィクターを含めても、この場には居なかった。


 彼女は不確定要素が邪魔をして街に被害が出るのを一番恐れた。

 その正体が反魔族同盟だと把握し、冷静に頭を動かし始めている。


「あなたたちは引っ込んでいて頂戴。

 仕事の邪魔よ。

 今、街で魔族を滅ぼしている連中も呼び戻しておいて」


「それは構わんが……リズはどうするつもりだ」


「私は今日中に取り巻き共々、さっさと執政官を滅ぼしてくるわ」


「おい! それじゃあ今すぐ王都の人間を避難させないと――」


 リーゼロッテは冷たい目線でガートナーを睨み付ける。


「私は邪魔をするな、と先ほど言ったつもりなのだけれど」


 民衆の避難――大勢の民衆が混乱するのは避けられない。

 その混乱に乗じて粛清対象たちに動かれると、被害が増えるとリーゼロッテは判断した。


 リーゼロッテは「余計なことはしないで頂戴」と、ぴしゃりと言い放った。


「だがこれから侯爵級以上と争うと言われて、黙って居られる訳がないだろうが!」


 一瞬で街が瓦礫の山と化し、王都市民全ての命が奪われる。

 それだけの戦力があるのだから、ガートナーもそこは譲れなかった。


 だがそれでも、リーゼロッテは力強く断言する。


「力を使われる前に滅ぼす、とも言ったはずだけど?

 侯爵級や公爵級なんて、今まで腐るほど滅ぼしてきたけれど、街を滅ぼさせたことなんて一度もないわよ?」


 過去、建物を吹き飛ばされた経験ならあった。

 だがそれも、反魔族同盟のような足手まといが足を引っ張った結果だった。

 「余計な足手まといが居なければ、あれもさせなかったわ」と冷淡に言い切って見せた。


 リーゼロッテは戸惑うガートナーたちに、ただ静かに微笑みを返していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ