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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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44.苦い味

 朝食の準備が始まる前にリーゼロッテは各家屋を訪ねて回った。

 大人たちの食料を少しずつ分けてもらって、七人分の食料を確保する。

 今日の朝食担当の家には、七人分の料理を追加でお願いした。


 一旦自宅に戻ったリーゼロッテは、応接間に戻って一息ついた。


「ふぅ。

 みんな快諾してくれたわ。

 優しい大人たちで良かった。

 アロイスさんたちを、来て早々飢えさせる訳にもいかないものね」


 カリアン人の男性が、不思議そうに尋ねた。


「ここには三百人の子供たちが居るだけじゃないのか?」


「その家族も、自然と移り住んできたわよ?

 空き家屋はたくさんあるし、好きに住んでもらってるだけよ。

 やっぱり子供と離れて暮らすのは寂しいんじゃないかしら」


「子供たちはどう暮らしてるんだ?」


「十人一組で一家屋に共同生活ね。

 私は毎日、日替わりで各家屋を巡って食卓を囲む事を約束しているの」


「魔族が、人間の食事をとるのか?」


「私は紅茶だけよ?

 子供たちが居て欲しいと言うし、ラフィーネやイェルクやヴィクターの食事があるからそれでって感じかしら。

 食事の用意は子供たちが親たちと一緒にしてくれるわ」


「……不思議な関係だな。

 俺たちの食料は大人たちだけから分けてもらったのか?

 子供たちからも分けてもらった方が、一人頭の負担は減るだろう?」


 ――聞き捨てならないな?!


 リーゼロッテはそのカリアンの男性を睨み付けながら言葉を告げる。


「あのね?!

 育ち盛りの子供たちから食料を奪うなんて犯罪よ?! 犯罪!

 そんなもの、国王が許しても私が許さないわ!

 子供たちにはきちんと食べてもらって私に愛を捧げてもらわないとけないの。

 大人は食肉を多めに使って補ってもらうわ」


「あ、大人たちの分もきちんと補填はするんだな……」


「当たり前でしょう?!

 大人たちは農作業に従事する貴重な労働力よ?!

 食べなければ力が出なくて効率が落ちるわ!

 食糧庫にはその為に常時備蓄を山のように置いてあるんだから、こういう時に使わないでどうするって話よ!」


 カリアン人の男性が、困惑した顔でアロイスを見た。


「姐御……

 この嬢ちゃん、これで自分には慈愛がないと言い張るんですか?

 食肉って、この嬢ちゃんが森で仕留めて来た獲物ですよね?」


 アロイスが苦笑を浮かべている。


「言ってやるな。

 リズは自覚ができない体質だ。

 指摘しても否定してくるのは、自己嫌悪が強いんだろうさ。

 自分を許せない気持ちが、尚更認める心を邪魔しちまう。

 不憫な子だよ」


 リーゼロッテは彼らから感じる温かい気持ちに苛立ち、目を逆立てた。


「なんでカリアンの人たちにまでそんな優しい視線を浴びなければならないのかしら?!

 私は魔王の娘!

 人間に不憫なんて思われる存在じゃないの!

 そんな資格は私にはないのよ!

 魔族らしい、卑しく悍ましい、忌まわしい存在が私よ?!

 その説明は何度もしたわ!

 だからそんな暖かい気持ちを私に向けないで頂戴!

 そんな気持ちを与えてもらう資格なんて、私にはないのよ!」


 リーゼロッテは思わず叫んでいた。

 顔を両手で覆い、俯いて嗚咽を上げ続けていた。


 それでも自分に向けられる温かい気持ちに耐えられず、再び叫びだす。


「私はカリアンで、あなたたちの同胞を九十人も殺してきたばかりなのよ?!

 その話もしたばかりじゃない!

 何故そんな私にそんな気持ちを向けられるの?!

 人間は本当に理解できない存在ね!

 ……お願いだから、その目で私を見ないで。お願い」


 『魔王の娘』の仮面が剥がれていた。

 リーゼロッテが昨日奪った命は『虫』なんかじゃない。

 『虫』と思い込むことでリーゼロッテは自分の心を守っていただけだった。

 そうしなければ大切な者を守れないと冷徹に判断する『魔王の娘』が、彼らの命を奪う事を選択させた。

 心を殺して最善を尽くした。


 泣いているリーゼロッテの肩を、ヴィクターが抱き寄せた。

 リーゼロッテの口は、溢れる思いを吐き出していく。


「――私の手は同族の血だけじゃない、人間の血にだって塗れてる。

 もう私の人生なんて血に塗れた道しか残ってないのよ。

 そんな存在には、そんな優しい気持ちを受け取る資格なんてないの。

 慈愛があると言うなら、何故その九十人を躊躇なく殺せると言うの」


 その答えは簡単だ、そんな慈愛など幻想なのだ。

 自分の慈愛に見えるもの、それは利己的な打算の結果でしかない。

 本当に慈愛があると言うなら、あの九十人にこそ与えられるべきだった。


 あれは紛れもない、哀れな人間たちだ。

 人の心を忘れるほど誰かを憎まずにはいられなかった人間たちにこそ、慈愛は必要だった。

 救われなければならない人間たちだったのだ。


 リーゼロッテはそんな思いを吐き出し続ける。


「こんな卑しく悍ましい存在、何故生まれてしまったの。

 なぜ神は私などを産み落としたの。

 生まれてこなければ生き続けられた命が、いったいどれほどあったと思うの」


 リーゼロッテの両手に流れ落ちる涙が、同族の血に変わっていった。

 二十年間で三十万人に及ぶとも言われるほど同族を殺し続けてきた、血に塗れた両手だ。

 今まで奪ってきた命の数が、リーゼロッテの心に重くのしかかっていた。


 その重さが、いつの日か叫んでしまっていた言葉を口からこぼれ落とさせる。


「私なんて生まれてこなければよかったのよ!

 もういっそ、誰か私を滅ぼして!

 今すぐ私の人生を止めてよ!

 私には自分で命を絶つ決心なんて、怖くてできないの。

 お願い……

 ねぇヴィクター、あなたなら、私を滅ぼせるんじゃないの?!」


 横に居るヴィクターが、困惑しながら優しい目でリーゼロッテに声をかける。


「――ですから、ご無理をなさらぬようにと申し上げました。

 殿下に虫の処理は、負担が大きすぎるのです。

 殿下の負担を代わりに背負うのが私の生きる意味。

 あなたの命を奪う事など、私にもできません。

 たとえ殿下のお願いであろうと、その望みを叶える訳には参りません。

 私は殿下に生きていて欲しい。

 生きて幸福を味わって頂きたい。

 私の願いはそれだけです」


「私なんかに、幸福を感じる資格なんてないのに、どうやって味わえばいいと言うの!

 そんなもの、血の味しかしないに決まっているじゃない!

 同族の、人間の血の味を味わい続けろと言うの?!

 ……いえ、そうね、それが忌まわしい魔族としては、相応しい姿なのかもしれないわ。

 私は魔王の娘、冷血で偉大なお父様の娘ですもの。

 血の味を笑顔で楽しんでこそ、私なのよ……

 きっと、それでいいのよね」


 心に過負荷がかかり、リーゼロッテは自己喪失アイデンティティ・クライシスに陥っていた。

 自分を見失い、ただ涙を流した。


 泣き続けていた彼女の頭を、アロイスがぐしゃぐしゃとかき乱す。

 リーゼロッテはかき乱されるまま、ただ嗚咽を上げていた。


 アロイスが優しく声をかける。


「……リズ、あんたは考え過ぎだ。

 もっと自分の気持ちに素直になりな。

 救いを求めているんだろう?

 ならばあんたは救われるべきだ。

 あの九十人が本当は救いを求めていたようにね」


 リーゼロッテはある意味、彼らの同類だった。

 彼らは血に塗れた道をただ走る事しか知らない、どうしようもない人間たちだった。

 そう生きる事しかできなくなってしまった者たちだ。


 だがリーゼロッテは、そんな彼らにこそ慈愛が必要だと感じた。

 ならば同類であるリーゼロッテにだって、慈愛が必要なのだ。


 アロイスは優しい言葉で諭していった。


「あんたには、温かい気持ちが必要だ。

 私らはそう感じたから、あんたに温かい気持ちを注いでる。

 あんたが自分に受け取る資格がないと言うなら、あの九十人だって慈愛を受け取る資格がない事になる。

 あんたはあの九十人に、その資格がないと否定できるのかい?

 どうなんだい?」


 リーゼロッテは泣きながら、首を横に振った。

 大切な人を奪われ、誰かを憎まなければ生きる事ができなくなった人たち。

 あの人たちこそ、誰よりも慈愛が、救いが必要だった。

 それを否定する事は誰にも許さない。


 リーゼロッテが発する言葉を、思いを確認して、アロイスが優しく言葉を続ける。


「だからあんたも、慈愛を受け取るべきなんだよ。

 あんなどうしようもなくなった奴らにさえ、慈愛が必要だと感じられるあんたに、慈愛の心がない訳が無いのさ。

 それはいつか、認められる日が来る。

 だから、むきになって否定して自分を傷つけるのはやめるんだ。

 自分を卑下するのは、あんたが殺していったあの九十人を侮辱するのと同じ意味だと知るんだ。

 わかったら、少し落ち着きな」


 アロイスが優しい声で諭しているうちに、リーゼロッテの嗚咽は小さくなっていった。

 やがて顔を上げたリーゼロッテは泣き止んでいた。

 応接間に朝の静寂が訪れていた。


 リーゼロッテの泣き声で、慌ててやって来ていたラフィーネとイェルクが、応接間の入り口から不安気な表情で静かにリーゼロッテを見守っていた。

 そんな二人に気付いたリーゼロッテが、応接間の入り口に顔を向ける。


「……おはよう、ふたりとも。

 今朝は早いのね」


 リーゼロッテが擦れ声で朝の挨拶をすると、二人が躊躇いがちに挨拶を返した。


 ラフィーネが戸惑いながら尋ねる。


「リズの泣き声で飛び起きてきたわよ……

 いったい、どうしたの?

 こんなリズは初めて見るわ」


 アロイスもバツが悪そうな顔でラフィーネに応える。


「リズが泣いたのは、全て私の責任だ。

 本当なら昨晩、反抗した時点であの九十人を私が殺しておくべきだった」


 だがそれを躊躇してしまった。

 仲間に手をかけられなかった。

 結果、彼らの命運をリーゼロッテに預けてしまった。

 優しいリーゼロッテなら見逃してくれるのではないかと、そう思ってしまった。


 アロイスに自嘲と悔恨の笑みが浮かぶ。


「そんな訳がないのにね。

 あいつらがラスタベルト王国に入ってきたら、魔族のリズだけじゃない、リズを慕う子供たちが危険にさらされる。

 そんな危険因子を、リズが見逃す訳が無いって、少し考えりゃわかる事だった。

 私の落ち度だ。

 指導者失格だね」



 リーゼロッテは首を横に振った。


「同族を、仲間を殺せないのが、躊躇う気持ちがあるのが普通なのよ。

 簡単に同族を殺せてしまう私のような存在なんて、本当は世の中に居ない方が良いの。

 そんな忌まわしい存在は私だけで充分」


 ならばリーゼロッテがそれを背負うだけだ。

 彼女の手は、後戻りが出来ないほど血に塗れている。

 泣いても叫んでも、いくら洗っても落ちないほど血に塗れている。


「これからもずっと、私の歩く道は血に塗れているの。

 だから、そんな事は私に任せればいいのよ――

 お父様を殺す為に生まれてきた、神に呪われた運命を持った私にね」



 リーゼロッテの言葉に、アロイスの目が大きく見開かれた。


「そりゃ――リズあんた、魔王を殺す為に生まれてきたと、今言ったのかい?」


 リーゼロッテは微笑んでいた。


「ええそうよ?

 月の神がわざわざ私に会いに来てまで伝えてくれた真実。

 私の魂は、魔王を倒す為に月の神の寵愛を受けた、愛に溢れた魂。

 それが魔王の子に宿り地上に生まれ落ちた。

 それが私と言う存在」


 リーゼロッテは神によって愛する父親殺しを運命付けられてこの世に生まれ落ちた、神に呪われた存在だ。

 これから彼女は人間を救うために、愛する父親を殺さねばならないのだ。


 再びリーゼロッテの目から涙がこぼれていく。


「……私が失敗すれば、人間が滅びると月の神に言われたわ。

 だから、失敗する訳にはいかないの。

 私は魔族でありながら、人間を救うために愛する父親を殺す、この世で最も忌まわしい存在よ」


 死にたいと願う事すら、リーゼロッテには許されていない。

 彼女が死ねば人間が、養っている子供たちが死んでしまう。

 あの子供たちから笑顔を、幸福を、命を奪う事なんて、彼女には耐える事などできない。


「だから、必ずお父様を殺すの。

 大丈夫、私ならできるわ。

 同族殺しなら二十年のベテランよ?

 この血に染まりきった両手に、お父様の血が加わるだけの話よ。

 たったそれだけの話――

 なのに何故、私は今、泣いているのかしらね。

 悲しくなんてないのに、いつも不思議に思うの」


 リーゼロッテの頭に手を置いていたアロイスが、リーゼロッテの頭を抱え込んだ。

 アロイスの温かい気持ちが、じんわりとリーゼロッテの心に沁み込んでいった。


「心が麻痺しちまって、悲しいのに悲しいと感じられなくなってるだけさ。

 あんたはちゃんと、悲しんでるよ――

 全く、月の神はどんだけ無慈悲なんだ。

 なんでこんな子がそんな運命を背負わされてるんだい。

 肩代わりできるならしてやりたいよ」


 リーゼロッテはそのまま、そのアロイスの温かい気持ちに浸って涙を流していた。





****


 子供たちが朝食に呼びに来た。

 玄関の扉を開けた子供たちを、近くに居たイェルクとラフィーネが出迎え、「すぐ行くから先に行ってて」と言って追い出していた。


 リーゼロッテがぽつりと呟く。


「……もう時間ね。行ってあげないと」


 リーゼロッテは浄化の術式で顔を綺麗にすると、ソファから立ち上がって外に向かった。

 応接間の入り口で振り返って微笑んだ。


「みっともないところを見せてしまってごめんなさい。

 私は先に行ってるわね」


 ラフィーネたちにカリアン人たちを案内して欲しいと頼んで、リーゼロッテは子供たちの待つ家屋へ向かった。




 アロイスが大きく息をついた。


「――ふぅ。

 ほんとうに不憫な子だよ。

 どんだけ無慈悲な運命を強いられてるんだい、あの子は」


 ヴィクターが自嘲するように笑った。


「今回は俺とお前、二人の責任だ。

 この分はこれから取り返すぞ。

 心してかかれ」


 ラフィーネが不思議そうに尋ねる。


「ヴィクターさんと、その――アロイスさんでしたか。

 お二人のせいでリズが泣いてしまったの?」


 アロイスもバツが悪そうに笑い、事情を説明しだした。



 カリアンで魔族に反抗する勢力には、大切な人を魔族に殺され、魔族を深く恨む者たちが百人弱居た。

 彼らはアロイスから説明された、『魔族がカリアンから手を引く代わりに、無傷で国外に脱出する』という話を拒絶した。

 『油断している今なら、一体でも多くの魔族を滅ぼせるはずだ』と言って利かなかった。


 その時点で、アロイスは指導者として彼らを処刑すべきだった。

 強大な力を持つ存在が、敢えてこちらに損害を出さないことを約束したのだ。

 逃げ出す魔族が命を捨てて暴れれば、カリアンの被害は甚大なものになる。

 だが何もせずに手を引くという、類を見ない好条件で国外に消えると約束した。


 その代償が『魔族にも手を出すな』というものだった。

 それを飲めないと跳ね除けた連中だ。

 指導者の指示に逆らい、組織に、そして国家に不利益を与える行為だ。

 生かしておけば害悪となる。


 だが同じ人間、共に戦った仲間を、アロイスは殺せなかった。

 『もしかしたら、思い直してくれるかもしれない』

 『もしかしたら、襲撃に失敗するかもしれない』

 『もしかしたら、魔族たちは見逃してくれるかもしれない』

 そんな淡い期待に賭けてしまった。

 これが原因で、リーゼロッテの視界に百人弱の『殺すべき人間』が入ってしまった。



 彼らは魔族を、それに味方する者を憎まずに居られない存在だ。


 リーゼロッテを慕う子供たち、そしてこれから生まれるだろう、リーゼロッテの因子を受け継ぐ子供たち。

 この街でリーゼロッテと親しい多くの者たち。

 これから増える、リーゼロッテと協力してラスタベルト王国を再建しようとする者たち。


 そんな人たちの命を狙う公算が高い連中と言える。

 特に力の弱い子供たちの命が真っ先に狙われるだろう。


 そんな人間の存在を、リーゼロッテは許す訳にはいかなかった。

 少なくとも、これからラスタベルトに入国して再建を手伝うという勢力の中に居てよい因子ではない。そう判断した。


 だからリーゼロッテは、彼らを次々と手にかけていった。

 一人も取り逃さず、確実に殺し尽くしてみせた。

 ヴィクターも手伝ったが、リーゼロッテの手を煩わせてしまった。

 大半は彼女が手を下したのだ。



 わかっていながら、危険因子を見逃がしたアロイス。

 リーゼロッテに同行しながら、危険因子を一人残らず殺しきる力を持たなかったヴィクター。

 二人の力が及ばなかった結果、リーゼロッテは自覚ないまま心に深い傷を負い、カリアン人の優しさを心に感じた事がきっかけで感情が爆発した。




 ラフィーネの冷たい視線が、ヴィクターとアロイスに注がれていた。


「二人とも、何をしてるんですか。

 特にヴィクターさん、あなたはそれでも忠実な副官なんですか?

 あれほど深くリズが傷付くのを、傍に居ながら指をくわえて見ていたと、そう言うんですか?

 どこまで不甲斐なければ気が済むんですか?」


 ヴィクターは言葉もなく項垂れた。



 イェルクも冷たく言い放つ。


「アロイスさんもです。

 指導者なら、時に苦しくても決断しなければならない。

 大前提、初歩の初歩ですよ?

 何故それで指導者面をしていられるのか、神経を疑います」


 アロイスもまた、返す言葉を見つけられず項垂れた。


 アロイスの部下たちも、庇いたくても正論過ぎて庇う事ができない。

 何より仲間が起こした問題行為に負い目を感じ、自分たちの力不足を悔いていた。



 ラフィーネが大きくため息をついた。


「これ以上待たせると、子供たちに迷惑がかかります。

 食事に行きますよ。付いてきて下さい――

 もう二度と、リズにあんな思いをさせないで」


 ラフィーネとイェルクがウルズラを伴い、落ち込む八人を家屋に案内し、彼らが中に吸い込まれて行った。

 中に広がっていたのは、幸福な笑みを浮かべる子供たちと、それに応えるように笑って見えるリーゼロッテ。


 先ほどの姿を知っている者なら、それが虚しいものだという事は簡単に見抜ける笑みだ。

 彼女は子供たちの前で、苦しくても笑って見せているだけなのだ。


 八人はただ、苦い朝食を味わいながら、黙々と食べ進めていった。


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