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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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41.旧交

 リーゼロッテの名乗りを聞いた途端、アロイスが大きく下がって剣を構えた。


「――冗談、という感じじゃないね。

 魔王軍の人間になったと告げたヴィクターが共に居るんだ、魔王の娘ってのは確かなんだろうさ。

 大方、ヴィクターはあんたの犬ってとこかい?」


 リーゼロッテは微笑みながら応える。


「忠実な私の副官ではあるわね。

 犬ではないわ。ヴィクターは人間だもの。

 それより、魔族を無事に国外に送り届けたいの。

 人間たちも、矛を収めてくれないかな?」


「断る――と、言ったらどうする?」


 リーゼロッテは指を顎に当てて考える。


「いつもならヴィクターに処理させちゃうんだけど、私も人間を殺したい訳ではないの。

 できれば平和的に引き上げてくれると嬉しいなって思って。

 だからこうして話しかけているのよ」


 アロイスはまだ、剣を構えたままリーゼロッテに向き合っている。


「魔王の娘ってのがどれくらいなのか、あたしに見せてもらってもいいかい?」


 アロイスは挑発的な言葉と態度を続けている。

 彼女からは烈しい嫌悪と憎悪、敵意の悪臭が迸ってる。


 どうやら魔王が、そしてその娘がどこまで格が違うのかきちんと理解していないようだ。

 言葉だけでは納得してくれる気配がない。


 ――まぁ全ては、私の見た目が子娘なのが悪い気もする。威厳が欲しい……。


「見せるって、どうすればいいの?

 私が瘴気を解放するだけで、この場に居る人間が全員一秒で全身が腐り落ちて死ぬけど。

 それを見せれば冥界で納得してくれる?」


 ガートナーが堪らず横から割って入った。


「二人とも落ち着け!

 ――アロイス、お前も剣を納めろ。

 リズはヴィクターですら歯が立たない本物の魔王の娘だ。

 お前如きが敵う訳ないだろう!」


「ガートナー!

 あんたさっき、反魔族同盟を結成したと言っていたのに、何故魔王の娘と親しそうなんだい!

 理由を述べな!」


「色々事情があって、今は共にラスタベルト王国を再建してる最中なんだよ!

 リズは人間の味方だ! 少なくとも、今はな。

 この国の伯爵ともさっき話を付けてきたばかりだ。

 伯爵はこの国から出ていくことに納得した。

 リズが説得したんだ。

 だからもう、お前らはこの国で魔族と争う必要はねーんだよ!」


 アロイスが厳しい目つきで、剣をガートナーに突き付けた。


「そんな話を信じろってのかい?!」


 ヴィクターがその切っ先を手で掴んだ。


「せっかく犠牲者を出さずに魔族が大人しく国外に出ていくというんだ。

 相手の撤退ぐらい飲んでやれ」


 アロイスの表情から険が抜け、呆然とヴィクターを眺めていた。


「ヴィクター、あんた本当にどうしちまったんだい?

 これがあのヴィクターの成れの果てだっていうのかい?

 あの頃の荒々しいいヴィクターはどこいっちまったんだい!」


 ――荒々しいヴィクター?


 リーゼロッテが小首を傾げていた。

 現在の姿からは想像もつかない。


 ヴィクターも苦笑を浮かべている。


「二十年もあれば人は変わる。

 あの頃の血気盛んな俺は、普段はしまっている――

 それより、俺に勝てない事ぐらいは理解しているだろう?

 剣を納めろアロイス」


 ヴィクターが切っ先から手を離すと、アロイスも大人しく剣を鞘に納めた。

 そのまま背後に振り返り、大声を張り上げる。


「あんたら!

 今日は撤収! 夜間の攻勢も取りやめだ!

 あたしはこいつらに事情を聴いておく!

 帰って各地の皆に伝えな!」


 様子を見ていた人間たちから、威勢よく返事が返ってきた。

 どうやら彼女の一言で撤収が決まったらしい。

 見事な統率力といえる。


 アロイスが再びリーゼロッテに向き直った。


「話はしっかり聞かせてもらうよ」


「いいけど、少し待っていて。

 各地の魔族たちを撤退させてくるわ。

 それまで三人で旧交でも温めておいて」


 ヴィクターが慌てて声をかけてくる。


「殿下! 私も共に――」

「いいから、二十年ぶりの再会なんでしょう?

 私の代わりに事情も伝えておいてくれると手間が省けるわ。

 じゃあね」


 リーゼロッテは素早くミネルヴァに乗って砦に飛び、中に居た子爵級魔族にも状況を伝え、撤退を促した。

 彼はすぐに撤退を決め、手勢を連れて裏口から引き揚げていった。


「さーて、忙しくなるわね!」


 白銀の流星が、各地の争いのある気配に向かって飛び立っていった。





****


 飛び去っていく白銀の流星を見やったアロイスが、ぽつりと呟く。


「神気を纏った魔王の娘……さっぱり理解できないね。

 どういう事なんだい?

 何故、人間にも魔族にも撤退を促したんだい?」


 ヴィクターがその場に座り込んだ。


「長い話になる。

 座って聞け」


 ガートナーとアロイスも、その場に腰を下ろした。



 かつて魔王城前の戦いでアロイスが負傷し、そんな彼女の命を守る為、ヴィクターはガートナーに、他のメンバーと共に引き上げるよう命じた。

 その後、ヴィクターが単身魔王城に侵入し、魔王との決戦の末に敢え無く敗れた事。

 その直後に生まれたのがリーゼロッテである事。

 それ以来、ヴィクターはリーゼロッテの忠実な副官で在った事。

 そんな事を伝えた。


 リーゼロッテが生まれた直後から同族の粛清を命じられた事を聞き、アロイスが顔をしかめた。


「魔王ってのは、血も涙もないのかい?

 生まれた直後の娘にかける最初の言葉が、同族を粛清する命令?

 信じれないほどの冷血ぶりだね」


「最初のうちは、殿下も戸惑い、躊躇いながら粛清を続けておられたようだ。

 何度か負傷して帰ってくる事もあった。

 一年も経つ頃には、もう今と変わらない殿下になっていたがな」


 アロイスの顔に憐みの色が浮かんだ。

 今の一言だけで、リーゼロッテの半生を粗方把握してしまったのだ。


「あの子、本当は同族殺しなんてしたくないんだね……それを二十年、続けてきたってのかい」


「今もその御心に変わりはない。

 だからこそ、カリアン王国に居る魔族たちに逃げる選択肢を与えた」


 アロイスが小首を傾げた。


「そこまでは同族だから分かる。

 だがなんで人間を殺したがらないんだい?」


「殿下は魔族の異端、心に愛を持って生まれた魔族だ。

 通常の魔族と性質が真逆、愛と平和で潤う世界に憧れを抱く魔族だ。

 争いや諍いがお嫌いで、負の感情も大嫌いだ」


「なるほど、人間が死ぬ時の感情に耐えられないんだね」


 人間は死ぬとき、リーゼロッテが嫌う、強い負の感情を烈しくまき散らす。

 その事をよく知るアロイスは、納得した様に頷いていた。


 だがガートナーが断りを入れる。


「それはリズが告げる方便だ。

 真実は、あの子が他人を種族の垣根無く慈しむ存在だから、誰かが死ぬのに耐えられないのさ。

 自然体で他人を慈しんじまう、そんな奴なんだよ」


 アロイスが深く顔をしかめた。


「……そんな子に、同族の粛清を二十年も強いてきたってのかい?

 惨いにも程があるんじゃないかい?」


 ヴィクターが悲し気な微笑みを湛えた。


「殿下はもう、御心が麻痺してらっしゃる。

 どれほど心が血の涙を流そうと、自覚する事ができない。

 俺にできるのは、その負担を肩代わりする事ぐらいだ」


 ガートナーが言葉を告げる。


「リズは今、魔王から大陸南西部の執政官として任務を受けてきている。

 この地方を愛と平和に溢れる地域にしたいんだとさ」


 その為には魔族が邪魔だから追い出す。

 例え滅ぼす結果になったとしても、追い出すだろう。

 話し合いで出ていってくれるなら、それを追う事はしない子だ。

 この地の伯爵とも話が付いている。

 だから追撃はしないでやってほしい。


 ガートナーが言葉を続ける。


「追撃しようとすれば、リズが立ちはだかる。

 あいつは逆らう個体にかける情けは持たない。

 人間を直接殺せないが、手段はあるようだ。

 それこそ、瘴気を解放するだけで終わる」」


 アロイスはリーゼロッテの『私が瘴気を解放するだけで、全員一秒で全身が腐り落ちて死ぬ』という言葉を思い返していた。

 それが真実なら、抵抗する手段をアロイスが率いる抵抗勢力は持たない。

 追撃は死を意味するだろう。


「――わかった、追撃はしないよう徹底させよう」


 アロイスの目がヴィクターの瞳を見据え、言葉を続けた。


「さっきから思ってたんだが、ヴィクターあんた、リズって子に心酔してるね?

 何があったんだい?」


 ガートナーが代わりに説明を始めた。

 月の神の寵愛の事、そしてその副次効果。

 リズの在り方。

 ヴィクターが最初の犠牲者になった事。



 アロイスが頭を抱えて悩み始めた。


「なんてぇ不憫な子だ。

 救いの無い人生じゃないか。

 あの子は愛情を感じることなく今まで生きてきたし、これからも生きる、そいうことかい?」


 ガートナーは苦笑を浮かべた。


「そういう存在だったが、最近のリズは、心で愛を感じられる個体に変化した。

 まだその事に戸惑っているようだが、少しは救いのある人生の目が出てきているんだ」


「そうかい……あの子と愛を通じ合える存在と出会えるといいね……」


「願わずにはいられないな。

 そうでなければ、あの子の人生は血に塗れたまま終わる事になっちまうからな」


 ヴィクターが胸を張った。


「俺は殿下を心からお慕いしている。

 あとは俺が殿下の愛を与えて頂ける人間になりさえすれば、俺が必ず殿下を幸せにしてみせる」


 ガートナーが笑いだした。


「ははは!

 ヴィクター、お前にそれは無理だろう!

 リズはお前の事を恋愛対象として見ていない!

 お前の目はヴィルケ王子よりずっと低いぞ!」


 ヴィクターが不満気な表情でそっぽを向いた。

 そんなヴィクターの様子を、切なげな表情でアロイスが見ていた。


「そうかい、ヴィクターに想い人が遂にできちまったかい。

 できれば祝福してやりたいところだが、事情が事情だ。

 素直に祝ってはやれないねぇ」


 ガートナーがニヤリと笑う。


「お前の二十年来の想いが絶たれて、絶望したか?

 パーティーに参加した動機がそもそも、ヴィクターに惚れ込んだ、だったからな」


 アロイスが目を逆立てて怒り出した。


「うるさいね!

 乙女心を少しは考えな!

 そんなだからその年齢で結婚相手が見つからないんだよ!」


 アロイスの剣幕に、ガートナーは唾を飛ばして反論する。


「うるせぇ!

 なんで二十年間会わなかったお前がそんなこと知ってやがる!」


 アロイスが勝ちを確信したかのように不敵に笑って見せた。


「一目見りゃ既婚者か未婚者かなんて一発で分かるんだよ!

 あんた、ろくに女に縁がなかっただろう?」


「余計なお世話だ!

 女なんざいなくとも、野郎どもと酒盛りできる日が来ればそれで報われるんだよ!」


 アロイスがクスリと笑った。


「ほぅ、酒盛りね。

 ラスタベルト王国はそこまで再建できてるのかい?」


 ヴィクターがアロイスに応える。


「そろそろ酒を欲しがる声が大きくなってきた。

 原料の生産量は充分だ。

 解禁するしかないだろうな。

 治安維持の手間は増えるが、仕方あるまい」


 アロイスが口惜しそうに語る。


「ラスタベルトの麦酒をヴェローナの海産物を肴にたらふく飲む……

 そんな日が、また訪れると良いんだがねぇ」


 ガートナーが楽しそうに笑った。


「ははは!

 それも間もなく実現するぞ!

 ヴェローナの海はごく一部だが、リズが正常化してきたばかりだ。

 リズの飛竜を使えば、酒が解禁されると同時に味わう事も可能だ」


 アロイスが目をしばたかせた。


「ヴェローナの、あの汚染され切った海を正常化したってのかい?

 私が最後に見たときは、とても漁ができる状態じゃなかったが……」


「正常化した直後に市民が海に飛び込んで、さっそく活きのいい魚を手づかみで掲げていたくらいだ。

 もう王都じゃ刺身が出回ってるんじゃないか?」


 アロイスが、口から垂れた涎をぬぐった。


「そういう食欲を刺激する話はよしてくれよ!

 こっちは満足な食事がお預けになって久しいんだ!」


「ラスタベルトも順調に農地が回復しつつあるし、ヴェローナの海も回復してきている。

 カリアンに流通が届くのは遠い未来じゃない。

 辛抱強く待つか、いっそ両国どちらかに来るといい」


 アロイスが神妙な顔で二人に尋ねる。


「これでカリアンから魔族が居なくなれば、実質的に大陸南西部は人間の手に戻ったことになる。

 今後の課題はどうなってるんだい?」


 ガートナーが応える。


「ヴェローナは比較的再建が簡単だが、海の回復は時間がかかる。

 あそこは海と共に生きる民の国だ。

 海の回復を、辛抱強く待つしかない」


 ヴィクターが応える。


「ラスタベルトは未だ絶望的状況で、生活基盤すら崩壊している。

 人手を始め、なにもかもが足りん。

 腰を据えて長期的に回復を図るしかない」


 アロイスが納得したように頷いた。


「なるほど、多分、どちらの国を立て直すにもリズの力が必要不可欠ってとこだね?」


 ガートナーが苦笑した。


「そういう勘の良いところは相変わらずだな――

 その通り、大陸南西部の復興はリズの双肩にかかってる。

 だから俺たちはリズを支えて、こうやって活動してる訳だ」


 アロイスが考え込んだ。


「カリアンの民なら野盗程度なら追い払える。

 ヴェローナでは仕事がないだろうが、ラスタベルトなら充分に役に立てるんじゃないか?」


 ガートナーが腕を組んだ。


「確かに、カリアンの民なら頼もしいところだ。

 余った人手をラスタベルトに出稼ぎに出してもらうのは良い手かもしれねぇなぁ」


 ヴィクターがアロイスに尋ねる。


「住居はどうするんだ?

 王都には戦闘集団を住まわせる余裕など殆ど無いぞ?」


「絶望的状況ってぐらいだ、廃墟になった集落くらい、そこら中にあるんだろう?

 勝手に直して住み着くさ。

 森で狩りをすれば生活はできる」


「それならアンミッシュの森がいいかもしれんな。

 森の恵みをそこから王都に出荷してくれるなら助かる。

 王都の生産物との物々交換になるが、それは充分にありだろう」


 アロイスが大きく手を打ち鳴らした。


「決まりだね。

 余ったカリアンの民が出稼ぎに出れば、残った人間はさほど困窮せずに暮らせる。

 武具や農耕具も不足してるだろう?

 魔法に頼っているから、ガートナーの顔色が死人みたいになるのさ」


 ガートナーが唾を飛ばして声を上げる。


「うるせぇ!

 ――だがその通りだ。

 魔法で人手を誤魔化すのも限界だ。

 農耕具で真っ当に対応してくれねぇと、そろそろ魔導士や神官が過労で倒れちまう」


「武具や農耕具を手土産に入国して、カリアンに食料を持ち帰らせてもいいだろう。

 ラスタベルトの鉱山じゃ、王都の需要すら満足に賄えないだろう?」


 ヴィクターが頷いた。


「その通りだ。

 カリアンが独力でラスタベルトに製品を納入してくれるなら、収穫物を引き渡すのもやぶさかじゃない」


 アロイスが頷いた。


「そういった話も含めて、私が国王に話を通しておこう」


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