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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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40.山の国カリアン

 リーゼロッテはドミニクと狩りに出かけた。

 アンミッシュの森から戻り、リンゴ酢を仕込み、食材をしまい終わると神殿に移動する。


 ミネルヴァが空から降り立つと、神殿前でヴィクターとガートナーが並んで待っていた。


 ガートナーがニヤリと笑う。


「いつも通りだな。

 リズは時間に正確だ」


「あらそう?

 意識したことがなかったわ。

 じゃあ二人とも、ミネルヴァに乗って」


 二人が乗り込むと、ミネルヴァが白銀の流星となって空を駆けていく。

 途中でリーゼロッテたちは、各人個別に隠遁魔法を纏った――

 その方が、対応力が上がると学習したからだ。

 ヴィクターの指にも、リーゼロッテの髪の毛で作った白銀の指輪が嵌っている。

 これで三人が無言で意思疎通できる。


(ねぇヴィクター、カリアン王国はどんな感じになってるの?)


 ヴィクターの声がリーゼロッテの頭に響く。


『わかっている範囲では、最高統治者である伯爵が王都を占拠しています。

 各都市を彼女の配下が支配していますが、国土の半分は人間が取り戻しているようでした』


 カリアン王国を統治しているのは、ヴェーゼブル伯爵という女性型魔族らしい。


(半分も取り戻しているほど、人間の力が強いのかしら?)


『カリアン王国は冶金と鍛冶の国でもあります。

 優れた武具が揃っていますので、対応力が高いのでしょう。

 ですがラスタベルトとヴェローナが封殺され、輸出入が絶たれました。

 食料で困窮しているはずです。

 国土の多くが山岳地帯、食料は輸入に頼らざるを得ない国家です』


 続いてガートナーの声が頭に響く。


『おそらく、食料を生産できる土地を敢えて人間に明け渡したのだろう。

 代わりに、冶金の命とも言える鉱山都市をきっちり抑えた、そんなところじゃないかな。

 生きては行けるが、国としては死んだ状態だ』


(なるほど、そういう意味ではヴェローナに近いかもしれないわね。

 伯爵とも一度、話をしてみましょうか)


 二人が頷いた。



 ミネルヴァが王都エメリヒにある王宮の中庭にゆっくりと降り立ち、リーゼロッテたちはカリアン王国の地を踏んだ。


 そのまま探査術式で伯爵らしき反応を探し出し、彼女のいる場所へ向かう――やっぱり謁見の間なのか。

 彼女もウェレアムレイト公爵のように玉座に座り、人間の老人を見下ろしていた。


(この老人が王様?)


『ええ、身なりからして間違いないかと』


 リーゼロッテはその場の人間すべてに防御結界魔法を施してもらってから隠遁魔法を解いた。


 突如として魔王級の瘴気と共に現れたリーゼロッテの姿に、玉座の魔族が愕然としていた。


「はじめまして、あなたがヴェーゼブル伯爵かしら?

 私が誰か、説明が必要?」


 ヴェーゼブル伯爵は震える声で応える。


「……リーゼロッテ殿下、このような場所に何用ですか」


「前任者、ダグムロイト公爵を粛清した後、私が大陸南西部の執政官となったの。

 その挨拶よ」


「……それだけ、でしょうか」


「ラスタベルトとヴェローナ、両国から魔族を放逐し終わったことも教えてあげようかと思ったの。

 あなたはそれを聞いて、何を考えるかなって」


 ヴェーゼブル伯爵の顔が蒼白になり、驚愕で目が見開かれる。


「まさか、両国の魔族全てを滅ぼしたと仰るのですか!」


「違うわよ?

 ヴェローナのウェレアムレイト公爵は、私に滅ぼされる前に魔王城に移り住むことを選択したわ。

 この地方から去っていく魔族を、私は追ったりしない。

 今はね」


 ヴェーゼブル伯爵が固唾を飲み込んだ。


「その『今は』の意味を、お教え頂けますか」


「状況が変われば、追う事もあるかもしれないわ。

 だから『今の状況なら』と制限を付けざるを得ないの。

 例えば、お父様から粛清命令が下れば、ウェレアムレイト公爵を滅ぼしに行かなければならない。

 その程度の意味よ」


 ヴェーゼブル伯爵はわずかに考えるように俯いた。


「つまり、魔族を大陸南西部から放逐する事が、魔王陛下の御意志だと?」


「正しくは『人間を大陸南西部で増やす事』よ。

 その為なら私が好きに振舞って良いと許可をもらってるわ。

 私は魔族を放逐して、この地方を人間で満たすつもりよ。

 その放逐先が他の地方なのか、冥界なのかは状況次第だけどね。

 少なくともラスタベルトの魔族たちは、選択の余地がなかったから全員滅ぼしたわ。

 あなたは、どちらがお好みかしら?」


 ヴェーゼブル伯爵が深く考え込んでいるようだった。


 伯爵級など、リーゼロッテの生み出す低級眷属程度の力しか持たない存在だ。

 取るに足らない存在でしかない。

 逆らうだけ無駄――それは、彼女も理解しているはず。



「我々はどこへ行けばよいとお考えでしょうか」


「少しこの国を視察して見て回らないと判断が付かないけれど、あなたも有能だと判断できれば、お父様にそう進言しても構わない。

 その場合は魔王城が一番安全かもしれないわね。

 そうでなければ、他の地方に移り住むことになるわ。

 少なくとも、ある段階を過ぎてもこの国に残って居た魔族は、順次私が滅ぼしていくことになると思うの。

 行く先は自分で決めて頂戴」


「……では、この国を視察してまわってから、改めてここに戻ってきてお言葉を頂いても宜しいでしょうか」


「そうね、視察を疎かにしたのは私の失態ね。

 まずは王都の様子を眺めて、必要なら他の都市も眺めてからあなたの能力を査定してあげる。

 その間、大人しく待っていられるかしら?」


「畏まりました。

 もう一つ、ご相談があります。

 宜しいでしょうか」


 リーゼロッテは小首を傾げた。


「なにかしら?

 述べてみなさい」


「この地方から魔族全員を引き揚げさせるには、反抗する人間の勢力が邪魔をします。

 彼らを説得し、引き上げる魔族に被害が及ばないように保護をお願いできますでしょうか」


「いいわよ?

 やるだけやって、人間が拒否をするようなら私が守ってあげてもいいわ。

 これでいいかしら?」


「では、この王都にすべての魔族を招集させます。

 人間に邪魔をされて動けない者たちを、殿下が王都に連れてきてください。

 視察と共に出来る事だと思いますが、いかがでしょうか」


 リーゼロッテは頷いて見せた。


「引き受けたわ。

 王都にカリアン王国の魔族全てが集まった時点で、あなたに評価を下すわ。

 それで行き先を決めなさい。

 無事に国外に出るまでは護衛してあげる」


「有難きお言葉、痛み入ります」


「じゃあ視察をしてくるわね」


 そう言葉を告げた直後、リーゼロッテは隠遁魔法で姿を隠し、瘴気を納めて人間たちの防御結界を解いてもらった。


 そのまま部屋の隅に移動する。



 ヴェーゼブル伯爵は深いため息を玉座の上でついた。


「……あれが殿下か。

 魔族の異端にして死の宣告者、彼女に狙われて生き延びた者はいない――

 皆の者、話は聞いていたな?

 今すぐ国内の魔族全てに王都に集結するように告げよ!

 残るものに命の保証はない!

 むしろ消滅が確約されるだろうとな!」


 副官らしき男が進言する。


「閣下、宜しいのですか?

 我々弱小魔族では、どこに行っても生き残るのが難しいかと思われますが」


「少しでも生き残る可能性が高い選択肢を選ぶしかないじゃないか。

 残って居れば、待って居るのは殿下の死刑執行だ。

 あれから逃れる術はない。

 四魔公の一角ですら簡単に滅ぼしてみせる相手に、私如きが逃げ切る事など不可能だ」


「……確かに、仰る通りです。

 あとは殿下が閣下の能力を高く評価して下されば、魔王城に逃げ込むことが出来ます。

 それに賭けましょう」


 ヴェーゼブル伯爵が自嘲気味に笑った。


「私は人間に甘い統治をしていると悩んだこともあったが、まさかここに来て逆に我が身を助ける可能性になるとはな。

 人生とは皮肉なものだ――

 おそらく、殿下は人間がより多く生き残って居れば高く評価して下さる。

 それほど悪くない望みのはずだ」


 どうやらヴェーゼブル伯爵は、普遍的な魔族よりはリーゼロッテに近い個性を持つようだ。

 人間たちに反抗を許しているのも、その表れだろう。

 彼女がその気になれば、伯爵級でも加護を持たない人間なんて相手にならない。

 それが可能なのに、していないのだから。


 尤も、人間たちの武力を警戒し、自分が傷つくのを恐れている節もある。

 万が一でも滅ぼされる可能性を恐れ、甘い統治になるのかもしれない。


 造反者を出してない辺り、統率力が高い――いや、結束力が強い集団だろう。

 これも魔族にしては珍しい個性だ。


 こうしてリーゼロッテはヴェーゼブル伯爵と配下の資質を査定を終えていった。


(行こうか、二人とも)


 リーゼロッテたちは中庭に移動し、ミネルヴァの背に乗って王都をゆっくりと低空飛行してもらった。


 市民の様子は、案外顔色が良い。

 統治者の直轄地だというのに、ヴェローナより明るい街に見えた。

 町全体も、絶望の香りが薄い気がした。


 リーゼロッテは小首を傾げた。


(どう思う? 二人とも)


 ヴィクターの声が響く。


『おそらく、反抗する人間たちの情報が彼らに希望を与え続けています。

 魔族たちも、比較的行動が大人しいようです』


 ガートナー声が続く。


『この国の人間は荒っぽい。

 平民階級の魔族相手なら、平気で殴り合いを始める。

 簡単には負の感情を搾り取れんはずだ』


 そうなると負の感情を搾り取るのも苦労しているのだろう。

 ヴェーゼブル伯爵の配下は、必要最低限の貴族階級しか居ないようだ。


 魔族の食糧事情が、あんまりよくないのだろう。

 平民階級魔族の姿も無いようだ。


 そんなヴェーゼブル伯爵だが、人間を管理する能力はあると見てよいだろう。

 あちこちを見て回るが、魔族と人間が争っている空気はない。

 人間の治安は人間に維持させて、魔族の治安も乱れなく保っている。

 判断力と統制力がある証拠だ。

 必要以上に人間を虐げていない点も評価が高い。


 充分に有能と言える個体と、リーゼロッテは判定を下した。



 そのまま近隣の都市を低空飛行で回るが、どこも似たような空気だった。

 既にリーゼロッテの意志が告げられ、近隣の都市の魔族たちは引き上げ始めている。

 彼らを追いかけようとする人間は、ここには居ない。



(少し、人間たちの勢力圏に近い所を見てみようか)





****


 ミネルヴァが大きく飛んでいった先、この国にある、わずかな平野部。

 畑が広がる地域では、魔族が砦に籠って防戦しているようだ。

 人間たちは砦に対して猛攻を仕掛けているが、彼らの敵意や憎悪、怒りを食べて、中に居る下位貴族級が低級眷属を生み出し、砦を守る兵士として送り出している。

 倒しても倒しても湧いてくる低級眷属を相手に、人間たちは気勢を上げて立ち向かい、打ち滅ぼしていく。


 ――これ、わざと拮抗するように低級眷属を調整しているな?


 巧妙な手だろう。

 延々と籠城を続けられるよう、戦力を調整している。


 人間が砦まで負の感情という食料を届けながら攻めてくる。

 中の魔族はそれを食べて魔力を補充し、中から程々の戦力を送り出す。

 人間は魔族の理解が浅いようで、『いつか力尽きる!』と自分たちを奮い立たせている。


 つまり、これは人間たちの不満の捌け口だ。

 そうやって人間たちの活力を無駄遣いさせて、大きく反抗する力にさせていない。


 ――誰が考えたんだろう? ヴェーゼブル伯爵なら、評価点がさらに上がる。


 だがこうも拮抗していると、中の魔族が抜け出す事もできない。


(ヴィクター、この人たちを一旦撤退するように説得できるかな?)


『夜間になれば、自然と引き上げると思いますが?』


(夜間になったら別の人間が攻めてくるかもしれない。

 魔族を休ませるつもりがないみたいだし、可能性が高い気がする)


『……なるほど、確かにそんな気配ですね。

 わかりました。やってみましょう』



 ゆっくりと低空飛行を続けるミネルヴァから、人間たちから離れた位置にヴィクターが飛び降りた。

 そのまま隠遁を解除して、声を大きく張り上げた。


「カリアン王国の戦士たち!

 手を止めて話を聞いてくれないか!」


 拡声術式も併用したその声に、人間たちの手が止まった。

 集団の中から、ゆっくりと指導者らしき壮年の女性戦士が姿を現した。


 桜色の髪の毛を短く結わえ、長剣を携えている。

 細身ながら、逞しい体つきの女性だ。

 その身体は細かく震えているようで、ヴィクターをまっすぐ見つめている。


「まさか……ヴィクター?!

 生きていたというのかい?!」


 ヴィクターも驚いたように応える。


「その声は……まさかアロイスか?!」


 ミネルヴァの上のガートナーも、慌てて浮遊魔法で降りていき、傍で隠遁魔法を解除していた。


「アロイス! こんな所に居たのか!」


「あんた、ガートナー?!

 こんなところでなにしてんのさ?!」


「そりゃ俺たちのセリフだ。

 お前の故郷は大陸北部だろう?

 なんで南西部で反魔族活動なんてやってんだよ?!」


 アロイスと呼ばれた女性は、ガートナーをジト目で見ていた。


「魔族共に抗いながら故郷を目指して居るうちに、この国に流れ着いただけさ。

 男どもが情けないから、私が指導者なんてもんに祭り上げられちまった。

 ただの神魔大戦の生き残りってだけで、偉い過大評価だよ。

 そういうガートナーは何をしてたんだい?

 まさか、魔族に怯えて隠れて生きていた、なんて言わないだろうね?!」


 ガートナーも白い目でアロイスを睨み付けた。


「俺を誰だと思ってやがる!

 故郷のラスタベルトで、公爵級魔族相手に反魔族同盟を結成して抗ってたんだよ!

 伯爵級相手に苦戦してるお前とは格が違うんだ!」


 ――いや、ラスタベルト王国の反魔族同盟の戦力、伯爵級に勝てる規模じゃなかったじゃない……。


 リーゼロッテは思わず呆れていた。

 そんな偉そうに胸を張って言える事ではない。


 アロイスがガートナーの言葉を受けて、自嘲気味に笑った。


「ははは、確かに、私は伯爵級すら倒せない足手まとい。

 二十年前と何も変わっちゃいないね。

 情けない――それより」


 アロイスの目が、ヴィクターの顔にとまった。


「なんでヴィクターは年を取ってないんだい?

 いやそれより、死んだんじゃないのかい?!

 生きていたなら、何故教えてくれなかったんだ!」


 ヴィクターが苦笑を浮かべる。


「魔王と戦い、敗れた。

 手傷を負わせた報復に、多くの呪いを受けたんだ。

 あれから俺は、成長を止められている。

 だからあの時から一切年を取って居ない」


 アロイスが感心したように頷いていた。


「よくそれで魔王城から生きて逃げてこれたね……さすがヴィクターだ」


「いや、それが……今の俺は魔王軍の人間なんだ。

 魔王に服従せざるを得ない呪いを受けていてな。

 逆らえん」




 リーゼロッテは三人の横で大きく両手を打ち鳴らした――もちろん、ミネルヴァから降りると共に、隠遁魔法を解除している。


「古馴染みと盛り上がってる所悪いんだけど、人間を一度引き上げさせてくれない?

 魔族たちを、一旦王都に招集させないといけないの。

 彼らを国外に送り出す為にね」


 フードを目深に被っているリーゼロッテを訝しみながら、アロイスがリーゼロッテに尋ねてくる。


「あんた、誰だい?

 神気は感じるが、二十歳より若いように感じる……どういう事だい?」


 リーゼロッテはにこりと微笑んだ。


「私は――リズ、とでも呼んで頂戴。

 魔王の娘よ」


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