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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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37.海の国ヴェローナ

 ガートナーに隠遁魔法を使ってもらいながら、ミネルヴァがあっさりとヴェローナ王国の国境を超えていく。


 まずは王都を目指した。

 王都の位置はガートナーが把握しているらしく、ミネルヴァは迷うことなく王宮のある大きな街の上空で静止した。


 ミネルヴァには、人の心を読む力がある。

 乗り込んだ人が行き先を知って居れば、迷うことなくそこに向かってくれる。



 上空からでも絶望の悪臭が漂う街、ヴェローナ王国の王都ジェスカン。

 海に面したその街の港からは、一隻の船すら出航する姿が見えない。

 海には魔物が跋扈する気配があり、こんな状態で出航すればすぐに魔物の餌食になるだろう。



『酷いものだな。

 ラスタベルト王国ほど荒廃している訳じゃないが、これじゃあ命綱の海の幸は絶望的だろう』


 言葉を口に出すと隠遁魔法が解けてしまうので、リーゼロッテたちは念話の術式で会話している。

 ガートナーの指には、ドミニクに施したのと同じ白銀の指輪が輝いていた。


 当然、海の幸ばかりに頼って生きている訳でもない。

 彼らは畑から収穫できる物でなんとか生活しているようだ。

 畑の荒廃具合は、確かにラスタベルト王国よりはずっとましと言える。

 作物があるのが見て取れるのだから、なんとか生きている人々が居るはずだ。


 リーゼロッテはミネルヴァに低空飛行をしてもらい、ゆっくりと街の様子を見て回る。

 徘徊する魔族たちの暴力に怯えながらも、人々は何とか生きている。

 その数は、ラスタベルト王国の王都ヘルムートよりもずっと多そうだ。


『おそらく、人口は二万人を超えてるんじゃないかな。

 陸上で得られる食料でギリギリ生活できる数だろうが、それでも貧困に喘いでいるな』


 時折見かける外を歩く人間は、頬もこけ、顔色も悪い。

 あくまでも『ラスタベルト王国よりもマシ』というだけであって、あそこが飛び抜けて酷かっただけだ。


(前任者の執政官直轄地だったのが、ラスタベルト王国の不幸かしらね)


『そういう事だろう。

 ここを治める魔族は、もう少しまともという事だ。

 どうする?

 滅ぼすのを止めておくか?』


 悩ましい所だろう。

 この様子なら、数年以内に大幅に人間の数が減ることはないように思えた。

 下手に刺激を与えずに現状維持を続けた方が、人間の数を減らさずに済むかもしれない。

 現地で最大の力を持つ個体を滅ぼすという事は、それだけ他の魔族を統制する個体が居なくなる事を意味する。

 リーゼロッテの存在の意味を理解せず、争って人間を虐げ始める可能性すらある。


 少なくとも、ヴェローナの王都は小康状態を保ってると言って良いだろう。


(……執政官として、挨拶をするだけに済ませましょうか)


『そうだな。この状態なら、統率者を失う方が痛いだろう』



 ミネルヴァで王宮の中庭に降り立った後、リーゼロッテは月の神の魔法で別途、自分に隠遁魔法をかける。


(これなら、最初から別々に隠遁魔法をかけていた方がいいわね。

 次からはそうしましょうか。

 ガートナーさんは自分だけ確実に隠遁しつつ防御結界を張り続けていて)


『もちろんだ。

 防御結界がなければ、瘴気で俺が倒れちまう』



 リーゼロッテたちは隠遁魔法で姿を隠しつつ、探査術式で最も強い個体の元へ向かっていく。

 別々の隠遁魔法で姿を隠しているけれど、お互いが認識できるような現象を願う事でリーゼロッテたちは姿を認識しあえる。


 隠遁魔法の理屈から離れた、なんとも不条理な現象だ。

 願うだけでそれが理屈を超えて結果として現れる。


 リーゼロッテは『魔法って、どんだけ反則技なんだろう』と呆れていた。





****


 最も強い個体は、謁見の間の玉座に座っていた。


 ――なんでそんなに玉座に拘るのかなぁ?


 リーゼロッテには理解できず、小首を傾げた。


 だがよく見ると、玉座の前で王族の装束を纏った老年の男性が跪いている。

 絶望と屈辱、憎悪と嫌悪を滾らせて悪臭が酷い。

 この地の統率者は、その感情を美味そうに貪っていた。


 ――あ、なるほど。人間の統治者に負の感情を抱かせる為に、敢えて玉座に座って見せているのか。


 意味がないと思っていた行為に意味を見出して、リーゼロッテは一人納得していた。


 リーゼロッテの合図を受け、ガートナーがその場にいる人間全員に無色の防御結界魔法を張った。

 それを確認したリーゼロッテは玉座の前に立って隠遁魔法を解くと同時に、瘴気を解放する。


 リーゼロッテの瘴気を浴びた、その場の全員が戦慄していた。

 魔族も、人間も、恐怖で身動きが取れない。


 魔族にとってこの状況は、己の死を予感させるものだった。

 『白銀の死』とも呼ばれる、粛清部隊長官リーゼロッテの突然の出現。

 下手に動けば命がないと知っている。


 人間は魔王級の瘴気に圧倒され、こちらも死を予感して身体が硬直していた。



 リーゼロッテは真顔で玉座に座る魔族に対して、冷たい声で告げる。


「私の瘴気を浴びたのだから、私が誰かは理解できたかしら?

 理解したのなら相応しい行動をとりなさい」


 玉座に座る魔族は唖然とした後、慌てて玉座から降り、リーゼロッテの前に跪いた。


「殿下、このような場所に何か御用でしょうか」


「ダグムロイト公爵は無能の烙印を押され、粛清されたわ。

 誰に粛清されたかは――言う必要がないわね?

 後任が決まるまで、私が大陸南西部の執政官を務める事になったの。

 その挨拶よ」


「これはご足労頂き、恐縮の限りです。

 前もって触れを頂ければ、お出迎え致しましたが、何故隠遁を使っておられたのですか?」


「ダグムロイト公爵が余りに無能で人間を減らし過ぎていたから、今回は密かに人間の様子を観察しながら来たのよ。

 あなたは比較的巧く統治できている個体のようね。

 その調子で、人間をこれ以上減らさないよう努めなさい」


 リーゼロッテが周囲を見渡す。

 どの魔族も萎縮したまま動けないようだ。


 リーゼロッテは改めて跪く魔族に言葉を告げる。


「ところで、私はあなたの名乗りを聞いていないわね?

 人間たちの汚染なら心配いらないわ。

 私は今日、防御結界魔法を使える人間を引き連れてきているから――それを聞いてもまだ無礼を続けるのかしら?」


「はは! ウェレアムレイト公爵と申します!

 以後お見知り置き下さい!」


「そう、一応覚えておいてあげる――ダグムロイト公爵は、三十八人の取り巻き共々瞬きで塵と化したわ。

 あなたも同じ道を辿りたくなければ、人間をいたぶり過ぎないように気を付ける事ね」


 頭を下げたままのウェレアムレイト公爵が震え始めた。

 彼にとってダグムロイト公爵は遥か格上、四魔公の一角だ。

 それを取り巻き共々、瞬きの時間でリーゼロッテが滅ぼしたと告げた。

 機嫌を損ねれば、同じ道を辿る。

 それを理解したようだ。


「――殿下、一つだけ、伺っても宜しいでしょうか」


「何かしら?」


「現在のラスタベルト王国は、どのような状態にあるのでしょうか。

 ラスタベルト王国に送った使者の一名が消息不明になっており、戻ってきておりません」


「あら、それは不運だったわね。

 減り過ぎた人間を増やす為、一旦ラスタベルト王国の魔族には滅んでもらったわ。

 それに巻き込まれたのね――大変だったのよ?

 全ての集落から魔族を滅ぼし尽くすのに二か月もかかったわ。

 一か月もあれば終わると思っていたのだけれど、人間を増やす作業と並行していたから時間がかかってしまったわ」


 ウェレアムレイト公爵が震える声でさらに尋ねる。


「……全滅、ですか。

 そこまでする必要があったのでしょうか」


「あったからやったのよ。

 そうしなければ人間を増やす事が不可能なほど国土が荒廃していたの。

 でなければ私自ら滅ぼして回る訳が無いでしょう?

 お父様からは『人間を増やしてこい』と命じられているし、アーグンスト公爵からも、その為なら私の好きにして良いし、魔族を殲滅しても構わないとさえ言われているわ。

 少なくとも、ラスタベルト王国はそんな状態だった――

 どう? 納得した?」


 ウェレアムレイト公爵が固唾を飲んだ。


「……では、ヴェローナ王国は如何様に判断されたのですか」


「そうね……現状は及第点、と言ったところかしら」


 海は封じられているが、人間はラスタベルト王国より多く生き残っている。

 ダグムロイト公爵よりは有能なのは明らかだ。

 無能と判断していれば滅ぼすつもりで居たが、街の様子を見て気が変わった。


 リーゼロッテは淡々と告げた。


「あなたには『もうしばらく』、人間が減らない努力を続けさせてあげるわ」



 ウェレアムレイト公爵が安堵の溜息をついた。

 だが未だに身体を震わせてもいる。

 『もうしばらく』が終わった後、自分がどうなるかを悟ってしまったのかもしれない。


 震えるウェレアムレイト公爵に、リーゼロッテが微笑みながら言葉を告げる。


「私も異端とはいえ魔族。

 同族殺しをしたくてしてる訳じゃないのよ?

 ――有能なあなたには、もう一つの選択肢を与えてあげる」


 可能な限りの魔族を連れて他の地方に移住する選択肢だ。

 リーゼロッテの管理する大陸南西部から去れば、自分が今すぐ命を狙う事もない。


 リーゼロッテが微笑みながら告げた。


「行先は魔王城でもいいわね。

 そこから先は、お父様がどんな判断をするか次第だけど、あなたが有能であることは伝えておいてあげる。

 どうする?」



「……陛下に温情を頂けるように、お言葉を頂けるのでしょうか」


「お父様に温情?

 ある訳無いじゃない、そんなもの!」


 リーゼロッテは楽しそうに笑い声を上げた。

 彼女が魔王に温情を見た事など、一度たりともない。


 だが現在、魔王軍は有能な人材に飢えている。

 ウェレアムレイト公爵が管理者として有能だと伝えれば、処分される事はないだろう。


 残された人間には自治でもさせておけば良い。



「ラスタベルト王国の立て直しが終わった後、次はこの国に着手する事になるんじゃないかしら。

 その時残っていた魔族がどうなるかは……

 有能なあなたなら、想像が付くかもね?」



「……期限は、猶予はどれほど頂けるのでしょうか」


「少なくとも、一年はラスタベルト王国の立て直しで手一杯よ――

 ああ、その間に力を蓄えて私に歯向かおう、なんて愚かな考えは、止めた方が良いわよ?」


 リーゼロッテを返り討ちにしたければ、数百年は力を蓄えないと不可能だろう。

 公爵級と魔王級の格差はそれくらいある。

 ラスタベルト王国に侵入して来れば、見つけ次第滅ぼすので攻めてくるだけ無駄だ。



「人間を盾にするなら、それは私の怒りを買うだけだという事も、有能なあなたなら理解できると思うの」



 ウェレアムレイト公爵はリーゼロッテの言葉で、様々なこと理解したようだ。

 身体の震えは止まり、冷静になっていた。


「……殿下は、人間の味方をなさると、そういう事でしょうか」


「少なくとも、お父様の指示は人間を増やす事だもの。

 結果的にはそうなるわね。

 文句があったらお父様に言って頂戴?

 その後の命の保証はさすがにできないけれど」


 リーゼロッテは、怯えながらも唖然とリーゼロッテたちの会話を聞いていた、人間の王族らしき老人に言葉を告げる。


「あなたが人間の国王かしら?

 もうしばらく、一年か二年か、それは約束できないけれど、耐え忍びなさい。

 私がこの国も救ってあげるわ。

 今は手が塞がってるけどね」


 リーゼロッテは魔族もできれば滅ぼしたくないと思っている。

 彼らにも逃げ出す猶予を与えたい。


 ラスタベルト王国に居た魔族には、その猶予を与えてやる余裕がなかった。

 だがこの国の魔族には、猶予を与えることが可能かもしれない。

 それはこの国の人間が今まで必死に耐えてくれたおかげでもある。



「私はその事にお礼を言いたい気分よ――

 言いたいことがあれば、言葉を述べる事を許可するわよ?」



 人間の王族らしき老人が、震えながら言葉を告げる。


「我が国が、救われると仰ったか」


「それだけは約束してあげる。

 定期的にここを視察に来て、あなたたちが滅ぼされそうになって居たら、手遅れになる前に魔族の殲滅を開始するわ」


 魔族が大人しくこの国から去るようであれば、リーゼロッテは彼らを追わない。

 ラスタベルト王国と手を取り合って、この国を立て直していく事になるだろう。



 人間の王族らしき老人は、目を見開いてその言葉を受け止めていた。

 震えながら目を固く瞑り、涙を流した。

 歓喜と希望――正の感情だ。


「ああ、駄目よあなた!

 この場でそんな感情を溢れさせたら、私が去ってから魔族の機嫌を損ねるわ。

 部屋に帰ってから、ひっそり感激に浸っておきなさい」


 リーゼロッテの言葉を聞いても、彼は感情を我慢できないようだった。

 溢れる歓喜の香りは、勢いよく香り立っている。

 周囲の魔族たちは、実に不快気に顔をしかめていた。


 リーゼロッテはため息をついた。


「ふぅ。しょうがない人間の個体ね――

 ウェレアムレイト公爵、この人間の事を処罰することは禁止するわ。

 これは私の失言、私の失態よ。

 この個体を処罰することは私に逆らう事。

 その場合、私は容赦なくあなたをその場で滅ぼすわ。

 理解したなら返事をしなさい」


「畏まりました。部下にも徹底させましょう。

 逃げ出す猶予を下さり、ありがとうございます」


「お礼なんていらないわ。

 私も同族殺しなんて、やらずに済むならしたくないもの。

 やらざるを得ないから滅ぼすだけなの――

 さすがに、逆らう個体にかける情けは持っていないけどね!」


 リーゼロッテは背後で術式を用意していた魔族の個体に向かって魔力の矢を抜き打ちで放った。

 宣言通り、リーゼロッテは瞬きで造反を企てていた個体三体を塵に変えた。

 魔力の弓矢こそつがえていないが、リーゼロッテはいつでも部屋にいる魔族全員を滅ぼす用意がある。


 当然、全員の気配は把握しながら会話している。

 敵中で油断をする間抜けが、二十年も生き残れる訳が無い。


 リーゼロッテは消えてゆく塵を見下ろしながら告げる。


「……公爵級ですら最低数百年は力を蓄えろ、と忠告してあげたのに、侯爵級如きが不意を打てるとでも思ったのかしら?

 もしかして、魔王の娘を舐めてるの?

 この場に居る魔族の個体なんて、それこそ瞬きの時間で全員を塵に変えてみせるわよ?」


 その場の魔族たちに言葉はない。

 瘴気の濃度だけで、格の違いなんて嫌と言うほど理解させている。

 背後で不意を打とうとした侯爵級も、きちんと瞬きで処分してみせた。

 リーゼロッテがこの場で一切油断などしていないと、きちんと提示してあげる、とても親切な行為だと彼女は思っている。


 人間は、状況を理解できていない者が半分。

 理解しても感情を我慢している者と、我慢しきれず国王のように漏らしている者がもう半分だ。

 彼らがどうなるかは、ウェレアムレイト公爵次第だろう。


「告げる事は告げたわ。

 後の選択肢は、なるだけウェレアムレイト公爵に従っておいた方が良いとだけ言い残しておくわね。

 お父様には、今日中にウェレアムレイト公爵の事を伝えておくわ」


 言い終えたリーゼロッテは、隠遁魔法で姿を隠した。

 同時に瘴気をしまい、人間たちの結界を解いてもらう。



 そのままリーゼロッテは部屋の隅に行き、様子を伺っていた。

 ガートナーが不思議そうな顔でリーゼロッテを見ている。


『どうした? 行かないのか?』


(ガートナーさん、もしかしてお人好しなの?

 そんなんじゃ、魔族の間で長生きできないわよ?)


 彼らがどう判断しどう動くか、ある程度見届けておく必要がある。

 口先だけで実が伴わないなど、ざらにあった。

 ウェレアムレイト公爵はそういった個体ではないだろうが、部下たちの資質はまた別だろう。



 ウェレアムレイト公爵が立ち上がり、玉座に座り直した。

 胡乱気に部下たちに指示を伝える。


「その悪臭がする人間たちを部屋に返せ。

 ただし暴力は振るうな。

 殿下に知られたら即座に滅ぼされる。

 おそらく、まだそこらに潜んでおられるはずだ」


 的確な判断と観察力と言える。

 頭が回る個体なのだろう。


 ――でも回り過ぎる個体は、始末されやすいぞ? 大丈夫かな、この公爵。


 リーゼロッテの胸中に一抹の不安が宿る。

 特に魔王はそういった個体を嫌った。



 魔族の兵たちが、悪臭で顔をしかめながら人間たちを謁見の間から追い出した。


 ウェレアムレイト公爵の部下の一人が、公爵に尋ねる。


「本当にこの国から去るのですか」


「殿下は嘘を言わぬ個体と評判だ。

 魔族らしからぬ魔族の異端。

 神気を伴う瘴気など、殿下以外に存在しない。

 去らぬ個体は遠くない将来、殿下の矢に射抜かれて滅びる。

 それが嫌なら去るしかあるまい」


「どこに去るというのですか!」


「……魔王城だ。

 魔王陛下に進言して頂けるというのだ。

 他の地方に行くより生存の公算が高い。

 それが嫌なら、この国に残り、殿下の矢に怯えながら生きるが良い。

 それまでは止めはせんが、おそらく定期的に殿下はこの国を視察に来られるだろう。

 今のように、隠遁しながらな。

 気づかぬうちに滅ぼされるか、情けで姿だけは見せて頂けるかは知らんが、滅びだけは約束して下さるはずだ」


 悔しそうに部下が歯ぎしりをした。


「公爵閣下は、それで納得できるのですか!」


「納得も何も、殿下に勝てる個体は魔王陛下ただお一人。

 逆らう個体は自由にしろ。

 だが勝ち目は一切ない、とだけ教えておいてやる。

 殿下は高位魔族の粛清を二十年続けてきたお方だ。

 油断も一切期待できん。

 私に付いてくる個体は、私が力及ぶ限り庇ってやろう。

 あとは好きに自分の生死を選べ」


 ウェレアムレイト公爵には諦観が漂っている。

 この状況だと、リーゼロッテの予想では造反者が出る。


 ――思った通り、術式を密かに用意してる個体が居る。


 だがそれに対処する気が、公爵にはないようだ。

 防御結界を強化する気配もない。


「なんだ?

 隠れてこそこそやらずに、堂々と襲えばよかろう。

 報復で命は奪うが、貴様らの最後のあがきぐらいは身体で受け止めてやる」


 魔族として珍しい種類の個体だ。

 こうした態度で配下を率いている個体なのだろう。


 だが今、公爵に居なくなられるとリーゼロッテが困る。

 即断、即決、即行動。


 造反を企てている二体の魔族が矢で射抜かれ塵と化した。

 隠遁魔法を使っているので、彼らには突然二体が塵になったように見えただろう。


「……ははは、言った通り、殿下はまだ潜んでらっしゃるようだぞ?

 ――殿下、これは私の流儀なのです。

 余計な手出しは無用。お控え下さい」


 ――言われてしまった。


 公爵を滅ぼせる可能性があったのは今の二体だけ。

 あとは任せてしまってもいいだろう。



(行こうか、ガートナーさん)


 リーゼロッテはそっと謁見の間から立ち去り、中庭へ向かった。





 ミネルヴァに乗り込むと、リーゼロッテはあえて隠遁魔法を解除した。


「ガートナーさんも、隠遁を解除して。

 自分の結界は維持を忘れずにね」


 首を傾げながらガートナーがリーゼロッテに尋ねる。


「何をするつもりだ?」


 リーゼロッテは応えずにミネルヴァに飛んでもらった。

 白銀の流星が、ヴェローナ王国の王都ジェスカンの上空を何度か旋回し、そのまま各地の上空を巡る。

 そのまま各地の様子を軽く確認した後、東にあるラスタベルト王国を目指して飛んだ。

 おおよそ、各地の様子も王都ジェスカンと大差はなさそうだ。



 リーゼロッテが説明をする。


「私の白銀の魔力の弓矢は、国王らしきお爺さんに見せたでしょう?

 あとは白銀の流星がヴェローナ王国上空を飛び回って居たら、どんな噂になると思う?」


「そりゃまぁ……国王から『この国は白銀の魔力を持った魔族によって救われる』とでも噂が流れるかもなぁ。

 しかもミネルヴァの姿を見た連中は、その存在を目で見たわけだし、希望にはなるかもな」


「そういうこと!

 ラスタベルト王国に飛び去った流星がそれだと、すぐに噂に繋がるはずよ。

 国王の話に信憑性が増すわ。少しはね」


 これだけ人間社会の形が残って居れば、人間の情報網が残っていると期待できる。

 国王から各地の民衆へ噂が広がっていくはずだ。





 神殿前でガートナーを降ろした後、リーゼロッテはそのまま飛び立つ準備をする。


「今日は予定より視察が早く終わったわね。

 でも各街の視察を明日も続けるから、よろしくね!」


「それは構わんが、お前はどこに行くんだ?」


「お父様にウェレアムレイト公爵の事を伝えに行くわ。

 約束したんだから、私は守らないといけないの。

 じゃあまた明日!」


 リーゼロッテを乗せたミネルヴァが、白銀の流星となって魔王城へ飛び立っていった。


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